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哀れなるフロアマスターたち(非道なるルール改変)
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地下9099階のフロアマスターはいつも通り草原で日向ぼっこをしていた。
「今日もいい天気」
空を飛ぶドラゴンや怪鳥を眺めて欠伸をする。
地下9099階のフロアマスターの名前はマイコという。中学三年の修学旅行中、バス事故でクラスメイトと一緒に異世界に転生した。
「異世界転移! こいつらと!」
マイコは全王から説明を聞いたとき焦った。理由として、マイコはクラスメイトと仲が悪かったためだ。
「お前、チームから出て行け」
だから彼女が仲間外れにされたことも必然だったのかもしれない。
しかし彼女は仲間外れにされたことで吹っ切れた。
「好きに生きよう! どうせ元の世界に戻っても嫌なことばっかだし!」
それから彼女は一人で異世界を歩くことになった。
さて、彼女が得たチートは誰とでも会話できる力であった。
「会話? 言語理解はデフォルトで貰えるのに何貰ってんだ? やる気あるのか! 魔王を倒さないと元の世界に戻れないんだぞ!」
全王に願った時、クラスメイトから顰蹙を買ったが、彼女はこれこそ異世界で生活するために必要なチートだと確信していた。
「モンスターも生き物だし、魔王も生き物だし、話せば分かるよね! それに犬とか猫と話すの夢だったし!」
そんな楽観的な考えだったが、見事に当たった。
「お前、私の言葉が分かるのか!」
「分かるよ」
一人で暮らして一週間、ブラリと何となくダンジョンに潜ると、スライムたちと出会って、会話をした。
「そうか! ならば地上にある雑草を分けてくれないか!」
「雑草? 何で?」
なんでも女王スライムが飢餓状態だから、何か食べる物が欲しいということであった。
「あー。ダンジョンだとご飯少なそうだし、納得」
ダンジョンの出入り口は見張りが居たため、モンスターは出られない。しかしマイコは違う。
彼女は何の問題も無く、沢山の雑草をスライムたちに渡した。
「ありがとう! ぜひ女王と出会ってくれ!」
こうして彼女はスライムたちと友達になった。
「マイコ、折り入ってお願いがあります」
友達になって一週間経つと、女王スライムから、ダンジョンで起こるモンスター同士の縄張り争いを収めて欲しいと依頼があった。
「魔物でも種族が違えば言葉が違います。相手が何かを言っているのは分かるのですが、詳細は分からず、結果、意味も分からず殺し合っている状況です」
「それは辛いね。分かった」
彼女はダンジョンに住むさまざまなモンスターと会話した。
「つまり、ご飯が少ないから、皆それを探している。だから縄張りを広げる。その過程でぶつかる。相手が何を食べるのか、自分が何を食べるのか、会話ができればもっと穏便に済んだけど、できなかったから殺し合うしかなかった。悲劇」
彼女は争いの原因に気づくとそれを解決するために奔走した。
「スライムの体液は回復ポーションになる。スケルトンの骨は家畜の餌になる」
彼女はモンスターの素材を少しずつ町へ売り、その小金でモンスターたちの食糧を買った。
「マイコ、ありがとうございます」
数か月後、ダンジョンのみならず、国中のモンスターの長たちが喜んで彼女にかしずいた。
こうして彼女はモンスターマスターとなった。
ちなみに彼女はモンスターマスターとなったその日に、モンスター共通の言語を発明した。
「私が居なくても会話できれば平和だね」
彼女の読みは当たった。時間こそかかったが、モンスター同士の争いは無くなり、それどころか協力するようになった。
「ドラゴンがモンスターを背に乗せて飛んでる!」
彼女は大いに喜んだ。
いったん経営が乗り出すと雪だるま式に上手く行く。なぜならその波に乗ろうと考える者が現れるから。
「ちょいと相談があるんだが」
馴染みの道具屋に声をかけられたのも必然であった。
「お店を大きくしたい? 良いよ。もっとたくさん材料が欲しいんだね」
店はすぐに大きくなった。マイコが安定してモンスターの素材を沢山持ってくるから当然だ。
「ありがとう! これは分け前だ! これからもよろしくな!」
「こんなにたくさん! ……良いのかな? あれ全部皆の排泄物みたいな物なんだけど」
とにかくマイコは都でも厚い信頼を得ることになった。
「お前が、マイコか」
都で有名になれば王様が訪ねて来るのも当然だ。
