迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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地下9996階

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「何て殺気だ!」
 地下9996階に下りると突然の重圧で体が動かなくなる。

 今まで戦った化け物と明らかに格が違う存在が、どこかに居る。

「この殺気……どこかで感じたことがある」
 リリーは額に汗を浮かべて呟く。
 リリーはこの殺気に慣れているのか、俺よりも顔色が良い。

「皆……」
 ローズが空を見上げたので同じく見上げる。

「暗黒の巨大騎士?」
 暗黒の鎧を着た巨人の顔が空に浮かんでいた。

「ちょっと待ってください……私たちが大地だと思っているこれ、あいつの手のひらじゃないですか!」
 チュリップが叫ぶと黒く硬い地面が揺れる!
 地面が盛り上がり、迫りくる!

「握りつぶす気だ!」
「空間魔法! テレポーテーション!」
 ローズの瞬間移動で巨大騎士の遥か頭上に逃げる!

「こいつ……今まで見た化け物の中で一番大きい!」
 とてつもなく離れているはずなのにそれでも全容が見えない!

 手のひらは星を無限に内包する空間系の化け物も一握りで数万匹潰すほど大きい!

「もはや世界ですね。引力で引っ張られています」

 地下9996階の敵は星々よりも大きい巨大騎士だ!

 騎士が剣を生み出して振る。軽く振っただけなのに空間が切り裂かれるほどの威力だ!

「ローズ! 俺をあいつの頭に送ってくれ!」
「分かった! 空間魔法! テレポーテーション!」
 ローズの魔法で巨大騎士のおでこに立つと、拳をでこにめり込ませる!

「まずは小手調べだ!」
 力を吸収するため騎士の魂に意識を集中する。すると突然意識が眩む。

「さすがにいきなりやると、こっちが力を吸われるな」
 手のひらが迫ってきたので急いで離脱する。

「空間魔法! テレポーテーション!」
 ローズの力で三人の元に戻るとため息が出る。

「今までと同じように弱らせる必要がある」
「どうやって? あいつ、今までで一番大きいよ」
 ローズが眉を寄せる。
「星々も軽々と握りつぶせるような敵と真正面から戦ったことはありません」
 チュリップはため息を吐く。
「空間系の化け物は、巨大でこそあったが力を簡単に吸収できる弱点があった。それを克服した相手と戦うのは初めてだ」
 リリーは険しい顔で騎士を睨む。

「俺たちも体を大きくするしかないだろ」
 概念形態になって肉体を再構成する。

「そういうこと? ぶっつけ本番か」
「私たち、ほんっと人間じゃありませんね」
「仕方がない。あれほどの質量で来られるなら、それに匹敵する質量で対抗するしかない」
 ローズたちも体を再構成し、騎士と同じ大きさになる。

「さて、もう一勝負だ」
 巨大騎士と対峙し、拳を向ける。

 巨大騎士は六本の腕にそれぞれ剣を握らせて、構えた。



 巨大な黒騎士の大きさはもはや宇宙すらも塵に見えるほどに大きい。
 レイたちはその圧倒的な質量に対抗するため、同じく宇宙すらも踏みつぶせるほどの大きさとなった。

 宇宙すらも踏みつぶすほどの質量がぶつかると様々な奇跡が起きる。

 レイが拳を振るうと宇宙が生まれる。
 ローズが呪文を唱えると闇が生まれる。
 チュリップが呪文を唱えると生命が生まれる。
 リリーが剣を振るうと太陽が生まれる。
 黒騎士が剣を振るうと宇宙が消し飛ぶ。

 当人たちはただ単に戦っているだけだ。だがその力は創世記の神のように凄まじい。



 リリーが何億もの剣げきを受け止めている間に、背後から奇襲する。
「ぐ!」
 だが簡単に攻撃を受け止められ、反撃される。

「腕が六本もあると何でもできるな」
 両腕が切り飛ばされたので急いで再生する。

「このままだとじり貧だ」
 黒騎士は俺たち四人の攻撃をいとも簡単に防ぐ。半面こちらは黒騎士の攻撃を防げず被弾する。

 黒騎士の攻撃は全王と同じく魂破壊の性質がある。集中力を失えば一瞬で死だ。

「リリー! 下がれ! 俺が受け止める!」
 リリーは俺を信用し、何も言わず黒騎士から飛びのく。
 黒騎士は隙を見逃さずリリーに追い打ちする。
 その間に割って入る!

