英雄様は愛されたい

結人

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俺の身体は着実に回復していった。
1日3回走り込みをして少しずつ筋肉もつけているし、今はライスドリューの騎士団訓練場で基礎訓練にも参加している。


「ジーク!まだ剣を使った訓練には参加できないのか?」

「あぁ…ロキの許可が下りていないんだよ。大剣は無理でも軽いレイピアあたりなら十分振り回せると思うんだが、主治医の指示は絶対らしいから大人しく従っておくよ」

騎士団の練習で仲良くなったクロノスが剣を片手に声をかけてくる。彼はライスドリュー騎士団の団長だ。この国らしい大きな体で大剣を振り回す姿は圧巻で今の俺が対決したら一瞬で吹き飛ばされてしまうだろう。

「まぁジークに剣を持たせたら無理して動き回るのが目に見えてるからな。ロキの判断は正しいよ!」

確かに今まで剣しか握ってこなかった人生だ。相棒が戻ってきたら使わずにはいられないし、手にしたら制御して動くなんてできるはずがない。

「いつか調子が戻ったときには俺の相手をしてくれ。英雄騎士ジークフリードと一度手合わせしたかったんだ」

「いつになるか分からないが予約は受け付ける。それまでは現役でいててくれ」

今年40歳になるというクロノス。彼と手合わせできるまで回復するには必死に鍛えても1年以上はかかるだろう。
騎士の寿命は短い。いくらクロノスが強いと言っても年齢には抗えない。

「年寄り扱いするな!俺はまだまだ現役だ」

笑いながらじゃれていた俺たちのところに焦った様子の騎士が飛び込んでくる。

「報告します!隣国リュシオンが怪しい動きをしていると諜報部より連絡あり。陛下より各団長位に召集令が出ました!」

さっきまで笑顔でじゃれていたクロノスから笑顔が消える。空気が一気に張り詰め、訓練場の団員にもその緊張感が伝わっていく。

「お前らはすぐ動けるよう準備して待機!!」

クロノスの一言で他の団員達はすぐに動き出し俺は建物の中に向かったクロノスを見送る。
騎士でもない俺がここにいては邪魔になるので部屋に戻る。ずっと戦場から離れていたから感覚が鈍っていた。

俺は自分の体を鍛えなおしてどうするつもりだったのだろうか?またあの戦場に戻りたいのか?


夕食後、いつものようにドラゴンのもとに向かう。ドラゴンに話すだけで気持ちが落ち着く気がした。巻きついてくる尾を抱きしめたら気持ちが整理できそうな気がした。いつものように庭園の奥にある門扉を開けて枝をかき分けて向かったドラゴンの巣に…。



ドラゴンはいなかった…。



「なんで…いないんだ…」
いつもドラゴンが寝転んでいる巣に座り込む。
冷たい地面。冷たい風。冷たい夜の空。
空から月が俺を見下ろしてくる。

あんなに温かいと思っていたこの場所はドラゴンがいないだけでこんなに冷たい場所だった。






「寒いな…」
部屋に戻る気になれなくてドラゴンのいないドラゴンの巣で一夜を明かした。
ドラゴンは朝になっても戻ってこなかった。冷え切った身体で部屋に戻るとロキが真っ青な顔で俺を出迎えた。今、城が落ち着かない状態だからしばらく俺のところには来られないと伝えに来たらしい。

「リュシオンと戦争になるんですか?」
「まだわからないけど向こうが仕掛けてきたら陛下は全力で相手をされるよ」
「騎士団の皆が戦場へ行っちゃいますね」

下を向いた目線の先にあった自分の手は寒さで麻痺しているのか震えていた。寒さで色が変わった唇を噛みしめても痛みを感じなかった。

「…定期的に運動は続けて。剣は…木剣なら許可します。気晴らしも必要でしょうから…1人で素振り程度にしておいて下さい」

ロキは俺の震えた手を握ってきた。

「大丈夫です。ライスドリュー騎士団はみんな強いです。そして陛下は絶対に負けません。必ず帰ってきます」

顔を上げるとロキは強張った笑顔を見せていた。
俺もロキに向けて笑顔を見せる。

「あぁ…待ってる」

ちゃんと笑えていたかは分からない。

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