英雄様は愛されたい

結人

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アレクに助けられたあと治療を受けた俺はそのままテントで眠ってしまったようで、次に気付いた時には俺の後を追ってきていた敵兵は撤退した後だった。
目を覚ましたと連絡を受けたヴィーザル殿下がテントまで足を運び俺に現状報告をしてくれる。

「さ…流石…陛下ですね」

「はい。崖を挟み睨み合いの膠着状態だった間に敵兵の後ろに兵を配置し、挟み撃ちで…あの早い判断は見事でした」

「後ろに兵をって…短時間には難しいでしょう?」

目の前には崖、崖下は激しい水が流れる川がある。対岸にいる敵兵の後ろに、しかも短時間に兵を配置するなんていくら陛下でも無理だ

「奈落の崖には私たちしか知らない洞窟が多くあります。その洞窟を使い、裏を突いたようです」

「洞窟…ですか…。地元の民が使っている洞窟があるという話は確かに聞いたことが…」

「陛下はジークを助けた後、すぐに動かれていました」

ここで長く住む彼らにしかできない作戦。
よそ者の俺にはできないことだった。

「そうですか…。あ…殿下。先日は私の判断の遅さで御身を危険にさらしてしまいました。申し訳ございません」

「何を言ってるんだ!それを言うなら私の方だ!あなたに殿を任せてしまった。危険な任務をあなた一人に任せた。本当にすまない。そして無事戻ってきてくれてありがとう」

頭を下げる俺にヴィーザル殿下の綺麗な顔が目の前でほころぶ。安心したようなその顔を見て彼にとても心配をかけてしまったのだと気づいた。

「…ご心配をおかけしました。長く前線から離れていたからか、つい気を抜いてしまったようでした。気づいたら敵兵が近くまで来ていて…無様な姿を見せてしまいましたね。師匠として失格です」

「無様だなんて!!とてもかっこよかったです!崖の向こうから駆けてくるあなたを見てどれほど興奮したか!あなたは必ず約束を守ってくれると信じていましたから!」

瞳に涙を溜めて言うヴィーザルの頭を撫でると彼は俺の肩に頭を乗せた。

「ジークおかえりなさい」
「ただいま…です…」

俺の体をぐっと抱きしめてくるヴィーザル殿下を俺も抱きしめ返す。これからも彼の成長を見守りたい。
俺のために…兵士の為、民のために心を砕く彼がいつか賢王と呼ばれる素敵な統治者となる日が楽しみで仕方がない。


お互いが生きていることを確かめ合っていると大きな影によって俺たちは引き剥がされた。

「ヴィー…。お前は何をしている?」

ヴィーザル殿下の首根っこを掴み睨みを利かせていたのはアレクサンドロス陛下だった。

「…師弟の愛を確かめ合っていただけです。陛下にとやかく言われる事はないと思いますが?」

「陛下…すぐに駆けつけてくださりありがとうございます。そして、私の力不足でご迷惑をおかけし申し訳ございません。ヴィーザル殿下を助けていただきありがとうございます!そして敵兵も…」
「…他に言うことは?」

俺の言葉を遮り俺に問いかけてきた陛下は、ヴィーザル殿下を掴んでいた手を離すと手を振り、彼に退室を促した。

「…他に…ですか?」
「お前が殿で残っていると聞いた時の私の気持ちを考えもしなかったのか?」

退避する際は必ず殿が必要になる。
隊の中で殿を務めるなら俺しかいなかった。
判断を間違えたとは思えない。

「…もしかして…俺を心配してくださったのですか?」
「…なぜ…心配しないと思う?」
「一部下である私の事をそれほど気にしてくれていたとは思いもせず…ご心配おかけしました」

頭を下げ言うと陛下の手が俺の頬を包む。
顔をあげ彼を見上げると俺を見つめる瞳と視線がぶつかった。

「ジーク。もう二度と私のそばを離れるな」
「わ…わかりました」

彼の顔が近づき目の前まで来ると、こめかみにキスをされた。

「まぁ、勝手に離れようとしても私が許さん」

そう言って今度は俺の頬にキスをすると陛下はテントを出ていった。

一人残された俺はなぜ陛下にキスされたのか分からず固まった。この国の挨拶…なのだろうか??
母国でも令嬢とのダンスの後に挨拶として手の甲にキスをすることもあったから…こめかみや頬にキスする挨拶があってもおかしくない…?

いや、流石に…
何が起こってるのかよくわからず頭が混乱する。
陛下にキスされた頬に熱が集まるのを感じた。



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