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国を買える宝たち
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「皆、準備は良いか?」
眠りから覚めて、飯を食った後、皆に聞く。
「大丈夫だ」
リリーが剣と盾を握りしめる。
「皆さんがよろしければ」
チュリップは少し顔を引きつらせて言う。
「わ、私は、大丈夫じゃないけど、皆が行くから行く!」
ローズは杖を震わせながらも力強く立つ。
「行こう。調べるのは、この場所から反対。回廊の外側の扉だ」
マッピングしてしまうと、目的地に着くのはあっという間だった。
「確かに、扉だ。壁に似ているから気がつかなかった」
リリーが扉の前で唸る。くぼみやレンガの切れ目を観察すれば一目瞭然であった。
「どうやったら開くのかしら?」
チュリップは扉の隅々まで観察する。取っ手などは見当たらない。
「もしかして、これ?」
ローズが扉の横にあるレンガを指さす。色が壁と異なっていた。
「押してみる。皆下がっていてくれ」
皆を下がらせた後、色の違うレンガを押す。ゴリゴリと石が擦れる音が聞こえるとともに、ゆっくりと扉が開いた。
「皆、とりあえず化け物は居ないぞ」
部屋に一歩踏み込んで気配を探る。殺気は感じないし、生き物の気配も無い。
「私も行く。二人は外で待っていてくれ」
リリーが一緒に中に入った。
「何だこれは?」
松明を掲げて部屋を照らす。部屋の中は、風のうわさで聞いた貴族の食卓のようであった。長方形のテーブルに椅子が二十以上並んでいる。周りには数十の飾りの鎧が取り囲んでいる。
「ここまで広い食卓は、私も見たことが無い」
リリーが足を進める。俺も足を進める。
「なんか変だな?」
数歩進んだところで足を止める。
「どうした?」
リリーも足を止める。
「床が振動している気がする」
振り返った瞬間、バタンと扉が閉じる! そして数十の鎧が武器を構えて動き出す!
「罠だ!」
ゆっくりと、ガチャガチャと不気味な金属音を鳴らしながら、鎧は武器を構える。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーが素早く踏み込み、鎧に強烈な一撃を叩き込む。
リリーの剣が折れた。
鎧には傷一つ付いていない。
「馬鹿な! いくら未熟な私でも、剣が折れるだなんて!」
「リリー! あぶねえ!」
呆然とするリリーの手を引っ張る。振りかぶった鎧の一撃が空を切る。
動きは鈍い。
「レイキック!」
近づく一体に蹴りをぶち込む。がらんどうのためか軽く、簡単に吹っ飛んだ。
「リリー! こいつら動きが鈍いし軽い! 蹴り飛ばせば楽勝だ!」
「く!」
リリーも近づく鎧に蹴りをぶち込む。鎧は簡単に吹き飛ぶ。
だがすぐに起き上がり、武器を構える。埒が明かない。しかも確実に包囲は狭まっている。
「あれは?」
暖炉の上に飾られた剣が目に入る。凄まじいお宝に見えた!
