迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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全王の指示

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 川沿いにあった洞窟の中に気絶したタケルを寝かせる。
「俺はこいつと一緒に居る。お前たちは近くの村に潜伏しろ。良いか! 絶対に喧嘩するなよ!」
 きつく言って四人を村に向かわせると、焚火を起こしてタケルが起きるのを待つ。

 しばらくするとタケルの目が開いた。

「目覚めたか」
 タケルは俺の声を聞くと、不機嫌そうに眉を吊り上げて、辺りを見渡す。

「ここは、洞窟か?」
「そうだ。早速だが、聞きたいことがある」
「待てよ。寝ながら喋らせる気か?」
 タケルは手先を失った腕で体を起こす。

「両手を切断するとは、酷い奴だ」
「今までやったことを考えてみろ」
「へ! まあ、何も言わねえよ。慣れているからな」
 タケルは器用に体をくねらせて、胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。

「ふー」
「器用な奴だな」
 両手が無い状態で煙草を吹かすなど想像もできない。それを目の前の男は容易くやってのけた。

「両手が無い状態でも人を殺せるように訓練した」
 タケルは手首と肘、肩を巧みに使い、煙草の煙で輪っかを作る。

「両手が無くても俺を殺せるってことか」
「そういうことだ。最も、首を切断されたらどうしようも無いが」
 何個も宙に煙の輪っかを作る。芸術的だ。

「それで、何が聞きたい」
 タケルが話を切り出すと内心慌てる。タケルの技術に圧倒されて、頭が真っ白になっていた。

「地下9999階までどうやって行く? やはりお前の力が必要か?」
「その必要はない。お前たちと戦った拠点にノートパソコンがある。それを操作すれば次の階層に行ける」
 タケルはまるで世間話をするかのように言う。

「……驚いた」
「俺の力が必要ないってことにか?」

「簡単に喋ったことだ。取引の材料に使えるのに」
「お前たちと何を取引する?」

「俺たちの仲間になるとか」
「本気で言ってんのか? そんなの無理だと最初から分かっている」
 タケルはじっと俺の目を見ている。どこにも震えはない。

「お前、全王の僕だろ? 殺されたりとかしないのか?」
「俺の心配してくれているのか? 敵なのに?」

 タケルは死を覚悟した人間だと悟る。

「こうして喋っているからには心配もする」
「両手を切断しておいてよく言うな。理屈も理由も分かるが、俺からすればどの口が言う、だ」

 タケルの両腕に手を添えて念じ、切断した手を元通りにする。

「正気か? 何を血迷っている?」
 タケルは目を吊り上げる。

「俺とお前は敵同士だ。だが会話して分かった。お前はもう戦う気が無い。ならば両手くらいあってもいい」
「甘いと言うか何というか。自分に嘘が吐けない奴だな。他の人間なら必死に言い訳を考えるのに」
「考えて欲しいのか」
「お前らしく良いと思う」
 タケルは力なく笑うと、強張った顔から力を抜いた。

「それで、後は何が気になる? 地下9999階の行き方を教えたから、後は何も無いと思うが?」
「全王はお前に何を指示した? なぜ俺を案内しようとさせた?」

 タケルはふぅと煙草の煙を吐き出す。

「俺は知らない」
「だが想像はできているだろ」

「なぜそう思う?」
「お前は全王を慕っていない。だから、なぜ俺の案内をさせるのか、色々と理由を考えたはずだ」
「慕っていないか。よく分かるな」
「慕っていたなら、軽々しく地下9999階の行き方は言わないだろ」
「お前、意外と頭いいな!」
「褒められた気がしない!」
「馬鹿にしているからな」

 煙草の火を靴底でもみ消す。

「何が目的なのかは分からない。理由を問いただしても答えない。ただ、お前に地下9999階に来て欲しいと思っていることは分かる。自分を倒せるほど強くなって」
「全王を倒せるほど強くなる?」
「全王は俺に、レイと全力で戦えと言った。必ず負けるが戦えと言った。そして、お前が強くなると喜んでいた」
「何だそりゃ?」
「俺も分からない。だからそこで止まっている状態だ。強くなってどうして欲しいのか? 仲間なら手口が荒っぽい。何せ、全王がフロアマスターを人質に取れと命じた。住民を利用して戦えと言った」

