迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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本当に伝えたい気持ち

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 地下1000階から先は魔境であった。魔法無効化の階層に始まり、毒の霧が満ちた階層、一分一秒で姿かたちを変える階層、透明な壁で道を惑わせる階層と、迷宮その物が牙を向く。そしてその中でも縦横無尽に襲い掛かる化け物たち。
 身の丈も超える武器と分厚い鎧に様々な耐性を付加した熟練の迷宮騎士。
 天井や壁を大地のごとく駆け抜け、様々な毒で致命傷を与えてくる迷宮忍者。
 透明な姿で様々な魔法を笑いながら使う迷宮道化師。
 打ち倒された化け物を蘇らせるネクロマンサー。
 それらが迷宮の仕掛けとともに大軍となって襲い掛かる。

 地下1000階までと明らかに格が違った。化け物たちの繰り出す攻撃はどれもこれも即死レベルで、普通の冒険者なら一秒も持たない。
 化け物の強さがどれほどの物か。
 迷宮道化師が使う魔法の一つに、炎魔法のプロミネンスがある。これは地下十二階でローズが死を覚悟して使った魔法だ。迷宮道化師はそれを容易く連発してくる。
 また迷宮忍者の走る速度は残像が残るほどで、瞬きする暇もない。
 迷宮騎士は剣術魔法の空一閃を連発してきて遠距離戦も近距離戦も対応する器用万能者だ。鎧も魔法が効かず、おまけに剣すらも弾くほど強固だ。
 ネクロマンサーは傷をすぐに癒し、死すらも克服させる。

 地上の人間ならば即座に絶望し、神に祈る。それほどの強さだった。

 それでもリリー、ローズ、チュリップの三人は進んだ。
 ある時は迷宮騎士の鎧を素手ではぎ取った。
 ある時は迷宮忍者を罠にかけた。
 ある時は迷宮道化師の攻撃をワザと受けて、死んだふりをした。
 ある時は敵を粉微塵にしてネクロマンサーの術を無意味にした。

 そうやって牛歩のごとく、一歩ずつ着実に、何年もかけて、傷つきながらも進んだ。

 そしてついに彼女たちは地下2000階にたどり着く。
「敵が居ない?」
 身構えた彼女たちは静寂の中で首を傾げる。

「何で敵が居ないんだろ?」
 ローズは真っ白な部屋を見渡す。
「地下1000階と同じく、アスと戦ったんだ。だからここだけ敵がない」
 リリーは傷だらけの床と壁を見る。地下1000階で戦った時と同じ傷だった。
「ある意味、ありがたいですね。ここで休みましょう」
 チュリップは腰を下ろす。



 一同が久しぶりに張り詰めた体を解す。そして汚れた服を洗うために素肌を露にすると、地下1000階に比べてとてつもなく強くなっていることが分かる。
 引き締まった体はもちろん、瑞々しい肌、力強い瞳、何より自信に満ちた笑み。
 あらゆる困難を乗り越えてここまで来た彼女たちは、素人が見ても只者ではない風格を身に纏っている。
 だが彼女たちを知る者が見て一番驚くのは、地下1000階に比べて見違えるほど仲が良くなっていることだ。

「レイは凄いね。私たちがひいひい言っているのに、一人で進んでる」
 ローズが笑うと二人も笑う。
「お前たちが惚れるはずだ」
 リリーは体をぐっと伸ばす。

「ほんと、良い男です。ある意味不幸。これじゃ外に戻っても誰に恋をすればいいのか分かりません」
 チュリップがため息を吐くとローズもため息を吐く。

「だよねー。外に戻ったらやっぱり結婚しよ」
「あら。抜け駆けするのですか? また寝取りますよ?」

「じゃあ外に出たら今度こそ白黒つけよっかー」
「良いですよ。どんな勝負をします?」

「殴り合いだとアルカトラズ様に怒られるから、魔術勝負は? 凄い魔術が使える人が勝ち」
「あなたが有利すぎますね。それよりもセックス勝負はどうです? 一番レイから搾り取った奴が勝ち」

