迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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地下十二階、迷いの森

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 あるはずの無い階層、地下十二階。そこは森が生い茂る地上だった。
 太陽がある。風がある。木がある。土がある。山がある。人工物は見当たらない。唯一、地下十一階へ続く階段の入り口だけが異彩を放す。入り口は大きめの岩に刻まれていた。とてもではないが、上り階段の入り口とは思えない。
 まるで時空が歪んでいるようだった。
 
 木々の皮を剣で剥ぐと樹液がにじみ出る。
「生きている木だ」
 暑い日差しが木漏れ日となって降り注ぐ。涼し気な風が青臭い森の臭いを運ぶ。
「私たちは本当に、地下迷宮に居たのか?」
 リリーは指先で土を摘まみ、ゆっくりと捏ねる。
「土だ。レンガでも何でもない、踏み荒らされていない森の中だ! 今までの階とまるで違う!」
「迷宮です。そう考えると可笑しくないのでは?」
 チュリップが涼し気に言う。
「レイ? この樹液、舐められるかな?」
 ローズに急かされたので、樹液を指で掬い、臭いを嗅ぐ。砂糖よりも甘い臭いだった。
「樹液は熊も舐めるくらい美味いからな……試しに、舐めてみるか」
「大丈夫なのか? 前の時のように腹を下すかもしれない」
 リリーに止められるが、首を振る。
「あれぐらいの失敗で臆していたら、飢え死にする。たとえ病気になろうとも、まずは試してみるしかない」
 ベロリと指に付いた樹液を舐める。体が火照るほど凄まじく甘かった。
「こいつは美味い! 栄養もありそうだ!」
「じゃあ! 私も舐める!」
 ローズが樹液に手を伸ばすが、それを押さえる。
「俺が良しと言うまで舐めるな」
 腹を摩る。
「しばらく様子を見よう」
「いや!」
 ローズが樹液に吸い付く。カブトムシか?
「おいおい! 俺の言うことを聞けって!」
「大丈夫! それにこれ! 水あめよりも美味しい!」
 ぐしぐしと行儀悪く袖で口を拭う。なぜこれが可愛いと思えるか不思議だ。
「食料が無い以上、これが食べられなければどの道死にます」
 チュリップも躊躇いなく舐める。
「うん! 甘くて美味しいです!」
「私もいただこう!」
 リリーが樹液を舌先で突く。
「香りだけでも高級品だ! 紅茶に入れてみたい!」
 そしてぺろりと舐めとる。
「はあ……これで体調を崩したら、神様に見放されたと考えるか」
「神様の目は迷宮に届かないと思いますよ」
 チュリップが僧侶とは思えない言葉を吐く。
「チュリップ? まだあのことを怒っているのか?」
「さあ? それより、これからどうします? 階段付近は安全そうです。いったん戻りますか?」
 いったん地下十一階へ戻るか考える。答えは決まっていた。
「戻ろう。もう地下十一階に用は無い」
 皆とともに地下十一階へ戻る。そこはやはり、暗黒の城の回廊のようであった。このすぐ下に、青空で満ちる世界が広がっているとは考えられなかった。
 しかし驚いてばかり居ても仕方がない。現実を受け止める。今必要なのは、驚くべきことではない。
 前に進むことだ。

 十二階へ必要な荷物を持って戻る。宝はすべて置いてきた。必要なのは武器と防具、そして生活用具だけだ。
 ただ、三人がどうしても本を持っていきたいと言ったので特別に許した。文字が読めない俺と違って、何か気づいたことがあるのだろう。とは言っても、一人三冊までにした。

「マッピングはどうする?」
 リリーが眉を顰める。
「俺が描く。山育ちだから、大丈夫だろう」
 こうして地下十二階に広がる森の探索が始まった。
 発見したい物は拠点にできる場所だ。拠点は洞穴か拓けている場所が良い。拓けている場所なら小屋が作れる。拠点さえ作ってしまえば、当面の生活は何とかなる。
 そう油断していた。森は迷宮の一部であることを忘れていた。

 森を歩き始めてすぐに、異変を感じる。
「木が動いている?」
 後方を確認すると皆が続く。
「動いてないと思うけど」
 ローズが不思議そうに木々を見つめる。
「いや、俺たちは階段を下りて真っすぐ進んだ。そしてまだ数百歩程度しか前進していない。だから、振り返ったら階段が見えるはずだ。なのに、今は見えない」
 注意すると木々がまるで取り囲むように密集していた。これでは森でなく樹海だ!
「足跡が消えていくぞ!」
 リリーの言葉に従い、足元を注視する。リリーの言う通り、足跡は雪が積もるように綺麗に消えていった。
「迷いの森ですね」
 チュリップが舌打ちする。
「これはマッピングどころの話じゃない! すぐに後退して階段へ戻るぞ!」
 全員手をつなぎ合わせる。はぐれたら命とりだ。
「絶対に手を離すな!」
 速足で後退する。だが無駄であった! なだらかな道だったのに、戻るとアップダウンが激しくなる! 風向きがころころ変わる! 木々が移動しているどころの話ではない! 地形が変わっている!
「迷った!」
 夕焼けになったころ、俺たちは足を止めた。
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