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後宮妃・二の妃と林家編②
35.皇帝の想いと欲深い林家当主
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元後宮妃・“三の妃”の生家である林家。
その林家の当主からの「後宮妃の娘を退宮させたい」との申し出には、あえては応えない皇帝・王炫。
案の定、何度も催促の封書が届けられる。
「……何様のつもりだ? 武偉、燃やせ」
側に控える近臣の張武偉へと放り投げる。
「皇帝陛下……中身を拝見してもよろしいでしょうか?」
「構わない。好きに見るが良い」
「どうやら……林家のご当主は身の程をわきまえておられないようですね。しまいには皇帝陛下との謁見を求めておられるとは……」
やれやれ……と失笑する近臣の張武偉。
彼が失笑するのも当然。
◇
そもそも、後宮妃として入宮した以上、余程の理由がない限りは退宮は許されない。それに後宮妃の身の振り方を決めるのは皇帝であって臣下ではない。
挙句、上から物言う形で皇帝・王炫に謁見を乞う林家の当主。容易に応じてもらえると思っているあたり厚かましい。
「どうやら、未だに過去の栄光に縋っているようだ。高官であったのは過去の話。今や一介の役人に過ぎないものを……」
「林家のご当主は皇帝陛下からの温情をお忘れのようですね?」
近臣の張武偉が告げる通り、林家の当主は自分が帝位簒奪をした現皇帝・王炫の先代である皇帝・昭耀に仕えていた咎人であることを忘れているようだ。
一介の役人とはいえ、林家が今の地位にいられるのも、これ以上の争いを好まない皇帝・王炫の温情によるものだ。
「過ぎたる野心は身を滅ぼすことになると……余はそう告げていたはずだが?」
「皇帝陛下、畏れながら申し上げれば……林家のご当主はぬるま湯に漬かるあまり、過去の行為を忘れ、再びの栄光欲しさに欲望のみが膨れ上がるのでしょう」
「元々、娘二人を〈後宮〉へと入宮させたいと願い出たのは林家の当主自身。それを手前勝手に退宮させたいだと? 烏滸がましいにもほどがある」
皇帝・王炫は言い放つ。
◇
過去において「二人の娘を入宮させたい」と願い出た林家の当主に、皇帝・王炫は苦言を呈している。
「林家の当主よ、誠に良いのか? 〈後宮〉に入宮したからといい、誰しもが寵愛を授かれるわけではない」
この時、すでに皇帝・王炫には望む娘が存在していた為に、娘の後宮入りを望む全ての臣下へと同じような言葉をかけている。
林家も然り。
それでも引かない林家の当主は、己の欲望の方が先に立つようだ。人の欲には飽きがないから恐ろしい。
「当家の二人の娘の美しさを見れば、皇帝陛下のお心も動くかもしれません。是非ともご検討ください」
平然と言い切る。
臣下との諍いを望まないまでも皇帝・王炫も非情ではない。後宮入りして後悔するよりは先にほのめかし、諦めるならそれも良し。
一夜の恩寵は与えても、寵愛を授ける気もない相手を嬉々として受け取る気もない。
皇帝・王炫が欲しいのは、泥の中でも倒れない野に咲く花。
その生命の輝きに惹かれた己を誇りにさえ思う。
ーー『宝玉』という珠玉の宝を、健気な野の花を……必ずや手に入れてみせる。
それを己の手で大華へと咲かせることを心待ちにしているぐらいだ。ゆえに、どのような後宮妃にも心動かされることはない。
だからこそ、あくまでも相手方が「そう望んだから……」でなければならない。そうでなければ角が立つ。
何より、生粋の武人気質の皇帝・王炫は、色香に溺れるよりも剣技を磨く方を好む。好む相手との睦み事は別として。
