迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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麻薬?

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 チュリップはリリーたちと交戦した日から通路をメイス片手に徘徊するようになった。レイのことすらも忘れたのか、手負いの獣のようにひたすら歩く。

「う! うう……」
 しかしそれが功を奏したのか、レイが少しずつ正気を取り戻す。
「こ、ここは、どこだ?」
 二日経ったころ、レイは自分一人でベッドから起き上がった。
「こ、この感覚はなんだ!」
 しかし体は燃えるように熱かった。凄まじい興奮と苛立ちで居ても立っても居られない。
「た、耐えろ!」
 レイは目をぎらつかせながら部屋の外へ出る。

「うううう!」
 チュリップは通路で獣のように呻き歩く。



「地下102階からチュリップたちの元へ行けるのでは?」
 リリーは変化前の地下101階の地図と変化後の地下101階の地図を重ねて呟く。
「チュリップが逃げた方向に線を加えると……」
 地図に点線を書き込むと、水を一口飲む。
 ガリガリと紙に思いついたことを書き出し、考えを纏める。
「精神操作系の魔法は最凶最悪だ。直接対決は避けたい」
 体育座りで俯くローズを見る。

「地下102階からチュリップの元に行けるかもしれない」
 ローズは顔をあげると鋭い目でリリーを見る。

「チュリップさんを殺したほうが良いんじゃない?」
 冷淡で落ち着いた口調である。

「あいつは操られているだけだ! それにあいつの力は欠かせない。助けるしかない」
「ふーん。まあ、良いけど」
 ローズはスッと立ち上がる。

「行こう」
 リリーはローズの顔を見つめる。
「何があった?」
 恐ろしいほど冷たい目に問いかける。
「別に……ただ……もしも……もしも裏切られたらどうしようかなって……」
 ローズの目に涙が浮かぶ。
「裏切られる?」
「何でもない。行こう」
 リリーは戸惑いながらもローズとともに地下102階へ行く。

「これは!」
 リリーは地下102階へ着くなり驚愕の声をあげる。
 通路には所狭しと無数の化け物の死体が転がる。
「誰がやった?」
 化け物の死体に触れると、ねちゃりと血がねばつく。
「チュリップさんだよ」
 ローズは暗い顔で呟く。
「確かに……これはメイスの打撲傷だ……しかし、なぜ彼女が? 洗脳が解けたのか?」
「チュリップさんは洗脳されてないよ」
「何だと?」
 リリーはローズと向き合う。

「チュリップさんはレイが好きだった」
 ローズはギリッと歯ぎしりする。
「そ、そうだったのか」
「そうだよ。だからあの時わざともたついて、私からレイを引き離した。私たちを攻撃したのはわざと。レイを独り占めするために」
 シンと寒気を誘う静けさが流れる。

「しかし、考えすぎではないか?」
 リリーは青い顔で言う。
「どうして? 愛しい人を独り占めする。殺すのに十分な理由だよ!」
 ローズの体が怒りで震える。
「落ち着け! まずは話し合うことだ! それに敵に洗脳された可能性もあ」
 リリーは言葉の途中で振り返り、背後から繰り出されたチュリップの強襲を防ぐ。
「チュリップ!」
「殺してやる! 殺してやる!」
 ギリギリとメイスと盾の鍔迫り合いが始まる。その隙にローズが杖を構える。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
 ローズが鬼のような形相で熱線を放つ。
「加護魔法! 神よ炎から我を守りたまえ!」
 熱線がチュリップの体から逸れてリリーの腕に直撃する。
「ぐ!」
 鍔迫り合いに押し勝つと、その勢いでローズの腹に蹴りをぶち込む。
「ぐぇ!」
「死ね! 死ね!」
 チュリップは苦しむ二人の首を締めあげる。
 女とは思えないほどの力だ。二人の顔から見る見ると血の気が引く。

「止めろ!」
 レイの声が響くとチュリップの手が解ける。

「あなた……愛しています」
 チュリップはレイを見るとフラフラと抱き着く。
「愛してます……愛してます」
 レイはガクガクと体を震わせる。
 そんな二人をリリーは困惑の表情で見つめる。
「何があったんだ?」

「何があった? そんなの決まってるよ」
 ローズがボロボロと泣きながら後ずさる。
「レイは私を裏切った!」
 ローズは杖を放り出して逃げる。
「待て!」
 リリーはローズを追いかける。その背中でレイたちは重なり合う。

「何があった! なぜこうなった!」
 リリーはローズを追いながら思う。

「今まで上手く行っていたのに! 仲良くやって来れたのに! なぜこんな結果に!」
 リリーはローズに追いつくと、腕を掴んで引き留める。
「離して!」
 ローズは狂乱する。その様子を見てリリーは苦悶の表情となる。

「私たちはここで死ぬ!」

 リリーの思いは当然だった。

 レイたちは四人が一丸となって生き残った。それが今はバラバラである。そしてその修復は絶望的だ。

 だがそれでも、生きるためには皆で進む必要がある。
 それは現状、リリーが一番理解していた。

「眠ってもらう!」
 ドスリとローズの腹部に打撃を加えて気絶させる。

「まずは状況を整理しないと」
 リリーはローズを担いで地下100階まで戻る。

「レイとチュリップの様子はおかしかった。何があった?」
 リリーは騎士学校時代の知識を思い出す。
「授業で習った麻薬中毒者と似ているような? そういえばチュリップは薬の調合ができる。誤って麻薬を作ってしまった?」
 冒険者手帳を開く。
「……やはり誤って麻薬を摂取した時と似ている。となると誤飲したのか? しかしチュリップは何も装備を持っていなかったはず?」
 冒険者手帳を閉じて立ち上がる。
「いずれにせよ、レイたちを連れ戻さないと」

 リリーは地下102階に戻ると、気絶したチュリップの傍で頭を抱えるレイを見つける。
「レイ……大丈夫か?」
「平気じゃない……近づかないでくれ」
 その声は今までと考えられないほど沈んでいる。

「とにかく、いったん戻ろう。話し合おう」
 リリーは一歩踏み出す。
「近づくな!」
 レイは大声で叫ぶ。

「今の俺はお前たちに何をするか分からない!」
 レイは立ち上がるとリリーに背を向ける。
「どこへ行く気だ?」
「地下101階に戻る」
「戻って何をする?」
「閉じこもる! お前たちに何かしないように!」
 レイは興奮した声で走り去った。

「あの様子……やはり麻薬を摂取してしまったのか?」
 リリーはチュリップを縛り上げると担ぐ。
「いずれにせよ、皆の頭が冷えるまで待つ必要があるな」
 リリーは深いため息を吐いて、地下100階へ戻る。

「レイ……お前は私のリーダーだ。しっかりしてくれ」
 暗い階段を上がる途中に涙を流した。
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