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地下二十一階から100階、問題なし。しかし地下101階にて
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地下二十階を出発して八か月後の現在、俺たちは地下100階の広間に居る。
目の前には巨大な石の巨人が五体立ちはだかる。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズの熱線が石の巨人に命中するが、石の巨人は何事も無かったかのように石の大剣を振り下ろす。
「あぶね!」
大剣が当たる前に全速力でローズを抱きかかえて離脱する。
「レイかっこいい!」
ぐりぐりと額を顔に押し付けられる。
「お前あれくらい避けられただろ! 避けろよ!」
「だって、かっこいいレイが見たかったんだもん!」
ローズが頬っぺたにキスをしてくる。嬉しいが状況を考えてほしい。
「イチャイチャするのは後だ! もうちょっと集中しろ!」
ローズを隠れているチュリップの近くに下ろすと、石の巨人の群れの中で奮闘するリリーの元へ走る。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーの強烈な一撃が石の巨人の足首に当たるが、相手は怯まず地団駄を踏む。
家ぐらいなら軽く押し潰せるほどの踏みつけがリリーに迫る。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
しかしその程度の踏みつけではリリーを殺すことなどできない。
リリーの強烈な反撃を足裏に受けた敵はたたらを踏む。
「ぶっ倒れろ!」
その隙に顔面に飛び蹴りを叩き込み、巨体を地に這わす。
しかし敵はしぶとく起き上がる。
「いったん離脱するぞ」
「分かった」
とりあえず敵の強さは分かったのでローズたちに合流する。
「耐性持ちだな」
十分距離を取ると、今までの経験から100階の守護者のからくりを導き出す。
地下二十一階から炎魔法や氷魔法、斬撃や打撃が効かない敵が現れた。
こいつらもからくりは同じ。ただし今までの敵の耐性は一種類だけだった。
「今までも耐性持ちは居たが、これほど多くの耐性を持った奴は初めてだ」
リリーが迫りくる石の巨人たちに剣先を向ける。
「しかし、手ごたえはあった。何度か繰り返せばぶち壊せるかもしれない」
構えるリリーの肩を掴んで引き留める。
「もう少し様子を見よう」
リリーは素直に頷く。
「承知した。しかし遠目から見ていても分からないと思うが」
「俺がお前たちを抱っこしてやるよ」
ローズをおんぶして、リリーとチュリップを脇に抱えると再度石の巨人たちに飛び込む。
「動きはのろいな」
石の巨人たちの間を縫うように走り抜ける。奴らは俺の動きに全く対応できない。
これなら一番足の遅いローズでも十分逃げ切れる。戦いに心配はない。
問題はローズが後ろで欠伸をしていることだ!
「ローズ、寝るなよ!」
「レイの背中気持ちいいんだもん」
「頼むから緊張感を持ってくれ」
どうも皆の身が締まっていない。さっさと片づけよう。
「何か分かったことはあるか?」
再度距離を取って皆に聞く。
「うーん。とりあえず見た目に変化は無かったかな?」
ローズが首をかしげる。
「私は何も分かりません」
チュリップもお手上げという風に両手をあげる。
「やはり攻撃あるのみでは? 今の私たちなら、たとえ一人でもあいつらの攻撃を避けられる。つまり防御は完璧。ならばあとは攻撃だ」
リリーが剣を石の巨人たちに向けて笑う。
リリーの発言の通り防御は完璧だ。走り回るだけで相手の攻撃は空ぶる。
しかし攻撃する瞬間だけ無防備になる。相手のほうが数は多い。油断は禁物だ。
「袋叩きにしてみるか」
拳を鳴らすとポキポキと音が出る。
「俺があいつらを誘導して、一体だけ孤立させる。お前たちはそいつを囲んで殴って蹴って吹っ飛ばせ」
言うが早いかすぐに敵の群れに飛び込む。
「まずはお前だ!」
地面蹴って飛び、一体だけ顔面をぶん殴って転ばす。
残りは攻撃せず引き付ける。
「こっちに来な」
奴らは愚直に向かってくる。倒れた仲間を引き起こすことなどしない。
「右手に炎魔法! 左手に氷魔法! ツインレーザー!」
「剣術魔法! 装甲破壊!」
その間にローズたちの攻撃が倒れた敵に集中する。
