28 / 33
海の王国編
27.過去の謀と海の王と嫡太子
しおりを挟む
嘗てのアメジスト王国に遡る。
当時の出来事。
海の王ディランは本来の美しい青銀の髪も金眼も色を変え、人間の姿に身を窶し、再び王女アリーヤへと逢いに行っている。
彼には目的があるからだ。
そして無謀にも王女アリーヤを〈王女宮〉から連れ出そうとし、囚われの身となってしまう王ディラン。だが、彼は敢えて捕まったのだ。国王イーサンの人となりを見極める為に。
そして王女アリーヤが動く。
政略結婚を受け入れる代わりに、国王イーサンへと王ディランの命乞いを願い出たのだ。
ーーー実の娘アリーヤの嘆願に父王としてどう動くのか?
王ディランは国王イーサンがどのような裁可を下すのか待つ。
誰からも愛されない王女アリーヤが心を寄せた相手である旅商人ディランを赦すのか、処罰するのか。
当然、結論は目に見えている。
◇
非情で厳格な国王イーサンが、王女アリーヤの醜聞を赦すはずがない。まして、身分も定かではない男と心を通わせたふしだらな娘に嫌悪感すら抱くのである。
王妃ジェイミーの進言も大きい。
「愛しい陛下、実はお耳に入れたい事がありますの。ただ、アリーヤの想いを考えれば申し上げても良いものかどうか……」
いかにも義娘の身を案じる義母を演じる王妃ジェイミーは、国王イーサンへと憂い顔。
「申してみろ、愛しい王妃。そなたの憂いは余の憂いも同じ。さぁ、躊躇うことなく申せ」
優しく促す国王イーサン。
「陛下……聞いてくださいませ。アリーヤは一国の王女の身でありながら立場も弁えず、身分の卑しい旅商人を〈王女宮〉へと招き入れ、連日逢瀬を重ねておりますの……」
「それは真実か?!」
「偉大なる国王陛下を相手に嘘は申しません。私は義母としてどうするべきかと気を揉んでおりますの。ですが、アリーヤの想いを考えると心が痛みます。ここは父王であられる国王陛下にご判断を仰ごうかと存じまして、敢えて申し上げました」
王妃ジェイミーの最もらしい言い分。
だが、実際は違う。
王女アリーヤは恋情を抱いてはいたが、賢明な彼女は誤解を招かないよう、常に客間へと旅商人ディランを通している。側には侍女も控えさせ、他愛もない話でやり過ごしている。
想いは、互いに手渡す文にだけ。
旅商人ディランとは互いに通じ合えているからこそ、敢えて口には出さなくても心で寄り添い合う。
だが、悪知恵の働く王妃ジェイミーは、自分の都合の良いように話を改ざんし、作り変え、国王イーサンへと密告。
寵愛する王妃ジェイミーの言葉だけに、国王イーサンも信じて疑わない。
人は身近で気を許す者の言葉を信用する。
おかげで罪人として捕縛された王ディランは、〈水牢〉へと鎖で繋がれ、命が潰えるその日まで捨て置かれることとなる。
「やはり非情な国王だけのことはある。実の娘アリーヤの嘆願さえも無下にするとは……」
王ディランの心は決まる。
この国を沈めよう……と。
◇
今だに〈水牢〉に囚われの身の王ディラン。
「たかが人間の分際で、この俺をどうにかしようなどとは思い上がりも甚だしい」
「そう思うのであれば、いい加減にお出になられてはいかがですか? 我が主……貴方様が動かれないせいで哀れな姫君は他国へと輿入れさせられてしまいましたよ」
溜息混じりに告げるのは王ディランの側近エドウィン。主君の身を案じ、馳せ参じた彼だが苦言を呈する。
「罪人として囚われの身だ。その俺がすぐに牢から出ては疑われるだろう? 事が済めば俺はアリーヤを迎えに行く。先にマイラに行かせろ」
「そう仰られると思いました。すでにマイラは姫君の元へと行かせました」
「さすがは話が早い」
刹那、容易く〈水牢〉から脱出する王ディラン。
「ならば、俺の愛するアリーヤを蔑めるこの国を沈めるとしよう」
表情一つ変えず宣う王ディラン。
だが、まさかの水を差す者が現れる。
「どうか、それだけはご勘弁頂けないでしょうか?」
現れたのは嫡太子ジェームス。王女アリーヤの義弟王子だ。
そして尊大な海の王へと取引きを持ち掛ける。
当時の出来事。
海の王ディランは本来の美しい青銀の髪も金眼も色を変え、人間の姿に身を窶し、再び王女アリーヤへと逢いに行っている。
彼には目的があるからだ。
そして無謀にも王女アリーヤを〈王女宮〉から連れ出そうとし、囚われの身となってしまう王ディラン。だが、彼は敢えて捕まったのだ。国王イーサンの人となりを見極める為に。
そして王女アリーヤが動く。
政略結婚を受け入れる代わりに、国王イーサンへと王ディランの命乞いを願い出たのだ。
ーーー実の娘アリーヤの嘆願に父王としてどう動くのか?
