迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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地下9995階、到達

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 地下9301階から地獄が始まった。
 フロアマスターの強さは地下8000階以上で、現実改変、空間支配、時間操作など多様な魔法を使ってきた。
 雑魚の強さはそれに匹敵し、それが何万何億何兆と襲ってきた。
 人間は死に絶え、食料も少なく、化け物の肉をかじる日々が続いた。
 何度も大けがをして死にかけた。
 傷の治りは遅く、寝ずに治癒魔法をかけても痛みは続いた。

 だけど俺たちはそれを跳ね返した。強くなって返り討ちにした。

 強敵と戦い続けて、俺たちは確実に強くなった。



 地下9994階の敵は大地すらも砕く巨大な大蛇であった。

「この野郎! 俺は歯糞じゃねえぞ!」
 胴体に食い込む歯を力づくで押し止める。
 ただの噛みつきに見えて、現実改変による存在抹消と精神汚染、さらに物質変化の魔法が組み込まれている。気を抜くと消滅するか、気が狂って何もできない血潮となるか、塩の結晶にされてしまう。

「重力魔法! ブラックホール!」
 空を飛ぶローズの重力魔法が蛇の尾にさく裂するがビクともしない。魔法耐性はもちろん、物理耐性、現実改変耐性、物質変化耐性など様々な攻撃耐性を持っている証拠だ。

「召喚魔法! ナイトメアクラウン!」
 同じく空を飛ぶチュリップは召喚魔法で化け物の軍勢を作り出し、大蛇にけしかける。

 ナイトメアクラウンは地下8500階から出現し始めた精神系の化け物だ。
 精神体で目視できず、気配を察知することも困難であり、対象の精神に寄生すると問答無用で眠らせ、悪夢に封じ込め、嬲り殺す。悪夢では現実改変等の魔法は使えず、素手でナイトメアクラウンと戦う必要がある。
 ナイトメアクラウンは素手で大地を割るくらいの怪力を持ち、光と同じ速度で動く。また悪夢の中でも、精神異常といった魔法を使ってくる強敵だ。
 現実改変耐性なども持っているため、普通では勝てない。

 しかしその強敵たちは大蛇の目前で死に絶える。
 生命吸収で精神体のまま力を吸いつくされてしまった。

 現実改変など行ってくる化け物相手では、炎や氷といった攻撃は意味をなさない。同じく現実改変で存在を抹消するような攻撃が必要だ。
 しかし迷宮を進むと現実改変にすら耐性を持つ化け物が出てくる。

 そういった相手を殺すには、相手の力を吸収する攻撃しか通用しない。

 魂を食らうと言えば分かりやすいか。

 どんな化け物も殺す最強の攻撃手段だ。地下迷宮の戦いから、全王も殺せる唯一の手段だと考える。

 しかし吸収するためには相手を弱らせる必要がある。素のままだと圧倒的な力量差が無い限り不可能だ。だから無意味に見えても、切ったり、殴ったりする必要がある。
 意識を逸らせると言えばよいか。

「次元殺法! 空間両断!」
 リリーが大蛇の頭目掛けて、空間も切り裂く魔法剣を振り下ろす。しかし剣はあっけなく弾かれる。空間耐性も持っている。

「お前ら! 合体魔法だ! このままだと埒が明かない! 圧倒的火力で吹っ飛ばす!」
 念波で命じるとローズたちと視線が合う。

「重力魔法! ビックバンレーザー!」
 空間も時間も破壊する暗黒のレーザーが放たれる。
「加護魔法! 神よ我の命を代価にレイに力を与えたまえ!」
 光が体を包む。
「神造兵器生成! エクスカリバー! 受け取れ! レイ!」
 リリーが生成した武器を受け取り、ビックバンレーザーのエネルギーを吸収させる。

「行くぜ! 合体魔法! 一切消滅! 次元破壊!」
 エクスカリバーを大蛇の歯に突き立てて、すべてを破壊するエネルギーを叩き込む!

 大蛇の体が膨れ上がると、一気に破裂する!

