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元課金チーターと女性専用装備 2/4
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「要求:女性」の文言が記された、いわゆる女性専用装備を男性アバターでも性能制限されずに装備することができるようになるスキル【女装】。このスキルを得るための方法は、女装をすること、である。
攻略情報によれば、【女装】技能は実際に女装して過ごしていると確率で修得できるのだとか。また、女装中に注目を浴びているほど修得確率が上がるとも言われている。ただし、女装だと看破されている状況だと、いくら時間を費やしてもスキルは修得されないという報告も上がっている。
つまり、目立っちゃうくらい可愛い女の子になって過ごしていると【女装】スキルが修得できるぞ。でも、男とバレるような女装は女装と認めないぞ――ということだ。
「……というわけなのですっ」
長い説明を滔々と語り終えたサラダが、出来る女教師のつもりなのか、眼鏡の縁を指でくいっと持ち合える仕草をしてみせた。
説明を最後まで黙って聞いていたユータは、その仕草まで黙々と見つめた後にゆっくりと瞬きをして、それからようやっと口を開いた。
「それはつまり、最初から俺に女装させるつもりで例の腕輪を買ってきたんです、という自白か」
「えっ!? え……やっ、やですねぇ、ゆーたん。自白とかそんな、まるで計画犯罪みたいな言い方ぁ」
「……」
「あ、はははー……、……笑って誤魔化すの、駄目です?」
「駄目だな」
「わっ、即答! ――でも言い訳させて!」
「ほう?」
「確かにみんなで計画してやったことですけど、わたしは、ゆーたんに内緒でそういうことするのは悪いんじゃないですかねぇ、って言ったんです。でも二人が、わたしが好きに服を選んでもいいって言うから、仕方なく従ったんです。つまり言うなれば、わたしは従犯です。共犯者です。主犯はラムとヴルストなんです!」
早口で捲し立てたサラダは肩を怒らせて、ふうふうと荒い息を吐いている。
ユータは黙って最後まで聞いていたけれど、よく見ればこめかみに青筋が浮いている。眉尻が小刻みに震えて、眉間に皺が寄っている。
「いまの話のどこに仕方なく従う要素があったのか知らんけど……なるほど。自分は悪くないから謝らない、と」
「ごめんなさいぃ! 謝りますぅ!」
「ハッ! 最初っから素直にそう言ってればいいんだ」
「はい、ごめんです……ごめんついでにもうひとつ、言っていいです?」
「なんだ?」
「なんやかんや言いつつ、その服をちゃんと装備してくれてるゆーたん、好きですよぅ♥」
「……チッ」
そっぽを向いたユータと、頬笑むサラダ。
二人がいるのは、わりと大きな都市の広場だ。広場の外縁にはベンチがいくつか据えられていて、二人はそのひとつに座って談笑していた。
この都市は南部大陸の南部一帯を支配する大帝国の北西端を占める領地の首都である。北部へと続く大街道からも程近いところにあって、物流も盛んだ。そんな都市の広場であるから、人の往来もなかなかに盛況だ。近くに目立ったダンジョン等がないため、ここを拠点にしているPCはまずいないけれど、南下あるいは北上の休憩地点として一時投宿しているPCは、いまも広場に散見できる。
行き交う馬車や、屋台の近くで屯する人々だとかに混ざって、街の景色になっているベンチの二人。きっと傍から見れば、仲良し姉妹が散策の途中で一休みしているように見えているだろう。
二人の服装は色違いのお揃いだった。
ふんわり素材のAライン膝上丈ワンピースで、サラダがミルクココア色、ユータが紺色。襟と袖口の差し色はどちらも白だ。それに合わせて、サラダは白のニーハイソックスと桜色のローファーを、ユータは炭色基調のアーガイル柄ニーハイと焦茶色のローファーを着用している。
ユータはさらに付け毛も使って、普段のショートヘアから肩にかぶるくらいのミディアムヘアに髪を盛っている。