世継ぎをもうける場所と言いながら、色欲の吐き出し場所とも言われる後宮自体が、彼には無用の長物と化している。
古来から存続する〈後宮〉ゆえに残っているだけの話だ。
「貴公の自慢の娘なら尚更だ。容姿の優れた娘二人を無駄にする可能性もある。〈後宮〉へと入宮すれば籠の鳥も同然。若い娘なら当然のように得られる人並みの幸せを逃すことにもなりかねない。寵愛を得られずに花の盛りを過ぎるよりは、同程度の家門に嫁ぐ方が娘たちには良いのではないのか?」
「いえいえ、我が娘たちなら喜んで後宮入りを受け入れます。そして皇帝陛下のご期待に必ずや応えることでしょう」
不遜な笑みさえ浮かべる林家の当主。
寵愛を授かれる方に賭けていたのだろう。
◇
皇帝・王炫には林家の次女・美玉を林家に返すつもりはない。
すでに後宮妃・“三の妃”は後宮妃の身分を返上し、今では宝玉付きの宮女・美玉として〈後宮〉ではなく〈光王城〉に仕えているのだ。
墨事件のことも公にされていない以上、林家の当主が言う「愚かな行為を犯した娘」は存在しない。
彼の世迷いごとでしかない。
「相手にする必要はない。放っておけ」
畏まりました……と一礼をする近臣の張武偉は、侍従に申し付け、林家からの封書は取り次がないように指示する。
「それよりも皇帝陛下……今宵も〈温宮〉住まいの宝玉様の元には会いに行かれないのですか?」
微笑する近臣の張武偉へと人目で睨みする皇帝・王炫。
「武偉……お前も人が悪い。あれは余の心を翻弄する天才だ。毎晩のように宮女と眠り、さすがに深夜に忍んでは行けない。さて、どうしたものか? 〈帝宮〉へと攫ってくるか……」
冗談とも本気とも取れる発言をする皇帝・王炫。
だが、事態は意外な方へと動く。
〈温宮〉住まいの宝玉と宮女・美玉のもとへと密かに訪れた“二の妃”が、生家からの催促により義妹を貶める行動に出たのだ。
巻き添えを食らった宝玉がいる。
その林家の当主からの「後宮妃の娘を退宮させたい」との申し出には、あえては応えない皇帝・王炫。
案の定、何度も催促の封書が届けられる。
「……何様のつもりだ? 武偉、燃やせ」
側に控える近臣の張武偉へと放り投げる。
「皇帝陛下……中身を拝見してもよろしいでしょうか?」
「構わない。好きに見るが良い」
「どうやら……林家のご当主は身の程をわきまえておられないようですね。しまいには皇帝陛下との謁見を求めておられるとは……」
やれやれ……と失笑する近臣の張武偉。
彼が失笑するのも当然。
◇
そもそも、後宮妃として入宮した以上、余程の理由がない限りは退宮は許されない。それに後宮妃の身の振り方を決めるのは皇帝であって臣下ではない。
挙句、上から物言う形で皇帝・王炫に謁見を乞う林家の当主。容易に応じてもらえると思っているあたり厚かましい。
「どうやら、未だに過去の栄光に縋っているようだ。高官であったのは過去の話。今や一介の役人に過ぎないものを……」
「林家のご当主は皇帝陛下からの温情をお忘れのようですね?」
近臣の張武偉が告げる通り、林家の当主は自分が帝位簒奪をした現皇帝・王炫の先代である皇帝・昭耀に仕えていた咎人であることを忘れているようだ。
一介の役人とはいえ、林家が今の地位にいられるのも、これ以上の争いを好まない皇帝・王炫の温情によるものだ。
「過ぎたる野心は身を滅ぼすことになると……余はそう告げていたはずだが?」
「皇帝陛下、畏れながら申し上げれば……林家のご当主はぬるま湯に漬かるあまり、過去の行為を忘れ、再びの栄光欲しさに欲望のみが膨れ上がるのでしょう」
