不遇の王妃アリーヤの物語

ゆきむらさり

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本編

9.国王の拗れた想いと側妃再び

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 ※軽めのR描写が多少あります。苦手な方はご注意下さい。


 ◇


 普段から、あまり感情を見せない王妃アリーヤ。その彼女が初めて人前で涙を流す。

 それも切なげに……。

 ーーー思い詰めた表情をするアリーヤなど知らない。

 国王カルロスの内心は穏やかとは言いがたい。

 不意に、側妃ベリンダが零していた言葉が頭によぎる。

「女が思い詰めた表情かおで涙を流すのは、大抵が愛する殿方の為よ」

 決めつけたように告げる側妃ベリンダ。

「あの時のアリーヤの涙は想ってのことなのか?」

 深く寵愛する王妃アリーヤに「心を寄せる相手がいる」ことに衝撃を受ける国王カルロス。

『王妃アリーヤに愛されない自分』

 対し、『愛される

 その「誰か」に嫉妬する国王カルロス。憎しみすら覚える。


 あれ以来ずっと塞ぎ込む王妃アリーヤの姿が、余計に国王カルロスの嫉妬心に拍車を掛ける。挙句、彼女の左耳に嵌る耳輪にも嫉妬する。

「あれは誰かの色を纏っているのではないのか?」

 苛立たしげに呟く国王カルロス。


 ◇


 貴族の間では良くある話。

 恋情を抱くむすめに貴公子側が自分の色を纏わせ、女が「」であるのかを知らしめるのだ。牽制の意味も込め、愛する女に贈られる衣装や装飾品の数々。

 ーーーいわゆる、愛の品だ。

 実際、王妃アリーヤも国王カルロスの色である黄金や蒼色の美しい衣装や装身具を身に付けている。

 これまで、それほど気にも留めなかった王妃アリーヤの左耳に付けられた耳輪。気が付けば、無意識に良く触れている王妃アリーヤがいる。

 ようやく、その意味を理解する国王カルロス。

「渡さないー……アリーヤは余のものだ!」

 揺るぎない想い。

 王妃アリーヤに酷く執着している国王カルロスの嫉妬心は止まらない。


 ◇


 第三者から見れば仲睦まじい国王夫妻。

 そうなると皆が待ち望むのはお世継ぎ。

「国王陛下からの御寵愛も深い王妃様なら、すぐにご懐妊になられることでしょう。まもなく吉報がもたらせるかもしれません」

 そう信じて疑わない人々。

 毎晩共寝をするほどに国王カルロスから寵愛されている王妃アリーヤ。だからこそ皆は期待する。それに最近の王妃アリーヤの不調。

「いよいよでは……!」

 懐妊を待ち焦がれる人々。

 王妃アリーヤの不調体が実際は精神的なものからだとは思わない。

 王妃アリーヤの懐妊とお世継ぎ問題は、今や公務の際の議題にも取り沙汰される。

 次第に「お世継ぎ様はいつ授かれるのか?」との声は大きくなる。

「王妃様はいつまで経っても身籠られない」と不満さえ口にするようになる。

 国王カルロスからの揺るぎない寵愛を賜りながらも懐妊の兆しをみせない王妃アリーヤ。国王カルロスが無垢な花を手折らないせいだとは誰も思わない。

 当然、王妃アリーヤへの風当たりは強くなる。


 ◇


 そうした最中。

 王妃アリーヤへの「世継ぎ問題」を解決させる意味でも或る行動に出る国王カルロス。

 夜毎に王妃アリーヤとは共寝をするも、明け方前には〈後宮〉へと赴くようになる。

 国王カルロスにも欲情はある。むしろ、愛する王妃アリーヤを抱くことが出来ないぶん、余計に欲情は募る。男のさがには逆らえない。

 側妃ベリンダには「欲情の捌け口」として閨の相手をさせ、子どもさえ望む。

「ベリンダ……おまえが余の御子を孕め。世継ぎを産むのはおまえしかいない。ベリンダ……必ず余の子を孕んでみせろ」

 (穢せない無垢な花の代わりに、おまえが世継ぎを孕め、ベリンダ)

 果てる程に側妃ベリンダを抱き潰す国王カルロス。常に多量の恩寵を彼女へと授け、今では〈後宮〉で朝を迎える

 だが、これまでと同様に側妃ベリンダが懐妊する兆しはない。やがて周囲からの圧力に焦りを感じる側妃ベリンダは、王妃アリーヤを陥れる意味でも“或る事”を画策する。


 実は側妃ベリンダには秘密がある。

 いつまでも若く美しいままでいたい側妃ベリンダは、〈後宮〉へと入宮した当時から、秘密裏に御子を授からないようにする為の“秘薬”を常用していた。

 長年飲み続けた事により、すでに身籠れない身体となっている。

 まさに後悔先に立たず。


 



 






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