迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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人質と甘言

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 地下9100階のフロアマスターは城の大会議室で、部下たちの報告を聞いていた。
「教育は順調ね」
 フロアマスターは報告を一通り聞くと微笑む。

「はい。そして女王の予測通り、識字率が上がったことで経済が活発に回っています。正直、最初は女王の提案が理解できませんでした。なぜ庶民に教育を進めるのか? しかし今になって分かりました。申し訳ございません」
 貴族委員たちが会釈すると女王は静かに立ち上がり、頭を下げる。

「こちらこそ、無理なお願いを聞いてくれてありがとうございます。庶民に教育を浸透させる。言葉にすれば簡単ですが、実現は難しかった。働かなくては食べられない。その巨大な問題は私だけでは太刀打ちできませんでした。あなた方、貴族の誇り高き力添えが無ければできませんでした。ありがとうございます」
 貴族委員たちは感動したようにスタンディングオベーションで女王を称えた。



 フロアマスターの名はリカと呼ぶ。前世はOLだった。ストーカーに背中を刺されてしまい、異世界へ転生した。

「チート? 今度は殺されないように強くして頂戴」
 彼女は女性でありながら最強の肉体を手に入れた。

 しかし王家の娘として生まれた彼女は、その力を振るうことなく結婚し、子供を産んだ。

 夫は大臣の息子であり、誠実で優しく、知性があり、顔も良かった。
 しかし不運なことにはやり病にかかって、若くして先立ってしまった。

 彼女は泣いたが、子供が居たおかげで立ち直り、夫に代わって国営に勤しんだ。
 イギリスのエリザベス女王のように。



 リカは業務が終わると薄暗くなった廊下を小走りで進む。
「忙しかったから全然かまってあげられなかったけど、泣いてないかしら? それとも気にしてない? どっちも嫌だな」

 子供部屋の前に立つと両手で顔をマッサージし、笑顔を作る。
「よし! 完璧!」

 気合を入れて子供部屋の扉を開ける。
「暗い? おかしいわね。蝋燭は十分にあるはずなのに?」
 蝋燭に火をつける。

「今晩は」
 タケルが子供を抱いて笑っていた!

「あなたは一体誰!」
 リカは歴戦の格闘家のように拳を構える。
 タケルは不敵に笑う。

「俺が誰か? 俺は全王の忠実なる僕にして、お前らの神様だ。首を垂れな」
「ふざけるのも大概にしなさい!」
 リカは子供に目を向ける。
 子供は不自然なほど安らかに寝息を立てている。

「動くなよ。子供が死ぬぜ。そいつらみたいに」
 リカはタケルの視線を追って部屋の隅を見る。血まみれの教育係の死体が山積みされていた!

「何てことを! この外道!」
「落ち着け」
 リカはタケルの笑みに耐えるしかなかった。

「レイたちの討伐任務は知っているな?」
「レイ? 全王の手紙に書かれていた奴ら?」

「そうだ。戦う準備は万全だな?」
「ええ! あなたともすぐに戦えるわ!」

「嘘を吐け。何も準備していないくせに」
 タケルはくつくつ笑う。

「どうもお前は、あの手紙が冗談だと思っているようだ。だから真面目に成れない」
 タケルの笑みが悪魔のように引きつる。

「子供が死ねば、目も覚めるだろう」
「この外道が!」
 リカは我慢できずにタケルに飛び掛かる。その速さは音すらも置き去りにするほど速い。

「遅いな」
 だがタケルにやすやすと首を掴まれた。

 リカはタケルに首を掴まれて宙づりになる。

「どうもお前さんは人間という存在を侮っているようだ」
「ぐ! が!」
 ギリギリとリカの首が締まる。リカは暴れるが、タケルはビクともしない。

「人殺しって言葉の意味は分かるな? ならどうして人殺しなんて言葉が存在すると思う? 本当に人を殺す奴が居るから存在する。俺のような人殺しが居るから存在する。理解できるな?」
 リカの顔が真っ青になり、体が痙攣を始める。

「人殺しってのは、対岸の火事じゃない。すぐそこに存在する。気づいたときには、もう遅い!」
 タケルはリカを放り投げる。リカは壁に背中を打ち付けると、ゴホゴホとせき込んで倒れる。

「目の前で我が子が死ねば、その生ぬるい頭にも火が付くだろう」
 タケルは子供の首を締め上げる。

「やめ……でーーーー!」
 リカの叫びとともに、子供の首が折れた。

「レイを殺せ! そうすれば子供は生き返る!」
 タケルは子供の死体をリカに投げつけて笑う。

 リカは壊れたように子供を揺さぶる。

「れーちぇる? れーちぇる? めをあけて……」
 何度も何度も揺さぶる。

「チッ! 壊れちまった! 詰まらない奴だ」
 タケルは魔法の剣を生み出して、リカに振り上げた!