「そこか!」
 緩んだ口から抜け出して、おでこまで走る。

 そこに、大蛇と化したフロアマスターの顔があった。
 フロアマスターは全王に大蛇とされた。その名残がおでこに顔となって残っていた。

「楽になれ」
 血の涙を流すフロアマスターに剣を突き立てて念じる。

「お前の力、俺が貰うぞ」
 飽和したフロアマスターの力をすべて肉体に取り込む。

「あ、あ、りが、と」
 フロアマスターの体が消滅する直前、確かに、フロアマスターは笑った。



 すべての敵が居なくなると、ぽっかりと下り階段が地表に現れる。
「次が、地下9995階。タケルが案内しろと指示された階層だ」

 ローズ、チュリップ、リリーの目を見る。皆、ボロボロだが闘志は折れていない。

「行こう」

 俺たちはそれだけを合図に、地下9995階へ下りた。



「ここは?」
 地下9995階は今までと異色だった。

 そこは遥か彼方まで真っ白な世界だった。太陽も何もない、光の中に居るような世界だった。

「レイ! あの人たちはフロアマスターじゃないか!」
 リリーたちの指さす方向を見ると、地下9001階から地下9994階までのフロアマスターたちが倒れていた!

「何だこの世界は? 何が始まるんだ!」

 混乱を抑えるために必死にフロアマスターたちの様子を見る。

「タケル! マリア!」
 その中に、全王に殺されたはずのタケルとマリアが居た!

「レイ?」
 名前を呼ぶとタケルとマリアが体を起こす。それに続いて他のフロアマスターたちも目を覚ます。

「お前たち、どうしてここに?」
「分からないわ。そもそもここはどこ?」
 マリアは頭を押さえて何もない真っ白な世界を見渡す。

「召喚の間だ! 全王の野郎!」
 タケルが唇を噛む。

「もしかしてここ、全王と初めてあった場所!」
 タケルの言葉にマリアも反応する。
 ざわざわとフロアマスターたちも騒ぐ。

「静かにしなさい、フロアマスターたち」
 ざわりと背筋が逆立つ! この声は!

「全王!」
「こうして姿を見せるのは地下1000階ぶりだな、レイ」
 目を凝らすと一人の巨漢が立っていた。
 肌は不気味なほど白く、眼と髪は闇を煮詰めたかのように黒く、体つきは逞しいのに妖艶という雰囲気が漂っている。目が離せないほどの美しさとかっこよさを持ちながら、心臓や胃を鷲掴みにするような不気味な笑みを浮かべている!

「殺してやるぞ!」
 ローズたちとともに全王に突撃する!

「ほう! 俺の前でも震えないか! 成長したな! 嬉しく思うぞ」
「うるせえ!」
 全王の腹に拳を叩き込む! チュリップが顔面をメイスで殴打する! ローズの魔法が全王のこめかみを撃ちぬく! リリーの剣が全王の首を跳ね飛ばす!

「素晴らしい攻撃だ」
 視界がぐらりと揺れて、後方へ吹っ飛ばされた。



「あ、あの野郎!」
 胸や腹がねじ切れそうなほど吐き気がする! 視界が歪み、立っていられない!
 ローズたちも同じく立ち上がれない!
 いくら傷を治しても、現実改変で傷を否定しても、時間を巻き戻しても収まらない!

「肉体と魂は精神で繋がっている」
 全王は一歩も動かず、ピッピッとデコピンの動作を取って笑う。
 俺たちはデコピン一発で立ち上がれなくなった!

「現実改変など使わずとも、的確な打撃を与えれば魂を傷つけるなど容易い。そして魂は時間や空間、現実という概念の外にある。魂を傷つけられれば、いくら現実改変しようとも治せない。それくらい学んでいるはずだったが?」
 全王はふてぶてしく笑い続ける。止めを刺そうとはしない。舐めている!

「どうやら、それを学ばずに来てしまったようだな。だが心配ない。ここでじっくりと学べる。それがここ、地下9995階の目的だ」
 全王はフロアマスターたちに、悪魔のような笑みを向けた!

