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麻薬?
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チュリップはリリーたちと交戦した日から通路をメイス片手に徘徊するようになった。レイのことすらも忘れたのか、手負いの獣のようにひたすら歩く。
「う! うう……」
しかしそれが功を奏したのか、レイが少しずつ正気を取り戻す。
「こ、ここは、どこだ?」
二日経ったころ、レイは自分一人でベッドから起き上がった。
「こ、この感覚はなんだ!」
しかし体は燃えるように熱かった。凄まじい興奮と苛立ちで居ても立っても居られない。
「た、耐えろ!」
レイは目をぎらつかせながら部屋の外へ出る。
「うううう!」
チュリップは通路で獣のように呻き歩く。
「地下102階からチュリップたちの元へ行けるのでは?」
リリーは変化前の地下101階の地図と変化後の地下101階の地図を重ねて呟く。
「チュリップが逃げた方向に線を加えると……」
地図に点線を書き込むと、水を一口飲む。
ガリガリと紙に思いついたことを書き出し、考えを纏める。
「精神操作系の魔法は最凶最悪だ。直接対決は避けたい」
体育座りで俯くローズを見る。
「地下102階からチュリップの元に行けるかもしれない」
ローズは顔をあげると鋭い目でリリーを見る。
「チュリップさんを殺したほうが良いんじゃない?」
冷淡で落ち着いた口調である。
「あいつは操られているだけだ! それにあいつの力は欠かせない。助けるしかない」
「ふーん。まあ、良いけど」
ローズはスッと立ち上がる。
「行こう」
リリーはローズの顔を見つめる。
「何があった?」
恐ろしいほど冷たい目に問いかける。
「別に……ただ……もしも……もしも裏切られたらどうしようかなって……」
ローズの目に涙が浮かぶ。
「裏切られる?」
「何でもない。行こう」
リリーは戸惑いながらもローズとともに地下102階へ行く。
「これは!」
リリーは地下102階へ着くなり驚愕の声をあげる。
通路には所狭しと無数の化け物の死体が転がる。
「誰がやった?」
化け物の死体に触れると、ねちゃりと血がねばつく。
「チュリップさんだよ」
ローズは暗い顔で呟く。
「確かに……これはメイスの打撲傷だ……しかし、なぜ彼女が? 洗脳が解けたのか?」
「チュリップさんは洗脳されてないよ」
「何だと?」
リリーはローズと向き合う。
「チュリップさんはレイが好きだった」
ローズはギリッと歯ぎしりする。
「そ、そうだったのか」
「そうだよ。だからあの時わざともたついて、私からレイを引き離した。私たちを攻撃したのはわざと。レイを独り占めするために」
シンと寒気を誘う静けさが流れる。
「しかし、考えすぎではないか?」
リリーは青い顔で言う。
「どうして? 愛しい人を独り占めする。殺すのに十分な理由だよ!」
ローズの体が怒りで震える。
「落ち着け! まずは話し合うことだ! それに敵に洗脳された可能性もあ」
リリーは言葉の途中で振り返り、背後から繰り出されたチュリップの強襲を防ぐ。
「チュリップ!」
「殺してやる! 殺してやる!」
ギリギリとメイスと盾の鍔迫り合いが始まる。その隙にローズが杖を構える。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズが鬼のような形相で熱線を放つ。
「加護魔法! 神よ炎から我を守りたまえ!」
熱線がチュリップの体から逸れてリリーの腕に直撃する。
「ぐ!」
鍔迫り合いに押し勝つと、その勢いでローズの腹に蹴りをぶち込む。
「ぐぇ!」
「死ね! 死ね!」
チュリップは苦しむ二人の首を締めあげる。
女とは思えないほどの力だ。二人の顔から見る見ると血の気が引く。
「止めろ!」
レイの声が響くとチュリップの手が解ける。
「あなた……愛しています」
チュリップはレイを見るとフラフラと抱き着く。
「愛してます……愛してます」
レイはガクガクと体を震わせる。
そんな二人をリリーは困惑の表情で見つめる。
「何があったんだ?」
「何があった? そんなの決まってるよ」
ローズがボロボロと泣きながら後ずさる。