とてつもない轟音とともに、石の巨人が砕け散った。
「攻撃ごとに耐性を切り替えていた」
ローズたちのガッツポーズを見ると自然と笑みが出る。
石の巨人たちは仲間がやられたのにひたすら俺を攻撃する。各個撃破の的だ。
「お前ら俺よりも馬鹿だな」
攻略法が分かれば、あとは簡単だった。
「これで100階まで攻略だ」
休憩中にリリーがメモをしながら微笑む。
「わずか八か月でこれだ! 始めは1000階など無理だと思っていたが、この調子なら十分間に合う!」
「それでも地上に出るのは十年後くらいですかね? まあ、迷宮王の話だと、ここと地上では時間の流れが違うので、帰ったら皆死んでいたとはならないと思いますが」
「せっかく高まった気分に水を差さないでくれ」
リリーが口を尖らせると、チュリップは肩を竦めて水を飲む。
「しかし、順調ではある。それは問題ない」
地下二十一階からここまで問題は無かった。
敵は地下へ潜るごとに強くなるが、俺たちの敵ではない。
食料も化け物を食らえば良い。
水は神の水差しからいくらでも出てくる。
また生活用具も化け物の装備や骨、皮を加工すれば問題ない。
「問題なのは俺たちの心構えだ! 特にローズ! 油断しすぎだぞ!」
「ええー? 油断してないよ」
寝そべって燻製肉をかじる姿で言われても説得力などない。
「あのな? さっきの攻撃、どうして避けなかった? 俺が助けられたから良いが、それに期待しちゃダメだろ?」
「レイは絶対に助けてくれるから良いの」
ローズがもぞもぞと膝の上に乗る。可愛い。
「寝ませんか? 私は眠いです」
チュリップが大きく口を開けて欠伸をする。
「先に寝てろ。俺はマッピングしてから寝る」
「私も手伝う!」
ローズがぴょんと立ち上がる。
「じゃあ、私たちは先に眠ろう」
リリーがチュリップを見る。チュリップはすでに布に包まって寝ていた。
足音を立てないように広場を調べる。
罠は無く、下へ通じる階段だけあった。
「レイ、こっち来て」
調べ終わるとローズが地下101階へ通じる階段の前で手招く。
「どうした?」
ローズは傍に寄ると、そっと耳打ちする。
「エッチ、したくない?」
耳がぞくりとして、辺りを見渡す。チュリップたちは眠っている。
「良いのか?」
ローズが赤くぷっくりした唇で囁く。
「良いよ」
ローズの手を握って、地下101階へ通じる階段を下りた。
地下二十階でローズの虜になった。
気づけばローズを抱いている。
もちろん、迷宮は敵だらけの罠だらけで、おまけにチュリップたちが居る。
それでも無理やり隙を見つけて抱いた。
ローズの香り、ローズの肌、ローズの温かさ、すべてが酒のように染み渡る。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
何よりローズの美しさと可愛らしさ、いじらしさが、俺を堪らなく興奮させた。
「レイ……大好き」
「俺も好きだ」
事が終わると汗だくで抱き合い、口づけを交わす。
「私、レイになら殺されてもいい。それくらいレイが大好き。世界一愛してる」
赤い頬、蕩けた目が何度も俺を滾らせる。
「ローズ! 愛しているぞ!」
俺は口癖となった愛の言葉を語る。もはや、愛しているから口にしているのか、抱きたいから口にしているのか分からない。
俺は狂っているのかもしれない。満足するとうすら寒い気配がする。
何か致命的な間違いを犯すのでは? そんな心配に支配される。
「眠れないの?」
着替え終わり、寝床で一緒に寝ていると、ローズが心配そうに言う。
「寝るさ。お休み」
ローズにキスをして目を瞑る。
眠るとき、ローズが傍にいると安心する。
それだけは、本心だった。
眠りから覚めると予定通り地下101階へ下りる。
すぐに奇妙なことに気づく。
迷宮の化け物が発する独特な気配が感じられない。
それどころか下り階段すらない。
皆でマッピングの結果を確認するが、階段を下りたら一直線の通路のみ。扉のような物はない。
「どうやって下に行けばいいんだ?」
呟きが虚しく通路に響き渡る。返事はない。
「もう一度、確認しよう」
仕方がないので通路の壁や床、天井を舐めるように観察する。
「ここ、押せますよ」
チュリップの言葉を聞いて急いで駆けつける。
確かにレンガの一部が他より出っ張っていた。
「罠の可能性はあるが、押してみるか」
皆に確認したが反対は無かったので軽率に出っ張りを押し込む。
通路の砂埃が舞い上がり、壁が音を立てて迫りくる!
