【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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鈴蘭編

4.お菓子のように、ぱくりと抓んで✦︎

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※軽い性描写あり。前戯のみ

「先っぽ、真っ赤になってる」
 いつもはキレーな色してんのに、と言ってレウに口付けられたエディスは「ひあっ」と喘ぎ声を出した。
「ァ、ぁ……っ」
 内股に手を置かれ、左右に足をパカリと開かされたエディスは、やっと小さく抵抗の声を上げる。だが、レウは音を立てて口付けてきた。鬱血痕がいくつも残されていき、エディスは恥ずかしさから目に手のひらを押し付ける。
 だが、「ここも赤くなってる」と縁を指でなぞられると、飛び起きた。手で隠して「……レウだけだから」と睨み付けると、レウは目を丸くする。
 柔らかい微笑みを浮かべた彼はエディスの頬に手を当てた。すり、と親指で撫でられる。
「分かってます」
 息を小さく吸い込み、吐く。泣きそうになって俯いて、どうしてこんなことになったんだろうと一人ごちた。全ては自分の生まれが原因だ。この先、どんな道を辿っても奴隷であったことは消えてくれない。
「ぅ……、うぅ……っ」
 子どもの頃は平気だった、平気だと虚勢を張っていなければ生きていけなかった。心が柔く、昔にできた膿に気付いたのは彼が傍にいてくれるようになってから。けれど、もう別れなければいけない。
「あの、顔上げてくれません?」
 首を振って拒否を示すと、レウはエディスの片手を握ってきた。もう一度顔を上げるよう頼まれたエディスが渋々従うと、程近くから顔を覗き込んでくる。その真剣な眼差しに、エディスは姿勢を正す。
 自ら望んでいなくとも不覚を取ったのは己であるし、従騎士の契約も今なら解除できることが分かった。レウの家族は反対していないものの、そもそも信頼していない男に永久的には預けてはくれないに違いない。自分に利用価値がなくなれば即座に足を切られるだろう。それが今だ。
 フラれるが正しいか、それとも別れるでいいのか。どちらにせよ、手放さなければ。
「俺を愛人じゃなくて、恋人にしてくれませんか」
「そっか、今までありがとうな。従騎士としての契約も切りたいか?」
 せめて最後は彼の希望を聞かなければ。そう思って感謝を伝え、今後の相談をしようとしたエディスの両肩をレウが掴む。
「アンタ俺の話ちゃんと聞いてないだろ」
「……え。愛人辞めるんじゃないのか?」
 別れの言葉なんて聞きたくなかっただなんて言えば、レウはもっと呆れるだろう。思えば、よくも彼をここまで振り回したものだと自分のことながら軽蔑する。
「辞めたいまでは合ってるな。でもそうじゃない、別れるんじゃない。付き合いたいんだ」
「付き合うって。そっか、ありがとう」
 ありがとう? と首を傾げるレウに、エディスは従騎士は続けてくれるんだろと視線を上げた。すると、彼はエディスの腰を掴んで自分の膝の上にのせ、長くため息を吐きながら肩に額を押し付けてくる。
 そのまま、なにも言わなくなってしまった。困惑しつつも頭を撫でていると、レウが背中に腕を回してきて抱きしめられる。
「アンタ、痩せたよ。宮殿だと飯がロクに食えないだろ」
「レウも大変だっただろ。俺と部屋まで一緒にしないといけなくてさ。飯、出してもくれないし」
 シトラスなんかデザートまで食べてんだぞと言うエディスに、レウは小さく笑い声を出して肩を震わせた。それから顔を上げて、目を合わせてくる。胸に当たっていた顎が離れ、ゆっくり近づいてくるのを見て目を閉じた。
「んん……っ」
 なんで今? 別れるんだろ? と頭の中に疑問が飛び交う。
「確かに俺は好きじゃない奴ともキスできる。でも世話なんかしない、近づいてくる奴に一々嫉妬もしない」
「へ、あ……そう? なのか。でも、レウは意外と優しいけどな」
 自覚がないだけじゃないのかと言うと、両肩を掴まれて「よく聞け」と揺さぶられる。わ、わ、と声を出して腕を掴む。
「アンタにだけだ。俺が、アンタを好きなんだっていい加減分かってくれ」
 告白してきたレウの真剣な顔に、そんな睨まなくたってと狼狽えーー白い頬が真っ赤に染まる。
「お、俺が好きっ?」
「そこで驚くのかよ」とレウは息を吐きながら脱力し、エディスに凭れかかった。ぎゅうぎゅう抱き締められたエディスはレウの背中を撫でてやりながら、(俺が好きなのか……)と物思いにふける。
 顔が熱くなるのを感じた後じわじわと発汗してきて、エディスはレウの肩に手をのせて後ろに押す。
「ぁ、あ、あ……っ、れ、レウっ、ちょ、ちょっと離せ」
「は? なんで」と不機嫌に低い声を出すレウに、エディスは仕方ないだろと涙混じりの目で見る。頬を赤らめ、唇を柔く噛んで下を向く。
「好きだって言われたら、急に……恥ずかしく、なってきて」
 服着たいと掻き消えそうな声で言うと、体が離れる。ほ、っと安堵して息を零したが、目の前でレウが着ていたシャツを脱いだので目を丸くして硬直した。
「なんで!?」と叫んだエディスだったが、有無を言わさず抱きしめられてしまう。温かな肌とくっつきあい、胸がきゅうっと締め付けられた。
