田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮編①

16 .皇帝の想いと宝玉の日常

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 少々時間は遡る。

 代々の皇帝が住まう〈帝宮〉。その執務の間には皇帝・王炫と近臣の張武偉の姿がある。

 近臣の張武偉の腹心であり、護衛官改め、近衛の李暁明は常に二人より一歩下がり、控えてはいるが、主君の言葉に耳を澄ましているのは明らか。ころころと変わる表情からでも分かる。

 後宮妃として上がった宝玉にあてがわれた居室が、まさかの侍女が使う控えの間となれば「えーっ! どういうこと?」と気になって仕方がない。

「暁明、主君の身前です。静かにしなさい」

 おかげで近臣の張武偉から「おまえは意識が散漫すぎる」とお小言の毎日。だが、人当たりが良いせいで憎めないのが彼の長所。

 さておき。

「誠に宝玉様を控えの間に住まわせるのですか? 後宮妃として入宮した者が控えの間に住むことは前例がありません。麗香公主様にご教示いただくにしても〈皇后宮〉の数ある妃専用の居室で良いのでは?」

 皇帝・王炫にも臆することなく進言する近臣の張武偉。

宝玉あれには控えの間で充分だ」

「皇帝陛下っ……それは宝玉様がお可哀想です!」

 いきなり叫ぶ近衛の李暁明に、ギロリと睨む近臣の張武偉を「構わない」と笑いながら制する皇帝・王炫。

「宝玉の生い立ちを考えれば妥当だ。あれは貧しい暮らしにも耐え、そのことに不満も言わないような健気な娘だ。町娘の衣装にすら気が引けるような宝玉に、いきなり豪奢な居室暮らしは向かない。徐々に慣れさせて行く方が良いだろう」

「そうとは知らずに余計な事を申し上げました。賢明なお考えでございます」

 すぐに考えを改める近臣の張武偉。

 微笑する皇帝・王炫。

「それに動くことが好きな宝玉のことだ。控えの間なら比較的自由がきく。好きに掃除でもして体を動かしているほうが宝玉あれも楽しいはずだ。なにせ前例のない後宮妃だからな……」

 楽しそうに笑う。

 もはや、宝玉のことならお見通しとでも言うように皇帝・王炫は言う。


 ◇


 皇帝・王炫により、敢えて控えの間をあてがわれた宝玉。

 案の定、呆気に取られる側仕えをものともせず、隅から隅まで綺麗に大掃除。床は念入りに雑巾掛けをし、磨きに磨き、ピカピカにしては大満足。

「……素晴らしいです! 宝玉様ー!」

 しまいには側仕えから称賛される。

「住まわせてもらうのだから綺麗にするのは当然だよ。私ね、体力には自信があるの」

 力瘤などできない細い腕を腕まくりする宝玉。後宮妃・麗香と側仕えの切ない眼差しには気付かないのが幸い。

 こうして控えの間で満足する宝玉。

 さらには皇帝・王炫から「よく学べ」と〈皇后宮〉の書庫の鍵まで賜る宝玉。

 かつての皇后だった者が集めに集めた書物が存在する書庫。そこは後宮妃の誰もが許されてはいない禁域。

 毎日、そこへと自由に出入りする侍女姿の宝玉。

 当然、目ざとい輩は存在する。

 壁に耳あり障子に目あり、それが女ばかりが集う〈後宮〉という巣窟。侍女の分際で、自由に動き回る宝玉が目につかないはずがない。

「あの侍女は何者なの?!」

 良くも悪くも人の注目を集めてしまう。


 ◇


 余談だが。

 姉である後宮妃・麗香から宝玉との初夜の延期を告げられた皇帝・王炫。怜悧な皇帝なだけに、いっさい顔には出さないが、ようやく手に入れた愛しい花だけに、実際の心中は……。

「麗香公主様からのお達しであれば仕方がありませんね? では、初伽は延期ということで?」

「姉上がそのように言うのであれば仕方がない。確かに……今の宝玉を見れば姉上が『待った』をかけるのも頷ける。折れそうな花でもいつかは大華に育つ。それまでは待つことにしよう」

 そうは言いながらも控えの間で爆睡する宝玉に、夜中にこっそりと忍んでいく皇帝・王炫がいる。そして、そっと抱きしめながら愛を囁く。

「宝玉……余の宝。愛らしいおまえの寝顔なら余はずっと見ていられるから不思議だ」

 ただ、逢いに行くだけの行為。他の後宮妃に対してはあり得ない行動。

「おまえは誠に可愛いな……」

 皇帝・王炫の独り言をまるで聞いているかのように、フニャリと顔を綻ばせる宝玉がいる。



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