迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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ありがとう。そして地下9995階へ

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 タケルと和解し、ローズたちと一緒になって半年が過ぎた。

「迷宮とは思えないほどいい世界だ」

 地下9300階は非常に居心地が良かった。
 大部分がタケルとマリアのおかげだ。

 タケルは何でもできる万能屋で、食事も家事も勉強も完ぺきだ。

「わ、私の取り柄が……」
 ようやく性欲が収まり、厨房へ立った時、チュリップはタケルの料理の手際を前に奮起した。

「セックスばかりやってる場合じゃないわ!」
 チュリップは死の物狂いで料理を勉強しなおした。

「うむ……難しい」
 ローズは数学や物理など勉学に燃えた。しかし、やはり異世界の高度な文明を理解するのは時間がかかる。

「ここを見ればいい。そしてこれは間違い。もう一度公式を思い出せ」
 それをタケルは簡単に導いてくれる。

「勉強しよう!」
 ローズはタケルに採点されるたびに、悔し涙を飲んで机に向かった。

「つ、強い!」
 リリーはタケルの元で格闘技の練習をした。剣術だけでなく、徒手空拳も覚えたほうが良いという考えだった。

「基礎はできている。すぐに覚えられるはずだ」
 リリーは自信があった。だからタケルが相手をすると言っても怯まなかった。
 それは最初で打ち砕かれた。

「まだまだ体の動かし方が甘い。重心の移動がブレている。だからワンテンポ遅れる」
 タケルの身体能力は俺たちと互角に見えた。だが現実はかすりもしなかった。一歩届かない。
 何度も何度も繰り返すと、やがてそれは多大なる実力差だと分かる。

「負けるか!」
 リリーはそれでも歯を食いしばって立ち上がる。

「レイは確かに強い。だが全王から感じるプレッシャーを考えると、まだまだ弱い」
 そして俺はタケルを相手に実戦形式の組み手を行う。
 タケルの指摘で緩んだ心を引き締めて、現実改変など高度で訳の分からない魔法と徒手空拳を交えた戦いを繰り広げる。

「俺はお前よりも弱い。だがまだまだ教えられることはある」
 タケルは繰り返し、丹念に教えてくれた。

 そしてマリアは、頑張って疲労困憊の俺たちに笑顔をくれる。

「お疲れ様。はい、ジュース」
 にっこりとコーヒーやジュースと一緒に渡してくれる笑顔に、自然と笑みが出る。

「レイ、私に惚れた?」
 切ない微笑みが胸を打つ。

「惚れてる。でも抱けない」
「残念!」

 マリアは俺とローズたちを一緒にする切っ掛けをくれた。だからローズたちも非常に感謝している。友人として接している。

「おお……ジョーカーが残った!」
「やったー! 私の勝ち! はい、ビリのローズは罰ゲーム!」
「ううむ……青汁……なぜこんなものが?」
 夜、夕食が済むとローズたちはマリアを交えて、トランプやタケルが自作したゲームで遊ぶ。
 とても仲が良く、花畑に舞う蝶のように笑っていた。

「しかし、そろそろ出発しないと」
 いつまでもこうしては居られない。俺たちは地下9999階へ行く。

 だけどそれは寂しいことじゃない。タケルとマリアも一緒だ。



「そろそろ出発するぞ。忘れ物は無いか?」
 いよいよ明日、地下9301階へ旅立つ。皆タケルが新調した服で武装する。

「うん! 大丈夫!」
 ローズたちは笑顔でガッツポーズする。

「マリアも大丈夫か? この先辛いことが起きるぞ」
「だから! 私はこの世界に残っても良いこと無いの! あんたたちについて行くしかないの!」
「それもそうだな」
 マリアの気合に思わず笑う。

「タケル、もう一度だけ、次の階層のおさらいをしていいか」
 パソコンを操作するタケルの前に立つ。
「良いぞ。次の階層のフロアマスターだが、おそらく全王と手を組んでいる」

「全王か」
「全王は俺が寝返ったことを知っている。ならば、次の手ごまを使う」

「それが次の階層のフロアマスターか」
「ああ。こいつは性格が最低で、生前は強姦魔だった。実力は大したことないが、全王の誘いに必ず乗る。その時、何かしらの特殊な能力を貰っているかもしれない」
「チートか。よくよく考えると、他者に好きなチートを与えられる。凄まじい力だ」

 タケルと話している途中突然! 死の気配が背筋を刺した!

「ぐは!」
「タケル!」
 タケルの胸を黒剣が貫く!

「マリア!」
 マリアの胸を黒剣が貫く!

「全王!」
『久しぶりだな。レイ!』
 二人の影が笑っていた!

「地下9301階へ逃げろ! 今のお前じゃ勝てない!」
「早く!」
 タケルとマリアは、胸に刺さる黒剣を両手で掴み、全王を抑える!

