迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

文字の大きさ
54 / 78

哀れなるフロアマスターたち(非道なるルール改変)

しおりを挟む
 地下9099階のフロアマスターはいつも通り草原で日向ぼっこをしていた。
「今日もいい天気」
 空を飛ぶドラゴンや怪鳥を眺めて欠伸をする。



 地下9099階のフロアマスターの名前はマイコという。中学三年の修学旅行中、バス事故でクラスメイトと一緒に異世界に転生した。

「異世界転移! こいつらと!」

 マイコは全王から説明を聞いたとき焦った。理由として、マイコはクラスメイトと仲が悪かったためだ。

「お前、チームから出て行け」

 だから彼女が仲間外れにされたことも必然だったのかもしれない。

 しかし彼女は仲間外れにされたことで吹っ切れた。

「好きに生きよう! どうせ元の世界に戻っても嫌なことばっかだし!」
 それから彼女は一人で異世界を歩くことになった。

 さて、彼女が得たチートは誰とでも会話できる力であった。

「会話? 言語理解はデフォルトで貰えるのに何貰ってんだ? やる気あるのか! 魔王を倒さないと元の世界に戻れないんだぞ!」
 全王に願った時、クラスメイトから顰蹙を買ったが、彼女はこれこそ異世界で生活するために必要なチートだと確信していた。

「モンスターも生き物だし、魔王も生き物だし、話せば分かるよね! それに犬とか猫と話すの夢だったし!」
 そんな楽観的な考えだったが、見事に当たった。

「お前、私の言葉が分かるのか!」
「分かるよ」
 一人で暮らして一週間、ブラリと何となくダンジョンに潜ると、スライムたちと出会って、会話をした。

「そうか! ならば地上にある雑草を分けてくれないか!」
「雑草? 何で?」
 なんでも女王スライムが飢餓状態だから、何か食べる物が欲しいということであった。

「あー。ダンジョンだとご飯少なそうだし、納得」
 ダンジョンの出入り口は見張りが居たため、モンスターは出られない。しかしマイコは違う。

 彼女は何の問題も無く、沢山の雑草をスライムたちに渡した。

「ありがとう! ぜひ女王と出会ってくれ!」
 こうして彼女はスライムたちと友達になった。

「マイコ、折り入ってお願いがあります」
 友達になって一週間経つと、女王スライムから、ダンジョンで起こるモンスター同士の縄張り争いを収めて欲しいと依頼があった。

「魔物でも種族が違えば言葉が違います。相手が何かを言っているのは分かるのですが、詳細は分からず、結果、意味も分からず殺し合っている状況です」
「それは辛いね。分かった」
 彼女はダンジョンに住むさまざまなモンスターと会話した。

「つまり、ご飯が少ないから、皆それを探している。だから縄張りを広げる。その過程でぶつかる。相手が何を食べるのか、自分が何を食べるのか、会話ができればもっと穏便に済んだけど、できなかったから殺し合うしかなかった。悲劇」
 彼女は争いの原因に気づくとそれを解決するために奔走した。

「スライムの体液は回復ポーションになる。スケルトンの骨は家畜の餌になる」
 彼女はモンスターの素材を少しずつ町へ売り、その小金でモンスターたちの食糧を買った。

「マイコ、ありがとうございます」
 数か月後、ダンジョンのみならず、国中のモンスターの長たちが喜んで彼女にかしずいた。
 こうして彼女はモンスターマスターとなった。

 ちなみに彼女はモンスターマスターとなったその日に、モンスター共通の言語を発明した。

「私が居なくても会話できれば平和だね」
 彼女の読みは当たった。時間こそかかったが、モンスター同士の争いは無くなり、それどころか協力するようになった。

「ドラゴンがモンスターを背に乗せて飛んでる!」
 彼女は大いに喜んだ。

 いったん経営が乗り出すと雪だるま式に上手く行く。なぜならその波に乗ろうと考える者が現れるから。

「ちょいと相談があるんだが」
 馴染みの道具屋に声をかけられたのも必然であった。

「お店を大きくしたい? 良いよ。もっとたくさん材料が欲しいんだね」
 店はすぐに大きくなった。マイコが安定してモンスターの素材を沢山持ってくるから当然だ。

「ありがとう! これは分け前だ! これからもよろしくな!」
「こんなにたくさん! ……良いのかな? あれ全部皆の排泄物みたいな物なんだけど」
 とにかくマイコは都でも厚い信頼を得ることになった。