「わたしよりも髪の毛、長くなりましたね」
サラダはいつもの、蜂蜜がかったエメラルド色の内巻きボブだ。毛先を指でぱらり弾くと、首筋がちらり覗いて、ふわりと薫る。
「あ、分かります? オレンジの香水ですよ。普段は使わないけど、デートですもん。香り付けまで抜かりなしですっ」
「……デートなの?」
「デートですっ!」
胡乱げに聞き返すユータに、ずいっと身を乗り出して強く言い切るサラダの迫力。ユータがすかさず仰け反ったおかげで、二人はうっかりキスしないで済んだ。サラダはむうっと唇を尖らせたけれど。
「デートって……俺、女装させられてるんだけど?」
「え? 女の子同士でも、デートはデートですよ?」
「え、そうなのか?」
「はいっ」
衒いのない笑顔で言い切られると、ユータはあっさりと自分のほうが間違っていたのだと思ってしまう。
「へ、へぇ、そうか。最近はそういう言い方もするのか……あっ、うん。いや、知ってたさ、知ってた。うん」
目を泳がせながらかくかく頷くユータのことを、サラダは髪と同じエメラルド色の双眸を細めて、にんまり笑顔で見つめている。
「ゆーたんってチョロいですよね」
「え、なんか言ったか?」
「あ、難聴ムーブだ。あははっ」
「……急に笑うのは感じ悪いぞ」
「ん、だね。ごめんなさい」
ぷっと吹き出したサラダだったが、ユータの眉間に皺が寄るのを見つけると、すぐに殊勝な顔をして謝った。
そして、仲間からそうやって正面切って謝られてしまうと怒りが続かず、すぐに許してしまうのが、いまのユータだ。
「し、しょうがないな、サラダはまったく……」
肩にかかるエクステの黒髪をぱさりぱさりと掻き上げながら、照れ隠しに話題を換える。
「あ、そういえば、ラムとヴルストはどうしてるんだろうな?」
「さぁ? 今日は二人とも用事があるって言ってましたからねぇ」
サラダが言ったように、二人は揃って用事があるようで、今日は同行していない。パーティからも一時脱退しているので、居場所を確認することもできない状態だ。
「いちいちパーティから抜ける必要のある用事って、なんだよ……」
二人があっさりパーティ脱退したことに、ユータは含むところがあるようだ。サラダによって軽く化粧された頬がちょっぴり膨らんでいる。ユータは元のアバターが中性的な美少年だから、そうしていると女子があざとい顔をしているようにしか見えない。
「まあまあ、ゆーたん。パーティは抜けるのも入るのもちょいちょいで出来ちゃうんですから、そんな気にしなくてもいいじゃないですかぁ」
「それはそうだけど――」
「それとも、わたしと二人っきりはつまんないですかぁ?」
「そうは言ってないだろ」
「それじゃ駄目でーす。ちゃんと言ってください」
「……女装じゃなければ楽しかったかもな」
ユータがそっぽを向いて負け惜しみのように言えば、サラダはにっこりと頬笑む。
「女の子が女の子の格好をするのは女装じゃないですよ」
「誰が女の子だ、誰が!」
「あはは、ゆーたんツッコミ早いっ」
ユータにすぐさま言い返されたのが壺に入ったらしい。サラダはお腹を抱えて、けらけら笑い出した。
「いまののどこが、そんなに笑えるんだ……?」
そう言って胡乱げに目を眇めたユータも、笑うサラダを見ているうちに眉間を緩ませ、一緒になって少し笑った。
一頻りそうしたところで、サラダは隣のユータに横目を向ける。
「ふぅ……ゆーたん、緊張解れたみたいですね」
「え、俺? 緊張してたか?」
驚いた顔をするユータに、サラダはくすくすと小さく笑う。
「してましたよぅ。宿からここまでお散歩してくる間、カッチンコチンでしたよ。わたし、右手と右足を一緒に出して歩くひと、初めて見ましたもん」
「……こんな格好で外に連れ出されたら、誰だって緊張する」
「男の娘バレしたらどうしよう、って?」
「そうだよ! だって、ちらちらと振り返ったりされてたじゃないか!」
「あははっ、それはゆーたんが可愛いから二度見したんですよぅ」
「……」