「リリー! 耐えてくれ!」
「待て! どこへ行く!」
鎧の大群に突撃する。鎧は武器を振るう。やはり遅い。簡単に走り抜けられた。
「リリー! この剣を使え!」
飾られた剣を取ると、リリーに放り投げる。
「くそ! こんなもの役に立つのか!」
リリーは鎧たちの攻撃を避けながら唱える。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーが鎧の一体に再度剣を叩き込む。
鎧はチーズのように真っ二つになった。
「な! これは!」
「リリー! 見とれるのは後だ! 俺が囮になるからバシバシ叩き込め!」
「わ、分かった!」
観察すると鎧は見掛け倒しだった。近くに居る敵を攻撃する。近くに居る敵に迫る。歩むだけで攻撃も遅い。だから敵を誘導するのも簡単であった。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
その間にバッタバッタとリリーが鎧を破壊してくれた。
すべての鎧が動かなくなると安心して笑みがこみ上げる。
「やったな!」
リリーにぐっと拳を見せる。
「ああ。お前のおかげだ」
「マジか! 嬉しいね! 俺の誘導、上手かっただろ!」
「それもあるが、一番はこの剣を見つけてくれたことだ」
「剣?」
リリーは剣の刃に見とれる。
「これは魔法石で作られた業物だ」
「魔法石? 何それ?」
「文字通り、魔法の石だ。これで作られた剣は、すべてを切り裂く魔剣となり、盾はすべての攻撃を防ぐ神の盾となる。永久不滅。刃こぼれせず、錆もしない」
「それって凄いの?」
「王家の宝剣がこれだ。世界で一本しか発見されていない。ユリウス様が、最上級迷宮で見つけた一本だ」
「つまり、凄い?」
「凄い。まず魔法石そのものが迷宮の最深部でしか見つからない。そして魔法石を加工することは現状の技術では不可能とされている。この剣は、未知の技術で作られた優れものだ」
「んー? 金にするとどうなるの?」
「値段はつけられない。ただ、王家に献上すれば、私たちはユリウス様と同じく王族の仲間入りとなる」
いまいち凄さが分からない。しかしリリーは夢中だ。
「この鎧もそうだ! 見れば魔法石で作られている! 切れたのは私が剣術魔法を使ったから! それにどうやって動いた? 空っぽの鎧をどうやって動かせた! 凄い! 最強にして最恐の兵士が作れる! これを持って帰れば、私も認められる!」
リリーは目を輝かせて握手する。
「お前のおかげだ! お前がドジを踏んだおかげで手に入った! ありがとう!」
「ああ、どうも」
褒められたのは嬉しいが、いまいち納得できない。
「とにかくここを出ようぜ。チュリップたちが心配だ!」
「そうだな! 早くこれを見せないと!」
リリーはウキウキと扉を観察する。
「レイ! これか! これが扉を開ける仕掛けか!」
「色が違うからそうだと思う」
「そうかそうか! ふふふふ! たとえ罠でもこの剣があれば大丈夫だ!」
リリーは完全に有頂天だ。今なら俺が馬鹿をやっても褒めてくれる気がする。
「開いた! 開いたぞレイ!」
「リリー? もう少し慎重になったほうが?」
「心配するな! 今の私は無敵だ!」
話を聞いていない。迷いなくレンガを押す。ゴゴゴと唸る扉から離れようともしない。
「無事でしたか!」
チュリップがリリーの顔を見て安堵する。
「二人とも見てくれ! 魔法石で作られた剣だ!」
そしてリリーは心配する二人をよそに熱く語りだす。
「魔法石ですって! それが本当なら私たち大金持ちよ!」
「み、見せてください!」
そして二人もリリーと同じく夢中になる。
「今のうちに部屋に罠が無いか調べるか」
部屋をざっと歩く。罠らしい怪しいものは無い。
「これって、魔法時計です!」
いつの間にかローズが部屋に入り込んでいた。
「魔法時計ってなんだ?」
「世界で唯一正確に時を知らせる時計です! 時の研究は魔法分野の最重要課題です! 魔法博物館の最重要指定遺産で、これだけで私たちは表彰されます!」
ローズは時計に夢中だ。針が動くだけなのにどうしてそこまで興奮するんだ?