「レイは私を裏切った!」
ローズは杖を放り出して逃げる。
「待て!」
リリーはローズを追いかける。その背中でレイたちは重なり合う。
「何があった! なぜこうなった!」
リリーはローズを追いながら思う。
「今まで上手く行っていたのに! 仲良くやって来れたのに! なぜこんな結果に!」
リリーはローズに追いつくと、腕を掴んで引き留める。
「離して!」
ローズは狂乱する。その様子を見てリリーは苦悶の表情となる。
「私たちはここで死ぬ!」
リリーの思いは当然だった。
レイたちは四人が一丸となって生き残った。それが今はバラバラである。そしてその修復は絶望的だ。
だがそれでも、生きるためには皆で進む必要がある。
それは現状、リリーが一番理解していた。
「眠ってもらう!」
ドスリとローズの腹部に打撃を加えて気絶させる。
「まずは状況を整理しないと」
リリーはローズを担いで地下100階まで戻る。
「レイとチュリップの様子はおかしかった。何があった?」
リリーは騎士学校時代の知識を思い出す。
「授業で習った麻薬中毒者と似ているような? そういえばチュリップは薬の調合ができる。誤って麻薬を作ってしまった?」
冒険者手帳を開く。
「……やはり誤って麻薬を摂取した時と似ている。となると誤飲したのか? しかしチュリップは何も装備を持っていなかったはず?」
冒険者手帳を閉じて立ち上がる。
「いずれにせよ、レイたちを連れ戻さないと」
リリーは地下102階に戻ると、気絶したチュリップの傍で頭を抱えるレイを見つける。
「レイ……大丈夫か?」
「平気じゃない……近づかないでくれ」
その声は今までと考えられないほど沈んでいる。
「とにかく、いったん戻ろう。話し合おう」
リリーは一歩踏み出す。
「近づくな!」
レイは大声で叫ぶ。
「今の俺はお前たちに何をするか分からない!」
レイは立ち上がるとリリーに背を向ける。
「どこへ行く気だ?」
「地下101階に戻る」
「戻って何をする?」
「閉じこもる! お前たちに何かしないように!」
レイは興奮した声で走り去った。
「あの様子……やはり麻薬を摂取してしまったのか?」
リリーはチュリップを縛り上げると担ぐ。
「いずれにせよ、皆の頭が冷えるまで待つ必要があるな」
リリーは深いため息を吐いて、地下100階へ戻る。
「レイ……お前は私のリーダーだ。しっかりしてくれ」
暗い階段を上がる途中に涙を流した。
「う! うう……」
しかしそれが功を奏したのか、レイが少しずつ正気を取り戻す。
「こ、ここは、どこだ?」
二日経ったころ、レイは自分一人でベッドから起き上がった。
「こ、この感覚はなんだ!」
しかし体は燃えるように熱かった。凄まじい興奮と苛立ちで居ても立っても居られない。
「た、耐えろ!」
レイは目をぎらつかせながら部屋の外へ出る。
「うううう!」
チュリップは通路で獣のように呻き歩く。
「地下102階からチュリップたちの元へ行けるのでは?」
リリーは変化前の地下101階の地図と変化後の地下101階の地図を重ねて呟く。
「チュリップが逃げた方向に線を加えると……」
地図に点線を書き込むと、水を一口飲む。
ガリガリと紙に思いついたことを書き出し、考えを纏める。
「精神操作系の魔法は最凶最悪だ。直接対決は避けたい」
体育座りで俯くローズを見る。
「地下102階からチュリップの元に行けるかもしれない」
ローズは顔をあげると鋭い目でリリーを見る。
「チュリップさんを殺したほうが良いんじゃない?」
冷淡で落ち着いた口調である。
「あいつは操られているだけだ! それにあいつの力は欠かせない。助けるしかない」
「ふーん。まあ、良いけど」
ローズはスッと立ち上がる。
「行こう」
リリーはローズの顔を見つめる。
「何があった?」
恐ろしいほど冷たい目に問いかける。
「別に……ただ……もしも……もしも裏切られたらどうしようかなって……」
ローズの目に涙が浮かぶ。
「裏切られる?」
「何でもない。行こう」
リリーは戸惑いながらもローズとともに地下102階へ行く。
「これは!」
リリーは地下102階へ着くなり驚愕の声をあげる。
通路には所狭しと無数の化け物の死体が転がる。
「誰がやった?」
化け物の死体に触れると、ねちゃりと血がねばつく。
「チュリップさんだよ」
