公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり

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公爵家・対面と思惑編

20.賢明な先代公爵夫人と伯爵未亡人の悪事

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 ※一部、残酷な表現があります。苦手な方はご注意下さい。


 ◇


 ドウェイン伯爵未亡人ブルーナへと辛辣の言葉を放つ先代グラント公爵夫人ハリエッタ。

 溜息混じりに一旦言葉を区切る。彼女の視線は客間の扉へと向けられる。

「コリン……先程から覗いているのはわかっていますよ。お小言は後です。“例の報告書”を私の書斎の引き出しから持って来なさい」

「承知致しました、奥方様……!」

 全く悪びれていない家令コリンの元気な声が響く。

 颯爽と此の場から立ち去る家令コリン。向かったのは先代公爵夫人ハリエッタの書斎。

 彼女は夫君ダグラスが逝去後、息子ダリウスの執務を手伝う程に才知に長けている。その為、彼女専用の書斎が造られている。

 家令コリンは書斎から「例の報告書」を携えて戻り、先代グラント公爵夫人ハリエッタへと渡す。ついでドウェイン伯爵未亡人ブルーナをチラ見すれば、彼女の引き攣った顔が映る。

 (おやおや……お気の毒様です。悪事はバレておりますよ、伯爵未亡人。今日で彼女の人生終わりでしょうね)

 ご愁傷様です……と心の声が煩い家令コリン。

 客間を見渡せば、錚々たる一堂が介する。追い出されたはずの王太子フェリクスと専属護衛エヴァンも入室を許されたようだ。

 (……なるほど。奥方様は此の茶番劇を王太子殿下にも見せつけ、確実に伯爵未亡人を追い込むつもりですね。その方が効果はテキメン。さすがは敬愛する奥方様です)

 家令コリンが思う通り、王太子フェリクスにも証人としての役目を担ってもらう心積もりの先代グラント公爵夫人ハリエッタ。

 王族を前にしては言い逃れは出来ない。そして「例の報告書」の中身を読み進めれば、あからさまに顔色を失くす伯爵未亡人ブルーナ。

「……どうして……何故、その事を……」

「お母様……本当なの? 何かの間違いでしょう?」

 先に口を開いたのは娘ブルネッタ。彼女の顔にも声にも驚愕と怒りが入り混じる。

 先代グラント公爵夫人ハリエッタの口から語られた言葉は、にわかに信じ難い内容。だが、母ブルーナの青褪める表情と震える唇が、それを真実だと物語っている。


 ◇


 伯爵未亡人ブルーナの夫ドウェイン伯爵が急逝した原因は、酒に酔い潰れ、湯槽で溺れたことが原因とされている。

 生来より、無類の酒好きで知られるドウェイン伯爵。だが、いくら彼でも酒を浴びる程に飲んだ直後に、湯浴みをしようなどと思わない。酒に酔い潰れて眠ってしまえば惨事を招きかねない。それぐらいは彼でも分かる。

 ただ、その日は違ったようだ。

 偶然にも、若い侍女の一人が凄惨な場面に出くわす。伯爵夫人ブルーナが夫君を湯槽へと沈めている姿を目撃。

 恐ろしいことに、自分の夫君を殺めることに躊躇いのない伯爵夫人ブルーナ。不運にも仕える奥様の裏の顔を知ってしまった若い侍女。震えが止まらない。

「……ひっ! まさか奥様が、旦那様を……嗚呼っ、なんて恐ろしいの……!」

 ここには居られない……!

 怖くなった若い侍女は、「幼馴染との結婚が決まった」と嘘も方便で、逃げるようにドウェイン伯爵家から去っている。

 若い侍女にしてみれば、自分が目撃してしまった事を伯爵夫人ブルーナに知られ、「いつか報復されるのではないか……」との恐怖に襲われる日々を送り、哀れなもの。

 今現在は、グラント公爵夫人ハリエッタが証言と引き換えに若い侍女を保護をしている。


 ◇


 さておき。

 先代グラント公爵夫人ハリエッタが、その侍女へと辿り着き、彼女からの証言を得たことにより、ドウェイン伯爵未亡人ブルーナの悪事が露見。

 若い侍女に見られているとは、露ほども思わない伯爵未亡人ブルーナ。湯殿の扉には鍵を掛けておくべきだったが、意識が一点を向くおかげで他に気が回らなかったのかも知れない。

 完璧なようでも必ず抜けはある。

 悪事はいつかは露見するもの。それが今。


 社交界の重鎮である先代グラント公爵夫人ハリエッタは、常にアンテナを張っている。

 ドウェイン伯爵が急逝した直後に、急な暇乞いをした侍女へと行きつけば、保護をする代わりに証言を引き出す。

 人は、案外誰かに話したがるもの。

「保護の申し出」もすれば、若い侍女は伯爵未亡人ブルーナの悪事を暴露。

 グラント公爵家の当主の婚姻相手だからこそ、無謀な婚姻はグラント公爵家を貶めかねない。


 ◇


 領地経営などには長けていグラント公爵ダリウス。だが、女性関係には疎く、少々投げやりなこともあり、大した調べもしないで今回の婚姻を決める。

 相手側からのアプローチも「婚姻相手を探す手間も省けた」との安易な考えで容認。

 根は実直で賢明なグラント公爵ダリウスだが、人生で初めてのトチ狂った選択をする。


 おかげで家令コリンからはあからさまに小馬鹿にされる始末。

「あの堅物の公爵様がコロッと騙されているよ。あははははっ! 恥ずかしい……」

 大笑いされ、辛酸を舐める。

 しばらくの間、グラント公爵ダリウスは自分の不甲斐なさに打ちのめされ、母ハリエッタには完敗。

 母は強し……と言われるように、母ハリエッタは強く賢かった。


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