迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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リリー、ローズ、チュリップ、迷宮から脱出

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「どうして私を置いて行った?」
 リリーは地下九十九階で嘆き苦しむ。

「とにかく、チュリップたちをまともにすることだ! そうすればレイも私を認める!」
 チュリップはレイが去った二日後、チュリップの元へ立つ。

「こんばんは。それともおはようかしら?」
 チュリップはリリーが扉を開けると、驚いた様子もなく、心底詰まらなそうに笑う。

「縛られているのに余裕だな」
「子供のころから慣れっこよ。鞭も合わせれば子供時代に逆戻り。あなたが男だったらもっと最低な気分になれたのに」
 卑屈な笑い声が部屋に響く。

「お前は自分が何をやったのか分かっているのか?」

「あなたが想像した通りよ。私はレイを汚した。レイはそれに苦しんだ。ざまあみろ!」

「なぜレイを傷つけた!」

「私は男が大っ嫌いなのよ! 何度も何度も裏切られた! だから絶対に好きにならない! それなのにレイは素敵だった! だから汚してあげなくちゃダメだったの! 二度と好きにならないように汚してあげないとダメだった!」

「狂っている!」

「あはは! よく言われるわ! そうよ! これが私よ! 幻滅したでしょ?」
 ケラケラと高笑いが耳に響く。

「お前のせいでチームは滅茶苦茶だ!」

「そう! それでどうするの! 私を殺すの!」
 チュリップは深いため息を吐く。
「それでもいいわ。もうこんな人生飽き飽き。さっさとくたばって、神様に文句の一つでも言ってくるわ」
 どこまでも投げやりだ。

「お前は殺さん! それよりもレイを追う!」

「……レイを追う? え? どういうこと?」
 目をパチパチさせる。
「え? あなたと一緒に居ないの?」
「なぜ一緒に居ると思う?」
「だってあなた、レイが好きなんでしょ? 傍から見ても分かるわ。だからあなたがレイを慰めているんでしょ?」
 汗がじっとりと肌に滲む。

「別に、あなたが抱かれてもいい! 男ってそういうものだもの! だからこそレイはどこにも行かない! 私から離れない! レイは女の味を知った!」

「レイは私たちを見限って地下1000階へ向かった!」
「あり得ない!」
 チュリップの歯がガタガタ鳴る。

「そんな! 私を捨てるなんて! レイと私は愛し合っているのよ!」
「レイを傷つけておいてよくそんなことが言えるな!」

「あなた分かってない! 男はやれる女を放っておかない!」
「レイはそんな男じゃない! やれようとなかろうと区別しない!」
「そんなうわべだけ綺麗な男なんて信用できない!」
 チュリップは震える手で頭を抱える。

「小奇麗なことを言う奴は皆最後は裏切る! いつもそう! だけど体を与えれば愛される! だからレイは私を永遠に愛する! そうでしょ!」
「レイは私たちを置いて地下1000階へ行った! それが事実だ!」
「うそうそうそ!」
「お前の気が狂っているのは分かった! お前に何を言うつもりはない! だがレイに謝ってもらう! そうしないと本当に私たちは捨てられる!」
「うそうそうそ!」

