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極冬の国 篇

非情な極冬王と戒めを受ける異世界の姫

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やはり現れた極冬王きょくとうおう

王后牢おうこうろうとらわれる冬子を助けに現れたのは、常春とこはるの国の世継よつぎ王子。父王ふおうさながらの美貌びぼうまと常春とこはるいちの王子。

いちの王子は、冬子の足首あしくびに巻かれるいましめの足枷あしかせくと、意識が混濁こんだくする冬子を助け起こし、王后牢おうこうろうから連れ出す。

常春とこはるの国へと帰れて帰ろうとしたまさにその矢先やさき、やはり現れた極冬王きょくとうおうに、ふたたび冬子をうばわれる。

いちの王子へと冷笑れいしょうを浮かべる極冬王きょくとうおう

「ちっ!」

苦々にがにがしくも舌打したうちするいちの王子。

今や秀麗しゅうれいさはなりひそめ、極冬王きょくとうおう見返みかえす美しい金眼きんめには、わずかに怒りがにじむ。

小癪こしゃく若造わかぞうよ。たかだか王子の分際ぶんざいで、われの姫に気安きやすれてくれるな。ー良いか、これはだ。われ氷華ひょうかまとう姫は、どのみちこの国からは離れられない運命さだめ。そうであろう? われいとしい姫ー」

そう断言だんげんする極冬王は、次には荒々あらあらしく冬子の唇をうばい去る。

「……ふぅ、ううっ」

突然とつぜんに、唇をふさがれた冬子からは、小さなうめき声がれる。

くちゅくちゅと執拗しつように冬子の口内こうないおかす極冬王の所為せいで、冬子の口横くちよこからは、互いの粘液ねんえきがとろりとあふれ出す。

極冬王きょくとうおうの腕の中へとふたたとらわれる冬子には、最早もはやすべがない。

である美しい冬子を取り戻した極冬王きょくとうは、冬子をのがさないように、更にきつく胸の中へと閉じ込める。その力強いまでの腕の中で、冬子をしかといだ極冬王きょくとうおうは、ようやく唇を離す。

ーしかし、笑みはない。

更に、極冬王きょくとうおうは見せつけるかのごとく、冬子の胸元むなもとに咲く大輪たいりん氷華ひょうか紋様もんように唇をわせ、その柔肌やわはだをきつく吸い上げては、それを幾度いくども繰り返し、あかい花を散らして行く。

冬子の胸元には、極冬王からの赤いしるしきざみ込まれてゆく。

「……ああっ、いやっ……ソウー……」

思わず、冬子からこぼれ落ちた言葉。

愛していたはずの極冬王きょくとうおうこばむ冬子。

その刹那せつなー、極冬王きょくとうおうからは激しい程の怒りが、ゆらりと立ち込める。

「ーいとしい姫、その名を呼ぶな……!」

その声音こわねと共に、辺りにただよう空気が、パキパキと音を立てては、一瞬いっしゅんこおり付く。

更には、こおりやいばとなって降り注ぐ。

「危ない! トウカー!」

咄嗟とっさにトウカを引き寄せ、瞬時に防御ぼうぎょ結界けっかいを張るいちの王子。

(己れの娘がいるにも関わらず、こおりやいばを差し向けるとはー……もはや、見境みさかいなしかー、極冬王きょくとうおう……!)

非情ひじょう極冬王きょくとうおう一瞥いちべつするいちの王子。

ーだが、いちの王子が知らないだけで、「トウカ王女を必ずまもる」であろういちの王子の行動は、極冬王きょくとうおうには想定そうてい済み。

確かに、トウカ王女は極冬王きょくとうおうには大切な我が子。ーしかし、それ以上に、何よりも得難えがたき宝が極冬王きょくとうおうには

かれ合うたましいつがいである異世界いせかいの姫をいて他にはいない。

極冬王きょくとうおうには、この世で何よりも大切なのは冬子のみ。それは理屈りくつではなく、本能ほんのうで冬子を求めてやまないのである。

(ーそれを……! そうまでしての王の名を呼ぶかー!)

今の極冬王きょくとうおうには、であるいとしい冬子から告げられる「の王」の名などは、もっとむべきもの。

悋気りんきくは当然。

極冬王きょくとうおうかられる膨大ぼうだいな魔力が、激しい怒りとなって周囲しゅういの空気をふたたこおらせる

雪氷せつひょうの魔力を得意とくいとする極冬王きょくとうおうだからこそのせるわざ

そしてー、非情ひじょう極冬王きょくとうおう冷酷れいこくさは、愛する冬子にもいましめとなって及ぶ。

極冬王きょくとうおうからもたらされる憤怒ふんぬまとう魔力が、冬子の胸に咲く大輪たいりん氷華ひょうか紋様もんようへと一気いっきそそがれる。

「……あっ、あっ、あっ、あああああ……!」

極冬王きょくとうおうの腕の中で、自身の胸をおさえ、苦痛くつうに叫ぶ冬子。

まるで何者かの手により、しんぞう鷲掴わしずかみされるような激しい痛みが、冬子をおそう。

その非情ひじょうさに、実の父である極冬王きょくとうおう恐怖きょうふ眼差まなざしで見つめるトウカ王女。

「ーおさな姫、君は見なくて良い」

いちの王子は、結界内けっかいないまもるトウカ王女に眠りの魔法をほどこすと、そっとその場に横たえる。

冬子のしんぞうには、極冬王きょくとうおう無情むじょうにも与えた氷華ひょうかたね根付ねづく。

さからえばどうなるかー。

咄嗟とっさに、いちの王子へと手を伸ばす冬子。

「……あっ、あっ……お願い、助けー……」

苦悶くもんゆがむ冬子の美しい相貌そうぼう

黒曜石こくようせきの瞳からは大粒おおつぶの涙がこぼれ、そのまま冬子の意識いしき深淵しんへんへとしずむ。

いとしいわれの姫。われ裏切うらぎればどうなるかー……その氷華ひょうかたねが、まさに其方そなたいましめる。ふふっ、どうやら身をもって知ったかー」

美しい微笑ほほえみをたたえる極冬王きょくとうおうの深くあおい瞳は、限りなく冷たい。

非情ひじょう極冬王きょくとうおうの腕の中で、意識いしきなく泣きれる異世界いせかいの姫である冬子。意外にも、そのほほへとそっと口付けを落とす極冬王きょくとうおうがいる。

相対あいたいするいちの王子に告げる極冬王きょくとうおう

「さぁ、が娘も返してもらおうか、忌々いまいましいいちの王子ー」

「ーもちろん、父様の言う通りだ」

不意に、極冬王きょくとうおうの言葉に同調どうちょうする声がひびく。

「僕のトウカを返してもらうよ。貴方あなたのようなやからに、僕の愛するトウカは渡さない……それは僕のだ。ねっ、父上ー!」

そうたのしげに言葉を放つ。

ここに来て、まさかのトウ王子の登場とうじょう。トウカ王女の双生そうせい片割かたわれ。

極冬王きょくとうおうの後ろへと突然とつぜんに現れては、いちの王子の元へと飛び立ち、結界けっかいへと手を伸ばすトウ王子。

「ーさせるか!」

更に強力な結界けっかいを張るいちの王子。

それを一瞥いちべつするトウ王子は、何が面白おもしろいのかー、くすくすと笑いを声を立てる。

このいさかいの決着けっちゃっくいまだ付かず。

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