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3章 地蔵してんじゃねぇよ!
3-3 「出会いっちゅうのは時に時間を超えるんや」【④声かけとは】
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「乳ロー、もうちょいおなごを選べや。あまりにも強めだと意味ねぇやろ。暇そうにしてるゆっくり歩いてる娘とかを見つけて指名してやれよ」
「ったく、しょうがねぇなぁ。じゃ、あの」
「待て待て待て、ちょい休憩」
「あっ? どうしたガリ」
「あそこにナンパ師がいんねん。とりあえずPARCOまで走るで。グリーンにはまだまだ教えなきゃあかんことが山ほどあるからな」
ガリさんはやや駆け足で坂を登っていった。俺と乳ローは置いてけぼりを食ったことによって、一瞬目を合わせる。すぐさま、俺たちは慌てて追いかけた。
PARCOに着くと、ガリさんは「あれあれ」と言いながら、二人組の男性を指さした。
「彼らは二人ともバッグを持ってるやろ」
一人は小さ目なショルダーバッグを、もう一人はトートバッグを持っている。
「手ぶらで声をかけると不信がられるから彼らはバッグを持ってんねん。ナンパで信用も不信もないやろって思うかもしれへんが、ファーストコンタクトで警戒心を持たれたら不利になるだけやからな」
「確かに」
「ギターケースやカメラでも持ってみ。ミュージシャンやカメラマンだと勘違いされて反応がええんやから。面倒臭いなら携帯でもかまわん。『YОUTUBEの撮影なのですが、全然再生数が上がらなくて……。協力してもらえませんか?』と声かけすればええねん。非日常感を演出できるところがポイントなんやで」
ガリさんの身体全体を見渡した。
「えっ。じゃ、なんでガリさんは手ぶらなんですか」
「バッグを持ち歩くのが面倒臭いし、フットワークが鈍くなるのが嫌やから持たないねん」
指を甘噛みしながら、バッグを持つべきか持たざるべきか迷い込んでしまった。それを見ていたガリさんは、皺を寄せていた眉間を弛ませながら喋り始めた。
「最初のうちは、基本を学んで色々試していくしかないねん。続けていけば、どういうスタイルが自分に合うかわかってくる。人間、十人十色、千差万別やから、誰かがええというたってそれが自分に合うかどうかはわからへん。自分のスタイルっちゅうのは、自分の心と対峙して試行錯誤を重ねる中でしか生まれないものやからせいぜい精進しな。ほな、今度はあっち見てみ」
「え、どれですか、ガリさん」
「あれあれ。あのサラリーマンスーツを着ている男や。今、声をかけるところだからさ」
ガリさんの示す方向を見ると、待ち合わせらしき女性に声をかけている。
「待ち合わせってうまくいくんですか? 彼氏が来たらヤバくないですか?」
「どうして彼氏が来るとわかるんや。彼氏じゃないかもしれないやろ。友達かもしれないし、仕事場の同僚かもしれない。もしくは、ただ暇を持て余せているだけかもしれない。それを確かめるためには声をかけてみなくちゃわからんやろ」
「え、あ、い、う……。た、確かに、そうですね」
しどろもどろになってしまい、あ行を全て言いそうになってしまった。
「せやけど、『そこ』がナンパの面白い点であり、不思議なところでもあるんやで。つまり何が言いたいのかというと、声をかけてみなくちゃわからないってことや。これからナンパを続けるうえで一番大事なことやからよう覚えとき」
こくりと頷くと、話を続けた。
「さっき、『暇そうにしてるゆっくり歩いている娘を指名してやれよ』と言うたやろ。確かに、急いでいる娘よりはゆっくり歩いている娘の方がうまくいく可能性が高い。せやけど、急いでいてもうまくいく場合はある。逆に、ゆっくり歩いていてもうまくいかへんことは当然ある。つまり、ナンパというものは確率論だけで考えてはあかんっちゅうことなんや。ともかく、まずは声をかけてみることが大切なんやで」
「でも、本当に彼氏だった場合はどうするんですか」
「彼氏と鉢合わせになるのが怖いなら、単刀直入『彼氏と待ち合わせですか』と尋ねればええねん。そもそも待ち合わせの場合、世間話から入って、さりげなく誰と、いつ、どこで待ち合わせなのか確認することが肝心なんやで。十分後に友達が来るとしても連絡先交換ならば三分もあればできるんやから」
「でも、時間が短すぎないですか」
「出会いっちゅうのは、時に時間を超えるんや。せやから、短くても関係ない」
出会い。
その言葉に思いを馳せると、心の奥を時がくすぐり、過去も未来も今も消え去り、今俺が存在する世界とは異なる世界に漂う感覚に陥った。
ふと、ガリさんとのこの出会いも、時を超えた出会いなのだろうかと思ってしまった。
これ以上思いを馳せると戻れないような気がしたので、左手首にはめている腕時計の緩やかに動く秒針を見つめて必死に時を取り戻す。