「元々、娘二人を〈後宮〉へと入宮させたいと願い出たのは林家の当主自身。それを手前勝手に退宮させたいだと? 烏滸がましいにもほどがある」
皇帝・王炫は言い放つ。
◇
過去において「二人の娘を入宮させたい」と願い出た林家の当主に、皇帝・王炫は苦言を呈している。
「林家の当主よ、誠に良いのか? 〈後宮〉に入宮したからといい、誰しもが寵愛を授かれるわけではない」
この時、すでに皇帝・王炫には望む娘が存在していた為に、娘の後宮入りを望む全ての臣下へと同じような言葉をかけている。
林家も然り。
それでも引かない林家の当主は、己の欲望の方が先に立つようだ。人の欲には飽きがないから恐ろしい。
「当家の二人の娘の美しさを見れば、皇帝陛下のお心も動くかもしれません。是非ともご検討ください」
平然と言い切る。
臣下との諍いを望まないまでも皇帝・王炫も非情ではない。後宮入りして後悔するよりは先にほのめかし、諦めるならそれも良し。
一夜の恩寵は与えても、寵愛を授ける気もない相手を嬉々として受け取る気もない。
皇帝・王炫が欲しいのは、泥の中でも倒れない野に咲く花。
その生命の輝きに惹かれた己を誇りにさえ思う。
ーー『宝玉』という珠玉の宝を、健気な野の花を……必ずや手に入れてみせる。
それを己の手で大華へと咲かせることを心待ちにしているぐらいだ。ゆえに、どのような後宮妃にも心動かされることはない。
だからこそ、あくまでも相手方が「そう望んだから……」でなければならない。そうでなければ角が立つ。
何より、生粋の武人気質の皇帝・王炫は、色香に溺れるよりも剣技を磨く方を好む。好む相手との睦み事は別として。
世継ぎをもうける場所と言いながら、色欲の吐き出し場所とも言われる後宮自体が、彼には無用の長物と化している。
古来から存続する〈後宮〉ゆえに残っているだけの話だ。
「貴公の自慢の娘なら尚更だ。容姿の優れた娘二人を無駄にする可能性もある。〈後宮〉へと入宮すれば籠の鳥も同然。若い娘なら当然のように得られる人並みの幸せを逃すことにもなりかねない。寵愛を得られずに花の盛りを過ぎるよりは、同程度の家門に嫁ぐ方が娘たちには良いのではないのか?」
「いえいえ、我が娘たちなら喜んで後宮入りを受け入れます。そして皇帝陛下のご期待に必ずや応えることでしょう」
不遜な笑みさえ浮かべる林家の当主。
寵愛を授かれる方に賭けていたのだろう。
◇
皇帝・王炫には林家の次女・美玉を林家に返すつもりはない。
すでに後宮妃・“三の妃”は後宮妃の身分を返上し、今では宝玉付きの宮女・美玉として〈後宮〉ではなく〈光王城〉に仕えているのだ。
墨事件のことも公にされていない以上、林家の当主が言う「愚かな行為を犯した娘」は存在しない。
彼の世迷いごとでしかない。
「相手にする必要はない。放っておけ」
畏まりました……と一礼をする近臣の張武偉は、侍従に申し付け、林家からの封書は取り次がないように指示する。
「それよりも皇帝陛下……今宵も〈温宮〉住まいの宝玉様の元には会いに行かれないのですか?」
微笑する近臣の張武偉へと人目で睨みする皇帝・王炫。
「武偉……お前も人が悪い。あれは余の心を翻弄する天才だ。毎晩のように宮女と眠り、さすがに深夜に忍んでは行けない。さて、どうしたものか? 〈帝宮〉へと攫ってくるか……」
冗談とも本気とも取れる発言をする皇帝・王炫。
だが、事態は意外な方へと動く。
〈温宮〉住まいの宝玉と宮女・美玉のもとへと密かに訪れた“二の妃”が、生家からの催促により義妹を貶める行動に出たのだ。
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