新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり

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保護犬ちゃん・譲渡編

12話 説明会と譲渡の無情な事実・後

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「……信じて疑わなかったよ。譲渡されたら皆んな幸せなんだと思っていたから……現実は切ないね」

帰りの車の中で零す私。旦那様も複雑な表情。

現実はそうそう容易くない。保護犬ちゃん達の現状は、こうも過酷で厳しい。あの場で聞いた話が心を重くする。



* * * * * * * *


保護団体のお姉さんとの話し合いの場では、譲渡における注意事項を説明される。まずはトライアルから始める、云々。その中でも今時だと感じたのがLINEでの近況報告。あくまでも任意だが義務でもある。

「月に1回でも構いません。桔梗ちゃんの写メと共に私のLINEへ送って下さい。できればトライアル中もよろしくお願いします。最初の1年は毎月。2年目以降は半年ごとでも構いません。桔梗ちゃんの元気な姿を確認させて欲しいのです」

「わかりました。むしろ可愛いからいっぱい送ってしまうかも……あの、差し支えなければLINEで近況報告をする理由を聞いても?」

「ええ、もちろんです」

何故か、保護団体のお姉さんの顔が曇る。

「私達が譲渡した子達が虐待をされていないかを見極める為でもあるからです。その手段としての報告義務とでも言いましょうか……」

「……虐待ですか?」

「実は……虐待目的で譲渡を希望されるご家族や譲渡後に懐かないからなどの理由で、ネグレクト飼い犬放棄に走るご家族などが少なからずいるのです。中には捨ててしまう方も……これまでも悲惨な事例が幾つかありました」

「……えっ?!」

「私達も慎重に慎重を重ねてはいるのですが、残念ながら……其の人の本質までは見抜けないこともあります。だからこそ、譲渡後の保護犬達の元気な姿の写メをこまめに送って頂きたいのです。幸せでいる姿を見せて欲しいのです。再び虐待される姿など……見たくはありません」

「虐待目的って……酷すぎる……」

二の句が告げない。絶句。心が沈む。

これまでも手酷い虐待を受け、新しい受け入れ先の家族からも虐待を受けたら、その保護犬ちゃんはもう人を信じない。誰も信じない。心が折れ、病んでしまう。

「……いったい、何の為の新しい家族なの?」

それ以上は言葉が出て来ない私達夫婦へと、更なる悲惨な実例を告げる保護団体のお姉さんこそ辛そう。

「保護犬ちゃん達が温かいご家庭に迎え入れられた場合は、ご家族はマメにLINEを送ってくれます。やはり可愛いのでしょうね。だから心配はしていません」

一旦、言葉を区切る。保護団体のお姉さんは一呼吸置けば、先を続ける。

「……怖いのは、LINEでの報告が一切無くなり、全く音沙汰が無しになるご家族の方々です。だから、そうなった場合は抜き打ちで其のご家庭へと伺うのです。大概の場合……虐待され、緊急の保護が必要になります。私も実際にそうしたご家庭へとアポ無しで伺い、そのまま保護して来ました」

譲渡の誓約事項には、規約違反(虐待や第三者への勝手な譲渡等)の場合は、保護団体が緊急に保護出来る事が記載されているらしい。



* * * * * * * *


譲渡後に起きた幾つかの虐待の事実を教えてくれた保護団体のお姉さん。常識人では考えられない光景を目にしたそうだ。

雪国に住む或るご家庭は、保護犬のダックスフントを譲り受けながらも外で飼い、大雪の中に放置。

「……酷いっ、雪の中に放置したままだなんてあり得ないー……」

寒さに震えるダックスフント。このままでは凍死する可能性があり、この現状に怒り心頭の保護団体のお姉さんは有無を言わさず、そのまま連れ帰り、ふたたび保護。大事に至らなかったことだけが幸い。

「あの光景は今でも忘れられません。決して許される行為ではありません」

本気で怒りを露わにする保護団体のお姉さん。相当なショックだったらしい。聞いている私でさえ胸が詰まる。怒りが湧く。

規約には、必ず家の中での飼育が取り決められている。事前アンケートでも持ち家・戸建てに住んでいるかどうかを書かなければならない。屋外飼育は禁止事項。ということは、虐待目的の為に保護犬を引き取っている可能性もある。

或るご家庭は、まさに育児放棄ならぬ犬放棄。引き取られた保護犬ちゃんは、譲渡先のご家族から餌も水も満足に与えてもらえず、痩せ細って憐れな姿で発見され、再び保護される。もし、このまま見過ごされていたら、きっと……。

或るご家庭は……。

駄目だ。もうこれ以上は聞けない。

次の人生こそは幸せになる為に保護され、新しい家族の元へと行ったのに、これではあまりにも惨すぎる。

だからこそ、保護団体の方々は慎重に慎重を重ね、抜き打ちで家庭訪問し、更なる虐待で息絶える前に再び保護するのだ。負のスパイラルを止めなければならない。

「どうして……こんな酷い事が出来るの……」

駄目だ。もう涙が止まらない。

人間の残酷さを思い知らされた。





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