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序章
1.王妃の訃報と嘆く国王と側妃の誤算
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「国王陛下っーーー!! 王妃様がっ……!!」
その訃報がもたらされたのは、まだ夜が開け切らない時間。
護衛騎士から報告を受けた側仕えが、国王カルロスが就寝する「或る場所」へと急報を知らせに入る。
「国王陛下、ご就寝中のところ申し訳ございませんが、実は取り急ぎご報告致したい事が……!」
「いったい何事だ? 騒々しい……」
天蓋に覆われた寝台の中から国王カルロスの声が響く。
「実は王妃様が……王妃アリーヤ様が! 〈離宮〉のご寝所にて身罷られました!!」
刹那、「ひゅっ!」と息を呑む国王カルロス。
「……何だ、と?」
慌てて飛び起きる国王カルロスは驚愕に目を見開くと同時に、常に枕元に〈黄金の剣〉を手に取り、寝台から躍り出る。
「馬鹿なっ!! そのようなことがあってたまるものかっ! 戯言を言えば叩き斬るぞ!!」
すらりと〈黄金の剣〉を抜き去る国王カルロスは、そのまま側仕えの喉元へと突き付ける。
「……へっ、陛下っ?!」
突然の仕打ちに恐れ慄く側仕えには、国王カルロスがこれ程に憤慨する理由も意味も理解出来ない。
何が、国王カルロスの逆鱗に触れたのか?
おそらく誰にもわからない。
国王カルロスの胸中を知るのは当人だけ。
◇
クラウン王国の若き国王カルロスは、他国アメジスト王国から政略結婚の為に輿入れした王妃アリーヤを当時から冷遇していた。
既に寵愛する側妃ベリンダがいたからだ。
貴族出身の美しく愛らしい側妃ベリンダは国王カルロスとは幼馴染。幼い頃から甘え上手で無邪気。国王カルロスの愛情を独り占めし、「王妃」となる口約束も。
突如、湧いた政略結婚。
「王妃の座」は王女アリーヤへ奪われる。それでも国王カルロスからの寵愛を受けている側妃ベリンダ。
寵妃の座は揺るぎない。
家臣達も他国の王妃アリーヤよりも、国王カルロスが寵愛する側妃ベリンダにこそ敬意を払っていたと云える。
◇
突然の王妃アリーヤの訃報。
急報に憤慨する国王カルロスの不興を買いながら、聞かずにはいられない側仕えは不敬を承知で国王へと進言。
「こっ、国王陛下?! 何故……そのようにお怒りになられるのでしょう? 王妃様を〈離宮〉へと追いやり、冷遇されておられたのは国王陛下御自身……」
「黙れっ……」
「ひっ!!」
側仕えの喉元には、〈黄金の剣〉の剣先が軽く刺さり血が滲む。
「余の王妃が亡くなっただとー……よくもでまかせを!」
「こっ、国王陛下……どっ、どうか! お赦し下さい!」
身を震わせては平伏する側仕え。
刹那、助け船を出したのが国王カルロスが寵愛する側妃ベリンダ。
〈黄金宮殿〉の〈後宮〉の中でもひときわ豪華な居室に置かれた寝台から、薄い夜着を纏っただけの悩ましいで現れる。
美しい黄金の巻き髪を長く垂らし、潤う翡翠の瞳は魅惑的。
さすがは国王カルロスの寵愛を授かる側妃ベリンダ。おかげで「王国一の美姫」と称されるのも頷ける。
だが、それ以上に美しいの若き国王カルロス。
輝く黄金の髪をさらりと靡かせ、鋭い眼差しは深い蒼。鮮やかな「金髪碧眼」はクラウン王国の王族の証し。見事な〈王色〉を纏う若き国王カルロスは王国一の美丈夫。
◇
怒りに湧く国王カルロスの側へと平然と歩み寄る側妃ベリンダ。甘い艶声で優雅に告げる。
「愛しい陛下……どうかお鎮まり下さい。ご覧下さい? 忠実な側仕えが怯えておりますわ」