王ディランは国王イーサンがどのような裁可を下すのか待つ。
誰からも愛されない王女アリーヤが心を寄せた相手である旅商人ディランを赦すのか、処罰するのか。
当然、結論は目に見えている。
◇
非情で厳格な国王イーサンが、王女アリーヤの醜聞を赦すはずがない。まして、身分も定かではない男と心を通わせたふしだらな娘に嫌悪感すら抱くのである。
王妃ジェイミーの進言も大きい。
「愛しい陛下、実はお耳に入れたい事がありますの。ただ、アリーヤの想いを考えれば申し上げても良いものかどうか……」
いかにも義娘の身を案じる義母を演じる王妃ジェイミーは、国王イーサンへと憂い顔。
「申してみろ、愛しい王妃。そなたの憂いは余の憂いも同じ。さぁ、躊躇うことなく申せ」
優しく促す国王イーサン。
「陛下……聞いてくださいませ。アリーヤは一国の王女の身でありながら立場も弁えず、身分の卑しい旅商人を〈王女宮〉へと招き入れ、連日逢瀬を重ねておりますの……」
「それは真実か?!」
「偉大なる国王陛下を相手に嘘は申しません。私は義母としてどうするべきかと気を揉んでおりますの。ですが、アリーヤの想いを考えると心が痛みます。ここは父王であられる国王陛下にご判断を仰ごうかと存じまして、敢えて申し上げました」
王妃ジェイミーの最もらしい言い分。
だが、実際は違う。
王女アリーヤは恋情を抱いてはいたが、賢明な彼女は誤解を招かないよう、常に客間へと旅商人ディランを通している。側には侍女も控えさせ、他愛もない話でやり過ごしている。
想いは、互いに手渡す文にだけ。
旅商人ディランとは互いに通じ合えているからこそ、敢えて口には出さなくても心で寄り添い合う。
だが、悪知恵の働く王妃ジェイミーは、自分の都合の良いように話を改ざんし、作り変え、国王イーサンへと密告。
寵愛する王妃ジェイミーの言葉だけに、国王イーサンも信じて疑わない。
人は身近で気を許す者の言葉を信用する。
おかげで罪人として捕縛された王ディランは、〈水牢〉へと鎖で繋がれ、命が潰えるその日まで捨て置かれることとなる。
「やはり非情な国王だけのことはある。実の娘アリーヤの嘆願さえも無下にするとは……」
王ディランの心は決まる。
この国を沈めよう……と。
◇
今だに〈水牢〉に囚われの身の王ディラン。
「たかが人間の分際で、この俺をどうにかしようなどとは思い上がりも甚だしい」
「そう思うのであれば、いい加減にお出になられてはいかがですか? 我が主……貴方様が動かれないせいで哀れな姫君は他国へと輿入れさせられてしまいましたよ」
溜息混じりに告げるのは王ディランの側近エドウィン。主君の身を案じ、馳せ参じた彼だが苦言を呈する。
「罪人として囚われの身だ。その俺がすぐに牢から出ては疑われるだろう? 事が済めば俺はアリーヤを迎えに行く。先にマイラに行かせろ」
「そう仰られると思いました。すでにマイラは姫君の元へと行かせました」
「さすがは話が早い」
刹那、容易く〈水牢〉から脱出する王ディラン。
「ならば、俺の愛するアリーヤを蔑めるこの国を沈めるとしよう」
表情一つ変えず宣う王ディラン。
だが、まさかの水を差す者が現れる。
「どうか、それだけはご勘弁頂けないでしょうか?」
現れたのは嫡太子ジェームス。王女アリーヤの義弟王子だ。
そして尊大な海の王へと取引きを持ち掛ける。
433
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ
霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」
ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。
でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━
これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。
※なろう様で投稿済みの作品です。
※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる