迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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レイ、地下1000階へ

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 リリーは地下九十九階の隠し部屋に縛り上げたチュリップを放り込むと一息つく。
「自暴自棄等の仲間が居たら、落ち着くまで軟禁する」
 冒険者手帳をめくる。
「ローズも自暴自棄だから軟禁したほうが良いな」
 そう言うとチュリップの隣の隠し部屋に縛り上げたローズを放り込む。
「二三日すれば落ち着くはずだ」
 リリーは二人を見張るため、扉の前に腰を下ろす。
「問題はレイだ……麻薬中毒なら地獄の苦しみ。一人で治すことなどできない。苦しみから逃れるために薬を使ってしまう」
 カツカツと剣で床を叩く。
「ああ言われたが、様子を見に行こう」
 リリーは迷宮にある様々な物でチュリップとローズの部屋を封鎖すると、レイの元へ向かった。

「ここか?」
 地下102階を経由して地下101階の隠し通路へ進む。通路は引っかき傷の血跡がこびりついていた。
「チュリップの爪痕だ……」
 リリーは息を殺して進む。

「敵は……居ない」
 通路をざっと見渡す。洗脳するような敵も罠も居ない。それどころか化け物の肉片がいたるところに散らばっている。
「ローズの言う通り、チュリップは洗脳されていなかった」
 首を振るいながら血の足跡からレイが居ると思われる隠し部屋の前に立つ。
「レイ! 居るか!」
 返事はない。
「入るぞ」
 剣を鞘にしまって中へ入る。

「来るなと言っただろ」
 レイは部屋の隅で震えていた。
「分かっている。だが事情が知りたい」
 リリーは数歩離れたところまで近づく。

「……俺はチュリップを犯してしまった!」
 血を吐くような言葉だった。
「……チュリップの体を見れば分かる。だがそうなった理由がある! お前は理由もなくそんなことをする男じゃない!」
「理由! ちくしょう! 分からねえんだ! 気づいたら犯していた! 今もそうだ! 気分が高まって仕方ない! ただ女を抱きたいって感情しかない!」
「落ち着いてくれ。私はお前を責めに来た訳じゃない。ただ、私たちと別れた後に、チュリップの間に何があった?」

「あの罠にかかった後、チュリップと一緒にお前たちのところへ行こうと歩いた。だけど、無駄足だった! そしたらチュリップに責められた。当然だ。だけどチュリップは愛していると言ったら許してくれた。恋人だから許すと言ってくれた」
「そんなことがあったのか」
 リリーは口を覆い、唇を噛む。

「ローズの想像通りか……」
 息を整える。

「その後はどうした?」
「その後? 分からない。チュリップの傍に居ると頭がぼんやりして何も考えられなくなった」
「だけど、今は考えられるだろ?」
「チュリップとキスをしたらこうなった……気がする。とにかく分からない。分からないことだらけだ」
 リリーは松明で再度部屋を照らす。
「この荷物は、チュリップの!」
 荷物を漁る。

「地下101階と102階の地図!」
 まず驚いたのは、荷物に地下101階と地下102階のマッピング済みの地図があったことだ。さらに調べれば、得体の知れない薬やら調理器具やら何やらと。どれもこれも、すべてチュリップの荷物であり、本来はここにあってはいけない代物だった。

「なるほど……チュリップは私たちより一足先に地下101階に下りていた。からくりはこの睡眠薬か」
 簡単なメモ書きに目を通すと、媚薬、睡眠薬の文字が目に入る。

「チュリップは、私たちの食事係だった。一服盛るのも容易い。何より彼女は僧侶……回復術で副作用を消すなど簡単なことだ」
 メモ書きをさらに調べる。
「あいつは……地下二十階からこんなことを繰り返していたのか!」
 メモ書きにはリリーたちが知る由もない事実が記されていた。

 チュリップは地下二十階から、下層へ行く前日にレイたちの食事に睡眠薬を盛った。そして眠りこけるレイたちよりも先に、下層のマッピングを済ませる。
 そうしてチャンスを伺っていた。今回はそれがさく裂した結果だ。

「恐ろしい執念だ……これが本当なら、私たちは二年以上ここに居たことになる……チュリップに眠らされていた時間のほうが多い!」
 握りしめると地図がぐしゃぐしゃになる。

「レイ……これはチュリップの策略だ」
「何だと?」
 部屋の隅で蹲っていたレイが顔をあげる。

「チュリップはお前に恋をしていた。だがお前はローズと恋人だった。だから略奪するための策を練った。それが今回の真相だ」
 リリーはレイの目前まで歩を進める。
「これだけは言える。お前のせいじゃない! だから顔をあげてくれ」
 突然リリーはレイに押し倒される。

「レイ?」
 リリーは顔を赤くしてレイを見つめる。
「どうした? 苦しいのか?」
「な、殴ってくれ!」
「え?」
「自分を抑えきれない!」
 リリーは唾を飲んでレイの体を舐めるように、上から下まで見る。
「苦しいのか?」
 リリーは微笑むと体の力を抜いて、レイの頬を撫でる。

「気にするな。お前は悪くない」
「リリー? 何を言っている?」
「はは! おかしな奴だ……それは薬のせいだ。チュリップのせいだ。お前は何一つ悪くない」
 松明の炎が二人を照らす。熱っぽい明かりが二人を包む。

「レイ……私たちはどうやら、随分と思い違いをしてきた」
 リリーのリンゴのように赤い舌が、桜色の唇を舐める。
「皆、お前に頼りきりだった。あいつらだけじゃない、私も頼りきりだった。随分とお前に負担をかけてしまった」
 リリーの腕がレイの頭を包む。
「お前はリーダーだ。お前を労わるのはメンバーの務めだ。だから何をしてもいい。お前は、レイは、私のリーダーだから」
 リリーとレイは見つめあう。

「レイ……好きだ……だから、苦しいのなら存分に、愛してくれ」
「ぐああ!」
 レイは己の手首に噛みついて、リリーから離れる。

「レイ!」
「よく分かった! 俺はもうお前たちのリーダーをやっていけない!」
 レイが手首から口を離すと滝のように血が流れ落ちる。

「俺は地下1000階を目指す! お前たちは後を追ってこい!」
「待て! まずは治療だ!」
「ダメだ! このままだとお前たちをさらに傷つける! どんな理由があってもそれはダメだ!」
「お前はリーダーだ! 傷つけても構わない!」

「……何だと?」
 レイはリリーを睨む。リリーは恥ずかしげなくレイを見つめる。
「リーダーに従うのはメンバーの誇りだ! それなのに異を唱えるなどあってはならない!」
 リリーの顔が歪む。
「チュリップも悪いがローズも悪い! リーダーが恋をしたならそれを応援すべきだ! リーダーが間違いを犯すはずなど無いから信用すべきだ! それなのに二人とも取り乱して! 恥ずかしくて仕方がない!」
 リリーはレイを逃がさないように扉に立ちはだかる。
「お前は私のリーダーだ! だから何をしても許す! しかし投げ出すのは許さない! 責任を持って私を導け!」

「だったら、俺が地下1000階にたどり着くまで、あいつらを守れ!」
「え?」
「俺はもう自信がない! お前たちを守る自身が! 俺自身が自分を信用できない! だからここに居ろ! 俺は進む! 必ずお前たちを助ける!」
 レイはリリーを払いのけて部屋を出る。
「待て! 行くな! お前は私たちのリーダーだ! そして私はお前を信頼する! 何があっても!」
「聞いてて分からないか! 俺はお前たちを犯す! そんなことあってはならない!」
「あいつらを犯すのが嫌なら私を犯せばいい! お前はその資格がある!」
「俺はそれが嫌なんだ!」

 レイは涙を流して部屋を出る。
「たとえどんな理由でも、俺はお前たちを犯したいと思った! それはダメだ! だから俺はせめて! お前たちを地上に返す! そしてもう俺に関わるな! 俺はリーダーなんて柄じゃない! ただの屑だ!」
「レイ! 待て! せめて皆と話し合おう!」
 リリーの言葉はレイに届かなかった。レイはすでに地下103階へ行っていた。
 レイは一心不乱に地下1000階を目指す。後ろなど見ない。

 後ろを見ても、罪悪感しか生まれないから。



「ちくしょう! 何でだ! 何でこうなる!」
 レイは立ちはだかる敵をなぎ倒して進む。

 地下200階、マンドラゴラが生息する階層で、レイは耳を塞ぐ。
「この音波! 吐き気がする!」
 即死するほどの呪いの叫びに耳を塞いで、マンドラゴラを一掃する。
「吸収! 変換! 死に絶えろ!」
 レイの波動がマンドラゴラを駆逐する。

 地下300階、ヒュドラの大群が生息する階層で、レイは力を振るう。
「吸収! 変換! 貴様らの力をその身に受けろ!」
 ヒュドラの大群が吐き出す死の毒を操り、跳ね返す。

