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3章 地蔵してんじゃねぇよ!

3-11 ガリ実演

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「あーつまんね。何か面白いことねぇかなぁ。いい女、いねぇしよぉ」
 呟いた主を確認すると乳ローだった。
「乳ローが戻ってきたか……。おい乳ロー。じゃ、グリーンと尾行をよろしく」
「OK」
「グリーン。ガリビアンの法則に、『あえて』コミカル要素を加えた手本を見せるから、気をつけて見てろよ」
「はい」
「おい、グリーン。もたもたするな。行くぞ」
 乳ローに怒鳴られながらも、すぐさま向かった。ガリさんは、ファーストフードの袋を持ったピンクヘアーの女に声をかけにいった。
「堪忍なぁ。いてええやろか」
「え? なになに?」
「アカン。バーガー食べてる最中やん。慌てて飲み込んでサザエさんのになってるやん」
 女はむせながらも笑っている。
「見てたらえらいべっぴんさんがバーガー頬張ってるから、こりゃあ声かけなアカンなと思ったんやけどホンマ堪忍な、バーガーにまっしぐらだった至福の時間を止めてしもうて。なんしか、手に持ってるマムシジュースで流し込んだ方がええんちゃう?」
「昼間っから、そんな精のつくもの飲まないからw でもほんと、喉つまってる~」
「バーガー流し込むまで飴ちゃん舐めて待ってるわ」
「バーガー、うけるw」
「超わろてるやん。ワイ、そんなにおもろいこと言うた?」
「ww」
「こちとら自分が思てるより血眼やねん。よう、目、見てみ。充血してるやろ?」
「見せなくていいから眼科行けよw」
「うわっ! 近くで見てみたら新垣結衣はんにそっくりやん」
「わざとらしいw」
「んでな、唐突に声かけてきて何やと思ってるやろ? 結論言っちゃうとメル友になりたいねん」
「古っw キャッチ?」
「キャッチやとシュッとした背広着てなあかんやん? 着てへんやろ?」
「ヤバいw」
「おもろいこと一つも言うてないのに、人の顔見て笑い転げるのは失礼やん。にしても、自分の服装は眩しいっちゅうか目がチカチカするわ」
「そう?」
「こんなチカチカした原色が似合うの秋葉原以来やで」
「比較対象が街っておかしいでしょw」
「そのスマホも、ごっつチカチカするから目から火が出そうやわ」
「だから眼科行けってw 私なんかよりかわいいたくさんいるでしょ。あれとかどう? 乃木坂にいそうじゃん」
「君しか目に入らなかったわ。宇宙界隈でいっちゃんべっぴんちゃう?」
「うざw」
「口を膨らました顔もかわいいやん。せやけどチカみたいな娘は、今日は仲良く話してくれても絶対アポが取れん娘やねん」
「なんでなんで? ってチカじゃないしw カナよ、カナ!」
「連絡先交換して返信まではしてくれんねん。でも、ワイってすぐにのぼせ上がっちゃうやん?」
「知らんがなw」
「『こりゃイケる! 映画にしようかな、ドライブにしようかな、BARもええかもしれへんな~』と妄想すんねん。で、実際誘ったら『あ、その日はちょっと……』みたいにはぐらかされて永遠に会えんねん。どうせ、今回もそのパターンやろ?」
「いい心療内科を教えよっか?w」
「性格はえげつないけど、よう見ると、やっぱめっちゃかわいいやん」
「ありがとう!」
「ホンマかわいいわぁ。縄文時代なら圧倒的にナンバーワンやわ」
「ちょ、おまw」と言いながらも笑っている。
「ワイ、前世、縄文人やねん。せやから自分のかわいさごっつわかるで」
「運命的な出会いなの?」
「当たり前やん。アホちゃう?」
「ひどーい。チカチカしてるかもしれないけど、私IQ高いんだよ」
「そないなこと言われても全く信用でけんわ。イカタコクラゲが、『実は、身体硬いんですわ』言うてるのと同じやで」