「そこで頭を冷やしていろ!」

 部屋を飛び出してローズの元に向かう。

「ローズ、落ち着いたか?」
 ローズの虚ろな眼が開く。

「私に何の用?」
 やけっぱちの口調が耳に障る。

「レイが単独で地下1000階に行ってしまった。すぐに追いかけるぞ」

「そっか。やっぱり捨てられたんだ」
 ローズは無表情で涙をポロポロ流す。

「何を言っているんだ?」

「だって、私に何も言わないで行っちゃうなんて、あり得ないでしょ?」

「逃げたのはお前だ! お前がレイの話も聞かないで逃げた! だからレイは単独で先に行った!」

「うるさい! 皆私を裏切った! 消えろ! 消えろ!」

「レイが死ぬかもしれないんだぞ!」

 震えが大きくなる。

「レイが死ぬの?」

「一人で向かったんだ! 危険だ!」

「レイは死なない! 絶対に!」

「とにかく、すぐに出発するぞ!」

「うそうそ! レイは死なない! 私はそんなこと望んでない! 望んでないの!」

「ごちゃごちゃ言うな!」



 レイを失った彼女たちはなんと危うい存在か。

 チュリップは錯乱していて足手まといだ。ローズは集中力が途切れていて呪文も唱えられない。比較的リリーは正気を保っていたが、焦りが強く、苛立ちを隠せない。

 そもそもメンバーの間に信頼関係はない。それどころか敵愾心を持っている。口を開けば罵詈雑言、下手をすれば殺し合いになる。それが分かっているため、皆自分一人という感じに押し黙っている。

 完全な機能不全だ。もはや一緒に歩く、それだけでも奇跡であり、同時に目も当てられないほどの一触即発状態であった。

「レイ」

 そんな彼女たちを繋ぐ唯一の言葉、それがレイであった。
 彼女たちは色々と混乱している。話し合うこともできないほどだ。だからレイに会ってもどうなるか分からない。事態はさらに最悪の方向に向かう可能性もある。
 それでもレイに会いたいという思いは一緒だった。

「これをすべて……レイが?」
 それはそれとして、彼女たちが無事に進めるのは、レイの功績に他ならない。
 レイは道行く化け物すべてを打ち倒した。また罠も血文字で示していた。そのため彼女たちは何の危険もなく迷宮を進めた。彼女たちが致命的なほど仲が悪くても怪我一つないのはレイのおかげであった。

「レイ……私たちを本当に、捨ててしまったのか……」
 だからこそ、彼女たちは悲しい。もはやレイにとって三人はお荷物だ。

 レイは会いたくないから先に進んだ。邪魔だから先に進んだ。そう思うしかなかった。

 それにしても、レイは単独で進むことで恐ろしいほど強くなった。地下300階で巨大なヒュドラの死骸がたくさん転がっている姿を見て悲鳴をあげたほどだ。
 地下400階で完全装備の化け物の大群が死んでいるところを見て眩暈を覚えた。

 何より、進んでも進んでもレイの後ろ姿が見えない。驚くべき速度だ。
 彼女たちは無心に歩いている。口喧嘩などしていない。もたついていない。それなのに追いつけない。暗闇や水路が立ちはだかっても追いつけない。
 本来ならローズやチュリップの補助が必要と思われるような通路に差し掛かってもレイに追いつけない。

「地下……1000階だ」
 気づくと三人は地下1000階にたどり着いていた。何とあっけない。
 それだけレイが強くなった証であった。

「レイ!」
 そして地下1000階にレイは居た。血まみれの姿で歯を食いしばって!

「シャドー。遊んでやれ」
 レイと対峙する青年、アスが影の分身を数百体作り出す。分身は影の剣を一斉に振り上げる!

「スペースキルスラッシュ!」
 レイの斬撃が分身を一掃する!

「私の技を模倣するとは、素晴らしい戦闘センスだ」
「うおおおお!」
「だからこそ解せない!」

 アスはレイの攻撃を容易くいなしていく。

「君ならば私程度すぐに倒せるはず。何が枷になっている?」
 鍔迫り合いが始まると、ギリギリと鋭い刃がレイの顔面に迫る。

「がっかりだ!」
 アスの蹴りが腹にさく裂すると、レイは真っ白な床に転がる。

「ん?」
 アスがリリーたちに気づく。
 リリーたちの呼吸が止まる。

「つ……強すぎる!」
 リリーたちは蛇に睨まれた蛙のように一歩も動けなくなる。
 修羅場を潜った彼女たちは、一瞬にしてアスの実力を見抜き、己が敵わぬことを悟った。