 地下400階、化け物の軍隊と交戦。
「こいつら! 知能を持っていやがる!」
 迫りくる化け物は鍛え抜かれた軍隊と同じくらいの統率力でレイの前に立ちはだかる。
「耐性持ち! くそ! 吸収! 朽ち果てろ!」
 数ある化け物も命を吸われては造作もない。



「ふう! ようやく調子が戻ったか」
 最下層で迷宮王ルシーがテレビの前でほっとする。
「全く! 何があったのか知らないけど、チャキチャキと進んでほしいね! お前にはそれだけの力があるんだ!」
 バリバリとスナック菓子を貪る。

「ルシー? 何を見ている?」
 ルシーの背後で虫が集まると青年をかたどる。

「おお! ベルちゃん! 見てくれ! こいつがレイちゃんだ!」
「ほう……こいつがお前が入れ込んでいる人間か」
 ベルはふむふむとテレビを見つめる。

「中中の強者だな」
「でしょ! こいつはベルちゃんが作った大陸クモをぶっ殺した男だからね!」
「人間があれを殺すか!」
「そう! おかげで地下1000階までフリーパスよ!」
「面白い人間だ。だが、大陸クモを倒したにしては、動きが鈍いな」
「うーん……それが気になるよね。もっとさくさくっと、このビスケットよりも軽やかに進むと思ったのに。一枚食べる?」
「頂こう」
 サクサクっとビスケットを二人は食べる。

「いずれにしても、これでは地下1000階に行けても、全王に会うことなどできないな」
「それなんだよね……何があったんだろ? チョコレート食べる?」
「頂こう。しかしお前は色々な品物を異世界からパクってくるな」
「異世界の人間を呼び出すの流行っているらしいよ?」
「意味不明だが、異世界の食い物が美味いことは理解できた」
「そう! 美味しいんだ! でもここが不味くちゃ何も意味が無い」
 ペッと唾を吐く。

「気に入らないね。ここまで苦戦するか?」
「見たところ、雌が三匹地下100階付近で止まっている。こいつらはレイの雌だろ? こいつらが居ないから、鈍っているんじゃないか?」
「地下十二階なら、確かにそうだろう。仲間の欠点を補う。人間の美徳だ。だがレイはすでに地下200階を単独で突破している。今なら地下十二階も一人で楽勝だ。なのになぜこれほど苦戦する!」
 ルシーはテレビの中で血まみれのレイに叫ぶ。

「まあ、いいや。それより、アスちゃん? 準備はいい? そろそろレイちゃんが1000階に来る」
「分かっています」
 どこからともなく凛々しい青年が現れる。

「しかし、良いのですか? この者では、私と出会っただけでも消し飛びます」
「それは無いと思うねー。でも、まあ」
 ルシーは悪魔のような笑みを浮かべる。
「ここで死んだら、それまでの男。せいぜい楽しませてもらおう」



「ここは?」
 レイは地下1000階にたどり着く。
 真っ白な空間であった。壁などない。まるで死後の世界だ。

「おめでとうございます、レイ!」
「ルシー!」
「久しぶり? それともまた会った? どちらでもいい。君の永遠など僕たちには瞬き程度の価値しかない!」
「どっちでもいい! とにかく俺は地下1000階にたどり着いた! 違うか!」
「間違いじゃない。君は確かに地下1000階にたどり着いた」
「なら早く俺たちを外に出せ!」
「それはダメだ! 地下1000階の中ボスを倒さないと! ゲームは序盤が終わったくらいかな? 来い! アス!」
 暗黒の空間からアスが登場する。

「始めまして、人間」
「お前は?」
「私はアス。全王の迷宮騎士団団長だ。よろしく頼む」
「なるほど! つまりてめえをぶっ倒せば地上に戻れる訳だな!」
「良き度胸だ。私を見て怯えもしない。ならば不本意だが、本気を出そう」
 アスが片手に魔力の剣を生み出す!

「魔法の剣! これは! 今までの武具よりもずっとヤバい!」
 レイは全身を魔力で防御する。
「食らえ! スペースキルスラッシュ!」
 真っ白な空間が斬撃に包まれる。

「ふむ……こんなものか?」
 アスはため息を吐いてルシーの元へ歩く。
「終わりました。戻りましょう」
「まだ終わりじゃない」
 アスが振り向くと、レイは魔力の剣を片手に構えていた!

「なるほど! さすが全王の片割れ! 最強の名にふさわしい!」

 レイとアスの鍔迫り合いが始まる!



「私は……どうすればいい?」
 レイが地下1000階で死闘を繰り広げる前に、リリーは蹲っていた。
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