「100階に戻れ!」
叫ぶ間にも壁が押し迫る!
「あ!」
背後から悲鳴があがる! 振り返るとチュリップが転んでいた!
「お前たちは先に行け!」
足を止めたローズたちに命じて、チュリップに駆け寄る!
「ヤバい!」
チュリップを抱きかかえた時には、すでに肩まで狭まっていた!
「後ろです!」
チュリップの声を信じて後ろへ走る!
ガタンガタンと迷宮が喚き散らし、耳鳴りが襲う!
「ちくしょう!」
全速力で走り続ける!
「死んでたまるか!」
ガコンと大きな音がすると同時に、空圧で前に押し出された!
「助かったのか?」
真っ暗闇の中で気配を探る。迷宮は息をひそめたかのように静まり返っていた。
「チュリップ? 大丈夫か?」
「おかげさまで」
すぐに声が返ってきたので安心する。
「どこに居る?」
「ここです」
手を伸ばすと柔らかい物に触る。
「こら! おっぱいに触らないでください!」
「す、すまねえ!」
ハッと手を引っ込める。とりあえず、一安心だ。
だがため息を吐くと静寂と暗闇で目と耳が痛くなる!
「何も、ありませんね」
チュリップの絶望的な声色に体が強張る。
「装備は壁に飲まれてしまいました。薬や食料は念のために100階に置いてきましたから、ローズさんたちは大丈夫です。でも、私たちは持っていない」
チュリップの声が心臓を凍らせる。
状況は最悪だ。食料はもちろん松明も無いため明かりが無い。最も気配で化け物や罠の位置は分かる。だから化け物や罠は恐れない。恐ろしいのは暗黒だ! 何も見えないという状況が牙となって心に突き刺さる!
油断していた。俺たち四人なら大丈夫だと。
そうだ、四人なら大丈夫だ。
だが分断されてしまったら話が変わる!
「しくじった!」
目の前には巨大な石の巨人が五体立ちはだかる。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズの熱線が石の巨人に命中するが、石の巨人は何事も無かったかのように石の大剣を振り下ろす。
「あぶね!」
大剣が当たる前に全速力でローズを抱きかかえて離脱する。
「レイかっこいい!」
ぐりぐりと額を顔に押し付けられる。
「お前あれくらい避けられただろ! 避けろよ!」
「だって、かっこいいレイが見たかったんだもん!」
ローズが頬っぺたにキスをしてくる。嬉しいが状況を考えてほしい。
「イチャイチャするのは後だ! もうちょっと集中しろ!」
ローズを隠れているチュリップの近くに下ろすと、石の巨人の群れの中で奮闘するリリーの元へ走る。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
リリーの強烈な一撃が石の巨人の足首に当たるが、相手は怯まず地団駄を踏む。
家ぐらいなら軽く押し潰せるほどの踏みつけがリリーに迫る。
「剣術魔法! 装甲破壊!」
しかしその程度の踏みつけではリリーを殺すことなどできない。
リリーの強烈な反撃を足裏に受けた敵はたたらを踏む。
「ぶっ倒れろ!」
その隙に顔面に飛び蹴りを叩き込み、巨体を地に這わす。
しかし敵はしぶとく起き上がる。
「いったん離脱するぞ」
「分かった」
とりあえず敵の強さは分かったのでローズたちに合流する。
「耐性持ちだな」
十分距離を取ると、今までの経験から100階の守護者のからくりを導き出す。
地下二十一階から炎魔法や氷魔法、斬撃や打撃が効かない敵が現れた。
こいつらもからくりは同じ。ただし今までの敵の耐性は一種類だけだった。
「今までも耐性持ちは居たが、これほど多くの耐性を持った奴は初めてだ」
リリーが迫りくる石の巨人たちに剣先を向ける。
「しかし、手ごたえはあった。何度か繰り返せばぶち壊せるかもしれない」
構えるリリーの肩を掴んで引き留める。
「もう少し様子を見よう」
リリーは素直に頷く。
「承知した。しかし遠目から見ていても分からないと思うが」
「俺がお前たちを抱っこしてやるよ」
ローズをおんぶして、リリーとチュリップを脇に抱えると再度石の巨人たちに飛び込む。
「動きはのろいな」
石の巨人たちの間を縫うように走り抜ける。奴らは俺の動きに全く対応できない。
これなら一番足の遅いローズでも十分逃げ切れる。戦いに心配はない。
問題はローズが後ろで欠伸をしていることだ!