側仕えの前でも国王カルロスを平然と愛称で呼び、聖母のような優しい笑みさえ向ける。
「私のカル……そうお怒りになられては側仕えが可哀想ですわ。王妃様を疎ましく思われておられたのは陛下ご自身。それこそ自ら毒を煽ったのであれば余計な手間が省け……むしろ良かったのでは?」
無慈悲な言葉をさらりと告げる。聖母の微笑みよりは悪女の微笑みかもしれない。
「何を言っている? おまえはアリーヤが亡くなったことが良かったとでも言いたいのか?」
「……もちろんですわ」
側妃ベリンダに悪びれる様子はない。
「政略結婚の為に輿入れしたアリーヤ様は、ただのお飾りの王妃様でしょう?」
不遜な笑みを見せる側妃ベリンダ。
「カル……貴方は王妃様とは〈初夜の儀〉さえ済ませていないでしょう? 貴方が王妃様を冷遇しているのは誰もが知る周知の事実よ」
「それは違う。おまえに余の何がわかる? 余はアリーヤのことを……」
絞り出しすように零す国王カルロス。表情には悲壮感が漂う。
「陛下、どうかされましたか?」
怪訝そうに国王カルロスを見る側妃ベリンダだが、構わず続ける。
「ねぇ、カル……厄介者の王妃様が自ら命を絶ったのなら、王妃様の生国にも言い訳が立つわ。それに……」
不敵な笑みで側妃ベリンダは嬉々として告げる。
「これで心置きなく私が王妃になれっ……ひぃっ!!」
悲鳴を上げる側妃ベリンダ。
彼女の喉元には、国王カルロスが差し向けた〈黄金の剣〉が容赦なく突きつけられる。
「カっ、カル……」
慄く側妃ベリンダ。
「ベリンダ……どうしておまえがアリーヤが毒により亡くなったと知っている? 先程からアリーヤが自死したとも言っていた。おまえには王妃が自死したと決めつけるだけの根拠があると云うことだ」
「そっ、それは側仕えが……」
「側仕えは一言も毒を煽ったなどとは口に出してはいない。それに自死したなどとは一言も発してはいない。それを知ると云うことは……おまえがアリーヤに毒を盛ったと言っているようなものだ」
「……カルっ!!」
みるみると青褪める側妃ベリンダ。細い首筋にあてがわれた〈黄金の剣〉が食い込む。
「カっ、カル……痛いわ。お、お願いだから……やめ、やめて……」
懇願する側妃ベリンダの情け無い表情に、冷めた眼差しを向ける国王カルロスは、ようやく〈黄金の剣〉を鞘へ収める。
途端に喚き始める側妃ベリンダは命が惜しいせいで必死に縋り付く。国王カルロスの両足へとしがみついては、ひたすらに懇願する。
「カル、カル! 違う……違うのよ! 私は手を下してはいないわ……本当よ! お願いだから信じて! 私は毒を渡しただけなのよ。それをあの女が勝手に飲んだのよ! 本当なのよ! どうか信じてっ……!!」
けたたましく喚き散らす側妃ベリンダ。
「黙れっー!!」
恫喝する国王カルロス。側妃ベリンダを容赦なく足蹴にする。
「ぎゃあっ!!」
床へと転がる側妃ベリンダ。
「わっ、私のせいではないわ……本当なのよ……お願い、どうか信じて……」
必死に訴える側妃ベリンダ。だが、国王カルロスには空々しいだけ。
◇
確かに、側妃ベリンダは直接には手を下してはいない。
ただ、国王カルロスに冷遇され続ける惨めな王妃アリーヤへと毒の小瓶を渡し、そっと囁いただけ。
あの日。
王妃アリーヤへと平然と毒を吐く、裏の顔を持つ側妃ベリンダがいる。
「ねぇ、冷遇妃様? 邪魔な貴女には是非消えて頂きたいの。貴女がこの世から去っても誰一人として悲しむ者はいない。何故かわかる? 私こそが王妃として望まれていたからなのよ。貴女はただの余所者。私から陛下を奪う盗人でしかない……邪魔なのよ、惨めな王妃様。お願いだから消えて下さる?」
