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後宮編②
20.皇帝の思惑 王炫side
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「皇帝陛下……宝玉様にかかわる“くだんの件”ですが、あのまま麗香公主様にお任せしたままでもよろしいのですか?」
執務室に座る皇帝・王炫へと告げるのは近臣の張武偉。
「かまわない。今は……」
皇帝・王炫は近臣の張武偉へと視線を滑らせれば先を続ける。
「新たな者が入宮すれば、在籍する後宮妃たちが何かを企てることぐらいは目に見えている。目ざとい後宮妃どもは常に〈後宮〉の内情を探っているからな。宝玉が侍女ではないことぐらいは薄々と勘づいているのだろう。だが、すぐに事を起こすあたり、救いようがない愚か者と言ったところか? どうやら退宮させられたいとみえる。あるいは命を縮めたいのか……」
どちらでも構わない……と冷めた眼差しで淡々と言い放つ皇帝・王炫。
その言い草から「処罰する為にあえて放置している」と裏の意味を理解するのは近臣の張武偉。
付き合いが長いだけに、皇帝・王炫の性格をよく理解している彼は、主君の思惑をお見通しのようだ。
――我が君らしいが……。
「皇帝陛下の仰られる通りでございます。〈皇后宮〉の禁域とされている書庫に自由に出入りする侍女はおりません。普通からすればあり得ない行為です。宝玉様が目に付くのは当然かと思われます。むしろ皇帝陛下は、それが狙いなのでしょうが……」
刹那、不遜な笑みを湛える皇帝・王炫。
ーーやはり、我が君は後宮妃の減少をお望みなようだ。それも全ては宝玉様の為に他ならないのでしょうが……。
近臣の張武偉は、そう考察しつつも憂慮もする。
「宝玉にも〈後宮〉へ入宮した以上は、強くなってもらわなければならない。あの程度の事もあしらえないようでは、この先が思いやられる。余が『正妃に』と望む者だ。そう簡単に折れてもらっては困る。だが、余の宝玉は逞しいゆえに心配はしていない」
尊大に言い放つ皇帝・王炫。
彼は近臣の張武偉へと視線を走らせれば、不敵な笑みさえ湛えてみせる。
だが、ここで引かないのが近臣の張武偉。
「それは承知いたしておりますが、ただ……貴方様の“珠玉の宝”である宝玉様への不敬です。誠にご自身ではお咎めになられないのでしょうか?」
「今回は姉上が裁きを下す。それに姉上は余が知らないと思っているのか、こちらには何も言いにはこない。おそらくだが……大事にする気はないのだろう。この件については……」
「そうは仰られますが、〈帝宮〉と〈皇后宮〉を繋ぐ回廊に入り込んでいたとなれば、間違いなく不敬罪で裁きは免れません。一介の侍女が忍び込んで良い場所ではありません」
近臣の張武偉が進言すれば、後に続く者が息巻く。
「そうですよ、皇帝陛下っ! このまま黙って見過ごすのですか? 宝玉様は皇帝陛下のために蒸し菓子までご用意なさっていたのですよ! それを無下にされ、宝玉様はどれほどにお心を痛めておられることか……」
胸に手を当てながら「宝玉様のお心を思うと切ないです」と演技までしてみせる近衛の李暁明。
最近では主君と上官の話し合いの中へと平然と割って入ってくる彼は、どうやら図々しさを身に付けたようだ。
「……暁明、黙れっ」
皇帝・王炫が睨みつける。
「それ以上……蒸し菓子のことを持ち出せば、お前の饒舌な口を裁縫師にでも縫い合わせてもらうぞ」
ヒィッ! と青ざめる近衛の李暁明。
どうやら皇帝・王炫の逆鱗に触れたらしい。しかも堂々と。
実は、そのことに何よりも心を痛めていたのは皇帝・王炫自身。自分の為に宝玉が手作りし、わざわざ届けてくれようとしていたのだ。
「暁明……余が怒りに沸いていないとでも?」
ブンブンと首を横に振る近衛の李暁明。
この後、彼は上官である近臣の張武偉からキツいお小言を喰らう羽目になる。
◇
そしてその夜。
いつものように宝玉の閨へと忍んで行く皇帝・王炫。
「愛しい宝玉……おまえは強いと信じている。余が見つけた“珠玉の宝”だ。簡単には壊れてくれるな」
後宮妃・麗香の心遣いにより、最近では体の肉付きも良くなりつつある宝玉。
ーー以前にも増して美しくなった。
そして宝玉の頭位をポンポンと撫で、美しい濡羽色の髪を一房手に取る皇帝・王炫。次の瞬間には息を呑む。
「……っ?!」
皇帝・王炫も気に入る宝玉の長く美しい濡羽色の髪。それがバッサリと切り揃えられ、見事な短髪に……もとい、悲惨な状態になっているのを目の当たりにする。
松脂入りの墨を被った宝玉。
故に、容易に事情を察する皇帝・王炫の拳が怒りに震える。
「余の大切な宝玉を貶めるとは……!」
ーー余程に死にたいと見える。
「……やはり、余が不届者を裁くか?」
一瞬にして考えを変えたとか。
なんだかんだと言いながらも宝玉が大事な皇帝・王炫。
今だけは憤りを胸にしまい、スヤスヤと眠る宝玉の頬へと口付けを落とす。そして静かに立ち去ろうとした、その瞬間。
