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7章 性欲の中心には魔物が棲んでんねん

7-14 乳ロー先生の講義9【㉛言霊】

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「なんで私に声をかけたの?」
「ヒナの顔が、ごっつタイプやからに決まってるやろ。可愛いけど綺麗なんて最高やん」
「外見なんだ(笑)」
「もちろん。声をかける前から性格なんてわからへんがな。せやけど、これは一目惚れかもしれへんな。初めてなんやこういうの」
「嘘ばっか」
「しかも、ヒナはノリがいいし、明るい性格も最高やし」
「褒め殺しじゃん。急にどうしちゃったの?」
「ホンマやって。まっさらな僕の気持ちやねん。ほんなら、僕のことはどう思う?」
「えー、かっこいいとは思うけど」
「こうやって二人だけでいて心地良いと感じられる関係性ってええよね? そういう関係性はどう思う? 好き?」
「いいと思う。好きよ」
「僕のことは好き?」
「えー。まだ、よくわからないよぉ」
「ヒナの目はめっちゃ綺麗やね。その猫のような目が好きやねん。僕の目はどう?」
「左目しか見えないけどミステリアスで好きよ」
「僕の目が好きということは、僕のことを好きと言うてるのと同じやと思うけど」
「なんでそうなるのかよくわかんないんだけど」と言うと、「プッ」と噴き出した。
「もう一度、僕の目が好きと言うてみ」
「なんで? その目、好きよ」
「ほんなら、今度は嘘でもええから僕のことを好きと言うてみ」
「なんでよ」
「ええやん。試しに言うてみ」
「えー」
 顔を伏せながら、「好きよ」と呟いた。
「やっぱ僕のことが好きなんや。そんなに好き好き言われたら舞い上がっちゃって安心して手を出すよ」
「何を言ってるのよ。言わせたんでしょ」
「僕らごっつ馬が合うから、エッチしたらなかなか終わらんやろね」
「バカじゃないの(笑)」
「なあなあセックスしよ。二人で脱いだら恥ずかしくないやん。二分で終わるから。な、やろう!」
「最低!」と一喝し、笑顔で「しないしないしない」と言いながら、首を左右に何度も振った。

 乳ローがタコの干物をちぎりながら口を開いた。
「人間というのはな、言葉に表して伝えると本当にそう思ってくる生き物なんだ。何度も好きと言ってると段々好きになってくるんだぜ。さっきも言っただろ? 言霊ってやつだ」
「なるほど」
「だから、今のねじのように『好き』と言わせるような質問をトークの合間合間に挿入して、実際に『好き』と言わせることがポイントだ。他にも、『イケメン、かっこいい、いかつい、タイプ』など、男としてどのように思われているのか具体的に発言させた方がいい。自分に対する印象を言葉に表して言ってもらうと、二人の関係性が濃くなるんだぜ」
「であるならば、女性に対する好意や評価のセリフも放った方が効果的なんですよね?」
「そうだ。『好き、可愛い、綺麗、好み、はまりそう~』など、ガンガン言えばいい。やはり、ちゃんと言葉に表して伝えることは大事なことなんだ。日本人には以心伝心の精神があるから〝あえて〟言わない日本男児も多いけど、女のためにもわかりやすく伝えるべきなんだぜ」
 ガリさんも乳ローと同じくタコの干物を頬張っている。
「にしても、色恋というのはナンパ師によって様々な考え方があるもんなぁ」
 乳ローがぼそっと呟いた。「それにしてもここの乾き物はうめぇな」「だろ」というやり取りの後に、「色恋というのは何ですか?」といてみた。
「色恋というのは、夜の世界で『恋愛感情を持ったように見せた、お客との駆け引き』という意味で使われるが、ナンパの世界でも近い意味で使われている」
「ん……、具体的に教えて頂けませんでしょうか?」
「おう。ナンパ師においての色恋とは、『好きだ』『付き合おう』というセリフが代表的。『好きだというセリフは、相手に対して好意を伝えること』を意味する。女をその気にさせてしまう言葉だからこそ星の数ほど言っても構わないが、女を勘違いさせる側面もあるのでグレーゾーン。一方、『付き合おうというセリフは、好意を示した上でこれから先の関係性を約束すること』を意味する。これは、付き合う気がないならば、ヤルためだけについた嘘なので修羅場を迎えることもあるし、時には鬼畜と思われ『最低』と言われることもあるだろう。初歩的だが、でも効くんだぜ。ゲス不倫男の常套トークも同じ構造だ。『妻と別れる予定なんだ』と伝え、付き合うという約束をチラつかせて気を引くんだから」
「なるほど……。じゃ、もしエッチする前に『付き合って』と言われたらどうするんですか? 付き合うという契約を交わさないと、断る女性は結構いそうな気がするのですが……」
「俺様の場合は女を100%発情状態にさせちゃうから、そういうシチュエーションに陥ることはないんだよ」
 うそーん。さすが、ナンバー2……。
「付き合う付き合わないという理性の感情に、『今すぐしたい』という欲望剥き出しの本能で蓋をして閉じてしまえばいいんだ。これらの欲望を消化しないとこの蓋は開かないから、これができるようになるとセックスの後に『付き合おう』と言われるようになるんだぜ」
 次元が違いすぎる……。
「だから、女を極限のエロ状態にさせるために何が必要で何が不必要なのかを考えなくてはいけねぇんだよ。不必要な言動や行動やマインドを抹消して、必要な下ネタトークやボディタッチや展開構成力を最大限向上させないと俺様のようにはなれねぇんだぜ」
「確かにそうかも……」
「ま、ナンパ師というのはゲスい人種なのでたくさんのグレーゾーンを使いこなす。例えば、保留という方法がある。『付き合おう』と言われた後に、『考えとく』と伝えて返答を後延ばしにするやり方だ」
「まさしくグレーゾーンですね……」
「他にも、『過去にクソビッチに浮気されたことがあってさ……。そいつの家で間男まおとこと鉢合わせしてショックを受けたことがあるんだよ……。だから、マジで心を許せる女じゃないと付き合いたくないんだ。すげぇ好みだから声をかけたけど、今はもっとお互いが深くわかりあえることが大切だし、もう少し時間が必要だと思うんだ。勢いで付き合って、瞬殺で別れるのはもうこりごりだから』と伝えてセフレのような関係性を続けたりする方法もある。この前ねじに教えてやったから、そろそろ繰り出すんじゃねぇかな」
 ゲスを通り越してクズな気がしなくもないが……。
 ガリさんを見ると、手先が震えていた。そろそろ雷が落ちそうな……。
「やはり、『付き合おう』というセリフは重いし、強力な口説き文句なんですね」
「まぁ、そういうことだな」
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