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地上、しかし
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地下9999階、全王に蘇生された者たちは呆然と立ち尽くす。
「どうかね、君たち。愚かなる人間という種族の中で唯一完璧なる人間を目の当たりにした気分は?」
視線は全王に注がれていた。
「は、肌の色が!」
ローズが塞がらない口を動かす。
全王の肌は、健康的な肌色だった。目は黒目があり、髪は黒だが深淵とまではいかない。
まさに人間であった。
「レイの肌が!」
チュリップとリリーの視線は蹲るレイに向けられる。
レイの肌は、氷すらも凍り付くような白で、目と髪は深淵のように真っ黒であった。
その姿はまるで全王であった。
「この!」
レイが口を動かした瞬間、それに呼応するように周囲の氷が全王を襲う!
「遅い! 神魔法! 神の鎖!」
数多の氷の鎖がレイを絡めとる!
「くそ!」
ギシギシと体を動かすが鎖はビクともしない。
「感謝するぞ、レイ!」
全王は笑う。その笑みは悪魔のようではなく、人間と同じであった!
「お前が強くなったおかげで俺は神の呪いから解き放たれた。半面、大半の力はお前に流れてしまったが、仕方がない。ここまで頑張ってきたご褒美だ。遠慮せず受け取れ」
「全王!」
レイが体をよじると氷の鎖がメキメキと軋む。
「全王ではない! 我が名はサタン! 神が作りし最初の存在にして、神が作りし最後の人間だ!」
サタンはご機嫌な様子で笑い続ける。
「サタン?」
神話に詳しいチュリップだけでなく、タケルといった異世界から来たフロアマスターたちも目を細める。
「その通り、サタンだ。とはいえ、じっくりと話す時間はない。人間となった俺は寿命ができてしまった。詳しい事情はルシーたちに聞いてくれ」
サタンはレイにバイバイと手を振る。
「俺は地上へ出る。お前はこの迷宮で永遠に過ごすがいい。ルシーやローズにフロアマスターたちも居るから退屈しないだろう。それに、全能の力を得た。中中に悪くないな」
サタンは天に手をかざす。その隙にルシーとベル、アスが動く!
「行かせるか!」
サタンは笑みを浮かべたまま睨む。
「人間になったとはいえ、てめえらのような甘っちょろい存在に後れを取る俺と思うな!」
ルシー、ベル、アスの体が殴られたかのように吹き飛ぶ。
その時、レイが鎖を引きちぎる! けたたましく氷の破片が飛び散る中、サタンの顔色が変わる!
「サタン!」
「神魔法! 神の鎖!」
サタンは鎖でレイを足止めすると一気に飛び立つ!
レイは鎖を引きちぎって後を追う!
以前サタンが放った魔法で迷宮には地下1階まで繋がる風穴ができた。
サタンはその風穴を飛んで必死にレイから逃げる。
「神魔法! 神の鎖!」
何度も何度も鎖を張り巡らせてレイを足止めする。
「この! 邪魔だ!」
レイは巻きつく鎖を幾度も引きちぎってサタンを追う。
サタンの跳躍の速度は光を超えていたが、レイの跳躍はそれすらも超える。
たとえ足が止まってもすぐに距離を詰める。
ついにサタンの目前まで迫る!
「くたばれ!」
レイの渾身の一撃が全王に迫る! 全王は腕をクロスさせて受け止めるが、人間を超え、全能を手にしたレイの力を殺すことはできなかった。
腕の骨をバキバキ鳴らしながら、迷宮の壁を突き破る!
「捕まえた!」
レイは血を吐き、息も絶え絶えなサタンの首に手を伸ばす!
瞬間、レイの手が止まった。
「な、なんだと!」
レイは必死に腕を伸ばす。しかしそれはいくら伸ばしてもサタンに届かない。
「地上だ」
サタンは振り返ると背中に浴びる太陽の光を愛おしそうに見つめる。
「これがお前を地下9999階まで呼び寄せた真実だ」
サタンは勝ち誇り、レイは唇を噛む。
「俺は迷宮に捉えられていた。だからこそ、身代わりが必要だった。俺と同じ強さを持つ者、神の呪いに耐えられるだけの者が」
レイはうめき声を上げながら手を伸ばす。しかしサタンに届くことは無い。
「地下9999階までの旅路、ご苦労であった。褒美に広大なる地下迷宮を支配する力を与える」
サタンは踵を返す。
「待ちやがれ!」
「残念だが、俺は忙しい。寂しいのは分かるが、立ち止まる暇はないのだよ」
サタンは一歩ずつ足を進めて、レイから離れる。
「畜生畜生! 時間魔法! 時よ止まれ!」
レイは時を止めてサタンの足止めをする。しかしサタンは何事も無く歩む。
「こ、こんな! 外が! 俺の故郷が目の前なのに!」
レイは迷宮の出口で崩れ落ちる。
待ち望んだ本当の太陽、待ち望んだ懐かしき森の臭い、見慣れた文字が書かれた看板が見える。
あと一歩で夢見た地上だ!
