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1巻
1-1
第一章 雑魚スキルだったので追い出されました
「女くせえ!」
高校二年生の修学旅行。
行きのバスの中、クラスメイトが俺――新庄麗夜を見て、不機嫌そうな顔をした。
俺の座席は、逃げ場のない通路の補助椅子。晒し者だ。
もちろん先生は注意しない。そういうキャラだと思っているのだろう。
顔が女っぽいという理由で、俺は中学時代からいじめを受けている。
ある意味、慣れていた。だからもう気にしない。
学ランの下に着たパーカーを被る。顔を隠し、耳を塞ぐために。いつもの癖だ。
そんな時、突然、目が眩むほど足元が光った!
「な、なんだ?」
周りのクラスメイトの足元も光っている。突然の事態に俺と同じく固まるばかり。
「どうした!」
先生は大慌てだ。皆の足元を見て顔を歪めている。
先生の足元は何事も無い。その間にも光は強くなっていき、魔法陣を描く。
「まさか、異世界転移?」
俺が呟いた瞬間、体は床が抜けたように、光の中へ落ちた。
「――ようこそ! 勇者たち!」
誰かの声で意識がハッキリする。目を開けると、分かりやすい王様が歓迎していた。
「予想通りだけど……面倒だ」
金髪に豪華なマントに黄金の冠。こんな王様が本当に居るとは思わなかった。
そして周りを見渡すと、俺たちはコロシアムの場所のど真ん中にいた。騎士が武器を構えて取り囲んでいる。警備は厳重、歯向かったら殺されそうだ。
仕方がないので、王様の話に耳を傾ける。
「世界は魔王が率いる魔軍の脅威に晒されている! どうか我らを救って欲しい!」
王様は長々と、異世界の歴史と事情を説明する。その内容は退屈を極めた!
大陸を統一した先祖の話なんてしなくていいし、お前の代で没落したなんてどうでも良い。
つーかお前、勇者が魔王を倒したら、その功績で皇帝継承権を主張する腹積もりか。
一国の王に満足せず、複数の王を統べる、王の中の王を望むとは、強欲としか言えない。
見かけ通り、癇に障る王様だ。止めとばかりにコロシアムの砂埃が目を傷めつけ、じりじりと太陽が肌を焼く。
「炎天下の中、怪我人を立たせたまま、一時間演説した馬鹿将校が昔、日本軍にも居たっけ?」
滲む汗を袖で拭う。気温が高い気がする。しかし湿気は少ない。
こんな状況でなければ、リゾート地に来たような気分になれそうだ。
王様の話は端的に言えば、最近古の古代文字を解読して勇者の召喚魔法を知りました。
半信半疑で試してみたら君たちを召喚できました。
私たちのために戦ってください。報酬は弾みます。
「ここまでは予想通りだ。だが実際言われると、頭が痛くなるね!」
どう考えても鉄砲玉です。今時のやくざでもやらない。
しかも拉致っておいて、自分たちのために戦え?
さすが異世界、見た目が中世でも発想は異世界、理解に苦しむね!
「戦うなんて俺たちには無理だ!」
クラス委員長の大山がもっともなことを言う。
珍しく同意できる意見だが、でもどうせ戦うことになる。俺は知っている。
何せ、どうやったら元の世界に戻れるか? 召喚した本人も分かっていない。
「案ずるな! お前たちには神からの贈り物、ユニークスキルがある!」
どっかに控えていた召使いたちが巻物を運んできた。渡された巻物は西洋の羊皮紙に似ている。
「ステータスオープン、と唱えよ。それでどれほど強いか分かる」
定番だな。今さらながら日本語が通じていることに驚いたけど、召喚魔法があるんだから些細な問題だろう。
そもそも論だが、「日本語が通じないので言語を一から勉強してください」って言われたら、間違いなく「お前らが勝手にやれ!」とキレる。少なくとも、俺は絶対に勉強しない。
「ステータスオープン!」
そんなことを思っている間に、周りは次々と呪文を唱える。
順応するのが早いなと思ったが、文句を言っても始まらない。今は状況に流されるしかない。
「ステータスオープン!」
俺も呪文を唱える。
鼓動は、いやが上にも高鳴る。正直、この瞬間だけはワクワクしてしまった。
今まで冴えない人生だった。いじめられてばかりの最悪な日常だった。
ここでもし、最強のチートスキルを手に入れたら?
