迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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回廊

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「疲れた……」
 探索を開始してすぐに、ローズがフラフラと座り込む。
「そうだな。そろそろ戻るか」
 リリーも同じくため息を吐く。
「まだそんなに進んでいない。もう少し頑張ろう」
「何! なぜそんなことが分かる!」
「マッピングしてたけど、まだこれしか進んでいない」
 罠や化け物を警戒して進むため、牛歩のごとく歩みが遅い。疲れは分かるがここで引き返すと、いつまで経っても探索が終わらない。
 地図を見せると、リリーは顔をしかめながらも言葉を飲み込んだ。
「もう少し頑張ろう」
 歩を進めると、皆いやいやという足取りながらも後を追ってくれた。

「曲がり角だ」
 しばらくしたところで、道が左に折れる。
「もう戻ってもいいだろう」
 リリーが額に張り付く脂汗を拭う。剣と盾を持っているから人一倍疲れているようだ。
「レイさん、マッピングの具合は如何ですか?」
 今まで黙っていたチュリップが地図をのぞき込む。苦い顔になる。
「あまり進んだように思えませんね」
「罠とか警戒しているから、仕方ないと思う」
 リリーとローズも地図を見る。二人ともへなへなと座り込む。
「もう少し頑張ろう。それに地図がある。帰るときは一瞬だ!」

「また曲がり角だ」
 さらに直進すると再び左の曲がり角にぶつかる。不思議だ。迷宮なのに入り組んでいない。
「今まで分かれ道はありませんでしたよね?」
 チュリップが地図をのぞき込む。
「ああ、気になる箇所はあったけど」
「気になる箇所? 地図に書いてある丸印のところですか?」
「扉みたいな壁があった」
「随分と規則的に並んでいますね」
 チュリップは地図から目を離すと舌打ちする。
「やはりここは、あるはずの無い地下十一階ですね」
「地下十一階?」
 リリーが顔色を変えて地図を見る。
「ま、マッピングは間違えていないか! 地下四階の地図と全く違うぞ!」
「それどころか、地下五階から地下十階の地図とも違います」
 冒険者手帳をめくるリリーの横でチュリップが舌打ちする。
「ねぇ? 何で皆慌てているの?」
 ローズが泣き顔で震える。
「私たちはあるはずの無い階層に居ます。レオさんの予測と合致します」
「レオ! どういうことだ!」
 リリーは、冷静に、諦めたようなチュリップと正反対に、目を血走らせる。
「落とし穴に落ちた時、八階くらい落ちた。感覚の話だけど」
「まさか……ここは地下十一階」
 リリーは眩暈を起こして座り込む。
「ねえ! どうしたの!」
 ローズはリリーを揺さぶる。リリーの目に光は無い。人形のように揺さぶられるだけだった。
「レオさん、進みますか? 戻りますか?」
 チュリップはリリーとローズを無視して俺に話しかける。
「もう少し進もう」
 リリーを抱き起す。
「頑張って進もう」
 リリーは何も言わなかった。歩く力すら無い。そんな印象だった。

「また曲がり角だ!」
 リリーを支えながら、さらに直進すると三度左の曲がり角にぶつかる。
「レオさん、地図を見せてください」
 チュリップに地図を手渡す。
「回廊になっていますね」
「回廊?」
 リリーを座らせてから地図を見直す。
「ほら、一回目の曲がり角を曲がった距離と、二回目の曲がり角を曲がった距離が同じです。このまま進めば、私たちが居た場所に戻るでしょう」
 チュリップは曲がり角の先に広がる暗黒を指さす。
「確かめるために、進もう」
 フラフラのリリーを抱き起して、さらに進む。

 その結果、チュリップの予想が正しいことが分かった。
「荷物だ」
 置いておいた荷物と人骨が出迎えてくれた。
「ねえ? 階段はどこ?」
 ローズが泣きながら俺の服を引っ張る。
「大丈夫だ。絶対にある」
 リリーを座らせてから、ローズを抱きしめて頭を撫でる。
「俺たちは帰れる。だから泣かないでくれ」
「本当? どこに階段はあるの?」
 地図を見て、覚悟を決める。
「回廊の扉の先だ。どれかに、先へ行く階段がある」
「大丈夫でしょうか? 罠ではないでしょうか?」
 チュリップが涙を流して座り込む。
「生き残るには、進むしかない」
 俺の言葉に、チュリップは十字架を握りしめた。
「今日は休もう。探索は、飯食ってひと眠りしてからだ」
 荷物から携帯食料を取り出して、皆に配る。皆モソモソとマズそうに食べる。実際不味い。肉が食いたい。
「チームを組むと決めた以上、許すと決めた以上、文句を言うのはこれで最後にする」
 リリーは食べるのを中断すると、青い顔で涙を流しながら、拳を握りしめて、俺を睨む。
「こうなったのはお前のせいだ! 一生恨む!」
 怨敵に対面した。そんな表情だった。
「済まない。必ず脱出させる」
 俺はその顔を見つめる。絶対に目を逸らさない。それが今できる誠意だと思ったから。
 リリーとしばし顔を見つめあう。