不遜な笑みを浮かべる側妃ベリンダ。
だが、何の感情も見せない王妃アリーヤ。
「あらっ、もう心が壊れているのかしら? それはお気の毒さま。よろしければ……私からの餞別を差し上げるわ」
うっとりと笑みを浮かべ、毒の小瓶を王妃アリーヤへと手渡す。
本当に毒の小瓶を渡しただけの側妃ベリンダがいる。
◇
自ら命を絶ったのは王妃アリーヤ自身。
さらに云えば、「冷遇妃」と蔑まれても一向に気にしてはいない。周囲が勝手に騒いでいただけのこと。
むしろ都合が良かった……そう零す王妃アリーヤ。
王女としてのしがらみを捨て、自由になりたかった彼女。
ただ、希うのは「心より愛する人と共に生きる」こと。
生国アメジスト王国の父王により決められた政略結婚に、誰よりも嫌がっていたのは他でもない王妃アリーヤ自身。
自ら命を絶った今。今更な話。
◇
一方。顛末を知らない国王カルロスは沸々と怒りが込み上げる。
「経緯などはどうでも良い」
側妃ベリンダの毒により、王妃アリーヤが「この世からも己れからも去ったこと」に心を打ちのめさる国王カルロス。
「衛兵っー!! 王族への謀反だ! 大罪人の側妃をただちに捕縛しろ!」
国王カルロスの怒号が飛ぶ。
すぐに捕縛される側妃ベリンダ。
一瞬、自分の身に何が起こったのかさえわからない側妃ベリンダは唖然。だが、近衛騎士に捕縛されたとなれば、これが冗談ではないことがわかる。
控える側仕えも同様で、目の前で捕縛される国王カルロスの寵妃ベリンダの姿に慄く。
「まさかっ、ご寵愛を受ける側妃ベリンダ様が捕縛されるとはあり得ない……」
誰もが驚愕。
「国王陛下はご乱心なされたのであろうか……」
声を潜めて囁き合う。
王妃アリーヤを冷遇していたはずの国王カルロスが憤慨する理由が臣下達には到底理解できない。
そこへ。追い討ちを掛けるような出来事が勃発。
国王カルロスの下命により、以前から〈離宮〉へと追いやられていた王妃アリーヤの居室が突然の火災に見舞われ、業火に包まれては焼け落ちたのである。
後には、本人とは判別できないほどの王妃アリーヤらしき者の亡骸だけが見つかる。
その後。
悲壮感に打ちのめされる国王カルロスの下命の下、王妃アリーヤの盛大な葬儀が営まれる。
王妃の死を悼む国王カルロスの意外な姿。
そして寵愛されていたはずの側妃ベリンダが、階段を転げ落ちるように転落の一途を辿る。
その訃報がもたらされたのは、まだ夜が開け切らない時間。
護衛騎士から報告を受けた側仕えが、国王カルロスが就寝する「或る場所」へと急報を知らせに入る。
「国王陛下、ご就寝中のところ申し訳ございませんが、実は取り急ぎご報告致したい事が……!」
「いったい何事だ? 騒々しい……」
天蓋に覆われた寝台の中から国王カルロスの声が響く。
「実は王妃様が……王妃アリーヤ様が! 〈離宮〉のご寝所にて身罷られました!!」
刹那、「ひゅっ!」と息を呑む国王カルロス。
「……何だ、と?」
慌てて飛び起きる国王カルロスは驚愕に目を見開くと同時に、常に枕元に〈黄金の剣〉を手に取り、寝台から躍り出る。
「馬鹿なっ!! そのようなことがあってたまるものかっ! 戯言を言えば叩き斬るぞ!!」
すらりと〈黄金の剣〉を抜き去る国王カルロスは、そのまま側仕えの喉元へと突き付ける。
「……へっ、陛下っ?!」
突然の仕打ちに恐れ慄く側仕えには、国王カルロスがこれ程に憤慨する理由も意味も理解出来ない。
何が、国王カルロスの逆鱗に触れたのか?
