迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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「起きろ」
 足を蹴られた衝撃で飛び起きる。仁王立ちするリリーと目が合う。
「皆、起きてくれ」
 リリーは俺が起きたのを確認すると、ローズとチュリップを揺する。
 俺と対応が段違いだ。

「皆に話がある」
 リリーは皆が起きると冒険者手帳を取り出す。
「これを確認したところ、迷宮探索で一番危険なのは仲間割れだと書いてあった。そこで、不本意ながらも、そこの屑を許し、皆で協力し合おうと思う」
 おっと! 突然の吉報に嬉しく思う。ギスギスした空気は好きではない。だが、
「あの、リリー、俺の名前はレオで、屑ではないんですけど」
「救助を待つにしても、いがみ合ってはダメだ。だから、今後チームとして活動したい」
 聞こえないのかな? どうして僕の顔を一瞥もせずに話を進めるのかな?
「あの、リリー、俺の顔を見ないで話を進めないで」
「屑のお前をチームに加えてやると言っているんだ。有難く思え」
 淡々と、冷静に、サッパリした口調で断言する。いくら何でもこれはひどい!
「お前は俺と殴り合いがしたいのか! 上等だ! 殴られてやる! さあ来い!」
「改めて二人の意見を聞きたい。チームを組む。異存は無いか?」
「分かりました。落とし穴の件、反省します」
「そうだ、反省しろ。……話の腰が折られた。二人はチームを組む気があるか?」
「皆が良ければ、私は構いません」
 チュリップは十字架を握りながら皆の顔色を伺う。
「私は……皆と一緒に居る」
 ローズは体育座りで頷く。
「ありがとう。これから私たちは仲間だ」
 リリーさん? 二人のように握手をしろとは言いません。ですがせめて僕から距離を取るのは止めてくれませんか? 現在進行形でどんどんどんどんズリズリと物理的に心が離れているような気がします。

「チームを組むうえで、まず確認することは、皆のポジションだ。まずは、言い出しっぺの私から言おう」
 リリーは剣と盾を見せる。
「私は騎士だ。最も、騎士学校を卒業したばかりの見習いだ。だが白兵戦には自信がある。だから前衛に立ち、攻め込む相手から後衛を守ることができる」
 ピシリと言い切る。そして騎士学校を卒業しただけに、迷宮探索の戦術を考え付いたらしい。さすがだ。
「俺はレオ、一応剣士ってことになってる。剣は握ったこともないけど」
「つまり囮だ。ローズはどうだ?」
 リリー、君は僕と仲良くする気がありますか? 僕はもう少し仲良くなりたいです。
「私は……魔術師……一応、全系統の魔術が使えます。でも見習いで、戦ったことも無くて、魔術学校の成績も悪かったから、期待しないでください」
 ローズはぼそぼそ喋る。リリーは首を振る。
「いざという時は戦ってもらう。だから、今のうちに覚悟を決めてほしい」
 ローズは何も言わない。リリーは一瞬眉をひそめたが、すぐに真面目な顔になる。
「チュリップはどうだ?」
「私は僧侶です。一応、回復術ができます。でも見習いで、擦り傷を治したり、吐き気を押さえる程度の術しか使えませんから、期待しないでください」
 チュリップはため息を吐くように言う。リリーは残念そうに失笑する。
「傷薬や状態異常回復薬があるから大丈夫だ」
 リリーは立ち上がると宣言する。
「私が前に出て敵と戦う。お前たちは後ろに居るだけでいい。必ず助ける」
 それだけ言うと、ため息を吐いて再び冒険者手帳を眺め始めた。

「え? 話はこれで終わり? ポジションを確認しただけ?」
 思わず本音が漏れる。
「他に何を話す?」
 リリーは冒険者手帳に夢中で俺には一切顔を向けない。話を聞いてもらえるだけでもありがたいと思おう。
「えーと。例えば敵が襲ってきた場合の戦い方とか、自己紹介でもいい! ほら、チームを組むなら仲よくしないとダメだろ?」
「戦い方は、冒険者手帳を確認している。そこに載っているはずだ。そして自己紹介は先ほど済ませた。これ以上は必要ない」
「いや、ま、そうかもしれないけど、もうちっとなんか話さないか?」
「話すことは無い!」
 リリーは苛立たし気に怒鳴り声を上げる。そして痛いほどの沈黙が訪れる。