「見て! この水差し、神の水差しよ!」
今度はチュリップが両手で水差しをかかげる。
「神の水差しって何だ?」
「ほら! 新鮮な水が入っているでしょ!」
「確かに、匂いは悪い水ではない」
「この水差しの水は永遠に尽きないのよ! 試しに零すわね!」
「おいおいもったいねえだろ」
「良いのよ! ほら! 全然尽きない! 零しても零しても溢れてくる!」
「お、おお。確かに凄いな」
「教会本部で大司教クラスじゃないと触れられない水差しよ! これを持って帰ったら大司教よ! いえ、教皇よ!」
「皆見ろ! これは大陸の地図だ! これがあれば軍事的に有利になる! 大陸を征服できる!」
リリーが興奮した悲鳴を上げる。何がいいのかさっぱり分からない。
「皆? いくら何でも不用心じゃないか?」
「罠なんてどうでもいいわ! これだけあればとんでもない大金が手に入る! 国が買えるわ!」
「そうです! 私たちは今、歴史の分岐点に居ます!」
「私たちは王家の仲間入りだ! 家も将来も安定だ!」
皆さん、楽しそうで何よりです。
「あー、俺は隣の部屋を調べてくるから、ゆっくりしてくれ」
「そうよ! 部屋は他にもあるわ! お宝を集めなくちゃ!」
「すぐに行きましょう!」
「皆! とにかく宝を持てるだけ持て!」
皆さん、目が熊よりも怖いです。お願いですから落ち着いてください。
「早く! 早く開けて!」
ふうふうとチュリップが扉の前で息を荒げる。
「開けるから下がってくれ!」
「心配するな! 私の剣は無敵だ!」
誰もリリーの剣の強さなんて聞いてねえよ。
「とにかく下がれ!」
「これです! 押します!」
ローズ! みだりに仕掛けに触るな!
ズズズと扉が開く。
「お前ら入るなよ! 安全を確認してからだ!」
荒ぶる馬のような三人を宥めてから入る。
「何かの倉庫だな」
武器や盾、鎧などが置いてあった。
「レイ! まだか!」
「リリー、落ち着け。宝は逃げない」
「まだかと聞いているんだ!」
「今から調べるところだ!」
部屋の中央まで進む。試しに武器を手に取ってみる。
「何も作動しないな」
それから部屋をぐるりと一周する。観察すると相当量の武具がある。百人分はあるんじゃないか?
「大丈夫だ。だが気をつけろ」
「行くぞ! 皆レイに続け!」
三人はイノシシのように中に入ると警戒心の欠片も無く、物色を始める。
「この鎧も魔法石だ! 素晴らしい! これを身に着ければ私は史上最強の騎士だ!」
リリーが籠手に頬ずりを始める。本当に大丈夫か?
「この杖! 魔法樹の杖です! レイ見てください!」
ローズが杖を持ってくる。
「何だ? その杖も凄いのか?」
「凄いなんてものじゃありません! この杖は魔法樹と呼ばれる奇跡の樹から作られています! 王族しか持っていない奇跡の杖です! これは魔力増幅機能があって、私でも最強の魔術師に成れます! これがあれば私を馬鹿にした奴らを! くくくく!」
「お、おう。良かったな」
ローズの頭を撫でながらチュリップの様子を見る。
「まさかこれ、神のメイス! 間違いないわ! 死者すらも蘇らせると呼ばれる奇跡の遺産! 教皇のみが持つことを許される一品! 私は教皇よ! もうあんな貧乏教会に居る必要ないわ!」
チュリップはメイスにキスをしまくる。
「まあ、喜んでいるならいいか」
それから回廊の外側の部屋を全て調べた。結果、罠はほとんどなく、誰一人怪我もせず、無事に探索が終えられた。また嬉しいことに、寝室を見つけられた。
「ひと眠りしたら、今度は内側の部屋を調べよう」
椅子に腰を下ろして皆に言う。
「凄いわ……大金持ちよ……」
「これで! 私を馬鹿にした奴らを見返せる!」
「これで王族だ! 騎士団長はおろか、軍団長にまで上り詰められる!」