「お前が、マイコか」
 都で有名になれば王様が訪ねて来るのも当然だ。

「王様! モンスターも悪い奴じゃないよ!」
 こうして彼女はモンスターと人間の共存に成功した英雄となった。

「マイコとは、お前か」
 そこまで有名になれば、魔王が訪ねて来るのも不思議ではない。

「本当に俺の言葉が分かるとは!」
 魔王は穏便であり、人間との戦争を止めたがっていた。しかし言語の壁がそれを塞いでいた。

「大丈夫! 話せば分かるよ!」
 マイコはそれをぶち破った。

 結果、彼女は長年に渡って続いたモンスター大戦争に終止符を打った聖女となった。

 またモンスターと人間の交流を可能にしたことで、文明を加速的に発展させた救世主となった。

 ちなみにクラスメイトはひっそりと、王族に暗殺されたり、野垂れ死にしていたり、魔王に殺されたりして全滅していた。



「こんなところで何をしている?」
「あ、まーちゃん」
 魔王が空間転移で現れると、マイコはにへっと笑う。

「今日は総合大会議のはずだろ。魔物の長たちと人間の長たちが話し合う大事な日だ。お前が居なくてどうする?」
「私が居なくても、今は文字があるから大丈夫でしょ」
「それはそうだが」
「それに、今日は人と会う約束をしているの」
 マイコは緊迫した目で雲を見つめる。

「来た!」
 雲が日本語の形になると、マイコは立ち上がる。

「何があった?」
 魔王はマイコの肩を掴む。マイコは振り返ると悲しげに笑う。

「神様からの命令があったの。元の世界に戻れって。だから、今日でお別れ」
「元の世界?」
「何言っているか分からないと思うけど、とにかく、今日でお別れ」
「待て! 別れるなら皆に挨拶しろ!」
「良いの! じゃあね! 私が居なくても仲良くしてね!」
 マイコは走って、魔王を振り切った。



「皆のために戦うんだったら、戦いのチートも貰っておけばよかった」
 湿地帯でマイコはレイたちを待つ。

 しばらくするとレイたちがマイコの前に現れる。

 マイコの表情は暗い。

「お前がフロアマスターか?」
「そうだよ。あなたはレイね?」
「そうだ……お前、まだガキだろ?」
「そっちだってガキでしょ」

 マイコは慣れない手つきで拳を構える。

「武器を持っていないのか!」
「私、箸より重い物持ったこと無いの!」

 マイコは今にも泣きそうな顔だ。それでも拳は下ろさない。

「簡単にはやられないから! 皆を殺させないから!」
「待て! 俺たちは下り階段の場所が知りたいだけだ!」
「下り階段? 何を言っているの?」
「何だと! 全王から何も聞いていないのか!」

「聞いてるよ! あなたたちが世界を食らう化け物だって!」

 レイたちは固まった。
 その間にマイコは呪文を唱える。
 マイコは皆と会話することで様々な呪文を教わることができた。
 チートは無くても戦える力を得た。

「皆を守るために、倒す!」
 マイコはレイたちに突撃する。



 俺もローズたちも困惑を隠せない。
 フロアマスターは戦いの素人だ。だから勝つのは簡単だ。
 だが勝つことに意味はない。目的は下り階段を見つけること。
 それを知らないとはどういうことだ!

「タケル! お前の仕業か!」
 フロアマスターの攻撃を受け止めて、タケルを睨む。

「ルールが変わった」
「何だと?」

「つまり、そいつを殺さないと先に進めなくなった」
 タケルは冷たい笑みを浮かべやがった!