「捕まえたぜ!」
 肩に生えた二本の腕を捉える! 胸、腹部を四本の腕で貫かれたが問題ない!

「食らえ!」
 頭突きを黒騎士の顔面に叩き込む! 黒騎士の仮面にヒビが入る! さらに一発叩き込むと仮面が割れる!

「アス!」
 仮面の下には、地下5000階で死んだアスの顔があった。

「ぐ!」
 虚を突かれたため全身の力が緩むと、四本の腕が容赦なく体を引き裂こうとする!

「眠れ」
 その前にリリーの魔法剣がアスの絶対防御な鎧を貫いた。

「お前の力、貰うぞ」
 隙だらけとなったアスの力を吸収し、アスを無力化する。

 戦いは終わった。



「アス! アス!」
 倒れるアスの体を揺する。

「……まさか……またあなたたちの顔を見られるとは思いませんでした」
 アスがゆっくりと瞼を開ける。

「見事です……地下5000階とは見違えるほど強くなられた。あなた方なら、全王を倒せるでしょう」
 アスは浅い呼吸を繰り返す。

「なぜ、お前がここに? それに、あの姿は?」
 リリーはそっとアスの手を握る。

「私は元々この階層に囚われていました。あなた方と戦ったのは私の分身です」
「そうだったのか……しかし、囚われていた? お前は全王の護衛ではなかったのか?」

「そんな設定でしたね。あれは、全王が気まぐれに植えつけた設定です。あれほど強い存在に護衛など要りませんから」
 アスはリリーの手を握りしめる。

「リリー、あなたは大変強くなった。レイと一緒に戦えるほど強くなった。先ほどの一撃、大変見事でした」
「そうか……地下5000階で教わった身として、誇らしい」
 リリーは薄っすらと涙を浮かべて微笑む。

「そして、残酷ですが、それでもレイと全王には及びません。ですが絶望しないでください。あなたは何度も苦渋を飲んで食らいついてきた。それがレイにとても勇気を与えた。それを忘れないでください」
「分かっている。どれほど相手が強くても、私がどれほど弱くても、レイの傍にいる。そのために、私はここまで来た。この先もだ」
「安心しました。辛いですが、頑張ってください」

 アスは俺に目を向ける。

「本当に強くなりましたね。地下1000階、2000階と戦ってきましたが、目覚ましいほどの上達ぶりです」
「そうやってお前が教えてくれたからこそ、強く成れた」

「そう言って頂けるとありがたいです」
「そうか。それにしても、俺は随分と手加減されていた。地下1000階や2000階でこの力を出されたら終わっていた」

「しかし、先ほど私は全力で戦いました。そして負けました。見事です」
「そうか……ありがとう」

「どういたしまして」
 アスは目を瞑る。

「私は、人間という生き物は愚かで存在する価値などないと思っていました。だから囚われました。ですが今は違います。人間はとても素晴らしい存在です。神がお創りになられたのだから、当然でしたが」
 薄く、微笑む。

「それに気づけて、私は大変、満足です」
 アスの体は塵となって消えた。



「レイ……アスが居たってことは、ベルとルシーも?」
「おそらくな」
 下り階段の前でため息を吐く。

「色々、お話したいですが、無理でしょうね」
「だろうな」

「また、殺し合いになるのだろうか」
「なるだろうな」
 さらにため息が出る。涙も出る。

「全王をぶっ殺せばいい。そうすれば、あいつらも元に戻る」
 手加減して勝てる相手ではない。ならば、胸に痛みを持って戦うしかない。

「行こう。次は地下9997階だ」
 下り階段を進む。

「殺し合いか……できれば、一緒に全王と戦って貰いたいが」
 滲む涙を拭う。

 ルシー、ベル、アスを交えて、地下5000階で肉を食った光景を思い出した。

 あれは本当に楽しく、美味しく、辛かった。



「虫の大軍! しかも小さいのに一匹一匹が星を滅ぼす力を持っている!」
 そんな感傷も地下9997階で消し飛んだ!

「これは! ベル!」
 チュリップが口から内臓に侵入する虫を吐き出しながら叫ぶ!

「ベル! シロちゃんや迷宮の化け物を作り出しただけのことはある! すべてがお前の手下か!」
 虫けらを蹴散らす! だが視界を真っ暗に覆う虫けら相手では埒が明かない!

「行きますわ!」
 生命を支配するチュリップが駆けだすと、俺たちも後に続いた。
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