不意に視線を感じれば、寝ぼけ眼の宝玉と目が合う。
「あれ? 炫様……?」
炫様だぁ~……とフニャリと顔を綻ばせる宝玉。
お忍びの皇帝・王炫と遂に遭遇。
執務室に座る皇帝・王炫へと告げるのは近臣の張武偉。
「かまわない。今は……」
皇帝・王炫は近臣の張武偉へと視線を滑らせれば先を続ける。
「新たな者が入宮すれば、在籍する後宮妃たちが何かを企てることぐらいは目に見えている。目ざとい後宮妃どもは常に〈後宮〉の内情を探っているからな。宝玉が侍女ではないことぐらいは薄々と勘づいているのだろう。だが、すぐに事を起こすあたり、救いようがない愚か者と言ったところか? どうやら退宮させられたいとみえる。あるいは命を縮めたいのか……」
どちらでも構わない……と冷めた眼差しで淡々と言い放つ皇帝・王炫。
その言い草から「処罰する為にあえて放置している」と裏の意味を理解するのは近臣の張武偉。
付き合いが長いだけに、皇帝・王炫の性格をよく理解している彼は、主君の思惑をお見通しのようだ。
――我が君らしいが……。
「皇帝陛下の仰られる通りでございます。〈皇后宮〉の禁域とされている書庫に自由に出入りする侍女はおりません。普通からすればあり得ない行為です。宝玉様が目に付くのは当然かと思われます。むしろ皇帝陛下は、それが狙いなのでしょうが……」
刹那、不遜な笑みを湛える皇帝・王炫。
ーーやはり、我が君は後宮妃の減少をお望みなようだ。それも全ては宝玉様の為に他ならないのでしょうが……。
近臣の張武偉は、そう考察しつつも憂慮もする。
「宝玉にも〈後宮〉へ入宮した以上は、強くなってもらわなければならない。あの程度の事もあしらえないようでは、この先が思いやられる。余が『正妃に』と望む者だ。そう簡単に折れてもらっては困る。だが、余の宝玉は逞しいゆえに心配はしていない」
尊大に言い放つ皇帝・王炫。
彼は近臣の張武偉へと視線を走らせれば、不敵な笑みさえ湛えてみせる。
だが、ここで引かないのが近臣の張武偉。
「それは承知いたしておりますが、ただ……貴方様の“珠玉の宝”である宝玉様への不敬です。誠にご自身ではお咎めになられないのでしょうか?」
「今回は姉上が裁きを下す。それに姉上は余が知らないと思っているのか、こちらには何も言いにはこない。おそらくだが……大事にする気はないのだろう。この件については……」
「そうは仰られますが、〈帝宮〉と〈皇后宮〉を繋ぐ回廊に入り込んでいたとなれば、間違いなく不敬罪で裁きは免れません。一介の侍女が忍び込んで良い場所ではありません」
近臣の張武偉が進言すれば、後に続く者が息巻く。
「そうですよ、皇帝陛下っ! このまま黙って見過ごすのですか? 宝玉様は皇帝陛下のために蒸し菓子までご用意なさっていたのですよ! それを無下にされ、宝玉様はどれほどにお心を痛めておられることか……」
胸に手を当てながら「宝玉様のお心を思うと切ないです」と演技までしてみせる近衛の李暁明。
最近では主君と上官の話し合いの中へと平然と割って入ってくる彼は、どうやら図々しさを身に付けたようだ。
「……暁明、黙れっ」
皇帝・王炫が睨みつける。
「それ以上……蒸し菓子のことを持ち出せば、お前の饒舌な口を裁縫師にでも縫い合わせてもらうぞ」
ヒィッ! と青ざめる近衛の李暁明。
どうやら皇帝・王炫の逆鱗に触れたらしい。しかも堂々と。
実は、そのことに何よりも心を痛めていたのは皇帝・王炫自身。自分の為に宝玉が手作りし、わざわざ届けてくれようとしていたのだ。
「暁明……余が怒りに沸いていないとでも?」
ブンブンと首を横に振る近衛の李暁明。
この後、彼は上官である近臣の張武偉からキツいお小言を喰らう羽目になる。
◇
そしてその夜。
いつものように宝玉の閨へと忍んで行く皇帝・王炫。
「愛しい宝玉……おまえは強いと信じている。余が見つけた“珠玉の宝”だ。簡単には壊れてくれるな」
後宮妃・麗香の心遣いにより、最近では体の肉付きも良くなりつつある宝玉。
ーー以前にも増して美しくなった。
そして宝玉の頭位をポンポンと撫で、美しい濡羽色の髪を一房手に取る皇帝・王炫。次の瞬間には息を呑む。
「……っ?!」
皇帝・王炫も気に入る宝玉の長く美しい濡羽色の髪。それがバッサリと切り揃えられ、見事な短髪に……もとい、悲惨な状態になっているのを目の当たりにする。
松脂入りの墨を被った宝玉。
故に、容易に事情を察する皇帝・王炫の拳が怒りに震える。
「余の大切な宝玉を貶めるとは……!」
ーー余程に死にたいと見える。
「……やはり、余が不届者を裁くか?」
一瞬にして考えを変えたとか。
なんだかんだと言いながらも宝玉が大事な皇帝・王炫。
今だけは憤りを胸にしまい、スヤスヤと眠る宝玉の頬へと口付けを落とす。そして静かに立ち去ろうとした、その瞬間。
不意に視線を感じれば、寝ぼけ眼の宝玉と目が合う。
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