「くそ! ローズ!」
「わわ、分かった!」
 ローズが下り階段を作り出す!

「行くぞ!」
 タケルは俺が、マリアはチュリップが抱えて下り階段を進む!

『タケルを倒してまだその程度か! がっかりだ! だが心配するな! 次は私の手で直々に鍛えてやろう!』

 地下9301階へ下りても、全王の笑い声は耳に張り付いたままだった。

「なんてこった!」

 俺は臆した。地下迷宮へ進んで初めて、心の底から震えあがった。

「ああ……でも、タケルとマリアが居れば」

 二人は不老不死だ。だから大丈夫。そう思って傷口を見ると、絶望が頭を叩きのめした。

「治っていない……」
 必死に回復呪文を唱えた。現実改変を行い傷を否定した。だけど無理だった。

「俺は……全王に遊ばれているだけか!」
 悔しくて、涙が出た。



「やられちゃった」
 口から血を流すマリアは、真っ青な顔で気丈に微笑む。

「マリア! 喋らないで!」
 ローズたちが涙を流しながら傷を抑える。

「……もうダメなのは分かってる。だから、最後に言わせて」
 マリアは苦し気に息を吸って、手を伸ばす。俺とローズ、チュリップ、リリーはその手を掴む。

「私、あなたたちに会えて本当に良かった。初めて友達ができた。好きな人ができた。そう! 私はチートが欲しかったんじゃない! 友達と恋人が欲しかった! 家族が欲しかった! 死んだら涙を流してくれる人が欲しかった! あなた、たちのおかげで、手に、入、た」
 マリアは目を閉じる。手が冷たくなり、力が抜けていく。

「ありが、とう……さ、よ……な、ら」
 マリアは息を引き取った。

「さすが……全王だ……そう思わないか」
 腕の中でタケルが微笑む。

「タケル……済まない! 俺が弱いばっかりに!」
 冷たくなるタケルを抱きしめて温める。

「泣くな……馬鹿野郎……地下9999階まで、あと600階以上残ってる。そこで強くなればいい」
 コツンと、力ない拳で頭を叩かれる。あれほど硬かった拳骨が、今はとても柔らかい。

「お前たちなら勝てる! 絶対に!」
 ローズとチュリップ、リリーがタケルの手を握る。

 タケルの目から涙が出る。

「ああしかし……まさか、屑の俺に泣いてくれる人ができるとは、思わなかった」

 タケルは大きく息を吸い込む。

「ありがとう……お前たちに会えて、本当に、たのしか、た」

 タケルは息を引き取った。

 たった一日で、俺たちは仲間を二人も失った。全王に殺された。



『何をしょげている?』
 放心していると耳障りな声が聞こえた!
 空を見上げると、空が笑っていた! 全王が笑っていた!

『私を倒せるほど強くなれば二人を蘇生することができる。すぐに思いつくことだろう』

「くそったれ……」
 拳を握りしめると手のひらから血が流れる。食いしばる歯から血が噴き出る。
 ローズ、チュリップ、リリーは血の涙を流して空を見上げる。

『とはいえ、その程度の実力では絶望するのも無理はない。だから鍛えてやろう』
 空が暗黒に染まると、ティンダロスや能面侍、それどころか空間系の化け物、果ては見たことも無い化け物が下りて来る!

『フロアマスターともども、殺し尽くせ。すべて殺し尽くせば、私の足元に届く』

「殺してやる! 全王!」

『良い気合だ。地下9999階で待っている』
 耳障りな笑いを残して、空は青空に戻る。

「ローズ。二人の遺体を別空間に保存してくれ。全王が作り出した空間に置いて行くなどしたくない」
「分かった」
 タケルとマリアの遺体がローズの暗黒空間に飲み込まれる。

「次に、下り階段は作れるか?」
「……ダメ。座標が乱れてる」
「結局、全王を超えない限り、俺たちはあいつの言いなりか!」

 武器を構える! 嘆いている暇はない! 多数の敵が迫っている!

「あれは、フロアマスターじゃないか?」
 リリーの視線の先に、竜の背に乗った人間が全王の気配を交えて笑っていた。

「お前らがレイか! いい女もいる!」
 汚らしい男は狂ったような目で笑う。

「お前らを殺せば俺は元の世界に戻れる! この力を持って! 下らねえ世界をぶっ壊してやる! 俺が神になってやる!」

「うるせえ、死ね」
 目につく敵を粉微塵にする。

「行くぜ、お前ら。目的地は地下9999階、全王だ! あいつを殺す!」

 ローズたちと一緒に涙を拭って階段を下りる。

「全王……お前は許さない。ルシーたちは自決に近かった。だけどタケルとマリアは違う! お前が殺した! ぶっ倒すなんてしてやらねえ! ぶっ殺す! 必ず!」
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