「くふ……ははは!」
 突然リリーが笑いだした。
「全く、睨めっこみたいだ。馬鹿らしい」
 リリーはガシガシと携帯食料を腹に収める。
「二人とも、文句を言えるのは今が最後だ。存分に言ったほうがいいぞ」
 リリーは笑顔で二人に罵倒を進める。場の空気が急速に弛緩し、温かくなる。
「そうですね……では遠慮なく」
 チュリップは俺の前に来ると、遠慮の無いビンタをバシンと俺に食らわせた。
「痛いですか?」
 冷たい目が突き刺さる。
「気合が入った! もう一発食らってみたいね!」
 冷たい目を笑って見せる。これで文句を言ったら男じゃない。
 ビンタの一発や二発で許してくれるなら安いものだ。
「もう一発は、脱出したときに取っておきましょう」
 チュリップが笑う。
「ローズは何か無いのか?」
 リリーがくすくす笑いながら言う。ローズは目をパチパチさせる。涙は止まっていた。
「えっと。じゃあ」
 ローズは俺の前に来ると、うーんと考え込む。
「馬鹿、アホ、ドジ、マヌケ」
 そして迫力の無い罵倒をした。
「分かってる。次は絶対にしない」
 頭を下げる。するとローズに頭を撫でられる。
「うん! 良いよ!」
「良いのか? ビンタの一発くらい食らわせてもいいんだぞ?」
 聞くとローズは首を振る。
「暴力は、好きじゃない。それより、脱出できるって、本当?」
「それは本当だ!」
「何で言い切れるの?」
 滅茶苦茶鋭い質問が飛んできた。
「俺は山育ちで、今まで何回も山で遭難したことがある! だがそのたびに生きて帰った! だから大丈夫だ!」
「何で山育ちなのに何度も遭難したの?」
「たまに山道の道案内をするんだ。商人とか何だとか。そんなかに、たまに言うことを聞かねえ奴が居るんだ! そいつらを助けるために行動したら遭難した!」
「今回はレイが勝手なことしたんだね」
「おう……耳が痛い……金に目がくらんじまった」
「やっぱり殴るね」
 バシンと気持ちの良い痛みが頬に走る。なんだか癖になりそうだ。
「うん! すっきりした!」
「そいつは良かった。あと、俺と遭難した奴は、五体満足で家に帰った。それだけは言っておくぞ」
「分かった! 約束破ったらもう一発殴るからね!」
 二人とも食事に戻る。顔色が見違えるほど良くなっていた。

「しかし、こう見ると三人とも美人だな」
 三人が噴き出す。
「突然何を言うんだ?」
 リリーに睨まれる。
「皆の笑顔を見た感想だ! 悪気はねえよ!」
「言っておくが、もしも変なことをしたら首を叩き切るぞ!」
 リリーが剣の切っ先を突きつける。
「悪かった! 本当に悪かった!」
 リリーの赤い頬が松明で輝く。
「ふん! 口説き文句は脱出してから言え!」
 リリーが剣を収める。助かった!
「レイさんは何歳ですか?」
 チュリップが微笑む。
「16だ」
「何というか、男の子なんですね」
「え? どういう意味?」
「能天気なお馬鹿さんという意味です」
 クスクスと笑われる。なぜか悪い気はしない。悪意を感じないからだろう。
「確かに俺は馬鹿だな。学校行ってないからな。その代わり、山のことは詳しいぜ!」
「私、山に行ったことがありませんが、山で取れる美味しいお肉を食べたことがあります」
「脱出したら肉とキノコを詫びに差し入れるよ」
「楽しみにしておきます」
 チュリップはクスクスと笑うのを止めない。なんだか恥ずかしくなってきた。
「レイって学校行ってないの?」
 ローズが食べながら隣に座る。
「山に学校は無いからな」
「もしかして、文字とか読めない?」
「自慢にならないが、読めない! 一応、数字は分かるぜ! 買い物で必要だからな! あと地図も描ける! 山道じゃ必須だからな!」
「文字も読めないのに、よく契約書にサインできたね」
「書いてもらった! 受付の姉ちゃんには笑われたがな!」
「私が教えてあげようか?」
「本当か! そいつはありがてえ!」
「いいよ。紙はもったいないから、地面に書くね」
 ローズは杖で地面に光る文字を書く。
「文字が光ってる!」
「光魔法の応用。暗いところでも文字が書けるように考えたの。魔力を塗るってイメージ。皆には役に立たないって笑われたけど」
「いやいや、これはすげえって! 十分役立つって!」
「本当!」
 ローズが嬉しそうに目を輝かせる。俺も嬉しくなる。
「だって文字が書けてる! 光ってる! 星空みたいでかっこいいぞ!」
「そういう意味じゃないんだけど」
 ローズは失笑する。
「迷宮の目印に使えるな」
 リリーが光る文字を見て言う。
「そうだよね! そうだよね!」
「光魔法で照明は作れるか?」
「作れるよ! 松明よりもずっと明るい!」
「明日から探索にはそれを使おう。他に何かあるか?」
「えっと、例えば空気と火を組み合わせた魔法が使えるよ」
 ローズが杖を振ると、火球が宙に浮かぶ。
「すげえ!」
「レイってそれしか言えないの?」
「すげえのはすげえだろ?」
「こんなの役に立たないよ。火球を浮かばせてどうするんだって皆に笑われたもん」
「いやいや、すげえよ。笑えねえよ」
「レイってほんと馬鹿」
 ローズははにかむ。凄く可愛い。
「お前本当に可愛い顔してるな」
「な! お世辞はダメ!」
 ローズがそっぽを向く。
「リリーさん、これって何か役に立ちそう?」
「暖炉の代わりになるな。松明が無くなっても安心できる」
「本当!」
「やっぱすげえじゃん!」
「レイは黙ってて!」
「それより、俺に文字を教えてくれるんじゃなかったのか?」
「レイなんて知らない!」
「意地悪するなって! 謝るからよ!」
「別に謝らなくてもいいよ!」
「じゃあ教えてくれ」
「嫌だ! レイには教えない!」
「何で?」
「知らない!」
 ローズはリリーの傍に行くと、何か話し出す。
「元気になってよかった!」
 何だか楽しくなってきた!
 明日が楽しみだ!
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