「レイの雌か」
 アスは魔力の剣を数十本、宙に浮かべる。

「お前たちがレイの枷になっているのか?」
 リリーたちに手をかざす。

「いずれにせよ、目障りだ!」
 数十本の魔力の剣がリリーたちを襲う。
 リリーたちは己の最後を悟り、目をきつく瞑った。

「ばかやろう……おれがもどるまで……まってろっていったのに」
 リリーたちが目を開ける。そこには、数十本の魔力の剣を背中で受け止めたレイが居た。

「レイ!」
 血まみれのレイを目前にして、彼女たちの目に光が戻る!

「治癒魔法! 神よ我が命を対価にレイを治したまえ!」
 チュリップの祈りでレイの傷がふさがる!

「氷魔法! アイスバーン!」
 地面が凍り付き、アスを襲う!

「こしゃくな」
 空中に逃れるその姿を狙い撃つ!

「剣術魔法! 空一閃!」
 強烈な閃光がアスの胴体を切り付ける。
 アスの体が地上に落ちた。

「人間にしてはやるな」
 アスは傷一つなく起き上がる。

「だが悲しい。お前たちでは私の敵にならない」
「そうかな?」
 レイが再度立ち上がり、三人を見る。

「……今一度だけ、俺に力を貸してくれ」
 三人は無言でうなずく。

 レイは三人にとって、太陽の存在であった。痴話げんかでいくら頭が鈍っても、体に染みついた信頼は忘れない。

 ローズがリリーとレイの背中に魔方陣を素早く描くとチュリップが唱える。
「加護魔法! 神よ彼らを斬撃から守りたまえ!」
 光がレイとリリーを包む。
「時間魔法! クロックアップ!」
 ローズの言葉と同時にレイとリリーがソニックブームを巻き上げる!

「時間魔法と加護魔法の同時使用! なるほど、舐めていた」
 アスは音速を超える二人の攻撃を紙一重で避ける!

「剣術魔法! 刀身乱舞!」
 リリーの連撃がアスを捉える!

「甘い!」
 指一つで連撃を受け止め、剣を叩き折る!

「身体強化! 握撃!」
 リリーは怯まずアスの腕を締め上げる。アスの顔が歪む!

「すべての力を俺に!」
 真っ白な空間が暗黒に包まれる。その中で唯一、レイの手刀だけが光り輝く!

「食らえ! 合体魔法! 一切両断! 空間断絶!」

 アスの体が空間ごと切り裂かれる。

「見事だ」

 アスの体が地に落ちる。

 立っているのは、レイたちだ。



「おめでとう。見事な連携だ」
 ルシーが惜しみない拍手とともに姿を現す。

「これで約束は果たした」
 レイは膝を付きながらもルシーを睨む。
「分かっている」
 ルシーは膝を付いて、天井にひれ伏す。

「全王よ、この者たちの言葉をお聞きください」
 太陽のように明るい光が現れると人間の形となる。それは大柄な男となった。

「お前がレイか」
 全王はボロボロのレイの前で仁王立ちする。

「そうだ……俺たちを迷宮の外に出してくれ」
「ふむ」
 全王は圧倒的な存在感で四人を見据える。時が止まったかのような静寂に包まれる。

「アスよ。こいつらは強かったか?」
 両断されたアスの体がたちまち繋がる。

「強かったです」
「本気を出していたか?」
「本気でした」
「その姿で、という注釈は要らないのか?」

 アスは口ごもる。

「この姿で本気でした。本来の姿ならば、残念ですが勝負にならないでしょう」
「しかし、倒したことには変わらない」
 全王はルシーに顔を向ける。

「この中で一番強いのは誰だ?」
「レイです。三人も強いですが、これから先は辛いでしょう」
「頑張ればこの三人も十分強くなると思うが?」
「頑張れば強くなります。しかしレイには遠く及びません。これから先は差が開くばかりでしょう」
「なるほど」