三人は俺の話を全く聞いていなかった。床に広げた宝に夢中になっていた。
「まあ、いいか」
落ち込まれるよりずっといい。
「俺は寝るぞ。お前たちも区切りのいいところで寝ろよ」
毛布を床に敷いて寝転ぶ。
「あら? レイさん、どうして床に寝るんですか? せっかくベッドがあるのに? 埃等は叩き落としましたから床よりもずっといいですよ?」
チュリップに手を引っ張られる。
「ベッドはお前たちが使え」
「そんな! 一番の功労者を床に寝させるわけにはいきません!」
凄い力で引っ張られる。勢いに負けてベッドに倒れる。
「さあさあ、そんな隅っこに寝ないで、堂々と真ん中で寝てください」
「まあ、そこまで言うなら遠慮なく寝るけど、皆はどうするんだ?」
「どうって一緒に寝るだけですよ?」
マジで? それって不味いんじゃないか? そう言う前にチュリップは俺の右腕に絡みつく。
「あの、チュリップさん? 何だか近いような?」
「寒いですし、そこまで広くないですから。私に気にせず眠ってください」
耳元で囁かないでください。背筋がゾクゾクして理性がヤバいです。
「私も寝よう」
リリーが左側に寝転ぶ。
「窮屈だな。寝返りしたら落ちそうだ」
そしてズリズリと体を近づける。密着していて左腕が落ち着かないんですけど。
「私が寝るところどこ? ここ?」
ローズが俺の上に寝転ぶ。
「ローズ、俺はベッドじゃないぞ」
「重い?」
「重くはない。むしろ軽い。だがこの体勢は非常に不味い」
「何が不味いの?」
「それ言わないとダメなの?」
「私は気にしないよ?」
「あー、気にしないならいいです」
「じゃあ、お休み」
チュッと頬っぺたにキスをされた。何で!
しかも三人ともぐうぐう寝始めたし!
どうやら今日の三人はお宝に出会っておかしくなってしまったようだ。
そして俺は綺麗、可愛い、妖艶な女性に囲まれて理性が沸騰しそうだった。
「これが生殺しか」
言葉は知っていたが体験したのは初めてだ。
二度と味わいたくない。それが感想だった。
「次は絶対に、一人で寝よう」
眠りから覚めて、飯を食った後、皆に聞く。
「大丈夫だ」
リリーが剣と盾を握りしめる。
「皆さんがよろしければ」
チュリップは少し顔を引きつらせて言う。
「わ、私は、大丈夫じゃないけど、皆が行くから行く!」
ローズは杖を震わせながらも力強く立つ。
「行こう。調べるのは、この場所から反対。回廊の外側の扉だ」
マッピングしてしまうと、目的地に着くのはあっという間だった。
「確かに、扉だ。壁に似ているから気がつかなかった」
リリーが扉の前で唸る。くぼみやレンガの切れ目を観察すれば一目瞭然であった。
「どうやったら開くのかしら?」
チュリップは扉の隅々まで観察する。取っ手などは見当たらない。
「もしかして、これ?」
ローズが扉の横にあるレンガを指さす。色が壁と異なっていた。
「押してみる。皆下がっていてくれ」
皆を下がらせた後、色の違うレンガを押す。ゴリゴリと石が擦れる音が聞こえるとともに、ゆっくりと扉が開いた。
「皆、とりあえず化け物は居ないぞ」
部屋に一歩踏み込んで気配を探る。殺気は感じないし、生き物の気配も無い。
「私も行く。二人は外で待っていてくれ」
リリーが一緒に中に入った。
「何だこれは?」
松明を掲げて部屋を照らす。部屋の中は、風のうわさで聞いた貴族の食卓のようであった。長方形のテーブルに椅子が二十以上並んでいる。周りには数十の飾りの鎧が取り囲んでいる。
「ここまで広い食卓は、私も見たことが無い」
リリーが足を進める。俺も足を進める。
「なんか変だな?」
数歩進んだところで足を止める。
「どうした?」
リリーも足を止める。
「床が振動している気がする」
振り返った瞬間、バタンと扉が閉じる! そして数十の鎧が武器を構えて動き出す!