サラダの笑い声に、ユータは黙ってしまう。でも、べつに怒っているわけでないのは、俯いた横顔を覗き見れば明らかだ。
「ゆーたん、照れてます。可愛いぃ♥」
「かっ……わいくねぇし……」
「可愛いですよ、可愛い可愛い♥」
熟れた林檎みたいな色になるユータの頬に、サラダがぐりんぐりんと頬擦りを仕掛ける。纏っているオレンジの香りが、ユータの鼻腔を甘くくすぐる。
「っ……サラダ、近い……!」
「えー、いいじゃないですかぁ。女の子同士じゃ普通ですよ、このくらい」
「俺は男だ――」
「いまは可愛い可愛い女子ですよぅ」
「うひゅッ!?」
仰け反って逃げようとしたユータだが、すかさず伸ばされたサラダの両手に捕えられてしまった。
「んんぅ♥ 抱き心地も……んー、ちょっと筋張ってるかもですけど、ほっぺのすべすべ感は女子ですよ、女子ぃ♥」
「止めっ、やっ……んあぁッ!?」
サラダの抱擁から逃れようとして身をくねらせていたユータが、ふいに奇声を上げて硬直した。ユータの右隣から腰に抱きついていたサラダの左手がするりと下がって、ユータの臀部をむんずと鷲掴みにしたのだった。
「ん、んなッ!? サラダ、おいッ!?」
「あー、このお尻。小振りで締まったぷりぷりきゅっきゅ感、これは女子ですわー。女子尻ですわー」
「なに言ってんだ、馬鹿! いいから、揉むのをっ……んあッ♥」
ユータの尻を揉んでいたサラダの左手。その中指が尾てい骨の下、尻の谷間にするりと潜り込んだのだ。菊座の5ミリ上を指圧されたユータは、反射的に声を跳ねさせたのと同時に、ぎゅっと尻穴を閉めた。
「サ、ラダ……ばか、おい――んぅッ♥」
「んんぅ? ゆーたん、お尻が硬いですよ。もっと緊張を緩めましょう。ほーらぁ、むにむにぃ」
口でむにむにと言いながら、中指をその擬音のままに震わせて肛門マッサージを始めるサラダ。
もちろん、ユータはその手を振り払おうとしたのだけど――それより僅かに早く、両手が急に万歳をして動かなくなった。
「え……えっ? ……あっ!」
突然のことに混乱していると、両手に次いで両足までもが勝手に動く。初めてのスカートを過剰に意識してきつい内股だったのが肩幅よりも開いたところで動かなくなった。
サラダに抱きつかれて身体を弄られるところまでは、ユータも予想していないでもなかった。でも、突然の強制大股開き万歳ポーズはさすがに予想外過ぎた。
頭が空白になった瞬間、ユータが手足の自由を取り戻そうとするより早く、サラダの吐息がユータの耳朶を舐めた。
「暴れたら、ラムとヴルストが酷いことになりますよ」
「……!」
まるで二人を人質に取っているかのような言い草に、ユータは丸々と見開かせた目でサラダを凝視する。
ユータが首をぐりんと振り向かせたことで、サラダと鼻先同士が擦れ合う。ユータの黒い瞳に、翡翠のような瞳が映り込む。
サラダは悪戯っ子のようにささやく。
「ね、ゆーたん。ラムとヴルスト、今日は用事があるって言ってたの覚えてる?」
「……ああ」
ユータが顎を引くようにして頷くと、サラダはますます笑みを深めた。
「おかしいと思いませんでした? ゆーたんの女装セット、服を選んだのはわたしですけど、エクステや下着なんかを用意したのはあの二人なんですよ。それなのに、肝心の女装デート当日についてこないなんて……ねぇ?」
「いや、それは用事があるからって……」
「普通、用事のほうを断ります。断れないなら、デートの日取りを繰り下げてくれって土下座してきます」
「土下座……そこまでするかな?」
「します!」
鼻息も荒く言い切ったサラダに、ユータは口角を引き攣らせた。
「い……いやでも、俺の女装なんて見たって面白くないだろ」
「ですね。ゆーたんの女装は面白いではなく、えちぃ、可愛い、えっちしたい、ですからね」
「えっちを二回言ったぞ」
「えっち、えっち、えっち♥ 何回でも言いますよーぅ」
「馬鹿、恥ずかしいから止め――って、誤魔化されないぞ! ラムとヴルストがどうしたっていうんだよ!?」
「……まだ分かりませんか? 両手と両足を見えない誰かさんに掴まれている、ゆーたんは」
