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海の王国編
28.嫡太子と海の王の取引き
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アメジスト王国の嫡太子ジェームスは、自国を滅ぼすことをやめるように嘆願しに、海の王ディランの元へと足を運んだのだ。
「貴方様のお怒りはごもっともです。ですが、王国には数多くの罪無き人々も暮らしております。心優しい義姉上は彼等の死を望みません。おそらく、父王や義母の命すらも生かそうとするでしょう。義姉上はそういうお方です」
「……」
嫡太子ジェームスの言葉には、敢えては応えない王ディラン。だが、その眼差しは鋭く冷たい。
傍らに控える王の側近エドウィンさえも表情は冷めている。主君の想い人は王と同等。だからこそ王女アリーヤを害した者の命乞いなどはあり得ない。
当然、海の王ディランも同意見。
それでも構わず続ける嫡太子ジェームス。
「義姉上は不当な扱いを受けても自分に非があると思うようなお方です。父王を憎むことはあっても命までは望んでおりません」
「それは承知だ。普段であれば人間の世に介入しようとは思わない。だが……」
王ディランが口を開く。
「俺のアリーヤを傷付けたとなれば話は別だ。アリーヤが赦しても俺は赦さない」
不遜に言い放つ。
「勿論そうでしょう。それには私も賛成です」
「……っ!」
「私がお伝えしたのはあくまでも心優しい義姉上の考えです。私は違います。そこで取引きを致しませんか、海の王?」
王ディランの身前へと歩み寄る嫡太子ジェームス。しかし、それを阻むかの如く、嫡太子ジェームスの首元には一瞬にして鋭い刃が当てがわれる。
「我が主対し、人間ごときが不敬ですよ。下がりなさい」
側近エドウィンが立ち塞がる。
「良い……エドウィン。おまえは下がれ」
仰せのままに……と引き下がる側近エドウィン。王ディランの言葉には一切逆らわない。それは彼が絶対的な存在だからだ。
おかげで嫡太子ジェームスは、臆することなく取引きの内容を語り出す。
◇
嫡太子ジェームスが持ち掛けたのは、アメジスト王国を滅ぼさない代わりに、国王イーサンと母后ジェイミーの命の始末を自らがつけること。
「まさにうってつけの良いものがあるのです」
そう公言する嫡太子ジェームス。
実は……と語る。
或る地域でしか咲かない希少な花から取れる“蜜”は、一定以上の量を超えて摂取すると悪影響を及ぼす甘味な猛毒と変わるのだと云う。それを毎日欠かさず服用すれば、徐々に体内は侵され、やがて命は潰える。
世の中には多種多様な植物が存在する。
扱い方を誤れば“恐ろしい代物”にも変わるのだ。その存在を知り、密かに手に入れている嫡太子ジェームスがいる。
「国王夫妻の日々のお茶に混ぜ、確実に飲ませましょう。数年ののちには必ず最期の時を迎えます。それをお約束いたします」
さらに淡々と続ける嫡太子ジェームス。
「数年かけて苦しめることにこそ意味があるのです。愛する義姉上が味わった不遇の日々を思えば、一瞬で命を終えられては面白くありません。それでもお気に召さないというなら私自らが彼等の首を獲りましょう」
「ふふっ……案外、俺よりもおまえの方が酷な質をしているようだ」
「貴方様以上に……私も愛する義姉上を傷付けた者達を赦しはしません。同じ王家に生まれながらも見ている事しか出来なかった幼い頃の私。その私自身さえも赦せない。だからこそ誓って下さい。必ず義姉上を幸せにすると……」
「当然だ。誓うまでもない」
お互いに約束を違えないことを固く誓い合う王ディランと嫡太子ジェームス。
『全ては愛するアリーヤの為』
◇
その後、嫡太子ジェームスはすぐに行動を起こしている。
罪人である旅商人ディランは「牢獄死した」と父王イーサンへと偽り、それをクラウン王国に輿入れした王妃アリーヤへと密かに知らせる。
だが、予期しない弊害も。
深い哀しみに暮れる義姉アリーヤが、嘆きの果てに自ら命を断とうとしたのだ。
完全に義姉アリーヤの想いの深さを見誤った嫡太子ジェームス。幸い、王妃アリーヤの元へとすぐに駆け付けた王ディランにより事なきを得ている。
◇
余談。
その後、王位を継いだ嫡太子ジェームスは、生涯独り身を貫き通している。それは不遇な時代を過ごしてきた哀れな義姉アリーヤへと詫びるかのよう。それでも2度と逢うことは叶わない義姉姫への思慕は募る。
「愛する義姉上……貴女は今頃どうされておいでですか? もし許されるなら、この命が尽きる前に一度だけでも貴女にお逢いしたい」
ーーー義姉上、独りは淋しい……。
国王ジェームスには唯一人の家族。
『大切な義姉アリーヤ』