「罠だ!」
ゆっくりと、ガチャガチャと不気味な金属音を鳴らしながら、鎧は武器を構える。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーが素早く踏み込み、鎧に強烈な一撃を叩き込む。
リリーの剣が折れた。
鎧には傷一つ付いていない。
「馬鹿な! いくら未熟な私でも、剣が折れるだなんて!」
「リリー! あぶねえ!」
呆然とするリリーの手を引っ張る。振りかぶった鎧の一撃が空を切る。
動きは鈍い。
「レイキック!」
近づく一体に蹴りをぶち込む。がらんどうのためか軽く、簡単に吹っ飛んだ。
「リリー! こいつら動きが鈍いし軽い! 蹴り飛ばせば楽勝だ!」
「く!」
リリーも近づく鎧に蹴りをぶち込む。鎧は簡単に吹き飛ぶ。
だがすぐに起き上がり、武器を構える。埒が明かない。しかも確実に包囲は狭まっている。
「あれは?」
暖炉の上に飾られた剣が目に入る。凄まじいお宝に見えた!
「リリー! 耐えてくれ!」
「待て! どこへ行く!」
鎧の大群に突撃する。鎧は武器を振るう。やはり遅い。簡単に走り抜けられた。
「リリー! この剣を使え!」
飾られた剣を取ると、リリーに放り投げる。
「くそ! こんなもの役に立つのか!」
リリーは鎧たちの攻撃を避けながら唱える。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーが鎧の一体に再度剣を叩き込む。
鎧はチーズのように真っ二つになった。
「な! これは!」
「リリー! 見とれるのは後だ! 俺が囮になるからバシバシ叩き込め!」
「わ、分かった!」
観察すると鎧は見掛け倒しだった。近くに居る敵を攻撃する。近くに居る敵に迫る。歩むだけで攻撃も遅い。だから敵を誘導するのも簡単であった。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
その間にバッタバッタとリリーが鎧を破壊してくれた。
すべての鎧が動かなくなると安心して笑みがこみ上げる。
「やったな!」
リリーにぐっと拳を見せる。
「ああ。お前のおかげだ」
「マジか! 嬉しいね! 俺の誘導、上手かっただろ!」
「それもあるが、一番はこの剣を見つけてくれたことだ」
「剣?」
リリーは剣の刃に見とれる。
「これは魔法石で作られた業物だ」
「魔法石? 何それ?」
「文字通り、魔法の石だ。これで作られた剣は、すべてを切り裂く魔剣となり、盾はすべての攻撃を防ぐ神の盾となる。永久不滅。刃こぼれせず、錆もしない」
「それって凄いの?」
「王家の宝剣がこれだ。世界で一本しか発見されていない。ユリウス様が、最上級迷宮で見つけた一本だ」
「つまり、凄い?」
「凄い。まず魔法石そのものが迷宮の最深部でしか見つからない。そして魔法石を加工することは現状の技術では不可能とされている。この剣は、未知の技術で作られた優れものだ」
「んー? 金にするとどうなるの?」
「値段はつけられない。ただ、王家に献上すれば、私たちはユリウス様と同じく王族の仲間入りとなる」
いまいち凄さが分からない。しかしリリーは夢中だ。
「この鎧もそうだ! 見れば魔法石で作られている! 切れたのは私が剣術魔法を使ったから! それにどうやって動いた? 空っぽの鎧をどうやって動かせた! 凄い! 最強にして最恐の兵士が作れる! これを持って帰れば、私も認められる!」
リリーは目を輝かせて握手する。
「お前のおかげだ! お前がドジを踏んだおかげで手に入った! ありがとう!」
「ああ、どうも」
褒められたのは嬉しいが、いまいち納得できない。