「てめえ!」
 タケルの胸倉を掴む! こいつが何かしやがった!

「暴れるなよ、お前ら。フロアマスターがくたばるぞ」
 横を見ると、肩を押さえるフロアマスターが居た。攻撃を受け止めた衝撃で肩が外れてしまった!

「ここまでの戦いで十分分かっただろ。お前たちは強すぎる。吐息でもフロアマスターを殺せる。だから落ち着け。ここまでの旅で分かった。お前たちは優しい奴だ! 殺したくないだろ!」
 思いっきりぶん殴ってやりたいが、そうすると風圧でフロアマスターが怪我をする恐れがある!
 そうやって躊躇していると、突然タケルが煙のように姿を消した!

「フロアマスターを殺さないとお前たちは先に進めない! ははは! 優しいお前らには無理な話だ!」
「タケル!」
 叫んだ瞬間、若い女のフロアマスターの首が飛んだ!

「特別に殺してやった! 次の階層も俺が殺してやる! 俺は案内人で、お前たちの友達だからな!」
「クソ野郎が!」

 くそったれ! タケルの奴! 本性を現した! そしてその本性は吐き気がするほど邪悪だった!

「フロアマスターを人質にしやがった!」
 フロアマスターは敵? ふざけるな! これまでの旅で分かった。フロアマスターは人間だ! ムカつく奴は居るが、人間だ! 人間を殺していい訳がない! たとえ敵でも!

 だが今はタケルにムカついている場合ではない! フロアマスターを蘇生させないと!

「チュリップ! 治療を!」
「ダメです」
 チュリップは残酷な事実を首を振ることで告げる。

「魂がどこかに消えています。治しても、目覚めることはありません」

「……そうか。分かった。だけど、せめて体だけでも治してくれ」

「分かりました」

 フロアマスターの体は綺麗に元に戻る。だが目覚めない。

「時間を巻き戻してもダメ。タケルは明らかに、私たちよりも強力な能力を持ってる」

 ローズは悲し気にフロアマスターの顔を撫でる。

「レイ、私はこれから非情なことを言う。フロアマスターは敵だ。タケルが殺してくれるならそれでよいのではないか?」
 リリーがきっぱりと、冷酷な選択肢を突きつける。

「もちろん、それはダメだ。今までの戦いで分かっただろ。こいつらは人間だ。そしてこいつらは俺たちよりも弱い。タケルよりも弱い!」
 拳を握りしめる。まさかこんな手で俺たちを攻撃してくるとは!

「分かった。それにしても、こんな手で私たちに牙を向くとは」

「今までの旅は、フロアマスターが人間だと理解させるための物だった。そうすれば、レイがフロアマスターを守るように行動する」

「レイの考えを理解しないとできない行動。あいつ、私たちが考える以上に頭がいい」

「その通りだ。そして実にくそったれなことに、フロアマスターを守るためには、罠もくそも飲み込んで進む必要がある! それがあいつの狙いだった!」

 襲ってくることは百も承知だった! だがまさかフロアマスター、つまり敵を人質にしてくるとは!



「貴様ら! マイコに何をした!」
 顔を上げると、この世界の住人たちが鬼のような形相で睨んでいた。

「逃げるぞ」
 時を止めて即座に離脱する。そしてその状態で下り階段を探す。

 下り階段は都の外れにある、立派なダンジョンの奥にあった。

「時を動かしてくれ」
 ローズにお願いして時間を動かす。そして、フロアマスターを追ってきた人々の様子を見る。



「マイコ! マイコ! 目を開けてくれ!」
 皆がフロアマスターの体を揺さぶって泣いている。

 この世界のフロアマスターはいい奴だった。
 これから先にもたくさん、いいフロアマスターが居るだろう。

「タケル! てめえの顔面に一発ぶち込んでやるからな!」
 拳を握りしめて階段を下りる。

 まずはタケルかフロアマスターを見つけないと!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...