「王様! モンスターも悪い奴じゃないよ!」
こうして彼女はモンスターと人間の共存に成功した英雄となった。
「マイコとは、お前か」
そこまで有名になれば、魔王が訪ねて来るのも不思議ではない。
「本当に俺の言葉が分かるとは!」
魔王は穏便であり、人間との戦争を止めたがっていた。しかし言語の壁がそれを塞いでいた。
「大丈夫! 話せば分かるよ!」
マイコはそれをぶち破った。
結果、彼女は長年に渡って続いたモンスター大戦争に終止符を打った聖女となった。
またモンスターと人間の交流を可能にしたことで、文明を加速的に発展させた救世主となった。
ちなみにクラスメイトはひっそりと、王族に暗殺されたり、野垂れ死にしていたり、魔王に殺されたりして全滅していた。
「こんなところで何をしている?」
「あ、まーちゃん」
魔王が空間転移で現れると、マイコはにへっと笑う。
「今日は総合大会議のはずだろ。魔物の長たちと人間の長たちが話し合う大事な日だ。お前が居なくてどうする?」
「私が居なくても、今は文字があるから大丈夫でしょ」
「それはそうだが」
「それに、今日は人と会う約束をしているの」
マイコは緊迫した目で雲を見つめる。
「来た!」
雲が日本語の形になると、マイコは立ち上がる。
「何があった?」
魔王はマイコの肩を掴む。マイコは振り返ると悲しげに笑う。
「神様からの命令があったの。元の世界に戻れって。だから、今日でお別れ」
「元の世界?」
「何言っているか分からないと思うけど、とにかく、今日でお別れ」
「待て! 別れるなら皆に挨拶しろ!」
「良いの! じゃあね! 私が居なくても仲良くしてね!」
マイコは走って、魔王を振り切った。
「皆のために戦うんだったら、戦いのチートも貰っておけばよかった」
湿地帯でマイコはレイたちを待つ。
しばらくするとレイたちがマイコの前に現れる。
マイコの表情は暗い。
「お前がフロアマスターか?」
「そうだよ。あなたはレイね?」
「そうだ……お前、まだガキだろ?」
「そっちだってガキでしょ」
マイコは慣れない手つきで拳を構える。
「武器を持っていないのか!」
「私、箸より重い物持ったこと無いの!」
マイコは今にも泣きそうな顔だ。それでも拳は下ろさない。
「簡単にはやられないから! 皆を殺させないから!」
「待て! 俺たちは下り階段の場所が知りたいだけだ!」
「下り階段? 何を言っているの?」
「何だと! 全王から何も聞いていないのか!」
「聞いてるよ! あなたたちが世界を食らう化け物だって!」
レイたちは固まった。
その間にマイコは呪文を唱える。
マイコは皆と会話することで様々な呪文を教わることができた。
チートは無くても戦える力を得た。
「皆を守るために、倒す!」
マイコはレイたちに突撃する。
俺もローズたちも困惑を隠せない。
フロアマスターは戦いの素人だ。だから勝つのは簡単だ。
だが勝つことに意味はない。目的は下り階段を見つけること。
それを知らないとはどういうことだ!
「タケル! お前の仕業か!」
フロアマスターの攻撃を受け止めて、タケルを睨む。
「ルールが変わった」
「何だと?」
「つまり、そいつを殺さないと先に進めなくなった」
タケルは冷たい笑みを浮かべやがった!
「てめえ!」
タケルの胸倉を掴む! こいつが何かしやがった!
「暴れるなよ、お前ら。フロアマスターがくたばるぞ」
横を見ると、肩を押さえるフロアマスターが居た。攻撃を受け止めた衝撃で肩が外れてしまった!
「ここまでの戦いで十分分かっただろ。お前たちは強すぎる。吐息でもフロアマスターを殺せる。だから落ち着け。ここまでの旅で分かった。お前たちは優しい奴だ! 殺したくないだろ!」
思いっきりぶん殴ってやりたいが、そうすると風圧でフロアマスターが怪我をする恐れがある!
そうやって躊躇していると、突然タケルが煙のように姿を消した!
「フロアマスターを殺さないとお前たちは先に進めない! ははは! 優しいお前らには無理な話だ!」
「タケル!」
叫んだ瞬間、若い女のフロアマスターの首が飛んだ!
「特別に殺してやった! 次の階層も俺が殺してやる! 俺は案内人で、お前たちの友達だからな!」
「クソ野郎が!」
くそったれ! タケルの奴! 本性を現した! そしてその本性は吐き気がするほど邪悪だった!
「フロアマスターを人質にしやがった!」
フロアマスターは敵? ふざけるな! これまでの旅で分かった。フロアマスターは人間だ! ムカつく奴は居るが、人間だ! 人間を殺していい訳がない! たとえ敵でも!