 話を聞いても頭がこんがらがるだけだ。分かることは、あいつは俺を舐めている。そして侮るだけの実力を持っている。

「分かった。全王は忘れる。なら次はタケルの話を聞かせてくれ」
「俺の話?」

「なぜ全王の話に乗った? なぜ人殺しで笑える? なぜ俺と向き合って笑える?」

 タケルは目を閉じて、深呼吸する。

「昔話か。退屈しのぎには丁度いい」



 レイがタケルを説得中、マリアたちは近くの村に潜り込んだ。
「すんなり潜り込めたわね」
 捨てられた家屋に入るとフードを脱ぐ。
「運が良かった」
 荷物を部屋の隅にごちゃごちゃ置いて一息吐く。

「それで……何しよっか?」
 沈黙が立ち込める。

「とりあえず、洗濯しますから、服を脱いでください」
 いそいそと全裸になる。シャツはもちろん下着まで泥だらけだ。

「すんごい汚れ」
「これでも綺麗なほうだ」
「うわー。想像以上にハードな人生送ってるわね」

「洗濯してきますから、部屋の掃除でもしていてください」
 チュリップが桶に水を汲み、雑巾をマリアたちに手渡す。

「裸でやるの?」
「何か問題でもあるか?」
「体汚れるじゃん」
「後で体を拭く。黙ってやれ」
 マリア、リリー、ローズは麗しき素肌をさらしたまま床や壁を拭く。

「あんたたちって羞恥心無いの?」
 マリアは胸元を片手で隠し、身をよじる。非常に拭きづらい体勢だ。

「羞恥心なんて気にしてたら、皆の前でうんちとかおしっことかできないじゃん」
 ローズは丸いお尻を天井に着きあげて、勢いよく雑巾がけする。

「そんなことするの! レイの前でもやったの!」
 思わず、右手で胸を、左手で股間を隠し、後ずさる。

「最初は気にしていた。だが迷宮を進むにつれて、罠や敵が苛烈になった。そうなると恥を気にしていられない。一時の恥と一生の死、どちらが怖いか」
 リリーはテーブルの上に立って天井の梁などを磨く。

「まあ、途中から、食事も排せつも必要ない体に作り替えたから、恥もくそも無くなってしまったが」
「頭が痛くなる。あんたたち、本当に化け物ね」
 マリアは両手を開くと、ごしごしと一生懸命壁を磨く。磨くたびに水も弾く胸やお尻が揺れる。

 掃除が終わると、マリアたちは体を拭く。
「冷たい!」
「我慢しろ」
 背中は互いに洗いあう。

「二人とも、綺麗な背中してる」
 マリアはリリーの背中を撫でる。
「皮肉か? お前のほうがずっと美しい。レイが、夢中になるくらいに」
 リリーはムスッと口をへの字にする。

「レイのことになるとイライラするのね」
「仕方ないじゃん。レイが好きなんだもん」
 ローズは水桶に頭を突っ込んでぐしゃぐしゃと髪を洗う。

「あんたたち、何年もレイと一緒に居たのに、そこらへんすっきりさせてないの?」
「私たちは常に危険と隣り合わせだ。そんな暇はなかった」

 体を洗い終わってしばらくすると、チュリップが全裸で扉を開ける。

「何であんた裸なの?」
「自分の服を洗濯したからです。ご飯の準備をしますから、皮むきとか手伝ってください」
 チュリップはどさどさと野菜や肉をテーブルの上に置く。

「どこから取ってきたの?」
「盗んできました」
「しれっと酷いこと言うわね」
「あなたが言いますか? 黙って手伝ってください」
 それから皆で食事の支度をする。もちろん全裸だ。
 全裸の美女が四人並んで料理をする姿は、見ているほうが気恥ずかしいほど美しい。

「できました。レイはそのうち来るでしょうから、先に食べましょう」
 四人は椅子に座ると、テーブルを囲んで肉と野菜のスープを食べる。

「美味しい!」
 肉汁と野菜の甘さ、そしてほんのりとした塩味が食欲を増大させる。

「そうだ……マリアに、礼を言っていなかった。ありがとう」
 リリーが手を止めてマリアに頭を下げる。

「私?」
「マリアのおかげでタケルを捉えることができた。マリアが居なければできなかった。ありがとう」
 リリーに倣ってローズとチュリップも頭を下げる。

「ほんと、あなたたちっておかしいわね。切り替えが早いんだか、遅いんだか」
 マリアは苦笑し、柔らかい瞳で続ける。

「あなたたちは、レイと結婚したいの?」
 マリアの問いに、ローズ、リリー、チュリップは食事の手を止める。
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