「え……あっ! まさか、【透明化】!?」
「はい、正解ですっ」
サラダがにっこり頬笑んで頷いたのに対して、ユータは驚愕に目を瞠らせていた。
攻略情報によれば、【女装】技能は実際に女装して過ごしていると確率で修得できるのだとか。また、女装中に注目を浴びているほど修得確率が上がるとも言われている。ただし、女装だと看破されている状況だと、いくら時間を費やしてもスキルは修得されないという報告も上がっている。
つまり、目立っちゃうくらい可愛い女の子になって過ごしていると【女装】スキルが修得できるぞ。でも、男とバレるような女装は女装と認めないぞ――ということだ。
「……というわけなのですっ」
長い説明を滔々と語り終えたサラダが、出来る女教師のつもりなのか、眼鏡の縁を指でくいっと持ち合える仕草をしてみせた。
説明を最後まで黙って聞いていたユータは、その仕草まで黙々と見つめた後にゆっくりと瞬きをして、それからようやっと口を開いた。
「それはつまり、最初から俺に女装させるつもりで例の腕輪を買ってきたんです、という自白か」
「えっ!? え……やっ、やですねぇ、ゆーたん。自白とかそんな、まるで計画犯罪みたいな言い方ぁ」
「……」
「あ、はははー……、……笑って誤魔化すの、駄目です?」
「駄目だな」
「わっ、即答! ――でも言い訳させて!」
「ほう?」
「確かにみんなで計画してやったことですけど、わたしは、ゆーたんに内緒でそういうことするのは悪いんじゃないですかねぇ、って言ったんです。でも二人が、わたしが好きに服を選んでもいいって言うから、仕方なく従ったんです。つまり言うなれば、わたしは従犯です。共犯者です。主犯はラムとヴルストなんです!」
早口で捲し立てたサラダは肩を怒らせて、ふうふうと荒い息を吐いている。
ユータは黙って最後まで聞いていたけれど、よく見ればこめかみに青筋が浮いている。眉尻が小刻みに震えて、眉間に皺が寄っている。
「いまの話のどこに仕方なく従う要素があったのか知らんけど……なるほど。自分は悪くないから謝らない、と」
「ごめんなさいぃ! 謝りますぅ!」
「ハッ! 最初っから素直にそう言ってればいいんだ」
「はい、ごめんです……ごめんついでにもうひとつ、言っていいです?」
「なんだ?」
「なんやかんや言いつつ、その服をちゃんと装備してくれてるゆーたん、好きですよぅ♥」
「……チッ」
そっぽを向いたユータと、頬笑むサラダ。
二人がいるのは、わりと大きな都市の広場だ。広場の外縁にはベンチがいくつか据えられていて、二人はそのひとつに座って談笑していた。
この都市は南部大陸の南部一帯を支配する大帝国の北西端を占める領地の首都である。北部へと続く大街道からも程近いところにあって、物流も盛んだ。そんな都市の広場であるから、人の往来もなかなかに盛況だ。近くに目立ったダンジョン等がないため、ここを拠点にしているPCはまずいないけれど、南下あるいは北上の休憩地点として一時投宿しているPCは、いまも広場に散見できる。
行き交う馬車や、屋台の近くで屯する人々だとかに混ざって、街の景色になっているベンチの二人。きっと傍から見れば、仲良し姉妹が散策の途中で一休みしているように見えているだろう。
二人の服装は色違いのお揃いだった。
ふんわり素材のAライン膝上丈ワンピースで、サラダがミルクココア色、ユータが紺色。襟と袖口の差し色はどちらも白だ。それに合わせて、サラダは白のニーハイソックスと桜色のローファーを、ユータは炭色基調のアーガイル柄ニーハイと焦茶色のローファーを着用している。
ユータはさらに付け毛も使って、普段のショートヘアから肩にかぶるくらいのミディアムヘアに髪を盛っている。
「わたしよりも髪の毛、長くなりましたね」
サラダはいつもの、蜂蜜がかったエメラルド色の内巻きボブだ。毛先を指でぱらり弾くと、首筋がちらり覗いて、ふわりと薫る。
「あ、分かります? オレンジの香水ですよ。普段は使わないけど、デートですもん。香り付けまで抜かりなしですっ」