「出会いってやつはどこに転がっているのか、ホンマにわからへん。せやから、その出会いを掴み取るために声をかけ続けてるんや。声をかけなきゃ何にも始まらないんやで」
ナンパなんてただ軽薄なだけかと思っていたけど、随分奥が深いんだなと感じた。
「ったく、しょうがねぇなぁ。じゃ、あの」
「待て待て待て、ちょい休憩」
「あっ? どうしたガリ」
「あそこにナンパ師がいんねん。とりあえずPARCOまで走るで。グリーンにはまだまだ教えなきゃあかんことが山ほどあるからな」
ガリさんはやや駆け足で坂を登っていった。俺と乳ローは置いてけぼりを食ったことによって、一瞬目を合わせる。すぐさま、俺たちは慌てて追いかけた。
PARCOに着くと、ガリさんは「あれあれ」と言いながら、二人組の男性を指さした。
「彼らは二人ともバッグを持ってるやろ」
一人は小さ目なショルダーバッグを、もう一人はトートバッグを持っている。
「手ぶらで声をかけると不信がられるから彼らはバッグを持ってんねん。ナンパで信用も不信もないやろって思うかもしれへんが、ファーストコンタクトで警戒心を持たれたら不利になるだけやからな」
「確かに」
「ギターケースやカメラでも持ってみ。ミュージシャンやカメラマンだと勘違いされて反応がええんやから。面倒臭いなら携帯でもかまわん。『YОUTUBEの撮影なのですが、全然再生数が上がらなくて……。協力してもらえませんか?』と声かけすればええねん。非日常感を演出できるところがポイントなんやで」
ガリさんの身体全体を見渡した。
「えっ。じゃ、なんでガリさんは手ぶらなんですか」
「バッグを持ち歩くのが面倒臭いし、フットワークが鈍くなるのが嫌やから持たないねん」
指を甘噛みしながら、バッグを持つべきか持たざるべきか迷い込んでしまった。それを見ていたガリさんは、皺を寄せていた眉間を弛ませながら喋り始めた。
「最初のうちは、基本を学んで色々試していくしかないねん。続けていけば、どういうスタイルが自分に合うかわかってくる。人間、十人十色、千差万別やから、誰かがええというたってそれが自分に合うかどうかはわからへん。自分のスタイルっちゅうのは、自分の心と対峙して試行錯誤を重ねる中でしか生まれないものやからせいぜい精進しな。ほな、今度はあっち見てみ」
「え、どれですか、ガリさん」
「あれあれ。あのサラリーマンスーツを着ている男や。今、声をかけるところだからさ」
ガリさんの示す方向を見ると、待ち合わせらしき女性に声をかけている。
「待ち合わせってうまくいくんですか? 彼氏が来たらヤバくないですか?」
「どうして彼氏が来るとわかるんや。彼氏じゃないかもしれないやろ。友達かもしれないし、仕事場の同僚かもしれない。もしくは、ただ暇を持て余せているだけかもしれない。それを確かめるためには声をかけてみなくちゃわからんやろ」
「え、あ、い、う……。た、確かに、そうですね」
しどろもどろになってしまい、あ行を全て言いそうになってしまった。
「せやけど、『そこ』がナンパの面白い点であり、不思議なところでもあるんやで。つまり何が言いたいのかというと、声をかけてみなくちゃわからないってことや。これからナンパを続けるうえで一番大事なことやからよう覚えとき」
こくりと頷くと、話を続けた。
「さっき、『暇そうにしてるゆっくり歩いている娘を指名してやれよ』と言うたやろ。確かに、急いでいる娘よりはゆっくり歩いている娘の方がうまくいく可能性が高い。せやけど、急いでいてもうまくいく場合はある。逆に、ゆっくり歩いていてもうまくいかへんことは当然ある。つまり、ナンパというものは確率論だけで考えてはあかんっちゅうことなんや。ともかく、まずは声をかけてみることが大切なんやで」
「でも、本当に彼氏だった場合はどうするんですか」
「彼氏と鉢合わせになるのが怖いなら、単刀直入『彼氏と待ち合わせですか』と尋ねればええねん。そもそも待ち合わせの場合、世間話から入って、さりげなく誰と、いつ、どこで待ち合わせなのか確認することが肝心なんやで。十分後に友達が来るとしても連絡先交換ならば三分もあればできるんやから」
「でも、時間が短すぎないですか」
「出会いっちゅうのは、時に時間を超えるんや。せやから、短くても関係ない」
出会い。
その言葉に思いを馳せると、心の奥を時がくすぐり、過去も未来も今も消え去り、今俺が存在する世界とは異なる世界に漂う感覚に陥った。
ふと、ガリさんとのこの出会いも、時を超えた出会いなのだろうかと思ってしまった。
これ以上思いを馳せると戻れないような気がしたので、左手首にはめている腕時計の緩やかに動く秒針を見つめて必死に時を取り戻す。
「出会いってやつはどこに転がっているのか、ホンマにわからへん。せやから、その出会いを掴み取るために声をかけ続けてるんや。声をかけなきゃ何にも始まらないんやで」
ナンパなんてただ軽薄なだけかと思っていたけど、随分奥が深いんだなと感じた。
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