「この馬鹿野郎が!」
 窓からレイが参上すると、タケルの後頭部をぶん殴る!

「想像以上に早い! 次は気合を入れないとな!」
 突如出現した下り階段に、タケルは逃げ込んだ。



「あの野郎! 何がフロアマスターを倒さないと下り階段は見つからないだ! てめえの気分で作れるんじゃねえか!」
 レイは下り階段を苦々しく睨む。

「レイ!」
 レイはローズに呼ばれたので急いでリカに駆け寄る。

「タケルの奴……罪の無い奴らまで無差別に」
 積み重なる死体と正気を失ったリカを見てため息を吐く。

「こうなると、タケルに狙いを絞ったほうが良い。とてもではないが、こいつらまで庇えない」
 リリーもため息を吐いて、部屋を見渡す。

「ダメだ。それは隙になる」
 レイははっきりとリリーの考えを否定する。
「でしょうね。先ほどのやり取りを見る限り、タケルは人質や甘言を用いて、フロアマスターをけし掛けてきます。良い人でも、愛しい人を殺されるか人質を取られれば、私たちに牙をむきます」
 チュリップは死体やリカ、部屋をじっくりと眺めながらレイに肯定する。

「なるほど。上手い手だ。そして想像以上に厄介だ」
 リリーは死体の前で歯ぎしりする。

「だけどタケルは無視できないよ」
 ローズは空間に浮かび上がる下り階段の周りを調べる。

「無視する気はないが、優先するのはフロアマスターだ」
「なぜだ?」
「フロアマスターは人質であり、あいつにとって駒でもある。必ず接触してくる。何より、残念だがあいつの気配を感じ取ることができない」
 レイは苦々しく部屋を歩き回る。

「考えはそこらへんで止めましょう。下手な考え休むに似たりです」
 チュリップはリカに呪文をかけて眠らせる。

「そうだな。とりあえず、ダメ元で蘇生を再度試みよう」
「またですか? まあやりますけど」
 チュリップは目を瞑ると、額に汗をかくほど集中して呪文を唱える。

「ダメです。やはり魂が消えています」
「待てよ? 魂が消えている? どこに消えたんだ?」
 レイはチュリップの結果を聞くと、子供の胸に手を当てる。

「残り香がある! これを辿れば!」
 レイは息を止めて額に青筋が立つほど集中する。

「これだ!」
 レイはカッと目を見開くと額の玉のような汗を袖で拭う。

「もう一回やってみてくれ」
「分かりました」
 チュリップは再度呪文を唱える。
 子供が息を吹き返した!

「え! 何で!」
「全王だ! あいつが魂を吸っている! だからそれを手繰り寄せた!」
 レイは死体を並べると次々に魂を引き戻す。

 蘇生は成功した。



「あら? 私、何をしていたのかしら?」
 リカは自室のベッドで目を覚ます。隣には我が子が安らかに眠っている。

「可笑しいわね。何で涙が出てくるのかしら」
 リカは子供の頭を撫でると涙を流して微笑む。

「……ありがとう」
 彼女は子供の額にキスをして呟いた。



「蘇生された!」
 地下9101階、タケルは山小屋の中で大声を出す。
『お前が殺した使用人と子供の魂を奪い返された。驚くべき才能だ』
 タケルの影が喋る。

「そうか。予定より随分と早い。こうなると、地下9150階辺りで、俺の気配を感じ取り始めるだろう」
『嬉しい限りだ。早くお前を殺せる程度に成長してほしい』
 影はにたりと笑う。タケルは暗黒を生み出すとそこに手を突っ込み、煙草を取り出す。

「簡単に殺されるつもりはないぜ」
『当然だ。お前は全力で戦え。そうしなければお前を僕にした意味が無い』
「くそったれが。いつか反逆してやる」
『もしもレイに勝てれば相手をしてやろう』
 影は再度、不気味に笑うと、それっきり笑わなくなった。

「全く、レイも嫌な相手に気に入られたもんだ」
 フーと煙を吐き出すと、暗黒に手を突っ込み、ビール缶を取り出す。

「まあ! それとこれとは話が別! 今は全王じゃなくて俺が相手! 存分に遊んでもらうぜ!」
 タケルはビールを一気飲みすると、山小屋から飛び出した。
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