「ぐにゃぐにゃじゃんw」
「アカン。カナとは婚約解消や」
「婚約なんかしてないから!」
「せやかて、料理できないやろ? 『カナ帰ったで~』『おかえり~。ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?』ってイメージ全然浮かばんもん。妄想好きのワイでも限界や」
「昭和かよw それに、私、料理得意だよ!」
「無理せんでええよ。朝晩の料理や子どもの弁当も、嫁の頑固な下着汚れの手洗い洗濯も、トイレ掃除もおしめ交換もジジババの世話もゴキブリ退治もワイがやればええんやろ?」
「だから、妄想が激しすぎるからw」
「カナが料理番のときは、セブンイレブン様で買ってきてチンしてくれれば十分やから」
「私、調理師免許持ってるんだよ。包丁さばきとかすごいんだから!」
「ほな、きゅうりの細切りやってみ?」
「得意中の得意よ! トントントントン」
 女はエアによる、きゅうりの細切りを始めた。
「そんなのアカンやん。ワイの見てみ。トントントントントントントントン!」
「エアだけど、すっごーいw それにしてもさっきから私のイメージ随分悪いけど、結構真面目だからね!」
「しんど。この、かなわんなぁ。真面目って意味わかってはる?」
「わかってるよw」
「そうなん? ほんなら、チャットGPT先生に質問してみよっか。目の前で見てるから。ガチで読んでもらって、それでも撤回せえへんなら専門家にたのも。ワイがついたったるさかい」
「いやだよw」
「んで、病院でMRI撮んねん。『頭にぷるんぷるんのタピオカがぎっちぎちに詰まってます。パインやマンゴーもちらほらあります。一億人に一人の奇病です。お大事に~』って言われんねん。せやから、治療言うて、ワイがそのタピオカをストローでちゅうちゅう吸うたったるから」
「気持ち悪いからやめてよw」
 ガリさんはポケットから何かを取り出した。
「なにそれ!?」
「禁煙パイポや」
「だから、昭和かよw それにしても、ガリピバ先生にそっくりだね。私、そのカピバラ顔嫌いじゃないよ」
「ぐお! ワイ、絶対誘惑されてるやん。カナにそないなカマかけられたらその気になるし妄想が止まらなくなるやん。ここまでたぶらかされたら、ちょっかい出すスピードが増すけど心の準備はOK?」
「一瞬、目つきが変わってゾクっとしたw」
「千住観音に変身するかもしれへんで~」
「ちょっと、なに言ってるのかよくわからないんだけどw」
「でも、カナはノリがええから話しててホンマ楽しいわ。性格の良さが滲み出てるその笑顔が好きやねん。絶対、友達多そうや」
「ありがとう。そう言ってくれると素直にうれしい。意外に人を見る目はあるじゃん」
「せやけど、助平すけべ男やねん。残念ながら助平男やねん。千住観音助平男やねん」
「だから、ちょっとなに言ってるのかよくわからないんだけどw」
「ま、手始めに、今はどないしてちょっかい出そうかと頭フル回転やし」
「手、出すの早すぎでしょw」
「よう言われんねん。ちゃらんぽらんの助平星人って言われんねん。せやけど、ここまで潔けりゃあ天晴あっぱれやとテレビでも賞賛されててなぁ」
「んなわけないじゃん。ガリ棒エロい~」
「今日はカナに忖度して、接吻せっぷんまでで我慢するわ」
「勝手な忖度はやめてよw」
「せやけど、ちょっかい出すって明言されると心拍数あがらへん?」
「まあねw」
「瞬きが多くなってるやん」と言いながら身体を近づけた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっw」
「しんど。カマトトぶってるやん」と言うと、右手でおでこにツッコミを入れた。
「そんなことないってw」
「変な汗かいてるやん」と言いながら手を握っている。
「やめてってw」
「ほんならさ。あっこ見てみ」
「えっ、なんで?」