クラスメイトを見返すことができる! いじめたことを後悔させてやる!
そしてステータスを見ると、言葉を失った。
「やっべ! 魔力無限だ! べた過ぎる~! 逆に弱くねえか!」
「美の女神ですって! 魅了スキルの最上位ってヤバくない? まあ私なら当然だけど!」
「レベル500からスタートか! まいったな~、俺TUEEEは好きじゃねーんだよな~!」
「スキル名が天才? 獲得経験値×10万! 何だこれ! 小学生が考えたゲームか!」
クラスメイトは、ステータスが分かると興奮したように大笑いを始める。会話の端々から、最強に相応しいスキルだと分かる。
自分が最強だと分かれば安心できる。だから場の空気は一気に弛緩する。
「へたれ! てめえはどんな能力だ!」
巻物を奪い取られる。でも俺は動けない。
表示されたレベルは1。
獲得したスキル名は、『優しい声』。効果は、「あらゆるモンスターと会話できる」とのこと。
「なんだこれ! 馬鹿じゃねえの! 戦う相手と会話してどうすんだ! 頭お花畑か!」
「雑魚! ゴミ過ぎる!」
クラスメイトは大笑いする。気持ちは分かるさ。俺だって泣きたくなる。
モンスターと会話できて何の役に立つ? これが神様からの贈り物? 俺に死ねって言うのか!
「勇者のくせになんてクソなステータスだ!」
突如、王様がブチ切れて怒鳴り声を上げる。
「新庄麗夜! お前は勇者ではない! さっさとワシの前から消えろ!」
王様の言葉で兵士たちが槍を構え、俺に突きつける。
兵士たちはマジで俺を殺すつもりだ。殺気がいじめっ子たちの比ではない。ここでぐちゃぐちゃ言えば即処刑だろう。
「分かりました」
両手を上げてコロシアムの出入り口まで後ずさる。下手に刺激したくない。
「じゃあな雑魚!」
「へたれが居なくなって清々したぜ!」
「お前の分まで幸せになってやるからよ! 遠慮なく野垂れ死ね!」
コロシアムは爆笑の渦だった。誰も俺を引き止めない。
「出て行け!」
王様は顔を真っ赤にして怒鳴るだけ。
後ずさりしながら、ヘラヘラと逃げるしかなかった。
悔しかったが、痛いのはもっと嫌だった。
そしてコロシアムの外まで逃げると、ガコン! と鉄門が閉じて、入れなくなった。
「一人ぼっち! でもあいつらの傍に居るよりずっといい!」
グッと背伸びをする。背骨がゴキゴキ鳴って気持ちいい。暑苦しいパーカーを脱ぐと風が気持ちいい!
「くよくよしてもしょうがねえ! あいつらが居ないってだけでも最高! 魔王も倒さなくて良し! なら気ままに楽しんでやるさ!」
金もレベルもチートも無い状態で異世界に放り出された。いきなり状況は絶望的だが、腐ってる訳にもいかない。強がりでも胸張って生きる!
何より! いじめられない! 新生活を! 楽しみたい!
