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魔法封じ

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 地下9299階でついにタケルの気配を感じ取ることができた!
 フロアマスターに接触される前に急いでタケルの元に向かう!
「ついに捉えられた! こいつは参ったぜ!」
 タケルの手が赤く燃える!

「止めろ!」

「残念だが、一手遅かった!」

 世界は獄炎に包まれた。



 目を開けるとすでにタケルの姿は無かった。
「迂闊だった!」
 現実改変で炎を消し、世界を元通りにする。

 しかしフロアマスターの魂だけ戻らない。

「フロアマスターは全王と何かしら契約をしている。それが原因で、手繰り寄せることができない」
 また罪のない命が消えた!

「魔法封じをやっておくべきだった!」
 己の馬鹿さ加減に腹が立つが、悔やんで足踏みしている暇はない。急いでタケルが作った階段を下り、その間にタケルを捉える計画を伝える。

「次の階層は現実改変で魔法その物を封じる。もしかするとそれで危険になるかもしれないが、覚悟してくれ」
 今まで魔法を使ってタケルを追っていた。しかしそれが原因で、この事態を引き起こした。ならば魔法を封じて、自力で見つけるしかない。
「分かった。でもそれだとフロアマスターに会えなくなるんじゃ?」

「今までの経験からして、フロアマスターは何かしらの権力者だ。聞き込みをすれば必ず見つかる」
「しかしそれではタケルには一歩劣ります。あいつはフロアマスターが誰か知っています。人質を取られるかもしれません」
 チュリップの言い分も最もだ。だがそれでも魔法を封じなければ、タケルを足止めできない。

「魔法が使えないとなると、人質を取るのも苦労する。必ず準備をするはずだ。その間に見つける」
「しかし、そうなるとフロアマスターが少々心配だ。魔法を封じられると、あいつらにも不利益があるのでは?」
 リリーの言葉は頷ける。だが命には代えられない!

「全部終わったら時間を戻すなりすればいい!」
 階段を下り終わると街中へ出る。火の海に包まれていない!

「現実改変! 魔法封じ!」
 急いで魔法を封じる。これで時間稼ぎができるはずだ。

「炎魔法、ファイアー」
 ローズが呪文を唱えても何も起こらない。

「ちゃんと魔法は封じられてるよ」
「よし、すぐに探すぞ」
 改めて辺りを見渡す。

「しかし……ここはどこだ?」
 今まで魔法に頼りっぱなしだった。その結果、いざ使えなくなると、情けないが浮足立ってしまった。



「落ち着け落ち着け。こうなることも承知のはずだ」
 深呼吸して辺りを観察する。

 後ろは高い鉄柵が立ちはだかる。目の前には大きな屋敷が見える。遠くには小奇麗な服を着た男女が見える。

「ここ、学校の裏庭みたい」
「学校? 俺たちは学校に居るのか」
 ここが学校か。となると男女が着ているのは制服という奴だ。かっこいいが、俺が着ても似合わないだろう。俺には小さすぎる。ああいうのはスラリとした奴が似合う。

「改めて思ったんですが、聞き込みをするに当たって、言葉はどうするんですか? 今までは魔法で無理やり会話していましたけど」
「……なんてこった」
 チュリップの指摘で気づくと、頭がズキズキと痛くなる。

「まずは高いところに上ろう! もしかするとタケルかフロアマスターが見つかるかも!」
「馬鹿と煙は高いところが好きと言いますが、本当でした」
「うるさい! とにかく上るんだよ!」

 冷や汗ダラダラだ。こんな展開で大丈夫か? いや! やるしかない! それに俺たちが困っているなら、タケルも困っているはずだ!