おそらく誰にもわからない。
国王カルロスの胸中を知るのは当人だけ。
◇
クラウン王国の若き国王カルロスは、他国アメジスト王国から政略結婚の為に輿入れした王妃アリーヤを当時から冷遇していた。
既に寵愛する側妃ベリンダがいたからだ。
貴族出身の美しく愛らしい側妃ベリンダは国王カルロスとは幼馴染。幼い頃から甘え上手で無邪気。国王カルロスの愛情を独り占めし、「王妃」となる口約束も。
突如、湧いた政略結婚。
「王妃の座」は王女アリーヤへ奪われる。それでも国王カルロスからの寵愛を受けている側妃ベリンダ。
寵妃の座は揺るぎない。
家臣達も他国の王妃アリーヤよりも、国王カルロスが寵愛する側妃ベリンダにこそ敬意を払っていたと云える。
◇
突然の王妃アリーヤの訃報。
急報に憤慨する国王カルロスの不興を買いながら、聞かずにはいられない側仕えは不敬を承知で国王へと進言。
「こっ、国王陛下?! 何故……そのようにお怒りになられるのでしょう? 王妃様を〈離宮〉へと追いやり、冷遇されておられたのは国王陛下御自身……」
「黙れっ……」
「ひっ!!」
側仕えの喉元には、〈黄金の剣〉の剣先が軽く刺さり血が滲む。
「余の王妃が亡くなっただとー……よくもでまかせを!」
「こっ、国王陛下……どっ、どうか! お赦し下さい!」
身を震わせては平伏する側仕え。
刹那、助け船を出したのが国王カルロスが寵愛する側妃ベリンダ。
〈黄金宮殿〉の〈後宮〉の中でもひときわ豪華な居室に置かれた寝台から、薄い夜着を纏っただけの悩ましいで現れる。
美しい黄金の巻き髪を長く垂らし、潤う翡翠の瞳は魅惑的。
さすがは国王カルロスの寵愛を授かる側妃ベリンダ。おかげで「王国一の美姫」と称されるのも頷ける。
だが、それ以上に美しいの若き国王カルロス。
輝く黄金の髪をさらりと靡かせ、鋭い眼差しは深い蒼。鮮やかな「金髪碧眼」はクラウン王国の王族の証し。見事な〈王色〉を纏う若き国王カルロスは王国一の美丈夫。
◇
怒りに湧く国王カルロスの側へと平然と歩み寄る側妃ベリンダ。甘い艶声で優雅に告げる。
「愛しい陛下……どうかお鎮まり下さい。ご覧下さい? 忠実な側仕えが怯えておりますわ」
側仕えの前でも国王カルロスを平然と愛称で呼び、聖母のような優しい笑みさえ向ける。
「私のカル……そうお怒りになられては側仕えが可哀想ですわ。王妃様を疎ましく思われておられたのは陛下ご自身。それこそ自ら毒を煽ったのであれば余計な手間が省け……むしろ良かったのでは?」
無慈悲な言葉をさらりと告げる。聖母の微笑みよりは悪女の微笑みかもしれない。
「何を言っている? おまえはアリーヤが亡くなったことが良かったとでも言いたいのか?」
「……もちろんですわ」
側妃ベリンダに悪びれる様子はない。
「政略結婚の為に輿入れしたアリーヤ様は、ただのお飾りの王妃様でしょう?」
不遜な笑みを見せる側妃ベリンダ。
「カル……貴方は王妃様とは〈初夜の儀〉さえ済ませていないでしょう? 貴方が王妃様を冷遇しているのは誰もが知る周知の事実よ」
「それは違う。おまえに余の何がわかる? 余はアリーヤのことを……」
絞り出しすように零す国王カルロス。表情には悲壮感が漂う。
「陛下、どうかされましたか?」
怪訝そうに国王カルロスを見る側妃ベリンダだが、構わず続ける。
「ねぇ、カル……厄介者の王妃様が自ら命を絶ったのなら、王妃様の生国にも言い訳が立つわ。それに……」
不敵な笑みで側妃ベリンダは嬉々として告げる。
「これで心置きなく私が王妃になれっ……ひぃっ!!」
悲鳴を上げる側妃ベリンダ。
彼女の喉元には、国王カルロスが差し向けた〈黄金の剣〉が容赦なく突きつけられる。
「カっ、カル……」
慄く側妃ベリンダ。
「ベリンダ……どうしておまえがアリーヤが毒により亡くなったと知っている? 先程からアリーヤが自死したとも言っていた。おまえには王妃が自死したと決めつけるだけの根拠があると云うことだ」
「そっ、それは側仕えが……」
「側仕えは一言も毒を煽ったなどとは口に出してはいない。それに自死したなどとは一言も発してはいない。それを知ると云うことは……おまえがアリーヤに毒を盛ったと言っているようなものだ」