だが今はタケルにムカついている場合ではない! フロアマスターを蘇生させないと!
「チュリップ! 治療を!」
「ダメです」
チュリップは残酷な事実を首を振ることで告げる。
「魂がどこかに消えています。治しても、目覚めることはありません」
「……そうか。分かった。だけど、せめて体だけでも治してくれ」
「分かりました」
フロアマスターの体は綺麗に元に戻る。だが目覚めない。
「時間を巻き戻してもダメ。タケルは明らかに、私たちよりも強力な能力を持ってる」
ローズは悲し気にフロアマスターの顔を撫でる。
「レイ、私はこれから非情なことを言う。フロアマスターは敵だ。タケルが殺してくれるならそれでよいのではないか?」
リリーがきっぱりと、冷酷な選択肢を突きつける。
「もちろん、それはダメだ。今までの戦いで分かっただろ。こいつらは人間だ。そしてこいつらは俺たちよりも弱い。タケルよりも弱い!」
拳を握りしめる。まさかこんな手で俺たちを攻撃してくるとは!
「分かった。それにしても、こんな手で私たちに牙を向くとは」
「今までの旅は、フロアマスターが人間だと理解させるための物だった。そうすれば、レイがフロアマスターを守るように行動する」
「レイの考えを理解しないとできない行動。あいつ、私たちが考える以上に頭がいい」
「その通りだ。そして実にくそったれなことに、フロアマスターを守るためには、罠もくそも飲み込んで進む必要がある! それがあいつの狙いだった!」
襲ってくることは百も承知だった! だがまさかフロアマスター、つまり敵を人質にしてくるとは!
「貴様ら! マイコに何をした!」
顔を上げると、この世界の住人たちが鬼のような形相で睨んでいた。
「逃げるぞ」
時を止めて即座に離脱する。そしてその状態で下り階段を探す。
下り階段は都の外れにある、立派なダンジョンの奥にあった。
「時を動かしてくれ」
ローズにお願いして時間を動かす。そして、フロアマスターを追ってきた人々の様子を見る。
「マイコ! マイコ! 目を開けてくれ!」
皆がフロアマスターの体を揺さぶって泣いている。
この世界のフロアマスターはいい奴だった。
これから先にもたくさん、いいフロアマスターが居るだろう。
「タケル! てめえの顔面に一発ぶち込んでやるからな!」
拳を握りしめて階段を下りる。
まずはタケルかフロアマスターを見つけないと!
「今日もいい天気」
空を飛ぶドラゴンや怪鳥を眺めて欠伸をする。
地下9099階のフロアマスターの名前はマイコという。中学三年の修学旅行中、バス事故でクラスメイトと一緒に異世界に転生した。
「異世界転移! こいつらと!」
マイコは全王から説明を聞いたとき焦った。理由として、マイコはクラスメイトと仲が悪かったためだ。
「お前、チームから出て行け」
だから彼女が仲間外れにされたことも必然だったのかもしれない。
しかし彼女は仲間外れにされたことで吹っ切れた。
「好きに生きよう! どうせ元の世界に戻っても嫌なことばっかだし!」
それから彼女は一人で異世界を歩くことになった。
さて、彼女が得たチートは誰とでも会話できる力であった。
「会話? 言語理解はデフォルトで貰えるのに何貰ってんだ? やる気あるのか! 魔王を倒さないと元の世界に戻れないんだぞ!」
全王に願った時、クラスメイトから顰蹙を買ったが、彼女はこれこそ異世界で生活するために必要なチートだと確信していた。
「モンスターも生き物だし、魔王も生き物だし、話せば分かるよね! それに犬とか猫と話すの夢だったし!」
そんな楽観的な考えだったが、見事に当たった。
「お前、私の言葉が分かるのか!」
「分かるよ」
一人で暮らして一週間、ブラリと何となくダンジョンに潜ると、スライムたちと出会って、会話をした。
「そうか! ならば地上にある雑草を分けてくれないか!」
「雑草? 何で?」
なんでも女王スライムが飢餓状態だから、何か食べる物が欲しいということであった。
「あー。ダンジョンだとご飯少なそうだし、納得」
ダンジョンの出入り口は見張りが居たため、モンスターは出られない。しかしマイコは違う。
彼女は何の問題も無く、沢山の雑草をスライムたちに渡した。
「ありがとう! ぜひ女王と出会ってくれ!」
こうして彼女はスライムたちと友達になった。
「マイコ、折り入ってお願いがあります」
友達になって一週間経つと、女王スライムから、ダンジョンで起こるモンスター同士の縄張り争いを収めて欲しいと依頼があった。
「魔物でも種族が違えば言葉が違います。相手が何かを言っているのは分かるのですが、詳細は分からず、結果、意味も分からず殺し合っている状況です」
「それは辛いね。分かった」
彼女はダンジョンに住むさまざまなモンスターと会話した。