「うわー! それは止めよう! 絶対に殺し合いになる!」
「あら? 自信が無いんですか? まあ、その小さいおっぱいじゃ無理もないですね」

「自信はあるよ。だってレイは美味しそうに吸ってくれたもん」
「なんて浮気性な人! 私のおっぱいを揉みしだいたくせに!」

「浮気したのはあんただからねー。話をすり替えないでねー」
「はいはい。私が悪かったですね。でも、どっちを選ぶのかはレイですよ?」

「もしもチュリップを選んだら、私どうしよ? 自殺でもしよっかな?」
「寝取り返せば良いじゃないですか。もちろん私は全力で阻止しますが」

「もしもレイが私を選んだらどうするつもり?」
「寝取りますよ。今度はもっと上手に。あなたが気づかないように」

「うわー最低ー」
「気づくのが遅いですよ?」

 三人は軽口を叩きあう。

「レイを探すためにここに来て、何年くらい経つんだろ?」
「約500年ですね。普通ならとっくに墓場で寝ているくらい経ってます」
「地下1000階から敵の強さが跳ね上がったからな。もっと急がないと分かっているんだが、どうにもならん」
 三人は深いため息を吐く。

「こんなペースでレイに追いつけるかな?」
「いっそ諦めて帰ります?」
「ここに来てそれは無いな」
 三人は再度深いため息を吐く。

「でも不思議だね。500年も経っているのに、レイの顔ははっきり思い出せる。ガウス様のお顔は朧げなのに」
「愛の力ですかね?」
「あいつのために来たからな。忘れたくても忘れられん」
 三人はクスクス笑う。

 食事を始める。いつも通り化け物の肉を熟成させたハムと、迷宮の通路で奇跡的に収穫した薬草のスープだ。

「甘い物が食べたい」
「外に出たらいくらでも食べてください」
「食えるだけマシだ」
「口の減らない人たちですね。美味しいの一言くらい言いなさい」
 ガツガツと胃に収める。

「チュリップも大きいけど、リリーもおっぱい大きいね」
 体を洗った後、洗濯物が乾くまで裸で過ごす。皆慣れてしまったため、胡坐をかいたり、足を伸ばしたりと、羞恥心の欠片もない。

「そうか?」
「そうだよ。羨ましい」
 ローズは自分の成長途中の胸を触る。

「揉んだら大きくなるかな?」
「大きくても邪魔なだけだぞ」
「でも小さいとなんか悔しい」

 ローズはムスッとした顔でリリーの胸を正面から揉む。

「おお! 柔らかい!」
「くすぐったいから止めてくれないか?」
「良いじゃん」
 ムニムニと大きく胸を手のひらで転がす。

「おお! 硬くなってきた!」
「止めろ! 手つきがいやらしい!」
 ガツンと一発殴られる。

「痛い」
「自業自得だ!」

 服が乾くと下着を着てグダグダと暇をつぶす。

「レイに会ったらどうしよ?」
 ローズは寝そべりながら二人を見る。
「連れ戻すだけだ」
 リリーは装備を点検する。問題は無い。
「とりあえず、謝りますか」
 チュリップは荷物を整理する。

「謝るか……何を謝ろう?」
「さてな……私としては、レイに謝ってほしいが」
「あら、何を謝って欲しいんですか?」

「私たちを捨てたことだよ」
「でもあの時の私たちだと捨てられても可笑しくないよね」
「重荷というか、重い女というか、めんどくさい女でしたからね」

「それは分かる。だがこちらにも言い分がある。それも聞かず捨てるとは許せん!」
「私がレイのこと責めたから嫌になっちゃったんだろうね。何であの時レイを責めたんだろ?」
「まずは私が謝ります。後はまあ、話の流れで」

 三人はグダグダとレイの事を考えた。



 十二分に休んだ三人は地下2001階へ下りる。
「また魔法禁止エリアだ!」
 ローズが舌打ちすると、壁から突然化け物が現れる。
「危ない!」
 リリーがローズを庇うと背中にくっきりと爪痕が残る。
「この!」
 チュリップがメイスを振り回すと、化け物は壁に溶けて行った。