「全王! 止めろ!」
「そこでしばらく見物しているといい。なに、立ち上がれる頃には、授業は終了している」
 全王はゆっくりと、タケルの前に立つ。

「久しぶりだな、タケル」
「全王!」
 タケルは汗をダラダラ流して立ち上がる。しかし一歩も動けない。

「落ち着け。まだ講釈は続いている」
 全王が目を閉じると、タケルはひれ伏すように倒れる。

「レイはとても素晴らしい。彼はローズ、チュリップ、リリーという足手まといを死なせずに地下9995階へたどり着いた。まずは拍手を送ろう」
 ギリギリとフロアマスターたちの手が動き、パラパラと拍手をする。タケルすら苦悶の表情を浮かべて抵抗しているのに歯が立たない!

「そして先ほどの攻撃も素晴らしい。お前たちには殴っただけのように見えるが、あれは現実改変と平行世界破壊、精神破壊、物質破壊を混ぜ合わせた攻撃だ。衝撃も小宇宙程度なら粉砕できる威力だった。魂破壊ができれば完璧であったが、それはこれから学ぶので目を瞑ろう。レイは私を殺すために精進し、ようやく、足元に届いた。拍手を送ろう」
 フロアマスターたちが涙を流しながら拍手をする。全員、腕がねじり折れている!

「さて、お前たちに質問だ。そんなレイがこれ以上強くなるにはどうすればいいと思う?」
 全王は震え、ひれ伏すフロアマスターたちを見渡す。

「良いかね、人間でもお前たちでもない。レイだ。彼を育てるにはどうすればいいと思う?」
 誰も答えない、答えられない! 全王はフロアマスターたちを嬲っているだけだ!

「答えは簡単だ。あいつは人の死を嫌っている。私を憎んでいる。ここでお前たちが無残に殺されれば、あいつは私を憎み、どのように殺せるか考える。その時、私の手際を十分に観察する。血の涙を流しながら」
 全王は俺たちに顔を向けるとあざ笑う。

「ローズ、チュリップ、リリーを殺すのは残酷だ。せっかく頑張って連れてきたのに、高が授業で死んではレイの苦労が報われない。そこで、特に思い入れの無いお前たちの出番だ。良かったな。お前たちはこのために異世界に転生した」

 腕に力を込めると少しずつ動くようになった! 視界は少しずつ正常になってきた! もう少しで回復する!

「そろそろ授業を開始するか」
 フロアマスターたちの傷が治り、顔色も良くなる。

「立ちなさい。そして俺にかかってこい。皆殺しにしてあげよう。そしてレイは俺の戦う姿を見て学べ」
 全王が黙ると、シンと不気味なほどの静寂が訪れる。



「ぜ、全王様? あの、ちょいと提案があるんですが」
 フロアマスターの一人、卑屈そうな男が卑屈な笑いを浮かべる。

「わ、私は全王様に逆らいません! だからまずはレイを倒しましょう! 全王様と一緒に!」

「そ、そうです! 授業ならレイを相手にすればいいだけです! 私は一生懸命レイと戦います! ですから考え直してください!」

 プチっと口答えした二人が親指サイズに圧縮される。

 そして時間を巻き戻すように元に戻る。
 フロアマスターたちはそれを見て悲鳴を上げる。
 生き返った二人は喉が裂けるほど叫んでいる。

「そう言えば、君たちの異世界だが、すでに消滅している」

「……え?」
 半数以上のフロアマスターの顔色が変わる。彼らは異世界で仲間を作り、国を作り、世界を救った存在だ。
 そんな苦労して過ごした世界が無い?

