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決着は一瞬
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雪山が動いたと思えるほど大きなオオカミが大地を揺らせて迫りくる。暴れ狂う地を踏みつけて加速する。ぐんぐんとオオカミに近づく。
近づけば近づくほど、オオカミは大きくなる。山のように。神のように。竦む足に活を入れてさらに走る。
口が迫ると地獄の門が迫るかのような圧迫感に圧倒される。剣を握りしめて、体中に力を込める。
オオカミが前足を上げる。それだけで嵐のような暴風が巻き起こり、体が浮く。体を一回転させて着地し、姿勢を低く、オオカミよりも低くして、風に飛ばされないように大地を捉える。そして再度突撃する。
走れば走るほど、近寄れば近寄るほど、眩暈がする。自然を具現化したかのような雄々しさに心臓が凍り付く。
オオカミが前足を振り下ろす。場違いだが、可愛らしい肉球だと思った。だがその大きさは規格外だ。天が落ちてきたと形容したほうが良い。
迫ってようやく自分のちっぽけさが分かった。目の前のオオカミにとって、俺は羽虫と同じ程度の存在だ。
生き物としてのレベルの違いに、体中が危険信号を出して、強制的に後ろへ下がるように脳みそに命じる。しかしその警告は承認できない。
生き残るためには前に進むしかないのだから。
オオカミの振り下ろしが迫る。足に力を込めて必死に動かす。速く、速く! この一撃を避けなければ勝てない! そしてこの一撃を避ければ勝機はある!
轟音とともに爆風のような風が土埃とともに舞い上がる。オオカミの前足が振り下ろされた。それだけで小さな俺には致命傷となりえた。だが俺は生きている。賭けに勝った。でも安心している暇はない。懐に飛び込んでからが本当の勝負だ。
オオカミが見失った敵を探すために動く。狙いの指先が遠ざかる。急げ。
オオカミがようやく敵を見つけたが、それより俺がオオカミの指先、厳密には爪と指の間を切り付けるほうが速かった。
切り口は小さく、致命傷にはならない。人間には爪と指の間に棘が刺さった程度の傷だろう。だからこそ、切り口に剣を突き立てた。苦痛を与えるためだ。
オオカミが激痛で前足を上げる。逃がさない。指に馬乗りになってさらに剣を奥の奥へ進める。ドロリと粘り気のある血が噴き出る。剣をねじり込み、最後の一撃を与える。
オオカミが前足を振り回すと同時に飛び降り、後ろ足の爪と指の間を切る。そして傷口に剣をねじり込む。
ついにオオカミが痛みで鳴き声を発する。勝負は決まった。どかんどかんと大地を踏み鳴らす足に巻き込まれないように注意して、戦線から離脱する。
オオカミも俺を認めると飛び跳ねて、距離を取った。
「俺の勝ちだ!」
勝どきを上げる。
オオカミは認めず、唸る。
だが足が動かない。立っているのも辛いほどの痛みだ。
爪に針を突っ込んだ場合、死すら望むほどの苦痛が生じる。痛みは戦意を失わせる十分な理由だった。
オオカミは堪らず切り付けられた指を舐める。
「俺の勝ちだ!」
再度勝どきを上げる。
オオカミは唸るが、その声は小さい。
オオカミとにらみ合う。視線を逸らせば負けとなる。
意地の問題だ。
「お前はもう立てない! 俺の勝ちだ!」
オオカミの綺麗な瞳を睨みつける。座れ。その意味を込めて。
ついにオオカミは視線を逸らし、大地に倒れた。
勝どきを吠える。
リーダーが倒されたと分かったオオカミたちは、一斉に森の中へ姿を消した。
「勝ったのか!」
リリーがキラキラした笑顔で近寄る。
「ああ、俺の勝ちだ。だから、あいつらも逃げた」
