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第二章 聖杯にまつわるお話

第140話 授業参加

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 その日、教室に入ったらイグがいた。

「それでさぁ、女が「今よ!」って言ったのと同時に領主がいきなり斬りつけて来たんだよ」
「ひぇ女怖い」

 しかも昨晩の武勇伝をアルジュナのクラスメイトに自慢しまくっていた。
 暴れたのが深夜で自慢したい相手が全員就寝していたため、学園に先回りしてこうして朝から自慢話をしていたようだ。

「イグ様けがは??」
「俺は邪神様だからな、斬られたフリしただけよ」

 近くで話を聞いていた一人に斬りかかって来るように言うと、言われた少年はとりあえず支給されている筆を剣に見立てて斬りかかる動作をした。
 ぐぎゃぁぁと叫びながら、筆が当たってもいないのにイグの体から血がぶしゃーと噴きあがる。

「すげぇー」
「幻影かぁ、派手だからこそ目くらましにはなるな」
「現実の話としてその辺の剣で邪神の肌を傷付けるのは無理よ、血だって下手に流したら魔物生まれちゃうし」
「やっぱり神様になると違うなぁ」
「筆なら斬りつけるよりくすぐり攻撃の方が効きそう」
「あ、やめて」
「効くみたいだよ」

 自然な感じで生徒の中に交じっているが、イグは決して学園に通っている訳ではない。

「おはようございます」

 教師が教室に入ってくると、わらわらと生徒たちが自分達の席に戻っていく。
 アルジュナも急いで自分の席に着くと、教師の話に耳を傾ける体勢に入った。
 この担任、おっとりした感じの優男で見た目通りか弱い、あまり派手に困らせるとその場で血を吐くぐらい神経も細いし、常に胃痛に悩まされている。

 ちなみにイグは教師に挨拶して帰宅するかと思いきや教壇の横に移動、アイテムボックスから木製の椅子を取り出して自分の横に置いた。

「皆さんおはようございます、本日から新授業が始まります」

 え、何それ聞いてない。
 何て思っていたらイグが闇に手を伸ばした。丁寧なエスコートで姿を現したのはアルジュナの母・樹。

「アー君」

 小さく手を振っているけれど、教壇の真横だし、注目のまとだから、こっそりの意味がない。

「新授業の内容は使い魔召喚です」

 担任の言葉に一番前の席の生徒がバッと手を挙げる。

「先生ー! 使い魔系統は禁術ではなかったんですかー!?」
「条件付きで解禁されました」
「条件付き?」
「使い魔の力を悪用したり、その力で人を傷つけようとしたら死にます」
「え」
「死にます」

 冗談ではないことを示すように真顔で繰り返す担任、隣の樹はアー君を見てにこにこしているので判断材料にはならない。

「恐らく即死ではなく警告ぐらいもらえるとは思いますが、愚かな行為は繰り返される。最終的に……やっぱり死にますね」
「先生疲れてる?」
「はい」

 小首を傾げながら声をかけた樹に担任が即答した。

「この授業が行われるのは当クラスのみです、幸運なのか不運なのかはまぁ……捉え方次第ということで。まずは使い魔召喚を行います」
「先生、先生! 使い魔の運用方法とか付き合い方とか何かこう、注意点は!?」
「分かりません」
「危険性とかは?」
「分かったら苦労はないです、ただこの授業に限り、死んだら生き返らせてくれる保証付きです」
「それ何の安心にもならない」

 全て手探り。教師と生徒で授業の形を作っていくのだと、半ば投げやりに言い切った。

「資料がないんです、むしろ私たちの授業が今後の資料として使われます」
「俺らもとうとう偉人かぁ」
「あーなんか分かった。この授業の元凶、アル様だ」
「アル様かぁ、先生も入学式前の顔合わせで言ってたよな「悟りは早めに啓きなさい」って」
「このことか」

 理解が早く、順応性が高い生徒たちは納得したように頷いた。

「先生、質問があります」
「はい」
「アルジュナ様はどっちですか?」
「……そういえばどっちでしょうね?」
「一応、まだ召喚されたことはない」

 恐らく召喚術を使ったら母が来る。いやすでに教室内にいるけど。しかもずっとアルジュナを見てにっこにこしている。
 隣のイグはニヤニヤしていた。
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