 名前を呼びながら、彼の脇の下から腕を回し、抱き締め返す。
「好き……っ、俺も、レウのことが好きだ」
 口にすればするだけ、想いが消えていくと思っていた。胸の内に雪のように、落ち葉のように積もっていた想いを伝えるのはあまりに身勝手だろうと。
「俺は知ってたぜ。アンタと俺の感情が主人と愛人じゃないってことはな」
 けれど、レウが簡単に許すから。渡した物を重いと言って投げ出すことも、いらないと押しつけ返されることもなくーー嬉しいのだと小憎たらしげに眉をひしゃげる。
「馬鹿、格好つけてんなよ」
 この人を好きになれて良かったと心の底から感じ、エディスは幸せだと彼の肩口に額を押し付けた。愛おし気に抱き締められて、心を縛り付けていた紐が解けていく。
「おれ、汚れてるかもしれないのに……っ、なのにお前に触ってほしいなんて思うなんて」
 はしたないんだと言うと、レウは「どこが?」と言いながら首筋を舐めてくる。手が内股に入り込んで撫で上げられ、腰を震わせた。
「本当に奴は泣かねえだろ」
「そ、そんなの分かんな」
「分かるって。アンタは違うって」
 違うーー何度もクレマに対して言ったことを、彼はいとも簡単に口にした。それはエディスにとって涸れた湖に降る大雨のようだった。
「メイドに体を洗われるのが嫌なのは、色んな奴に囲まれて触られてたからだって」
「嘘かどうか分からねえな……調べてみようぜ」
 あの奴隷市まだあるんだろと問われたエディスは肯定する。西九○番、ルーアン市場は現存する、国内最大級の大きさを誇る人身売買所だ。過去、何度も奴隷制応を撤廃する動きはあった。だが、いずれも潰えてきた。その筆頭が、エディスの母である皇后の人民統一計画だが、彼女が失踪したことで頓挫したのだ。
 (母さんはなにを考えてたんだ……?)
 魔物、能力者、奴隷、奴隷、全てを同一として扱おうとしていた彼女の思惑が読めない。出会う人から知る話ではそんな人格者のようには思えないのになとエディスは顎に指を当てる。
「こら、急に考えこむなよ」
 相談しろっていつも言ってるだろと額を小突かれ、ごめんと言う。
「アンタの体は清らかだった。実際に触った俺が言うんだから間違いないだろ」
 そうかも? と首を傾げるエディスに、レウはアンタにこんなこと言いたくないけどと頭を掻く。
「商売女には独特の婀娜ってのがあるんだ。体を売れば心も擦れるもんなのか、知らねえけど」
 レウの指が胸を突く。薄緑の目に射止められる。
「アンタにはそれがない」
 初心っぽいんだよと言われ、エディスは意味を探ろうとした。単に色気がないというだけではないだろう。
「まあ、言い方は悪いが見せ物にはなってたのかもしれねえな。アンタなら子どもだとしても見応えがある。……それどころか、子どもだった方が目を引いただろうしな」
 レウは、出会った時には大人顔負けの整った容姿をしていたと言う。
「レストリエッジからアンタの話を聞いたことがあるんだよ。とんでもなく綺麗な顔の子どもが戦闘科にいるって」
 ナルシストのアイツが褒めるなんてどんなだよって思ってたと鼻で嗤うレウに、エディスは迷ってから「こんな」と自分の顔を両人差し指で差す。
 水色がかった白銀の髪に、煙るようなまつ毛に形どられた青の瞳ーー肌は透き通るそうな程に白く、生細やか。薄く色づいた唇は薔薇の花弁のようで、危うい恋心を見た相手に宿らせる。
 人形めいた愛らしさのあるエディスをあらためて見つめていたレウに、エディスは急に黙ってどうしたんだと躊躇いがちに腕に触れる。
「レウ?」と覗き込むと、ごくりと喉仏の目立つ喉が鳴った。
「……俺以外の奴を見るな、触らせるな、会うな。他の奴に優しくするな、笑い掛けるな。誰も好きになるな」
 抑え込むように手を握りこまれて矢継ぎ早に伝えられた言葉にエディスは目を丸める。いきなりこんなことを言うなんてどうしたのだろうか。なにか怒らせることでもしたかと眉を寄せると、レウは「こう言わせるような魅力がある」と手の力を緩めてくれた。
「あ、ああ。そういうことな」
 ギールみたいなことを言うから乗り移ったのかと思ったと、バクバク脈打つ心臓を気取られないようにとエディスは苦笑いを浮かべる。
(王様には必要な魔法だけど……には)
 自分の恋心を、この男が全て食べてしまえばいいのに。そう願ってもいいのだろうかと、エディスは視線を外す。
「……シルベリアは」と話し出すと、レウはん? と剣呑な声を出した。
「アンタの何人かいる兄貴がどうした」
「初恋は叶わないって言ってたんだよな」
 その割に本人はアッサリ成就させてたとは言わないでいたら、レウはエディスの手首に指を這わせながら「ああ」と息のように言葉を吐く。
「でもアイツの初恋ってブラッドだよな」
 アンタの兄貴第一号のと言うレウにエディスはくすくす笑い声を立てて頷く。
「なら大成功者一人目だな。二人目はアンタか?」
 エディスは顔を上げる。レウは瞼を伏せた笑みをこちらに向けておりーーエディスの尾てい骨を指で辿ってきた。
 息を奪う程に深く口づけられ、薄く頬を蒸気させたエディスが見やると、「当たりだろ」と自分の唇を指で拭う。 それを見て、ああ……と笑った。
「悪い大人だ」
 レウは瞬きをし、それから口の片端を吊り上げる。
「アンタは気付くのが遅ェんだよ」
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