「ローズ、寝るなよ!」
「レイの背中気持ちいいんだもん」
「頼むから緊張感を持ってくれ」
どうも皆の身が締まっていない。さっさと片づけよう。
「何か分かったことはあるか?」
再度距離を取って皆に聞く。
「うーん。とりあえず見た目に変化は無かったかな?」
ローズが首をかしげる。
「私は何も分かりません」
チュリップもお手上げという風に両手をあげる。
「やはり攻撃あるのみでは? 今の私たちなら、たとえ一人でもあいつらの攻撃を避けられる。つまり防御は完璧。ならばあとは攻撃だ」
リリーが剣を石の巨人たちに向けて笑う。
リリーの発言の通り防御は完璧だ。走り回るだけで相手の攻撃は空ぶる。
しかし攻撃する瞬間だけ無防備になる。相手のほうが数は多い。油断は禁物だ。
「袋叩きにしてみるか」
拳を鳴らすとポキポキと音が出る。
「俺があいつらを誘導して、一体だけ孤立させる。お前たちはそいつを囲んで殴って蹴って吹っ飛ばせ」
言うが早いかすぐに敵の群れに飛び込む。
「まずはお前だ!」
地面蹴って飛び、一体だけ顔面をぶん殴って転ばす。
残りは攻撃せず引き付ける。
「こっちに来な」
奴らは愚直に向かってくる。倒れた仲間を引き起こすことなどしない。
「右手に炎魔法! 左手に氷魔法! ツインレーザー!」
「剣術魔法! 装甲破壊!」
その間にローズたちの攻撃が倒れた敵に集中する。
とてつもない轟音とともに、石の巨人が砕け散った。
「攻撃ごとに耐性を切り替えていた」
ローズたちのガッツポーズを見ると自然と笑みが出る。
石の巨人たちは仲間がやられたのにひたすら俺を攻撃する。各個撃破の的だ。
「お前ら俺よりも馬鹿だな」
攻略法が分かれば、あとは簡単だった。
「これで100階まで攻略だ」
休憩中にリリーがメモをしながら微笑む。
「わずか八か月でこれだ! 始めは1000階など無理だと思っていたが、この調子なら十分間に合う!」
「それでも地上に出るのは十年後くらいですかね? まあ、迷宮王の話だと、ここと地上では時間の流れが違うので、帰ったら皆死んでいたとはならないと思いますが」
「せっかく高まった気分に水を差さないでくれ」
リリーが口を尖らせると、チュリップは肩を竦めて水を飲む。
「しかし、順調ではある。それは問題ない」
地下二十一階からここまで問題は無かった。
敵は地下へ潜るごとに強くなるが、俺たちの敵ではない。
食料も化け物を食らえば良い。
水は神の水差しからいくらでも出てくる。
また生活用具も化け物の装備や骨、皮を加工すれば問題ない。
「問題なのは俺たちの心構えだ! 特にローズ! 油断しすぎだぞ!」
「ええー? 油断してないよ」
寝そべって燻製肉をかじる姿で言われても説得力などない。
「あのな? さっきの攻撃、どうして避けなかった? 俺が助けられたから良いが、それに期待しちゃダメだろ?」
「レイは絶対に助けてくれるから良いの」
ローズがもぞもぞと膝の上に乗る。可愛い。
「寝ませんか? 私は眠いです」
チュリップが大きく口を開けて欠伸をする。
「先に寝てろ。俺はマッピングしてから寝る」
「私も手伝う!」
ローズがぴょんと立ち上がる。
「じゃあ、私たちは先に眠ろう」
リリーがチュリップを見る。チュリップはすでに布に包まって寝ていた。
足音を立てないように広場を調べる。
罠は無く、下へ通じる階段だけあった。
「レイ、こっち来て」
調べ終わるとローズが地下101階へ通じる階段の前で手招く。
「どうした?」
ローズは傍に寄ると、そっと耳打ちする。
「エッチ、したくない?」
耳がぞくりとして、辺りを見渡す。チュリップたちは眠っている。
「良いのか?」
ローズが赤くぷっくりした唇で囁く。
「良いよ」
ローズの手を握って、地下101階へ通じる階段を下りた。
地下二十階でローズの虜になった。
気づけばローズを抱いている。
