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華ノ月

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第五章 花を愛でる小人たちは悲しみの雨を降らせる

第10話

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 ――――ギィィィ……。

 颯希たちが海辺の近くにある倉庫に足を踏み入れる。かつて、友成が玲奈を呼び出した場所だ。そこは、今はもう使われていない海に使う網などが乱雑に置かれている。隠れるには絶好の場所かもしれないと思い、この場所に来た。

 倉庫の中は上の方にある天窓から光を受けており、仄かに明るい。その中を颯希たちが捜索していく。

「誰か居ませんかぁ~……」

 颯希が念のため声を掛ける。

 しかし、返事はない。

 どこかに潜んでいないかそれぞれバラバラになりながら探していった。



「……もし、隠れているとすれば廃屋の建物だな……」

 木津が車の中で地図を広げながら隠れることができそうな廃屋を調べていく。

「まず、この廃屋になったクリニックに行ってみるか……」

「分かりました……」

 呉野がその場所に車を走らせた。



 誰かが入ってきた音がして、岡本が被っていた毛布をそっと更に深くかぶる。そして、息をひそめて人が立ち去っていくのをじっと待つ。

(見つかりませんように……見つかりませんように……)

 心で唱えながら早く去っていくのを待ち続ける。

 その時、足元に何かが当たった。



 木津と呉野が廃屋になったクリニックに足を踏み入れた。そこら辺にクリニックで使用していたと思われる機器や薬品の瓶が散乱している。一つ一つ部屋を念入りに調べながら捜索していく。

「……人がいる気配はありませんね」

 呉野が捜索をしながら声を出す。

「とりあえず、探してみよう……」

 木津がそう言ってクリニックが倉庫として使っていた場所も捜索する。しかし、何処を探しても人がいる気配がない。

「……ここにはいないか」

 木津が落胆の声を上げる。

 その時だった。


 ――――ピルルルル……ピルルルル……。


 木津の携帯が鳴り響いた。



 ――――ガターンっ!!

 倉庫の中で大きな音が鳴り響き、颯希たちが音のした方に顔を向ける。そして、その場所へ駆けつける。すると、そこには毛布から半分身体が出ている高校生くらいの男の子がガタガタと震えていた。

「あっ……、あっ……」

 岡本が見つかってしまったことに脅え、か細い声が出る。

「岡本さん…ですよね?」

 颯希がアルバムで見せてもらった写真と面影が一緒だったのでそう声を掛ける。

「ぼ………僕は……」

 岡本が震えながら言葉を発しようとするが声がうまく出ない。

「僕は……脅されただけだ……。僕は……僕は……」

 岡本が震えながらそう言葉を綴る。

「落ち着いてください……。私たちはあなたを殺しに来たのではありません……」

 颯希が優しく問いかける。

「あっ……、あっ……、うわぁぁぁぁぁーーーー!」

 何処かで張りつめていたものが切れたのか岡本が声を上げて泣き出した。

 しばらくして落ち着いたのか、岡本が話し出した。

「……僕、ストレスで万引きをしてしまったんだ……。それを、偶然前田君に見られていて、このことをばらされたくなかったら俺たちの言うことを聞けって言われたんだよ……。お前にもいい思いはさせてやるからよって言われて……。そしたら、それが女性を犯すことだったんだ……。僕はいいって言ったんだけど、お前もやらなかったら万引きのことをばらすぞって言われて仕方なく……。でも、その犯した子の中に僕の知っている子がいて……。嫌だって言ったけど、今まででもやっているんだから今さら何をぬかすんだって言われたんだ……。拒否するならこの女と一緒に殺すって言ってきて仕方なく……」

「知っている子と言うのは……?」

 颯希が岡本に聞く。

「同じ高校の同じ部活の子だよ……。小岩井さんって言ってこの子なんだけど……」

 岡本がそう言って一つの写真を見せる。そこには、栗色の髪をなびかせながら優しく微笑んでいる女の子が映っていた。

「あの後、小岩井さんが入院したっていう話を聞いたんだ……。僕のせいだって思って、怖くて高校にも行けなくなったんだ……。僕が万引きなんかしなきゃこんなことにはならなかったのに……。小岩井さんを助けることも出来なくて……、逆らうのが怖くてズルズルズルズル……。そしたら、あの時のメンバーがどんどん殺されていって……このままじゃいつか自分も殺されるって思って……。ごめんなさい……。ごめんなさい……」

 岡本が大粒の涙を流しながら言葉を綴る。

「……自首しましょう」

 颯希が優しく言葉を綴る。

 たしかに岡本が今回の暴行に至ったのは脅迫によるものだ。ただし、そのきっかけは岡本自身の万引きが原因だ。そのことがなければこんなことに手を染めることはなかっただろう……。万引きも許してはいけないことだが、それをネタに脅していた前田はそれ以上の悪になる。岡本は加害者でもあり被害者でもある。一方的に岡本を責めることはできない。

 颯希はポケットからスマートフォンを取り出し、ある人物に電話を掛ける。すると、コール音が鳴り響き、相手がすぐに電話に出た。







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