「何を驚く。お前たちの異世界はレイが通過するだけの階層に過ぎない。レイが通ったら消滅させるのが筋だろう。もう必要ないのだから」
 全王は笑いながらフロアマスターたちを見る。

「待て! 待て! ならば俺の仲間は!」
「僕の魔王は! 友達は!」
「俺の女はどうなった!」
「私の子供はどうなったの!」

 全王はフロアマスターたちの涙を笑い続ける。

「安心しろ。死んではいない。なぜなら、お前たちが接した住民はすべて、私なのだから。もちろん、お前たちが産んだ子供も」

 タケルだけ舌打ちする。
「気色の悪い話だ! だから殺していいか! 俺たちは奴の箱庭で粋がっていたに過ぎない! 分かっていたことだが、役者までお前かよ!」



「わ、私の子供が全王?」
 女性がわなわなと体を震わせる。

「そうだ。お前の子供はレイチェルだったな」
 全王の影から子供が現れる。その子は天真爛漫な笑みを女性に捧げる。

「お前の魔王はこんな奴だったな」
 全王の影から大男が現れ、優し気に小柄なフロアマスターの一人を抱きしめる。

「お前の……お前の……」
 影から次々と異世界の住民が現れる! フロアマスターたちは歯を食いしばり、血の涙を流す!

「誰も彼も楽しそうで、馬鹿みたいだったぞ」
 異世界の住民たちが高笑いすると、フロアマスターたちが一斉に襲い掛かる!

「授業開始だ。しっかり学べ」
 全王はようやく半身を起こした俺に、神すらもあざ笑うかのような冒涜的な笑みを向けた!

「全王!」
 まだ立ち上がれない! 回復に時間がかかる!

「レイ!」
 タケルとマリアに目が合う。

「頑張れ!」
 二人は力強く笑うと、全王に殴りかかった。

「タケル……マリア……」
 二人は一瞬にして粉微塵となった。

 だけど、全王がどうやって魂に傷を与えているのか分かった。
 そして、魂を立て直す方法を学んだ。

「終わりだ。どうだ? しっかり学べたか?」
 誰も居なくなった時、ようやく俺は立ち上がれた。

「クソ野郎! 殺してやる!」
 カツカツと歩いて全王に近づく。

「良いか? 奴らは無意味な存在だ。奴らも十分理解していた。だからこそ、お前はあの哀れで無意味な存在に意味を与えてやらなくてはならない。奴らはそのために死んだ」

「煽ってんじゃねえよこの屑が!」

 拳をスッと全王の顎に当てる。これで魂に隙を作る。

「見事だ」

 返す刀で掌底を打ち込み、魂ごと全王の力を奪う!

 力を失った全王の体にヒビが入った。

「地下9999階で待っているぞ」

 全王は砕け散る顔を笑わせながら消え去った。

「レイ……次の階段が出てきたよ」
 ローズが残念そうに下り階段を指さす。

 全王は死んでいない。手ごたえはあったが生きている!

「本体は地下9999階か。クソ野郎。どこまで人を馬鹿にすればいいんだ?」
 堪らず唾を床に吐き捨てる。
 そして深呼吸する。
 血潮の味が口に広がる。

「間に合わず、済まなかった」
 死んだフロアマスターたちに手を合わせる。ローズたちも手を合わせる。

「お前たちの中には、悪い奴も居ただろう。だけど全員助けてやる。待っててくれ」

 消え去ったフロアマスターに誓い、次の階層に進む。

「次は地下9996階か」

 何が潜むか分からない。だけど進むしかない。

「生きるためには、進むしかない」

 勇気と無念を胸に抱いて進む。
 死んだ人々の恐怖を思い、震える足と心を叱りつける。

「行くぞ、お前たち」
 ローズとチュリップ、リリーの顔を見る。

 彼女たちは力強く頷く。決して怯えを見せない。その姿が頼もしく、怖い。

「お前たちを死なせない。絶対に!」
 誓いの言葉を握りしめる。握りこぶしに三人の手が重なる。

「大丈夫!」
「心配するな。必ず全王を倒せる。今までも力を合わせて乗り越えてきた」
「弱気はあなたに似合いませんよ」
 三人の温かさが胸に沁みる。

「お前たちと出会えて、本当に良かった。ありがとう」
 礼を述べて進む。

 次は地下9996階だ!
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