時が経てば経つほど淋しさは募る一方。
だからこそ、義姉想いの国王ジェームスにも転機はあっても良い。
「貴方様のお怒りはごもっともです。ですが、王国には数多くの罪無き人々も暮らしております。心優しい義姉上は彼等の死を望みません。おそらく、父王や義母の命すらも生かそうとするでしょう。義姉上はそういうお方です」
「……」
嫡太子ジェームスの言葉には、敢えては応えない王ディラン。だが、その眼差しは鋭く冷たい。
傍らに控える王の側近エドウィンさえも表情は冷めている。主君の想い人は王と同等。だからこそ王女アリーヤを害した者の命乞いなどはあり得ない。
当然、海の王ディランも同意見。
それでも構わず続ける嫡太子ジェームス。
「義姉上は不当な扱いを受けても自分に非があると思うようなお方です。父王を憎むことはあっても命までは望んでおりません」
「それは承知だ。普段であれば人間の世に介入しようとは思わない。だが……」
王ディランが口を開く。
「俺のアリーヤを傷付けたとなれば話は別だ。アリーヤが赦しても俺は赦さない」
不遜に言い放つ。
「勿論そうでしょう。それには私も賛成です」
「……っ!」
「私がお伝えしたのはあくまでも心優しい義姉上の考えです。私は違います。そこで取引きを致しませんか、海の王?」
王ディランの身前へと歩み寄る嫡太子ジェームス。しかし、それを阻むかの如く、嫡太子ジェームスの首元には一瞬にして鋭い刃が当てがわれる。
「我が主対し、人間ごときが不敬ですよ。下がりなさい」
側近エドウィンが立ち塞がる。
「良い……エドウィン。おまえは下がれ」
仰せのままに……と引き下がる側近エドウィン。王ディランの言葉には一切逆らわない。それは彼が絶対的な存在だからだ。
おかげで嫡太子ジェームスは、臆することなく取引きの内容を語り出す。
◇
嫡太子ジェームスが持ち掛けたのは、アメジスト王国を滅ぼさない代わりに、国王イーサンと母后ジェイミーの命の始末を自らがつけること。
「まさにうってつけの良いものがあるのです」
そう公言する嫡太子ジェームス。
実は……と語る。
或る地域でしか咲かない希少な花から取れる“蜜”は、一定以上の量を超えて摂取すると悪影響を及ぼす甘味な猛毒と変わるのだと云う。それを毎日欠かさず服用すれば、徐々に体内は侵され、やがて命は潰える。
世の中には多種多様な植物が存在する。
扱い方を誤れば“恐ろしい代物”にも変わるのだ。その存在を知り、密かに手に入れている嫡太子ジェームスがいる。
「国王夫妻の日々のお茶に混ぜ、確実に飲ませましょう。数年ののちには必ず最期の時を迎えます。それをお約束いたします」
さらに淡々と続ける嫡太子ジェームス。
「数年かけて苦しめることにこそ意味があるのです。愛する義姉上が味わった不遇の日々を思えば、一瞬で命を終えられては面白くありません。それでもお気に召さないというなら私自らが彼等の首を獲りましょう」
「ふふっ……案外、俺よりもおまえの方が酷な質をしているようだ」
「貴方様以上に……私も愛する義姉上を傷付けた者達を赦しはしません。同じ王家に生まれながらも見ている事しか出来なかった幼い頃の私。その私自身さえも赦せない。だからこそ誓って下さい。必ず義姉上を幸せにすると……」
「当然だ。誓うまでもない」
お互いに約束を違えないことを固く誓い合う王ディランと嫡太子ジェームス。
『全ては愛するアリーヤの為』
◇
その後、嫡太子ジェームスはすぐに行動を起こしている。
罪人である旅商人ディランは「牢獄死した」と父王イーサンへと偽り、それをクラウン王国に輿入れした王妃アリーヤへと密かに知らせる。
だが、予期しない弊害も。
深い哀しみに暮れる義姉アリーヤが、嘆きの果てに自ら命を断とうとしたのだ。
完全に義姉アリーヤの想いの深さを見誤った嫡太子ジェームス。幸い、王妃アリーヤの元へとすぐに駆け付けた王ディランにより事なきを得ている。
◇
余談。
その後、王位を継いだ嫡太子ジェームスは、生涯独り身を貫き通している。それは不遇な時代を過ごしてきた哀れな義姉アリーヤへと詫びるかのよう。それでも2度と逢うことは叶わない義姉姫への思慕は募る。
「愛する義姉上……貴女は今頃どうされておいでですか? もし許されるなら、この命が尽きる前に一度だけでも貴女にお逢いしたい」
ーーー義姉上、独りは淋しい……。
国王ジェームスには唯一人の家族。
『大切な義姉アリーヤ』
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だからこそ、義姉想いの国王ジェームスにも転機はあっても良い。
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