 地を蹴って学校の屋根に立つ。
「危うく落ちそうでした」
 チュリップがほこり塗れで屋根に手をかける。
「体が鈍っている。この程度の壁を駆け上がることになるとは」
 リリーは壁を駆け上がると薄っすらと浮き出た汗を布で拭う。
「私は登れない。魔法って便利」
 背中でローズがため息を吐く。

「気分を切り替えろ。迷宮に居た頃を思い出せ」
 目を閉じて耳を研ぎ澄ます。

 様々な人の足音や声が聞こえるが、その中にタケルの音はない。
 臭いを嗅いでもタケルの臭いはしない。

「タケルは私たちから迷宮の道中を聞いた。それを考えると、体臭や足音など痕跡は消しているだろう」
 リリーは目を細めて点になった町の人々を見つめる。

「参りましたね。よく考えればタケルは全王の僕。ならばこの世界のことも良く知っているはず。そうなると溶け込むなど造作も無いでしょう」
 チュリップは山など人気のないところに目を向ける。

「ねえ! 下から私たちが分かる言葉を話す人がいるよ!」
 目を閉じて下に意識を向ける!



「何で! 何でこうなったの!」
 確かに、俺たちに分かる言葉を話す女が居た!



「フロアマスターだ! 一階に居る!」
 屋根から地面に飛び降りて、建物の中に入る!

『nandaomaera! dokokarahaittekita!』
『tomare!』

 異世界の住民が何か言っているが、押しのけてフロアマスターのところまで進む。

『maria! omaetonokonyakuhahakisuru!』

「そんな! 何で今更!」

 広場のように広い会場に、フロアマスターが居た!

『jibunnomunenikiitemiro!』

 フロアマスターは女で、男と何か口論している。周りを見ると全員がフロアマスターに敵意を向けている。

「まるで裁判だ」
 リリーが場の雰囲気に固まる。俺自身刺々しい空気で固まる。

「何で! どうして洗脳が切れたの? どうしてどうして?」
 フロアマスターはぼそぼそと口に手を当てて呟く。よほどショックなのだろう。こちらには一瞥もくれない。

『tukamaetazo!』
 そうやってぼんやりしていると、騎士のように体格の良い男たちに捕まれる。

「お邪魔みたいだから、いったん出よう」
 背中でローズが耳打ちする。

「どうも男と女の関係で揉めているようです。変に関わると面倒なことになりますから、退散しましょう」
「フロアマスターの顔も分かったことだし、さっさと離れよう」

 なぜかローズたちがフロアマスターに冷たい。それにイライラしているようだ。

「タケルが狙っているかもしれない。場を乱すが構ってられるか」
 男たちを引きずってフロアマスターに近づく。

『nandaomaetatiha!』
 貴族風な男がこちらを見て声を荒げる。するとフロアマスターもこちらを見る。

「あんた、誰! まさかレイ!」
 そうだと答えようとした瞬間、キリキリと弓を引き絞るような音が聞こえた!
「ローズ! 退け!」
 ローズを背中から振り落としてフロアマスターに駆ける!

 フロアマスターの体を抱きしめると背中に激痛が走る!

「おいおい! 背中の筋肉で受け止めるか! 普通だったら貫通して心臓をぶち抜いているのに! 魔法が無いのに化け物とは参った!」
 カーテンの影からタケルが現れる!

「タケル!」
「いくら何でも早すぎだぜ! おかげでこんなおもちゃしか用意できなかった!」
 タケルはパチンコに玉を装填すると再度引き絞る!

「スリングショット! おもちゃだが、本来は獣を仕留める道具! お前は馴染み深いかな? 頭に当たればさすがに死ぬぜ!」
 タケルが笑う横でリリーとチュリップが武器を振る!

「見え見え」
 タケルは絶妙なカウンターを決める! だがリリーたちの根性を舐めるな!

「シッ!」
 リリーたちの攻撃でタケルの前髪が切れる!

「とんでもねえ女だ!」
 タケルは二階の窓まで跳躍すると笑う。

「魔法が無い世界での殺し合い! 俺が待ち望んでいた展開だ! 守ってみろ! 殺してみろ! ハハハ!」
 タケルは窓を突き破って、姿を消した。

「あの野郎、絶対にぶっ倒す!」
 タケルに捨て台詞を吐いて、腕の中のフロアマスターの顔を見る。

「大丈夫か?」
 フロアマスターは目をパチパチさせると、顔を真っ赤にさせる。

「触るな!」
 思いっきり引っ叩かれた!
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