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7章 性欲の中心には魔物が棲んでんねん

7-11 乳ロー先生の講義7【㉙はっきりとストレートに伝えることが大事】

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「かわいいね」
「ええやろ。三ヶ月前から子猫を飼ってんねん」
 ねじがスマホで撮った写真を二人で眺めているようだ。
「二匹の子猫がじゃれ合ってるね」
「せやな。キス寸前に見えるやろ。この猫のように身体を預けてチューしたことってあらへんか?」
「なくはないかなぁ。っていうか、なんで関西弁なの?」
「酔ってるかもしれへんな……。そんなのどうでもええねん。初々しいチューってええよね?」
「そうだねぇ」
「ほんなら、ここでクイズや」
「いいよいいよ」
「一度したら、なかなか離れないキスは何やと思う? 僕とキスすると一生離れられなくなるよ」
「ほんとにバカじゃないの。それに、ホッチキスでしょ」
「さすがヒナ。ほんなら、もう一問」
「うん」
「『キスをしろ』と言われるイベントは何やと思う?」
「またキスのクイズなの」と言うと、お腹を抱えて笑い出して前のめりになった。
「どんだけ欲求不満なのよ」
「ちゃうちゃう。ヒナを見てると、キス以外に何にも浮かんでこんのや」
「病院に行ったほうがいいんじゃない」
「ヒナがキスしてくれれば一発で治るよ」
「ムリムリ」と返答すると、ねじは写真を見ながら口を開いた。
「この猫は微かに目を開けているやろ。チューのときは目を閉じる?」
「えー、覚えてないよぉ」
「ほんなら、今、やってみ」
 一瞬やるそぶりを見せたが、「恥ずかしくてできないよ」と言った。
「僕がやるから見ててよ」
 恥ずかしげもなくエアキスを始めた。女は呆れながら「やっぱり、バカでしょ」と言った。
「ひどい女や。僕がやったんだから今度はヒナの番だよ」
「えー」と言うと、一瞬目を瞑ってエアキスをした。
「可愛い唇してるから興奮したよ」
 ねじは腰に回した左手で自分の方に引き寄せると身体にもたれかかったので、そのままキスしようとしたが、「いやぁ」と言われ背かれている。ねじは「かなわんなぁ」と漏らしたが、すぐさま女を抱きしめた。
「ちょっと、ちょっとぉ……」
「ハグやん、ハグ。外国なら普通やないか」
「軽くない?」
「軽くない軽くない」
 ねじは再び抱きしめた。
「せやけど、ホンマ、ハグって愛情を感じる行為やと思わへん?」
「別に。今のはなんか、スケベに感じたよ」
「ちゃうわー。ほら、全然スケベじゃないやん?」
 ねじは包み込むように優しく抱きしめた。
「やっぱり、スケベだよ」「助平?」「底抜けにスケベ」「ホンマ?」「間違いない」「かなわんわ。ヒナがエロいんだよ。抱きしめるだけでそう思うってことは」
「訳わかんない。何でそうなるの」
「しんど。ヒナは、ごっつウブやな」
 女は、ねじをくぐって離れた。
「やだー、絶対遊んでるでしょ。慣れてるもん」
「ホンマ、すぐムキになって怒るところも可愛いなぁ」
「何、言ってるのよ。いやぁ。ちょっと手を握らないでよ。怖い怖い。これ以上、距離を詰めないでくれますか? そういうことするなら撤収しよっかな」
「撤収ってw」
 ねじはそう切り返したが、女の表情からは笑顔が消え失せて笑窪もなくなっていた。