「とにかくここを出ようぜ。チュリップたちが心配だ!」
「そうだな! 早くこれを見せないと!」
リリーはウキウキと扉を観察する。
「レイ! これか! これが扉を開ける仕掛けか!」
「色が違うからそうだと思う」
「そうかそうか! ふふふふ! たとえ罠でもこの剣があれば大丈夫だ!」
リリーは完全に有頂天だ。今なら俺が馬鹿をやっても褒めてくれる気がする。
「開いた! 開いたぞレイ!」
「リリー? もう少し慎重になったほうが?」
「心配するな! 今の私は無敵だ!」
話を聞いていない。迷いなくレンガを押す。ゴゴゴと唸る扉から離れようともしない。
「無事でしたか!」
チュリップがリリーの顔を見て安堵する。
「二人とも見てくれ! 魔法石で作られた剣だ!」
そしてリリーは心配する二人をよそに熱く語りだす。
「魔法石ですって! それが本当なら私たち大金持ちよ!」
「み、見せてください!」
そして二人もリリーと同じく夢中になる。
「今のうちに部屋に罠が無いか調べるか」
部屋をざっと歩く。罠らしい怪しいものは無い。
「これって、魔法時計です!」
いつの間にかローズが部屋に入り込んでいた。
「魔法時計ってなんだ?」
「世界で唯一正確に時を知らせる時計です! 時の研究は魔法分野の最重要課題です! 魔法博物館の最重要指定遺産で、これだけで私たちは表彰されます!」
ローズは時計に夢中だ。針が動くだけなのにどうしてそこまで興奮するんだ?
「見て! この水差し、神の水差しよ!」
今度はチュリップが両手で水差しをかかげる。
「神の水差しって何だ?」
「ほら! 新鮮な水が入っているでしょ!」
「確かに、匂いは悪い水ではない」
「この水差しの水は永遠に尽きないのよ! 試しに零すわね!」
「おいおいもったいねえだろ」
「良いのよ! ほら! 全然尽きない! 零しても零しても溢れてくる!」
「お、おお。確かに凄いな」
「教会本部で大司教クラスじゃないと触れられない水差しよ! これを持って帰ったら大司教よ! いえ、教皇よ!」
「皆見ろ! これは大陸の地図だ! これがあれば軍事的に有利になる! 大陸を征服できる!」
リリーが興奮した悲鳴を上げる。何がいいのかさっぱり分からない。
「皆? いくら何でも不用心じゃないか?」
「罠なんてどうでもいいわ! これだけあればとんでもない大金が手に入る! 国が買えるわ!」
「そうです! 私たちは今、歴史の分岐点に居ます!」
「私たちは王家の仲間入りだ! 家も将来も安定だ!」
皆さん、楽しそうで何よりです。
「あー、俺は隣の部屋を調べてくるから、ゆっくりしてくれ」
「そうよ! 部屋は他にもあるわ! お宝を集めなくちゃ!」
「すぐに行きましょう!」
「皆! とにかく宝を持てるだけ持て!」
皆さん、目が熊よりも怖いです。お願いですから落ち着いてください。
「早く! 早く開けて!」
ふうふうとチュリップが扉の前で息を荒げる。
「開けるから下がってくれ!」
「心配するな! 私の剣は無敵だ!」
誰もリリーの剣の強さなんて聞いてねえよ。
「とにかく下がれ!」
「これです! 押します!」
ローズ! みだりに仕掛けに触るな!
ズズズと扉が開く。
「お前ら入るなよ! 安全を確認してからだ!」
荒ぶる馬のような三人を宥めてから入る。
「何かの倉庫だな」
武器や盾、鎧などが置いてあった。
「レイ! まだか!」
「リリー、落ち着け。宝は逃げない」
「まだかと聞いているんだ!」
「今から調べるところだ!」
部屋の中央まで進む。試しに武器を手に取ってみる。
「何も作動しないな」
それから部屋をぐるりと一周する。観察すると相当量の武具がある。百人分はあるんじゃないか?