「……デートなの?」
「デートですっ!」
胡乱げに聞き返すユータに、ずいっと身を乗り出して強く言い切るサラダの迫力。ユータがすかさず仰け反ったおかげで、二人はうっかりキスしないで済んだ。サラダはむうっと唇を尖らせたけれど。
「デートって……俺、女装させられてるんだけど?」
「え? 女の子同士でも、デートはデートですよ?」
「え、そうなのか?」
「はいっ」
衒いのない笑顔で言い切られると、ユータはあっさりと自分のほうが間違っていたのだと思ってしまう。
「へ、へぇ、そうか。最近はそういう言い方もするのか……あっ、うん。いや、知ってたさ、知ってた。うん」
目を泳がせながらかくかく頷くユータのことを、サラダは髪と同じエメラルド色の双眸を細めて、にんまり笑顔で見つめている。
「ゆーたんってチョロいですよね」
「え、なんか言ったか?」
「あ、難聴ムーブだ。あははっ」
「……急に笑うのは感じ悪いぞ」
「ん、だね。ごめんなさい」
ぷっと吹き出したサラダだったが、ユータの眉間に皺が寄るのを見つけると、すぐに殊勝な顔をして謝った。
そして、仲間からそうやって正面切って謝られてしまうと怒りが続かず、すぐに許してしまうのが、いまのユータだ。
「し、しょうがないな、サラダはまったく……」
肩にかかるエクステの黒髪をぱさりぱさりと掻き上げながら、照れ隠しに話題を換える。
「あ、そういえば、ラムとヴルストはどうしてるんだろうな?」
「さぁ? 今日は二人とも用事があるって言ってましたからねぇ」
サラダが言ったように、二人は揃って用事があるようで、今日は同行していない。パーティからも一時脱退しているので、居場所を確認することもできない状態だ。
「いちいちパーティから抜ける必要のある用事って、なんだよ……」
二人があっさりパーティ脱退したことに、ユータは含むところがあるようだ。サラダによって軽く化粧された頬がちょっぴり膨らんでいる。ユータは元のアバターが中性的な美少年だから、そうしていると女子があざとい顔をしているようにしか見えない。
「まあまあ、ゆーたん。パーティは抜けるのも入るのもちょいちょいで出来ちゃうんですから、そんな気にしなくてもいいじゃないですかぁ」
「それはそうだけど――」
「それとも、わたしと二人っきりはつまんないですかぁ?」
「そうは言ってないだろ」
「それじゃ駄目でーす。ちゃんと言ってください」
「……女装じゃなければ楽しかったかもな」
ユータがそっぽを向いて負け惜しみのように言えば、サラダはにっこりと頬笑む。
「女の子が女の子の格好をするのは女装じゃないですよ」
「誰が女の子だ、誰が!」
「あはは、ゆーたんツッコミ早いっ」
ユータにすぐさま言い返されたのが壺に入ったらしい。サラダはお腹を抱えて、けらけら笑い出した。
「いまののどこが、そんなに笑えるんだ……?」
そう言って胡乱げに目を眇めたユータも、笑うサラダを見ているうちに眉間を緩ませ、一緒になって少し笑った。
一頻りそうしたところで、サラダは隣のユータに横目を向ける。
「ふぅ……ゆーたん、緊張解れたみたいですね」
「え、俺? 緊張してたか?」
驚いた顔をするユータに、サラダはくすくすと小さく笑う。
「してましたよぅ。宿からここまでお散歩してくる間、カッチンコチンでしたよ。わたし、右手と右足を一緒に出して歩くひと、初めて見ましたもん」
「……こんな格好で外に連れ出されたら、誰だって緊張する」
「男の娘バレしたらどうしよう、って?」
「そうだよ! だって、ちらちらと振り返ったりされてたじゃないか!」
「あははっ、それはゆーたんが可愛いから二度見したんですよぅ」
「……」
サラダの笑い声に、ユータは黙ってしまう。でも、べつに怒っているわけでないのは、俯いた横顔を覗き見れば明らかだ。
「ゆーたん、照れてます。可愛いぃ♥」
「かっ……わいくねぇし……」
「可愛いですよ、可愛い可愛い♥」
熟れた林檎みたいな色になるユータの頬に、サラダがぐりんぐりんと頬擦りを仕掛ける。纏っているオレンジの香りが、ユータの鼻腔を甘くくすぐる。