ローズは暗い顔で呟く。
「確かに……これはメイスの打撲傷だ……しかし、なぜ彼女が? 洗脳が解けたのか?」
「チュリップさんは洗脳されてないよ」
「何だと?」
リリーはローズと向き合う。
「チュリップさんはレイが好きだった」
ローズはギリッと歯ぎしりする。
「そ、そうだったのか」
「そうだよ。だからあの時わざともたついて、私からレイを引き離した。私たちを攻撃したのはわざと。レイを独り占めするために」
シンと寒気を誘う静けさが流れる。
「しかし、考えすぎではないか?」
リリーは青い顔で言う。
「どうして? 愛しい人を独り占めする。殺すのに十分な理由だよ!」
ローズの体が怒りで震える。
「落ち着け! まずは話し合うことだ! それに敵に洗脳された可能性もあ」
リリーは言葉の途中で振り返り、背後から繰り出されたチュリップの強襲を防ぐ。
「チュリップ!」
「殺してやる! 殺してやる!」
ギリギリとメイスと盾の鍔迫り合いが始まる。その隙にローズが杖を構える。
「炎魔法! ファイヤーレーザー!」
ローズが鬼のような形相で熱線を放つ。
「加護魔法! 神よ炎から我を守りたまえ!」
熱線がチュリップの体から逸れてリリーの腕に直撃する。
「ぐ!」
鍔迫り合いに押し勝つと、その勢いでローズの腹に蹴りをぶち込む。
「ぐぇ!」
「死ね! 死ね!」
チュリップは苦しむ二人の首を締めあげる。
女とは思えないほどの力だ。二人の顔から見る見ると血の気が引く。
「止めろ!」
レイの声が響くとチュリップの手が解ける。
「あなた……愛しています」
チュリップはレイを見るとフラフラと抱き着く。
「愛してます……愛してます」
レイはガクガクと体を震わせる。
そんな二人をリリーは困惑の表情で見つめる。
「何があったんだ?」
「何があった? そんなの決まってるよ」
ローズがボロボロと泣きながら後ずさる。
「レイは私を裏切った!」
ローズは杖を放り出して逃げる。
「待て!」
リリーはローズを追いかける。その背中でレイたちは重なり合う。
「何があった! なぜこうなった!」
リリーはローズを追いながら思う。
「今まで上手く行っていたのに! 仲良くやって来れたのに! なぜこんな結果に!」
リリーはローズに追いつくと、腕を掴んで引き留める。
「離して!」
ローズは狂乱する。その様子を見てリリーは苦悶の表情となる。
「私たちはここで死ぬ!」
リリーの思いは当然だった。
レイたちは四人が一丸となって生き残った。それが今はバラバラである。そしてその修復は絶望的だ。
だがそれでも、生きるためには皆で進む必要がある。
それは現状、リリーが一番理解していた。
「眠ってもらう!」
ドスリとローズの腹部に打撃を加えて気絶させる。
「まずは状況を整理しないと」
リリーはローズを担いで地下100階まで戻る。
「レイとチュリップの様子はおかしかった。何があった?」
リリーは騎士学校時代の知識を思い出す。
「授業で習った麻薬中毒者と似ているような? そういえばチュリップは薬の調合ができる。誤って麻薬を作ってしまった?」
冒険者手帳を開く。
「……やはり誤って麻薬を摂取した時と似ている。となると誤飲したのか? しかしチュリップは何も装備を持っていなかったはず?」
冒険者手帳を閉じて立ち上がる。
「いずれにせよ、レイたちを連れ戻さないと」
リリーは地下102階に戻ると、気絶したチュリップの傍で頭を抱えるレイを見つける。
「レイ……大丈夫か?」
「平気じゃない……近づかないでくれ」
その声は今までと考えられないほど沈んでいる。
「とにかく、いったん戻ろう。話し合おう」
リリーは一歩踏み出す。
「近づくな!」
レイは大声で叫ぶ。
「今の俺はお前たちに何をするか分からない!」
レイは立ち上がるとリリーに背を向ける。
「どこへ行く気だ?」
「地下101階に戻る」
「戻って何をする?」
「閉じこもる! お前たちに何かしないように!」
レイは興奮した声で走り去った。
「あの様子……やはり麻薬を摂取してしまったのか?」
リリーはチュリップを縛り上げると担ぐ。
「いずれにせよ、皆の頭が冷えるまで待つ必要があるな」
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