「……カルっ!!」
みるみると青褪める側妃ベリンダ。細い首筋にあてがわれた〈黄金の剣〉が食い込む。
「カっ、カル……痛いわ。お、お願いだから……やめ、やめて……」
懇願する側妃ベリンダの情け無い表情に、冷めた眼差しを向ける国王カルロスは、ようやく〈黄金の剣〉を鞘へ収める。
途端に喚き始める側妃ベリンダは命が惜しいせいで必死に縋り付く。国王カルロスの両足へとしがみついては、ひたすらに懇願する。
「カル、カル! 違う……違うのよ! 私は手を下してはいないわ……本当よ! お願いだから信じて! 私は毒を渡しただけなのよ。それをあの女が勝手に飲んだのよ! 本当なのよ! どうか信じてっ……!!」
けたたましく喚き散らす側妃ベリンダ。
「黙れっー!!」
恫喝する国王カルロス。側妃ベリンダを容赦なく足蹴にする。
「ぎゃあっ!!」
床へと転がる側妃ベリンダ。
「わっ、私のせいではないわ……本当なのよ……お願い、どうか信じて……」
必死に訴える側妃ベリンダ。だが、国王カルロスには空々しいだけ。
◇
確かに、側妃ベリンダは直接には手を下してはいない。
ただ、国王カルロスに冷遇され続ける惨めな王妃アリーヤへと毒の小瓶を渡し、そっと囁いただけ。
あの日。
王妃アリーヤへと平然と毒を吐く、裏の顔を持つ側妃ベリンダがいる。
「ねぇ、冷遇妃様? 邪魔な貴女には是非消えて頂きたいの。貴女がこの世から去っても誰一人として悲しむ者はいない。何故かわかる? 私こそが王妃として望まれていたからなのよ。貴女はただの余所者。私から陛下を奪う盗人でしかない……邪魔なのよ、惨めな王妃様。お願いだから消えて下さる?」
不遜な笑みを浮かべる側妃ベリンダ。
だが、何の感情も見せない王妃アリーヤ。
「あらっ、もう心が壊れているのかしら? それはお気の毒さま。よろしければ……私からの餞別を差し上げるわ」
うっとりと笑みを浮かべ、毒の小瓶を王妃アリーヤへと手渡す。
本当に毒の小瓶を渡しただけの側妃ベリンダがいる。
◇
自ら命を絶ったのは王妃アリーヤ自身。
さらに云えば、「冷遇妃」と蔑まれても一向に気にしてはいない。周囲が勝手に騒いでいただけのこと。
むしろ都合が良かった……そう零す王妃アリーヤ。
王女としてのしがらみを捨て、自由になりたかった彼女。
ただ、希うのは「心より愛する人と共に生きる」こと。
生国アメジスト王国の父王により決められた政略結婚に、誰よりも嫌がっていたのは他でもない王妃アリーヤ自身。
自ら命を絶った今。今更な話。
◇
一方。顛末を知らない国王カルロスは沸々と怒りが込み上げる。
「経緯などはどうでも良い」
側妃ベリンダの毒により、王妃アリーヤが「この世からも己れからも去ったこと」に心を打ちのめさる国王カルロス。
「衛兵っー!! 王族への謀反だ! 大罪人の側妃をただちに捕縛しろ!」
国王カルロスの怒号が飛ぶ。
すぐに捕縛される側妃ベリンダ。
一瞬、自分の身に何が起こったのかさえわからない側妃ベリンダは唖然。だが、近衛騎士に捕縛されたとなれば、これが冗談ではないことがわかる。
控える側仕えも同様で、目の前で捕縛される国王カルロスの寵妃ベリンダの姿に慄く。
「まさかっ、ご寵愛を受ける側妃ベリンダ様が捕縛されるとはあり得ない……」
誰もが驚愕。
「国王陛下はご乱心なされたのであろうか……」
声を潜めて囁き合う。
王妃アリーヤを冷遇していたはずの国王カルロスが憤慨する理由が臣下達には到底理解できない。
そこへ。追い討ちを掛けるような出来事が勃発。
国王カルロスの下命により、以前から〈離宮〉へと追いやられていた王妃アリーヤの居室が突然の火災に見舞われ、業火に包まれては焼け落ちたのである。
後には、本人とは判別できないほどの王妃アリーヤらしき者の亡骸だけが見つかる。
その後。
悲壮感に打ちのめされる国王カルロスの下命の下、王妃アリーヤの盛大な葬儀が営まれる。
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