「素晴らしい動きだ! 何という才能だ! 私よりもずっとずっと強い!」
「褒めすぎだ。オオカミに慣れていただけだよ」
「たとえそうでも普通は臆して体も動かせない! 私は動かせなかった! それなのにお前は的確に敵の急所を切り付けた! 本当に凄い!」
リリーは興奮冷めやらぬという感じだった。こそばゆくて堪らない。
「まあ、運が良かったってことだ。それよりチュリップ。済まないが、あいつの怪我を治してやってくれ」
「あの化け物を、ですか?」
チュリップが嫌悪感を丸出しにして、俺の友達候補を睨む。
「あいつの力が必要なんだ。頼む」
皆の為が大半、それ以外が、あいつと友達になりたいと思う気持ちだ。
「まあ、皆さんがよろしければ」
チュリップがリリーの顔を見る。
「レイからの頼みだ。頼む」
「気軽に言いますね」
「大丈夫。俺が居る」
「あなたが居なければ近づきもしません」
痛みで倒れたオオカミに近づいていくと、耳をぴくぴくさせてこちらに振り向き、唸られる。
「敵意は無いぞ!」
オオカミの鳴き声でそれを伝える。オオカミの殺気が小さくなる。
「許してくれた」
「本当ですか?」
半信半疑ながらもチュリップはオオカミの前に立つ。
「教会よりも大きいですね」
そう言って呪文を唱える。見る見るとオオカミの傷が治り、出血が収まる。
「後ろ脚もやってくれ」
「はいはい」
治療を終えるとオオカミの殺気が完全に無くなる。最も警戒心は未だに強い。
「突然だが仲間になってくれ」
鳴き声で伝えるが、無視される。
「信じられないのか! 分かる! だからまずはお近づきの印に毛づくろいをしてやる!」
ゆっくりと横腹の真っ白い毛をかき分ける。非常にふさふさしていて気持ちが良い。だが根元まで潜ると想像通り醜い物体が居た!
「でっけえ!」
人間の頭ほどのノミが血を吸っていた!
「ノミ取りは死ぬほどやってきたが、こんな化け物初めてだ!」
剣で吸い口を切り取り、逃げる前に素早く切り裂く。そして食い込む歯を抜く。
「重労働だ! お前らも手伝ってくれ!」
「ご遠慮します! あなたがお好きにやってください!」
「す、すまないが私も無理だ……」
「分かったよ!」
仕方がないので一人でやる。
「お前きたねえな! 真っ白い毛が台無しだぞ!」
文句を言いながら黙々とノミを駆除する。
レイが悪戦苦闘する中、真っ白く長い毛並みのオオカミは欠伸して眠りについた。
近づけば近づくほど、オオカミは大きくなる。山のように。神のように。竦む足に活を入れてさらに走る。
口が迫ると地獄の門が迫るかのような圧迫感に圧倒される。剣を握りしめて、体中に力を込める。
オオカミが前足を上げる。それだけで嵐のような暴風が巻き起こり、体が浮く。体を一回転させて着地し、姿勢を低く、オオカミよりも低くして、風に飛ばされないように大地を捉える。そして再度突撃する。
走れば走るほど、近寄れば近寄るほど、眩暈がする。自然を具現化したかのような雄々しさに心臓が凍り付く。
オオカミが前足を振り下ろす。場違いだが、可愛らしい肉球だと思った。だがその大きさは規格外だ。天が落ちてきたと形容したほうが良い。
迫ってようやく自分のちっぽけさが分かった。目の前のオオカミにとって、俺は羽虫と同じ程度の存在だ。
生き物としてのレベルの違いに、体中が危険信号を出して、強制的に後ろへ下がるように脳みそに命じる。しかしその警告は承認できない。
生き残るためには前に進むしかないのだから。
オオカミの振り下ろしが迫る。足に力を込めて必死に動かす。速く、速く! この一撃を避けなければ勝てない! そしてこの一撃を避ければ勝機はある!