「まずはこの町を調べてみるか」
無理やりでもテンションが上がったのでさっそく町を探索する。
衣食住を揃えるためにもまずは情報だ。
するとすぐに、この世界がとんでもなく物騒なことが分かった。
「皆、剣や槍を装備している。あれは魔法使い? メイス持ち? 日本だったら銃刀法違反だ」
誰も彼も平然と武器を持っていて、それを咎める奴は居ない。その理由もすぐに分かった。
モンスターがうようよ居るからだ。
その証拠に、大通りの肉屋には、オオトカゲの肉やら、オオカミの肉やら、大サソリの肉やらと見たことも無い肉ばかりが並んでいる。
武器屋は剣や鎧だけでなく、魔剣(本物か?)や魔法の杖を売っていた。
「俺が見たアニメや漫画とそっくりだな! 今はそれがありがたいけどな!」
雰囲気からしてファンタジーですって感じだ。魔物から作られた工芸品や食材も山ほどある。
モンスターがすぐそこに居るのなら、物騒になるのも当たり前か。
「とりあえず、定番の冒険者ギルドへ行きますか」
冒険者ギルドは大通りの一番目立つところにあった。周囲の建物と比べると、とてつもなく大きな建物だ。マンションくらいある。
「しかし、スキルも何も無い俺を仲間にする奴なんて居るかな?」
不安で胸いっぱいのまま、でも笑顔でギルドの門を潜った。
「いらっしゃいませ! クエスト完了報告でしたら右手へ! クエスト受注なら左手へ!」
入るとすぐに綺麗な受付のお姉さんが対応してくれた。
「初めてなんですけど」
「はいはい! 分かってます! 見ない顔ですからね! あなたみたいな美人なら一目見ただけで脳裏に焼き付きますから!」
美人だと……。
「俺は男なんですけど?」
「見たことも無い服ですけど、どこから? 理由は聞きません! 訳アリなんでしょ! 冒険者になる奴なんて全員訳ありですから!」
随分とテンションの高い人だ。見た目は美人なのに、喋ると残念な感じだ。
「だから俺は男なんですけど」
「さっそくステータスを見せてください! その後冒険者ギルドへ登録します! なぜステータスが先か? 実はですね! ステータスによって位が決まってしまうんです! 最低は銅級で最高は白銀級! その上に英雄級っていうのがあるんですけどそれは王様しか与えられない特別な位なんでお嬢さんには関係ありませんね! 不平等だと思うでしょ? 分かります! ですがこれは仕方がないことなんです! 白銀級になるとドラゴンと戦うことになります! それに最近は魔軍と名乗る軍勢が現れたので、そちらの討伐クエストに強制参加させられます! つまり最低限の強さが無いとダメなんです! 身の丈に合わない位を得ても死ぬだけです! 以前貴族が金で白銀級になった事件があったんですが、結果は悲惨! ぐっちゃぐっちゃのミンチですよ!」
「はいはい分かりました分かりました! それでですね! 俺は男なんですけど!」
「はいはいはい! ごめんなさいね! 私ったらお喋り大好きで! この前も男性から結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われたんですがすぐに無かったことになりました! このくせどうしたら直りますかね? お嬢さん知らないですか!」
「ステータスですね! どうやってお見せすればいいですか!」
イライラしたので怒鳴る! このままだと話が進まない! もう美人でも何でもいいよ!
「ごめんなさいね! この巻物を持ってステータスオープンって言ってください! 巻物にステータスが表示されるので見せてください!」
「分かりましたステータスオープン!」
うっとうしいのでさっさとステータスを見せる。
「あれれ~? お嬢さん雑魚ですね~これじゃ冒険者ギルドに登録できません! 残念でした!」
「あんた笑いながら言うとか喧嘩売ってんの?」
いくら美人でも、満面の笑みで馬鹿にされるとぶん殴りたくなる。
「ごめんなさいね~! でもこういう性格だから許してちょうだい!」
てへっと可愛らしくぶりっ子する。頭が痛い。
「レベルが低いから登録できないんですね?」
気にしても仕方ないから話を進める。
「はい! 最低でもレベル5は必要です! その理由なんですけど」
「どうやったらレベルは上がりますか!」
ペースに巻き込まれるな! 放っておくとドンドン話が変な方向に行く。
「怒んないでくださいよ~! えーとですね。やっぱりモンスターを倒すのが一番早いです!」
「どうしてモンスターを倒すとレベルが上がるんですか?」
想像通りだったけど、不思議に思ったので質問する。
「モンスターの体には魔素と呼ばれる要素があるんです! これを浴びるとレベルが上がります! 原理として、魔素はこの世界を構成する力の源なんです! つまり魔素を体に蓄えれば力がモリモリ! 強くなれます! でもお嬢さんには関係ありませんね!」
「はいはいありがとうございます!」
つまりRPGですね、分かりました!