「ええからええから。秘密の方が楽しいやろ」
「なによそれw」
 ガリさんは後ろからふわりと包むように抱きしめた。
「きゃっ」
「どやねん? 心臓キュッってならへんか?」
「若干w」
「せやろ。それは、ワイのことを異性として意識してるから心臓がキュッってなるねんで。おおきに。ほな、これからデートしながら、タイミング見計らって合間合間にこういうの挟み込んでいくさかいよろしゅうたのんますわ」
 と言うと、ウインクを繰り出した。
「キモw でも、よく面倒臭い人って言われるでしょ?」
「……せやな。残念ながらしょっちゅう言われんねん。言われ慣れてんねん。安心しいや」
「別に心配してないからw でも、メル友になったとして、なにして遊ぶのよ?」
「あちゃ~、真っ白やわ。さすがカナは賢いや。とりあえず、LINEで連絡先を交換せな」
「メールじゃないんだw」
「で、飯でも食べようや」
「ごめん……、これからお母さんと映画を観にいくの」
「妙案思いついたで」
「なになに?」
「時間ないなら気合い入れるから、マッハで口説いてええやろか?」
「どういうこと?w」
「せやなぁ」
 突然ピアスに触れ、耳に近づくと「これ、ええな。それに、肌がめっちゃきめ細かいやん」と囁いた。
「どう? ちょっとは心拍数あがったやろか?」
「えっw」
 ガリさんは女の反応を見ている。女は笑顔を絶やさない。するとすぐさま、胸元のネックレスを手に取り、「ワイ、こういうの好きや。おまけにカナの鎖骨、ごっつ色気あるやん」と囁いた。
「心拍数ごっつあがってきたやろ?」
「キショw」
 ガリさんは顔を近づけた。
「近い近い近いw」
「うわっ、唇の下にホクロあるやん。セクシーボクロやん。今日寝るまでに、カナと接吻しないと死んでまうわぁ」
「絶対病気だよw」
「了解了解。そのリアクションでその表情ならばOKなのは知ってまんがな。おおきに。すでにさっきから、ワイの気持ちが小躍りしていてルンルンキュンキュンやで。ちょっくら、あっこ行こ」
「え、なになに」
「えーから、あっこあっこ」
 人通りのない薄暗いところに入っていった。あれ、ガリさん。何してるのかな……。
 女が、「えっ……」という声を漏らしながら考えている最中に、ガリさんは顔を近づけて唇に触れる寸前で離れた。
「寸止めが一番ええねん、寸止めが。焦らされれば燃えるやろ?」
「真正のバカでしょw」
「燃えない接吻なんてちっとも楽しくないねん。せやから、焦らしてやらんともったいないねん。もったいないお化けが化けて出てくるんやから」
「なによそれw」
「上、向いてみ」
 次の瞬間、ガリさんは女の唇を奪っていた。
 えっ……。会って、5分しか経ってないのに……。と思っていたらガリさんと目があってしまい、すぐに逸らして振り返り、ただ前方へ向けて歩き続けた。すると、乳ローが口を開いた。
「ガリという人間は、普通三回会わないと縮めることができない距離感を、驚くほど短時間で縮めることができるんだよ。持ってる感覚が常人とは違うんだ」
 確かに。何か酔わすフェロモンを感じるんだよな。
「その感覚を持っている人間は、ナンパ師として大成する。しかし、ごく一部の人間に限られる。ガリはそのごく一部の人間の中でも断トツなんだよ。千人以上のナンパ師を見てきたこの俺が言うんだから説得力があるだろ?」
「ですね……」
「この俺様が、ナンバー2に甘んじているのもそれが理由だ。その能力があるから、ガリの親父についてってんだよ」
『ほんっとガリさんはすごい人ですね』と言おうとした矢先、「あれ見てたらナンパしたくなった。また、巡回行ってくるわ。じゃ、頑張ってグリーン地蔵ちゃん」と言われてしまい、何一つ言葉を発せず乳ローの背中を見送った。
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