轟音とともに爆風のような風が土埃とともに舞い上がる。オオカミの前足が振り下ろされた。それだけで小さな俺には致命傷となりえた。だが俺は生きている。賭けに勝った。でも安心している暇はない。懐に飛び込んでからが本当の勝負だ。
オオカミが見失った敵を探すために動く。狙いの指先が遠ざかる。急げ。
オオカミがようやく敵を見つけたが、それより俺がオオカミの指先、厳密には爪と指の間を切り付けるほうが速かった。
切り口は小さく、致命傷にはならない。人間には爪と指の間に棘が刺さった程度の傷だろう。だからこそ、切り口に剣を突き立てた。苦痛を与えるためだ。
オオカミが激痛で前足を上げる。逃がさない。指に馬乗りになってさらに剣を奥の奥へ進める。ドロリと粘り気のある血が噴き出る。剣をねじり込み、最後の一撃を与える。
オオカミが前足を振り回すと同時に飛び降り、後ろ足の爪と指の間を切る。そして傷口に剣をねじり込む。
ついにオオカミが痛みで鳴き声を発する。勝負は決まった。どかんどかんと大地を踏み鳴らす足に巻き込まれないように注意して、戦線から離脱する。
オオカミも俺を認めると飛び跳ねて、距離を取った。
「俺の勝ちだ!」
勝どきを上げる。
オオカミは認めず、唸る。
だが足が動かない。立っているのも辛いほどの痛みだ。
爪に針を突っ込んだ場合、死すら望むほどの苦痛が生じる。痛みは戦意を失わせる十分な理由だった。
オオカミは堪らず切り付けられた指を舐める。
「俺の勝ちだ!」
再度勝どきを上げる。
オオカミは唸るが、その声は小さい。
オオカミとにらみ合う。視線を逸らせば負けとなる。
意地の問題だ。
「お前はもう立てない! 俺の勝ちだ!」
オオカミの綺麗な瞳を睨みつける。座れ。その意味を込めて。
ついにオオカミは視線を逸らし、大地に倒れた。
勝どきを吠える。
リーダーが倒されたと分かったオオカミたちは、一斉に森の中へ姿を消した。
「勝ったのか!」
リリーがキラキラした笑顔で近寄る。
「ああ、俺の勝ちだ。だから、あいつらも逃げた」
「素晴らしい動きだ! 何という才能だ! 私よりもずっとずっと強い!」
「褒めすぎだ。オオカミに慣れていただけだよ」
「たとえそうでも普通は臆して体も動かせない! 私は動かせなかった! それなのにお前は的確に敵の急所を切り付けた! 本当に凄い!」
リリーは興奮冷めやらぬという感じだった。こそばゆくて堪らない。
「まあ、運が良かったってことだ。それよりチュリップ。済まないが、あいつの怪我を治してやってくれ」
「あの化け物を、ですか?」
チュリップが嫌悪感を丸出しにして、俺の友達候補を睨む。
「あいつの力が必要なんだ。頼む」
皆の為が大半、それ以外が、あいつと友達になりたいと思う気持ちだ。
「まあ、皆さんがよろしければ」
チュリップがリリーの顔を見る。
「レイからの頼みだ。頼む」
「気軽に言いますね」
「大丈夫。俺が居る」
「あなたが居なければ近づきもしません」
痛みで倒れたオオカミに近づいていくと、耳をぴくぴくさせてこちらに振り向き、唸られる。
「敵意は無いぞ!」
オオカミの鳴き声でそれを伝える。オオカミの殺気が小さくなる。
「許してくれた」
「本当ですか?」
半信半疑ながらもチュリップはオオカミの前に立つ。
「教会よりも大きいですね」
そう言って呪文を唱える。見る見るとオオカミの傷が治り、出血が収まる。
「後ろ脚もやってくれ」
「はいはい」
治療を終えるとオオカミの殺気が完全に無くなる。最も警戒心は未だに強い。
「突然だが仲間になってくれ」
鳴き声で伝えるが、無視される。
「信じられないのか! 分かる! だからまずはお近づきの印に毛づくろいをしてやる!」
ゆっくりと横腹の真っ白い毛をかき分ける。非常にふさふさしていて気持ちが良い。だが根元まで潜ると想像通り醜い物体が居た!
「でっけえ!」
人間の頭ほどのノミが血を吸っていた!
「ノミ取りは死ぬほどやってきたが、こんな化け物初めてだ!」
剣で吸い口を切り取り、逃げる前に素早く切り裂く。そして食い込む歯を抜く。
「重労働だ! お前らも手伝ってくれ!」
「ご遠慮します! あなたがお好きにやってください!」
「す、すまないが私も無理だ……」
「分かったよ!」
仕方がないので一人でやる。
「お前きたねえな! 真っ白い毛が台無しだぞ!」
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