「今度は壁と同化する化け物か!」
「気配がたくさんします!」
「足元!」
 全員ジャンプして床から繰り出される爪を避ける。

「走り抜けるぞ!」



 地下2000階からさらに難易度が上がった。
 迷宮の壁をすり抜け、物理攻撃も魔法攻撃も効かないゴースト。
 見るだけで体が石化する蛇女。
 不死の骸骨戦士。
 迷宮も難易度が跳ね上がり、歩くだけでも命がけである。

 それでも彼女たちは進んだ。

 そして彼女たちは地下2999階までたどり着く。
 そこで彼女たちはレイの存在を感じ取った。

「なんか揺れてない?」
「下からですね」
「レイだ! 誰かと戦っているんだ!」

 焦る体を必死に抑えて着実に進む。

「階段だ!」
 三人は苦労の末に下り階段を見つけると、息を飲んで下った。



「レイ!」
 三人はアスの前で倒れるレイを見つけると、大声で叫んだ。

「あれま? せっかく脱出したのにまた来たのかい?」
 レイとアスの戦いを見物していたルシーが三人を見る。

「レイ!」
 三人はレイに駆け寄る。

「邪魔をするな!」
 オーラを身に纏うアスが一睨みすると、三人の足が止まる。

「そこで見物してなよ。そろそろ終わる」
 ルシーがアスに目で指示する。

「分かりました」
 アスはレイの頭を掴むと、魔法の剣を作り出す。

「終わりです」
 アスがレイの胸に剣の切っ先を当てる。

「ざけんじゃねえよ!」
 レイがアスに頭突きをぶち込む。さらに腹に追撃の蹴りをぶち込んで距離を離す。

「まだまだ元気バリバリだぜ」

「やりますね」

 アスは魔法の剣を数十本、宙に出現させて戦闘態勢を取りなおす。

「レイ!」
 三人はアスの恐怖も忘れて再度叫ぶ。レイは振り返ると、目を擦った。

「……幻覚か?」
 レイはアスに背中を向ける。

「ルシー様」
「この際だ。待ってあげよう」

 アスはルシーの言葉に従い、レイの背中に一礼して下がった。



「レイ!」
 ローズが走ってレイに抱き着く。

「何でだ? 何でお前たちが居るんだ?」
 レイの顔が青くなる。

「レイを助けに来たの!」
 ローズはそれに気づかない。

「俺を助けに? 馬鹿野郎! そんなことのために戻ってきたのか!」
 レイはローズを突き飛ばして拒絶する。

「レイ?」
 ローズは泣きそうな顔でレイを見つめる。
 しかしレイは怒りをむき出しにする。

「俺はお前らを助けるために進んだんだ! なのに戻ってきてどうする!」
 レイはルシーに顔を向ける。

「三人を地上に戻してくれ!」

「レイ!」

 三人はレイに叫ぶが、レイは三人を見ない。

「また?」
 ルシーは鼻で笑う。

「こいつらが居るとアスと戦えない。それでも良いのか?」
 レイは舌打ちする。

「はいはい。じゃあ、さっさと戻ってもらおうか」
 ルシーは立ち上がって指を鳴らす構えをとる。

「待ってくれ! レイ! 話を聞いてくれ!」
 リリーがレイの腕を掴む。
「話すことなんてねえ! さっさと地上に戻れ!」
 レイはリリーの手を振り払う。

「レイ! 私はあなたに謝りに来たの! あなたに大変なことをしてしまった!」
 チュリップはレイの腕を掴んで泣いて謝る。
「今となってはどうでもいいことだ! さっさと戻れ!」
 レイはチュリップを振り払う。