「つまり、ご飯が少ないから、皆それを探している。だから縄張りを広げる。その過程でぶつかる。相手が何を食べるのか、自分が何を食べるのか、会話ができればもっと穏便に済んだけど、できなかったから殺し合うしかなかった。悲劇」
彼女は争いの原因に気づくとそれを解決するために奔走した。
「スライムの体液は回復ポーションになる。スケルトンの骨は家畜の餌になる」
彼女はモンスターの素材を少しずつ町へ売り、その小金でモンスターたちの食糧を買った。
「マイコ、ありがとうございます」
数か月後、ダンジョンのみならず、国中のモンスターの長たちが喜んで彼女にかしずいた。
こうして彼女はモンスターマスターとなった。
ちなみに彼女はモンスターマスターとなったその日に、モンスター共通の言語を発明した。
「私が居なくても会話できれば平和だね」
彼女の読みは当たった。時間こそかかったが、モンスター同士の争いは無くなり、それどころか協力するようになった。
「ドラゴンがモンスターを背に乗せて飛んでる!」
彼女は大いに喜んだ。
いったん経営が乗り出すと雪だるま式に上手く行く。なぜならその波に乗ろうと考える者が現れるから。
「ちょいと相談があるんだが」
馴染みの道具屋に声をかけられたのも必然であった。
「お店を大きくしたい? 良いよ。もっとたくさん材料が欲しいんだね」
店はすぐに大きくなった。マイコが安定してモンスターの素材を沢山持ってくるから当然だ。
「ありがとう! これは分け前だ! これからもよろしくな!」
「こんなにたくさん! ……良いのかな? あれ全部皆の排泄物みたいな物なんだけど」
とにかくマイコは都でも厚い信頼を得ることになった。
「お前が、マイコか」
都で有名になれば王様が訪ねて来るのも当然だ。
「王様! モンスターも悪い奴じゃないよ!」
こうして彼女はモンスターと人間の共存に成功した英雄となった。
「マイコとは、お前か」
そこまで有名になれば、魔王が訪ねて来るのも不思議ではない。
「本当に俺の言葉が分かるとは!」
魔王は穏便であり、人間との戦争を止めたがっていた。しかし言語の壁がそれを塞いでいた。
「大丈夫! 話せば分かるよ!」
マイコはそれをぶち破った。
結果、彼女は長年に渡って続いたモンスター大戦争に終止符を打った聖女となった。
またモンスターと人間の交流を可能にしたことで、文明を加速的に発展させた救世主となった。
ちなみにクラスメイトはひっそりと、王族に暗殺されたり、野垂れ死にしていたり、魔王に殺されたりして全滅していた。
「こんなところで何をしている?」
「あ、まーちゃん」
魔王が空間転移で現れると、マイコはにへっと笑う。
「今日は総合大会議のはずだろ。魔物の長たちと人間の長たちが話し合う大事な日だ。お前が居なくてどうする?」
「私が居なくても、今は文字があるから大丈夫でしょ」
「それはそうだが」
「それに、今日は人と会う約束をしているの」
マイコは緊迫した目で雲を見つめる。
「来た!」
雲が日本語の形になると、マイコは立ち上がる。
「何があった?」
魔王はマイコの肩を掴む。マイコは振り返ると悲しげに笑う。
「神様からの命令があったの。元の世界に戻れって。だから、今日でお別れ」
「元の世界?」
「何言っているか分からないと思うけど、とにかく、今日でお別れ」
「待て! 別れるなら皆に挨拶しろ!」
「良いの! じゃあね! 私が居なくても仲良くしてね!」
マイコは走って、魔王を振り切った。
「皆のために戦うんだったら、戦いのチートも貰っておけばよかった」
湿地帯でマイコはレイたちを待つ。
しばらくするとレイたちがマイコの前に現れる。
マイコの表情は暗い。
「お前がフロアマスターか?」
「そうだよ。あなたはレイね?」
「そうだ……お前、まだガキだろ?」
「そっちだってガキでしょ」
マイコは慣れない手つきで拳を構える。
「武器を持っていないのか!」
「私、箸より重い物持ったこと無いの!」
マイコは今にも泣きそうな顔だ。それでも拳は下ろさない。
「簡単にはやられないから! 皆を殺させないから!」
「待て! 俺たちは下り階段の場所が知りたいだけだ!」
「下り階段? 何を言っているの?」
「何だと! 全王から何も聞いていないのか!」
「聞いてるよ! あなたたちが世界を食らう化け物だって!」
レイたちは固まった。
その間にマイコは呪文を唱える。
マイコは皆と会話することで様々な呪文を教わることができた。
チートは無くても戦える力を得た。
「皆を守るために、倒す!」
マイコはレイたちに突撃する。
俺もローズたちも困惑を隠せない。
フロアマスターは戦いの素人だ。だから勝つのは簡単だ。
だが勝つことに意味はない。目的は下り階段を見つけること。
それを知らないとはどういうことだ!
