不遇の王妃アリーヤの物語

ゆきむらさり

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本編

10.後宮の女主人の慶事と謀る側妃

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 この日、久しぶりの慶事に湧く〈黄金宮殿〉。

 朝から賑わいを見せている宮殿内は華やいでいる。〈後宮〉には祝いの花々があちらこちらと飾られ、後宮挙げての祝福となっている。

 〈後宮〉からの伝令により、吉報を聞きつけた国王カルロスは執務中にもかかわらず、側妃ベリンダの元へと向かう。その手には食欲のない側妃の為の水密桃ももさえ携えている。

 ーーーようやく!

 国王カルロスの表情も明るい。

 側妃ベリンダの慶事がもたらす影響は大きい。世継ぎを身籠ることのない王妃アリーヤへの風当たりを和らげることにも繋がる。

 
 今の側妃ベリンダは『後宮の女主人』と呼ばれるほど賛美されている。

 真逆なのが王妃アリーヤ。

 正統な王妃でありながら『世継ぎも孕めない無能な王妃』と不名誉な烙印を押されている。幸いなのが、王妃アリーヤはそれほど気にも留めていない。

 だが、国王カルロスは違う。

 自分が王妃アリーヤを粗雑に扱いながら、他人が彼女を貶める行為は赦せない。

 想いと行動が矛盾している国王カルロス。

 王妃アリーヤを大切にするのも、無下に扱うのも、情愛も憎悪も、尊ぶのも貶めるのも……その全ての行為が許されるのは夫君である自分だけ。

 国王カルロスだけに許された特権。

 他の者が王妃アリーヤを害するのは、絶対に許さない。

 国王カルロスは王妃アリーヤを侮辱する行為をした者は、王家の“影”の指示を出し、秘密裏に処分している。

 特に、公然と王妃アリーヤを批判する者や言動が行き過ぎている者たちは不敬罪として捕え、二度とその口から余計な言葉を話せないように厳罰に処分を下す。

 王妃アリーヤが絡むと国王カルロスの非情さは増す。


 ◇


 近頃、身体の不調を訴えていた側妃ベリンダ。例えそれが演技だとしても国王の寵妃を疑う者はいない。

 ある時、側妃ベリンダは内密に医官を呼びつける。

 贔屓にする医官に多額の金品を渡し、懐妊を偽装するように命令。寵妃には従うしかない医官は、仕方なく懐妊していることを偽装。

 例え国王でも平然と騙す側妃ベリンダに良心の呵責はない。

 おかげで皆が待ち望んだ国王の御子を身籠った側妃ベリンダの元には、国王カルロスを始め、続々と祝いの品が届けられる。

 勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべれる側妃ベリンダ。

 だが、事の真相が公になる前に行動に移さなければならない。

 ーーー必ずやり遂げてみせるわ!


 ◇

 
 懐妊から数ヶ月が過ぎた頃。

 常に頃合いを見計らっていた側妃ベリンダは、いよいよ行動に移すことにする。

 懐妊により腹が膨らむ前に、必ず仕組まなければならない。

 今では怖いのなしの側妃ベリンダ。だからこそ、側妃の身分にもかかわらず、〈妃宮〉の王妃アリーヤの元へと乗り込む。

 国王夫妻は庭園の東屋で茶席の最中。そこへと招待もされてもいない側妃ベリンダが平然と顔を出す。

「ベリンダ……ここは側妃の身分で容易に訪れて良い場所ではない。それに今のそなたは大切な身の上。〈後宮〉へと下がり、身体を労わるが良い」

 国王カルロスは、〈妃宮〉にまで訪れる行き過ぎた行為をする側妃を嗜める。

「だからこそですわ、カルロス。王妃は“国の母”と申しますでしょう? いずれは私の御子の義母ともなられる王妃様には、改めてご挨拶を申し上げませんと……それに格下の者が王妃様へと拝礼に伺うのは当然のことですわ」

 最もらしいことをつらつらと並び立てる側妃ベリンダ。だが、そこには「或る思惑」が隠されている。

 おかげで立ち去ろうとする国王夫妻を引き留めにかかる。とくに王妃アリーヤを。

「王妃様……美味しい花蜜茶をご用意して参りましたの。たまには女同士でお茶を愉しむのはいかがでしょう? 王妃様とは一度ゆっくりとお話ししてみたかったのです」

 側妃ベリンダは国王カルロスと共に席を立つ王妃アリーヤの手を強引に引き寄せ、有無を言わさず着座させる。

「国王陛下……私は王妃様とお茶を愉しみますわ。良いでしょう? 医官からも胎教のためには心の気分転換は図った方が良いと言われましたわ」

 美しい微笑を浮かべ、国王カルロスへと視線を滑らせる側妃ベリンダ。

「それなら好きに致せ。だが、長居はするな。疲れは腹の子にも良くない。アリーヤの迎えには侍女を寄越す」

 すぐさまこの場を後にする国王カルロス。


 この後、予想外の事態が起こる。

 嫉妬に駆られる女の執念を侮ってはいけない。
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