「俺は今、日銭が欲しくて困ってる。何か仕事はありませんか?」
「う~ん! フリークエストなら登録していなくても受けることができますよ!」
書類を一枚渡してくれた。
「主に薬草の採取やスライムの体液の採取にダンジョンの鉱石の採取です! 小遣い稼ぎには良いと思いますよ! たくさん取ればその分報酬は増えますし!」
ざっくり計算すると、100グラム1ゴールドで取引だ。1ゴールドの価値が分からないが、文句を言っている暇はない。
「受注したいんですが、どうすれば?」
「フリークエストは受注とかありません! 採取した物を納品すればその都度報酬を払います!」
本当に小遣い稼ぎって感じだ。
「分かりました。どこに行けば採取できますか?」
「スライムなら、城門から100メートル離れたダンジョンに居ます! 大人しいから採取だけなら簡単でしょうね! 垂れ流す体液を掬ってくれば良いだけですから! まあそれだと質が悪いんで、本当なら死骸を持ってきて欲しいんですが、すばしっこいからお嬢さんには無理ですね!」
楽しそうに喋るなこの人は。こっちは必死なのに。
「採取しようと思うので、道具か何か貸してくれるとありがたいんですけど」
「お嬢さん~! 厚かましいですね~! でも良いですよ! フリークエストはやる人が少なくて! 素材が足りないからもっとやって欲しいんですけどね~! 割に合わないのかな~! 私も受けないと思いますけどね~! 命がけなのに1ゴールドとか詐欺詐欺詐欺!」
「ありがとうございます! 早く道具を渡してください!」
「怒らないでよ~! 可愛い顔が台無し! てへぺろで許して!」
ぶりっ子しながら袋を渡してくれた。一発張り倒してやろうか?
「普通の袋ですね~! 驚きですね~! 1キログラムまで入るので、いっぱい取ってきてください!」
「はいもうありがとうございますね」
予想以上にしょぼい贈り物でがっかりするが、仕方ない。今は袋すら買えない状況だ。
「じゃあ、行ってきます」
ため息とともに立ちあがる。
「いってらっしゃい! 死なないでくださいね~! 美人さんが死ぬと皆が悲しんじゃうから!」
受付嬢は最後まで笑顔だった。最後まで俺を女だと勘違いしていた。もう良いけどね!
「スライムの体液を取るために、ダンジョンに潜るか」
いきなりダンジョンに潜るのは危険だ。右も左も分からない状況では自殺行為にしかならない。
しかし俺には、モンスターと会話できるスキルがある。ならば一つの可能性がある。
「モンスターを仲間にできればちょっとは安心だけど、上手くいくかな?」
前途多難と思いつつ、スライムが居ると言われるダンジョンへ向かう。そこは言われた通り、城門を出るとすぐ近くにあった。
「す、廃れてる」
ダンジョンの前に来て驚いたのは滅茶苦茶汚かったことだ。
入り口は洞窟のような感じで、周りは雑木林に囲まれている。道中の地面はぼこぼことうねっていた。
入り口には古びた看板があって、「銅級ダンジョン」と書かれていた。吹けば壊れそうな状態で、何年も人が寄り付いていないと分かる。
「入るか」
不安でいっぱいのまま、ダンジョンへ一歩踏み込む。
「松明持ってくれば良かった」
入るなりため息。中は真っ暗闇で、1メートル先も見えない。
「スライムちゃん! 居ませんか!」
大声で声掛けしてみる。ひょっこり出てきたら嬉しいんだけど。
「こえ? なかま? だれ?」
応えが返って来ちゃったよ!
「姿が見えないからこっちに来てくれ!」
「うん? だれ?」
ヌルヌルヌルと何かが近づいてくる。相当な数が居るぞ!
「だれ?」
十数匹のスライムが現れた!
「俺は新庄麗夜! よろしくね!」
「しんじょうれいや?」
ヌルヌルと足元に十数匹のスライムが集まる。小型犬くらいの大きさで、体は半透明の液体。まさしくスライムだ。
「にんげん?」
「でも、ことばわかるよ?」
スライムたちはいったん離れると作戦会議を始める。おしくらまんじゅうしているようにしか見えない。
「突然だけど君たちの体液が欲しい。分けてくれない?」
「たいえき?」
「君たちが出してるヌルヌルだよ」
スライムたちの通った道は、体液でキラキラ輝いている。
ナメクジやカタツムリのような感じだ。血液のように殺さないと取れないんだったら俺が死ぬところだった。
「あげないといじめる?」
ブルブルとスライムたちが震える。
「そんなことはしないよ! 安心して」
俺は微笑み続ける。さすがに言葉の分かる相手を傷つけたくない。それにレベル1の俺じゃ返り討ちだ。
「あげたほうがいい?」
「いじめないって」
「あげてみる?」
「おなかすいた」
またまたおしくらまんじゅうだ。そして話が纏まったのか、一匹が代表で前に出る。
「おなかすいた。ごはんちょうだい」
口が無いのに喋るっていうのも、考えると変な感じだ。
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