「っ……サラダ、近い……!」
「えー、いいじゃないですかぁ。女の子同士じゃ普通ですよ、このくらい」
「俺は男だ――」
「いまは可愛い可愛い女子ですよぅ」
「うひゅッ!?」
仰け反って逃げようとしたユータだが、すかさず伸ばされたサラダの両手に捕えられてしまった。
「んんぅ♥ 抱き心地も……んー、ちょっと筋張ってるかもですけど、ほっぺのすべすべ感は女子ですよ、女子ぃ♥」
「止めっ、やっ……んあぁッ!?」
サラダの抱擁から逃れようとして身をくねらせていたユータが、ふいに奇声を上げて硬直した。ユータの右隣から腰に抱きついていたサラダの左手がするりと下がって、ユータの臀部をむんずと鷲掴みにしたのだった。
「ん、んなッ!? サラダ、おいッ!?」
「あー、このお尻。小振りで締まったぷりぷりきゅっきゅ感、これは女子ですわー。女子尻ですわー」
「なに言ってんだ、馬鹿! いいから、揉むのをっ……んあッ♥」
ユータの尻を揉んでいたサラダの左手。その中指が尾てい骨の下、尻の谷間にするりと潜り込んだのだ。菊座の5ミリ上を指圧されたユータは、反射的に声を跳ねさせたのと同時に、ぎゅっと尻穴を閉めた。
「サ、ラダ……ばか、おい――んぅッ♥」
「んんぅ? ゆーたん、お尻が硬いですよ。もっと緊張を緩めましょう。ほーらぁ、むにむにぃ」
口でむにむにと言いながら、中指をその擬音のままに震わせて肛門マッサージを始めるサラダ。
もちろん、ユータはその手を振り払おうとしたのだけど――それより僅かに早く、両手が急に万歳をして動かなくなった。
「え……えっ? ……あっ!」
突然のことに混乱していると、両手に次いで両足までもが勝手に動く。初めてのスカートを過剰に意識してきつい内股だったのが肩幅よりも開いたところで動かなくなった。
サラダに抱きつかれて身体を弄られるところまでは、ユータも予想していないでもなかった。でも、突然の強制大股開き万歳ポーズはさすがに予想外過ぎた。
頭が空白になった瞬間、ユータが手足の自由を取り戻そうとするより早く、サラダの吐息がユータの耳朶を舐めた。
「暴れたら、ラムとヴルストが酷いことになりますよ」
「……!」
まるで二人を人質に取っているかのような言い草に、ユータは丸々と見開かせた目でサラダを凝視する。
ユータが首をぐりんと振り向かせたことで、サラダと鼻先同士が擦れ合う。ユータの黒い瞳に、翡翠のような瞳が映り込む。
サラダは悪戯っ子のようにささやく。
「ね、ゆーたん。ラムとヴルスト、今日は用事があるって言ってたの覚えてる?」
「……ああ」
ユータが顎を引くようにして頷くと、サラダはますます笑みを深めた。
「おかしいと思いませんでした? ゆーたんの女装セット、服を選んだのはわたしですけど、エクステや下着なんかを用意したのはあの二人なんですよ。それなのに、肝心の女装デート当日についてこないなんて……ねぇ?」
「いや、それは用事があるからって……」
「普通、用事のほうを断ります。断れないなら、デートの日取りを繰り下げてくれって土下座してきます」
「土下座……そこまでするかな?」
「します!」
鼻息も荒く言い切ったサラダに、ユータは口角を引き攣らせた。
「い……いやでも、俺の女装なんて見たって面白くないだろ」
「ですね。ゆーたんの女装は面白いではなく、えちぃ、可愛い、えっちしたい、ですからね」
「えっちを二回言ったぞ」
「えっち、えっち、えっち♥ 何回でも言いますよーぅ」
「馬鹿、恥ずかしいから止め――って、誤魔化されないぞ! ラムとヴルストがどうしたっていうんだよ!?」
「……まだ分かりませんか? 両手と両足を見えない誰かさんに掴まれている、ゆーたんは」
「え……あっ! まさか、【透明化】!?」
「はい、正解ですっ」
サラダがにっこり頬笑んで頷いたのに対して、ユータは驚愕に目を瞠らせていた。
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