もちろん、迷宮は敵だらけの罠だらけで、おまけにチュリップたちが居る。
それでも無理やり隙を見つけて抱いた。
ローズの香り、ローズの肌、ローズの温かさ、すべてが酒のように染み渡る。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
何よりローズの美しさと可愛らしさ、いじらしさが、俺を堪らなく興奮させた。
「レイ……大好き」
「俺も好きだ」
事が終わると汗だくで抱き合い、口づけを交わす。
「私、レイになら殺されてもいい。それくらいレイが大好き。世界一愛してる」
赤い頬、蕩けた目が何度も俺を滾らせる。
「ローズ! 愛しているぞ!」
俺は口癖となった愛の言葉を語る。もはや、愛しているから口にしているのか、抱きたいから口にしているのか分からない。
俺は狂っているのかもしれない。満足するとうすら寒い気配がする。
何か致命的な間違いを犯すのでは? そんな心配に支配される。
「眠れないの?」
着替え終わり、寝床で一緒に寝ていると、ローズが心配そうに言う。
「寝るさ。お休み」
ローズにキスをして目を瞑る。
眠るとき、ローズが傍にいると安心する。
それだけは、本心だった。
眠りから覚めると予定通り地下101階へ下りる。
すぐに奇妙なことに気づく。
迷宮の化け物が発する独特な気配が感じられない。
それどころか下り階段すらない。
皆でマッピングの結果を確認するが、階段を下りたら一直線の通路のみ。扉のような物はない。
「どうやって下に行けばいいんだ?」
呟きが虚しく通路に響き渡る。返事はない。
「もう一度、確認しよう」
仕方がないので通路の壁や床、天井を舐めるように観察する。
「ここ、押せますよ」
チュリップの言葉を聞いて急いで駆けつける。
確かにレンガの一部が他より出っ張っていた。
「罠の可能性はあるが、押してみるか」
皆に確認したが反対は無かったので軽率に出っ張りを押し込む。
通路の砂埃が舞い上がり、壁が音を立てて迫りくる!
「100階に戻れ!」
叫ぶ間にも壁が押し迫る!
「あ!」
背後から悲鳴があがる! 振り返るとチュリップが転んでいた!
「お前たちは先に行け!」
足を止めたローズたちに命じて、チュリップに駆け寄る!
「ヤバい!」
チュリップを抱きかかえた時には、すでに肩まで狭まっていた!
「後ろです!」
チュリップの声を信じて後ろへ走る!
ガタンガタンと迷宮が喚き散らし、耳鳴りが襲う!
「ちくしょう!」
全速力で走り続ける!
「死んでたまるか!」
ガコンと大きな音がすると同時に、空圧で前に押し出された!
「助かったのか?」
真っ暗闇の中で気配を探る。迷宮は息をひそめたかのように静まり返っていた。
「チュリップ? 大丈夫か?」
「おかげさまで」
すぐに声が返ってきたので安心する。
「どこに居る?」
「ここです」
手を伸ばすと柔らかい物に触る。
「こら! おっぱいに触らないでください!」
「す、すまねえ!」
ハッと手を引っ込める。とりあえず、一安心だ。
だがため息を吐くと静寂と暗闇で目と耳が痛くなる!
「何も、ありませんね」
チュリップの絶望的な声色に体が強張る。
「装備は壁に飲まれてしまいました。薬や食料は念のために100階に置いてきましたから、ローズさんたちは大丈夫です。でも、私たちは持っていない」
チュリップの声が心臓を凍らせる。
状況は最悪だ。食料はもちろん松明も無いため明かりが無い。最も気配で化け物や罠の位置は分かる。だから化け物や罠は恐れない。恐ろしいのは暗黒だ! 何も見えないという状況が牙となって心に突き刺さる!
油断していた。俺たち四人なら大丈夫だと。
そうだ、四人なら大丈夫だ。
だが分断されてしまったら話が変わる!
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