「うんざりだわ!」
 突如チュリップが憎らし気に語気を強める。
「どうした?」
 リリーが口をへの字にして言う。
「救助を待つ? ならそこの白骨の山はどう説明するのです! 救助が来ていればあんなものありません!」
 チュリップが白骨の山を指さす。リリーは青い顔でチュリップを睨む。
「遭難したら救助を待つ! 冒険者手帳に書いてある!」
「待ってくれ! 二人とも!」
 言い争いになる前に二人の間に割り込む。
 そしてこちらに矛先が向く前に意見を言う。
「リリーの案は間違っていない! だけどチュリップの心配も最もだ! ここは一つ、皆で迷宮探索して見ないか! それに俺、ここに居たくねえんだよ! あの人骨が気味悪くてよ!」
 リリーは開きかけた口をそのままに人骨を見る。青い顔がさらに青くなる。ローズは血の気が引いていて気絶しそうだ。
「す、少し待て!」
 リリーは冒険者手帳を開くと破れるのでは、と心配したくなる勢いでページをめくる。
「し、死体などの近くに居ないほうが良い。なぜならネクロマンサーという化け物に操られて襲われる危険があるから! 仕方がない! 移動しよう! 皆それでよいな!」
 リリーは早口でまくし立てる。
「皆が良ければそれでよいです」
「わ、私は皆と一緒に居る」
 チュリップは疲れた表情で、ローズは怯えた表情で答える。
「移動だ! 皆荷物を持て!」
「リリー、荷物は置いておこう」
 リリーが荷物を担ぎ上げる前に止める。
「なぜだ!」
「量が多い。もし化け物や罠に出会ったら捨てなくちゃいけない」
 リリーは言葉に詰まる。
「そ、それじゃあどうするつもりだ! ここに捨てるのか!」
「ここに化け物は来ない。だから、探索して安全な場所が見つかるまでここに置いておこう」
「死体の近くに居るのは危険だぞ! それになぜ化け物が来ないと分かる!」
「私たちの大声で殺到していないことが証拠では?」
 チュリップがリリーとローズを睨む。リリーは何も言い返せず、唸るだけであった。
「置いていこう。それに探索と言ってもそんな大げさな物じゃない。少しマッピングして、安全そうな場所を見つけられたら改めて荷物を持っていけばいい」
 リリーは再び冒険者手帳を開く。もはや心の拠り所だ。
「化け物は物音に反応する! つまり周辺に化け物は居ない! 分かった! 置いていこう! 皆、異存は無いな!」
「皆さんがよろしければ」
「私は、皆と一緒に居る」
 チームワークなど無い。心がバラバラだ。
 だが無理もない。迷宮の中は薄暗く、肌寒い。まるで悪魔の胃に飛び込んだみたいだ。こんな空気では発狂してもおかしくない。
 ローズとチュリップは、もはや考えるのも辛い印象だ。熱があるかもしれない。リリーも顔色が死人のように悪い。気丈な表情だが、疲れは隠せない。
「行こう」
 言うと皆、何も言わずについてきてくれた。実にありがたい。

 皆に話していないことがある。皆、落とし穴に落ちて一日程度しか経っていないと思っているだろう。だが実際は三日経っている。
 落とし穴に落ちた次の日、眠りから覚めると皆高熱でうなされていた。幸い薬が荷物にあったため助かった。だから三人が目覚めてくれて非常に嬉しかった。
 だが三日経ったことに変りはない。そして、三日経ったのに救助は来ない。
 不安で頭を掻きむしりたかった。涙を流したかった。でもできない。
「生きるためには、進まなくてはならない」
 我が家の家訓だ。
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