 全王は再度レイを見下ろす。

「リリー、ローズ、チュリップの三人の脱出を認める」
「何だと!」
 リリーが圧力も忘れて立ち上がる。

「レイの脱出も認めてくれ! そうじゃないと意味が無い!」
「私はすでに決定した」
「待ってくれ! なぜレイだけダメなんだ!」
「止めろリリー!」
 レイはリリーの腕を掴んで首を振る。

「こいつは強い……はるかに強い。逆らっちゃだめだ」
 汗がポタポタと床に落ちる。

「一つ質問だ。俺はどうすればいい?」
 レイは歯を食いしばって全王を見る。
「お前は地下9999階を目指せ。そこで私が直々に遊んでやろう」
「暇なんだな」
「とてつもなく暇だ。だからお前に会えて嬉しく思うぞ」
 全王は光となって姿を消した。



「これで、約束は果たせた」
 当初の目的であった三人の脱出が叶ってほっとする。
 これで、ケジメは取れたはずだ。

「レイ!」
 久しぶりのリリーの顔はやつれて見えた。

「久しぶりだな」
 真っすぐ顔を見るのが辛い。

「レイ……もう一度、話し合いたい」
「話し合い、か」
「そうだ! お前は、すべて自分の責任だと思っている。だけどそれは違う! もう一度、ゆっくり話し合おう」
 何とも言えない提案だ。

「正直、何を話し合えば良いのか、分からない」
 ローズに目を向ける。彼女は何も言わずに目を逸らす。
 やっぱり、辛い。
「どんな事情でも、ローズを裏切っちまった事実は変わらない。それに、チュリップの苦しみを理解していなかった。リーダー失格だ」
 リリーが涙を流す。

「レイ……自分一人を責めないでくれ」
「正直に言うと! 俺はお前らと一緒に居るのが辛いんだ!」
 思いをぶちまけると、リリーが言葉を失う。

「俺にリーダーの資格は無かった。それなのに浮かれていた。もうちっと真剣に考えるべきだった! それがこんなことになった! 合わす顔がねえ!」
 彼女たちから一歩身を引く。

「ただ……最後に一度、会えてよかった。うん。満足だ」
 ルシーを見ると、彼は微笑む。

「お別れは済んだかな?」
「ああ……もう終わりだ。こいつらをよろしく頼む」
「安心してくれ。それで、君たちはもう良いんだね?」
 彼女たちは俯くだけで何も言わない。

「さようなら。楽しかったよ」
 ルシーが指を鳴らすと、三人はルシーとともに暗黒に包まれて消えた。

「これで……一人か。なんだかんだ言って、寂しくなっちまったな」
 体は軽くなったが、もう支えてくれる仲間は居ない。これから本当に一人だ。そう思うと情けない涙が流れる。
 馬鹿な涙だ。うっとおしくなって突き放したのに、居なくなったら泣きべそをかく。男らしくない。

「さて! 進むか!」
 進もう。今はそれだけだ。
 何のために進むのか、もう分からない。だけど進もう。
 それぐらいしか、やることは無いのだから。



「地下一階に到着した。これで君たちは自由だ。お疲れ様」
 リリーたちが顔をあげると、目の前に光が広がる。土と草木の混じった空気が流れる。人の足音が聞こえる!
「ルシー!」
 リリーが叫ぶが、ルシーの姿はどこにも無かった。

「リリー! ローズ! チュリップ!」
 冒険者たちがリリーたちに近づく。
「……リーダー?」
 リリーたちは冒険者の一人を見て呟く。
 初めて迷宮に潜ったときのリーダーが目に入った。

「何も言うな! 今は休め! おい! ギルド長のバッカスさんに連絡だ!」
 バタバタと冒険者が騒ぎ立てる。

「……何のために、ここに戻ってきたんだ?」
 三人は冒険者に保護されて、迷宮を脱出する。

 心残りをそこに置いて。
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