「大丈夫だ。だが気をつけろ」
「行くぞ! 皆レイに続け!」
三人はイノシシのように中に入ると警戒心の欠片も無く、物色を始める。
「この鎧も魔法石だ! 素晴らしい! これを身に着ければ私は史上最強の騎士だ!」
リリーが籠手に頬ずりを始める。本当に大丈夫か?
「この杖! 魔法樹の杖です! レイ見てください!」
ローズが杖を持ってくる。
「何だ? その杖も凄いのか?」
「凄いなんてものじゃありません! この杖は魔法樹と呼ばれる奇跡の樹から作られています! 王族しか持っていない奇跡の杖です! これは魔力増幅機能があって、私でも最強の魔術師に成れます! これがあれば私を馬鹿にした奴らを! くくくく!」
「お、おう。良かったな」
ローズの頭を撫でながらチュリップの様子を見る。
「まさかこれ、神のメイス! 間違いないわ! 死者すらも蘇らせると呼ばれる奇跡の遺産! 教皇のみが持つことを許される一品! 私は教皇よ! もうあんな貧乏教会に居る必要ないわ!」
チュリップはメイスにキスをしまくる。
「まあ、喜んでいるならいいか」
それから回廊の外側の部屋を全て調べた。結果、罠はほとんどなく、誰一人怪我もせず、無事に探索が終えられた。また嬉しいことに、寝室を見つけられた。
「ひと眠りしたら、今度は内側の部屋を調べよう」
椅子に腰を下ろして皆に言う。
「凄いわ……大金持ちよ……」
「これで! 私を馬鹿にした奴らを見返せる!」
「これで王族だ! 騎士団長はおろか、軍団長にまで上り詰められる!」
三人は俺の話を全く聞いていなかった。床に広げた宝に夢中になっていた。
「まあ、いいか」
落ち込まれるよりずっといい。
「俺は寝るぞ。お前たちも区切りのいいところで寝ろよ」
毛布を床に敷いて寝転ぶ。
「あら? レイさん、どうして床に寝るんですか? せっかくベッドがあるのに? 埃等は叩き落としましたから床よりもずっといいですよ?」
チュリップに手を引っ張られる。
「ベッドはお前たちが使え」
「そんな! 一番の功労者を床に寝させるわけにはいきません!」
凄い力で引っ張られる。勢いに負けてベッドに倒れる。
「さあさあ、そんな隅っこに寝ないで、堂々と真ん中で寝てください」
「まあ、そこまで言うなら遠慮なく寝るけど、皆はどうするんだ?」
「どうって一緒に寝るだけですよ?」
マジで? それって不味いんじゃないか? そう言う前にチュリップは俺の右腕に絡みつく。
「あの、チュリップさん? 何だか近いような?」
「寒いですし、そこまで広くないですから。私に気にせず眠ってください」
耳元で囁かないでください。背筋がゾクゾクして理性がヤバいです。
「私も寝よう」
リリーが左側に寝転ぶ。
「窮屈だな。寝返りしたら落ちそうだ」
そしてズリズリと体を近づける。密着していて左腕が落ち着かないんですけど。
「私が寝るところどこ? ここ?」
ローズが俺の上に寝転ぶ。
「ローズ、俺はベッドじゃないぞ」
「重い?」
「重くはない。むしろ軽い。だがこの体勢は非常に不味い」
「何が不味いの?」
「それ言わないとダメなの?」
「私は気にしないよ?」
「あー、気にしないならいいです」
「じゃあ、お休み」
チュッと頬っぺたにキスをされた。何で!
しかも三人ともぐうぐう寝始めたし!
どうやら今日の三人はお宝に出会っておかしくなってしまったようだ。
そして俺は綺麗、可愛い、妖艶な女性に囲まれて理性が沸騰しそうだった。
「これが生殺しか」
言葉は知っていたが体験したのは初めてだ。
二度と味わいたくない。それが感想だった。
「次は絶対に、一人で寝よう」
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