「レイ……お願い……私が悪かったから……だから許して」
 ローズはレイの体に抱き着く。
「……お前らは悪くない。悪いのは俺だ」
 レイはローズから優しく離れる。

「俺は……お前たちと一緒に居るのが辛い。だからもう構わないでくれ」
 レイは三人に振り返って涙を見せた。

「何で泣くんだ?」
 リリーが涙を流して聞く。
「辛いだけさ」
 レイは涙を拭わずに答える。

「俺はお前たちを助けるために進んだ。それが叶ってホッとした。なのにまた会うなんて……」
 レイは顔を覆う。
「何でここに来たんだ? 俺を責めるためか? もう許してくれ……」
 レイは三人の前で崩れ落ちた。

「レイは……私たちを助けるために進んだんだ……私に愛してほしいとかじゃなくて」
 ローズはレイを見つめる。

「当たり前だ……愛されようが嫌われようが、お前たちを助ける。最初に誓った」
「なら、言い忘れてたことがあった」
 ローズは蹲るレイを抱きしめる。

「私を助けてくれて、ありがとう」
「……え?」
 レイは放心した表情で顔を上げる。ローズは満面の笑みで答える。

「迷宮に戻ってからずっと考えてた。何でレイに会いたいんだろうって? 愛しているって言いたいから? 違った。だって私は、レイに愛してほしかっただけ。私の言葉は上辺だけだった」
 ローズはレイの手を優しく包み込む。

「レイに会ってやっと分かった。こんな私を守ってくれてありがとう。私を外に出してくれてありがとう。そう! ただお礼が言いたかった! それだけ」
「ローズ……怒っていないのか? 嫌いになったんじゃないのか?」
 レイは情けなく涙を流しながら震える。

「嫌いになってないよ。そもそも悪いのはチュリップだし! ねー!」
 ローズはチュリップに青筋を立てる。
「はいはい、私が悪かったです。でもあなたも悪いんですよ! アンアンアンアン考えなしに盛られたら私でなくても怒ります!」
 チュリップもローズに青筋を立てる。

「私は恋人だから良いんです! だいたいうるさかったら耳栓しろ!」
「だったら洗濯も自分でやれ! お前の汁がくっついてる服を何で私が洗濯しなくちゃいけないんだ!」
「うるさいな! 洗濯は面倒だからやりたくないの!」
「後始末くらい自分でやれ! ああもう腹が立ってきた!」
「何? やっぱりここで白黒つける?」
「そうしましょう! ですがその前にやることがあります」
 チュリップはレイの前で頭を下げる。

「助けてくださり、ありがとうございます」
「チュリップ……お前は怒っていないのか?」
「怒ってますよ! 私にだって言い分はありますから! でもそれとこれとは話が別です。あなたは私を助けてくれた。お礼はしっかり言わないといけません」
 チュリップは満面の笑みを後、深く頭を下げる。

「ごめんなさい。私はおかしかった。あなたがそこまで傷つくなんて考えもしなかった。許してください」
「いや……もう良いんだ。俺も悪かったから」
「ならこれで仲直りですね! はい! もう私は悪くありません!」
「この女……」
 レイがぼんやりする前で、ローズは般若の顔でチュリップを睨み、チュリップはそれに答えて中指を立てる。

「結局、私は最後までレイの事を考えなかったな」
 リリーはレイの前でため息を吐く。

「私はお前に礼を言っていなかった。ありがとう。当たり前の言葉なのに忘れていた。馬鹿な女だった」
「リリーは、怒っていないのか?」
「私はこの二人に巻き込まれた形だからな。こいつらを恨んでも、レイを恨む理由はないさ」
 リリーはレイの手を掴む。

「レイ。私を導いてくれて本当にありがとう。だから一緒に外に帰ろう。私たちはそのために来たんだ」
 レイはリリーの言葉に、涙を流して、笑った。



 心に重しのごとく圧し掛かっていた陰鬱感が無くなる。
「そっか……俺は、お前たちにありがとうって言われるくらいには、頑張れたんだな」
 体中の血液が熱さを取り戻す。

「そうだ……俺はお前たちが大好きだから、一緒に戻ろうって思ったんだ」
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