「乳ローさん。ねじさんはキスの話ばかりしてましたね……」
「あれは女のキスの経験を思い出させ、その時の体感を想像させるためにやってるんだ」
「その気にさせることは大事ということですね。それと、突然、抱きしめましたね」
 ガリさんのクリームソーダの氷を勝手に指でつまんでは口に含み、すぐに噛み砕くと乳ローは喋り始めた。
「男と女の間に突然なんて言葉は存在しねぇんだよ。その女とヤリタイならば、難しいことは考えないでストレートに『ヤリタイ』って言っちゃえばいいんだよ。実際、それでヤレることもあるしね。わかったか、このつるっパゲ」
 いや、別にズルむけてないし……。
「はっきりとストレートに伝えることが大事なんだぜ。グズグズしていたり何を考えて誘ってきたのかよくわからない男はキモがられるんだよ。結果の出ない奴は、へりくだって女中心に考えてしまい、自分のしたいことをちゃんと伝えていないことが多い。相手にわかりやすくアピールするってことは大切なことなんだぜ」
 いつも相手の顔色を伺いすぎてアピール不足の俺は、猛省以外に言葉が浮かんでこなかった。
「乳ローの言う通り。ちょびっと強引でストレートに攻める図々しい男は強いねん。ちょっとでもええから身に着けるんやで」
「わかりました……」
「グリーンの場合は、ストレートに土下座すればいいんじゃね。土下座まですればやらしてくれる女はいると思うぜ」
 ドドド、土下座!?
「乳ローの言うことを全肯定はできないが、笑い混じりでオーバーにやれば面白いし効果的かもしれへんで」
「ガリさんまで……、検討してみます……。ところで、ねじさん。関西弁を喋り始めましたね」
「ギアを上げたようやな」
「でも、何だか雲行きが怪しくなってきたしダメそうな感じがしますが……」
「バカ。ちょっとグダられたからといって簡単に引き下がっていたら話にならねぇし、ナンパ師の名がすたるってもんだ。グダなんて当たり前だからな。グダられてからどのように解放するかで、そのナンパ師のレベルが決まるしそこが腕の見せどころなんだぜ」
「そうなんすか……、わかりました……。ところで、グダって何ですか?」
「エッチ寸前で躊躇ためらったり拒むことを『グダ』という。ほんで、そのグダを説得することを『解放トーク』という。女は様々な理由でグダる。まずは女のグダる理由を解明すること。次にその理由を解放トークで解きほぐしていくんだよ」
「グダって、例えばどういうのがあるんですか?」
「初めて会った日だからグダ、付き合っていないからグダ、実は彼氏がいるからグダ、生理だからグダ、場所がイヤだからグダ、など数多くある」
「『初めて会った日だからグダ』の場合は、どういうふうに解放トークをするのですか?」
「『ま、いっか』と思わせる言い訳物語を作り、ヒロインにその女を当てはめて感情を誘導させればいい。男はヴィジュアルを求めるのに対し、女はストーリーを求めるんだぜ」
「いやいやいや……、そんな物語を作れるんですか?」
「ああ。まず、『初めて会ったその日にセックスすることは悪いことではない。それよりも、今日出会えた奇跡に感謝しようぜ』と伝える。次に、『女扱いの上手な男と付き合うと男の性欲の構造が少しずつわかってくるから、その後の恋愛や結婚がうまくいく』と話し、『それを知らずに結婚すると、失敗したり離婚する可能性が高まる』と説明する。最後に、『セックスは身体が馴染なじんでくると、色っぽさが滲み出てきてモテまくるからからメリットしかないんだぜ』と説得する。という構成で前半からそういうトークをちょいちょい入れて展開させていき、最終的に俺と一緒にいると面白いだけでなく新たな世界に触れられそうだと思い込ませればいいんだよ」
 超トップレベルじゃないと絶対うまくいかないような……。
「んー、ちょっと気になることが。って何ですか?」
「えっと……。ガリの受け売りだから、詳細は知らん。ガリ、ちゃんと俺に教えといてくれよ。恥をかいたじゃないか」
「何言うてんねん。『つまらん話はいいわ』って断ったのはお前やろ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
「じゃ、今、聞いてやるから教えろ」
「ったくもう……。男の人生をゼロから説明せなあかんから話が長くなってしまうが、乳ロー絶対に眠るんじゃないぞ?」
「もったいぶるなよ! ガリの説教をちゃんと聞いてやるからさ」
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