「タケル! お前の仕業か!」
フロアマスターの攻撃を受け止めて、タケルを睨む。
「ルールが変わった」
「何だと?」
「つまり、そいつを殺さないと先に進めなくなった」
タケルは冷たい笑みを浮かべやがった!
「てめえ!」
タケルの胸倉を掴む! こいつが何かしやがった!
「暴れるなよ、お前ら。フロアマスターがくたばるぞ」
横を見ると、肩を押さえるフロアマスターが居た。攻撃を受け止めた衝撃で肩が外れてしまった!
「ここまでの戦いで十分分かっただろ。お前たちは強すぎる。吐息でもフロアマスターを殺せる。だから落ち着け。ここまでの旅で分かった。お前たちは優しい奴だ! 殺したくないだろ!」
思いっきりぶん殴ってやりたいが、そうすると風圧でフロアマスターが怪我をする恐れがある!
そうやって躊躇していると、突然タケルが煙のように姿を消した!
「フロアマスターを殺さないとお前たちは先に進めない! ははは! 優しいお前らには無理な話だ!」
「タケル!」
叫んだ瞬間、若い女のフロアマスターの首が飛んだ!
「特別に殺してやった! 次の階層も俺が殺してやる! 俺は案内人で、お前たちの友達だからな!」
「クソ野郎が!」
くそったれ! タケルの奴! 本性を現した! そしてその本性は吐き気がするほど邪悪だった!
「フロアマスターを人質にしやがった!」
フロアマスターは敵? ふざけるな! これまでの旅で分かった。フロアマスターは人間だ! ムカつく奴は居るが、人間だ! 人間を殺していい訳がない! たとえ敵でも!
だが今はタケルにムカついている場合ではない! フロアマスターを蘇生させないと!
「チュリップ! 治療を!」
「ダメです」
チュリップは残酷な事実を首を振ることで告げる。
「魂がどこかに消えています。治しても、目覚めることはありません」
「……そうか。分かった。だけど、せめて体だけでも治してくれ」
「分かりました」
フロアマスターの体は綺麗に元に戻る。だが目覚めない。
「時間を巻き戻してもダメ。タケルは明らかに、私たちよりも強力な能力を持ってる」
ローズは悲し気にフロアマスターの顔を撫でる。
「レイ、私はこれから非情なことを言う。フロアマスターは敵だ。タケルが殺してくれるならそれでよいのではないか?」
リリーがきっぱりと、冷酷な選択肢を突きつける。
「もちろん、それはダメだ。今までの戦いで分かっただろ。こいつらは人間だ。そしてこいつらは俺たちよりも弱い。タケルよりも弱い!」
拳を握りしめる。まさかこんな手で俺たちを攻撃してくるとは!
「分かった。それにしても、こんな手で私たちに牙を向くとは」
「今までの旅は、フロアマスターが人間だと理解させるための物だった。そうすれば、レイがフロアマスターを守るように行動する」
「レイの考えを理解しないとできない行動。あいつ、私たちが考える以上に頭がいい」
「その通りだ。そして実にくそったれなことに、フロアマスターを守るためには、罠もくそも飲み込んで進む必要がある! それがあいつの狙いだった!」
襲ってくることは百も承知だった! だがまさかフロアマスター、つまり敵を人質にしてくるとは!
「貴様ら! マイコに何をした!」
顔を上げると、この世界の住人たちが鬼のような形相で睨んでいた。
「逃げるぞ」
時を止めて即座に離脱する。そしてその状態で下り階段を探す。
下り階段は都の外れにある、立派なダンジョンの奥にあった。
「時を動かしてくれ」
ローズにお願いして時間を動かす。そして、フロアマスターを追ってきた人々の様子を見る。
「マイコ! マイコ! 目を開けてくれ!」
皆がフロアマスターの体を揺さぶって泣いている。
この世界のフロアマスターはいい奴だった。
これから先にもたくさん、いいフロアマスターが居るだろう。
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