その一歩が永遠に遠い!
「時間魔法! 時よ加速せよ!」
レイは時間の流れを早くする。迷宮の外に居るサタンの動きが止まる。
相対性理論、迷宮内部の時間の流れを早くすれば、迷宮外部の時間の流れは遅くなる。
「まずはルシーたちに確認だ! 何があったのか! どうすればいいか! そして必ず戻ってくる! 待っていろ! サタン!」
レイはサタンの背中に宣言すると、再度地下9999階へ走った。
「どうかね、君たち。愚かなる人間という種族の中で唯一完璧なる人間を目の当たりにした気分は?」
視線は全王に注がれていた。
「は、肌の色が!」
ローズが塞がらない口を動かす。
全王の肌は、健康的な肌色だった。目は黒目があり、髪は黒だが深淵とまではいかない。
まさに人間であった。
「レイの肌が!」
チュリップとリリーの視線は蹲るレイに向けられる。
レイの肌は、氷すらも凍り付くような白で、目と髪は深淵のように真っ黒であった。
その姿はまるで全王であった。
「この!」
レイが口を動かした瞬間、それに呼応するように周囲の氷が全王を襲う!
「遅い! 神魔法! 神の鎖!」
数多の氷の鎖がレイを絡めとる!
「くそ!」
ギシギシと体を動かすが鎖はビクともしない。
「感謝するぞ、レイ!」
全王は笑う。その笑みは悪魔のようではなく、人間と同じであった!
「お前が強くなったおかげで俺は神の呪いから解き放たれた。半面、大半の力はお前に流れてしまったが、仕方がない。ここまで頑張ってきたご褒美だ。遠慮せず受け取れ」
「全王!」
レイが体をよじると氷の鎖がメキメキと軋む。
「全王ではない! 我が名はサタン! 神が作りし最初の存在にして、神が作りし最後の人間だ!」
サタンはご機嫌な様子で笑い続ける。
「サタン?」
神話に詳しいチュリップだけでなく、タケルといった異世界から来たフロアマスターたちも目を細める。
「その通り、サタンだ。とはいえ、じっくりと話す時間はない。人間となった俺は寿命ができてしまった。詳しい事情はルシーたちに聞いてくれ」
サタンはレイにバイバイと手を振る。
「俺は地上へ出る。お前はこの迷宮で永遠に過ごすがいい。ルシーやローズにフロアマスターたちも居るから退屈しないだろう。それに、全能の力を得た。中中に悪くないな」
サタンは天に手をかざす。その隙にルシーとベル、アスが動く!
「行かせるか!」
サタンは笑みを浮かべたまま睨む。
「人間になったとはいえ、てめえらのような甘っちょろい存在に後れを取る俺と思うな!」
ルシー、ベル、アスの体が殴られたかのように吹き飛ぶ。
その時、レイが鎖を引きちぎる! けたたましく氷の破片が飛び散る中、サタンの顔色が変わる!
「サタン!」
「神魔法! 神の鎖!」
サタンは鎖でレイを足止めすると一気に飛び立つ!
レイは鎖を引きちぎって後を追う!
以前サタンが放った魔法で迷宮には地下1階まで繋がる風穴ができた。
サタンはその風穴を飛んで必死にレイから逃げる。
「神魔法! 神の鎖!」
何度も何度も鎖を張り巡らせてレイを足止めする。
「この! 邪魔だ!」
レイは巻きつく鎖を幾度も引きちぎってサタンを追う。
サタンの跳躍の速度は光を超えていたが、レイの跳躍はそれすらも超える。
たとえ足が止まってもすぐに距離を詰める。
ついにサタンの目前まで迫る!
「くたばれ!」
レイの渾身の一撃が全王に迫る! 全王は腕をクロスさせて受け止めるが、人間を超え、全能を手にしたレイの力を殺すことはできなかった。
腕の骨をバキバキ鳴らしながら、迷宮の壁を突き破る!
「捕まえた!」
レイは血を吐き、息も絶え絶えなサタンの首に手を伸ばす!
瞬間、レイの手が止まった。
「な、なんだと!」
レイは必死に腕を伸ばす。しかしそれはいくら伸ばしてもサタンに届かない。
「地上だ」
サタンは振り返ると背中に浴びる太陽の光を愛おしそうに見つめる。
「これがお前を地下9999階まで呼び寄せた真実だ」
サタンは勝ち誇り、レイは唇を噛む。
「俺は迷宮に捉えられていた。だからこそ、身代わりが必要だった。俺と同じ強さを持つ者、神の呪いに耐えられるだけの者が」
レイはうめき声を上げながら手を伸ばす。しかしサタンに届くことは無い。
「地下9999階までの旅路、ご苦労であった。褒美に広大なる地下迷宮を支配する力を与える」
サタンは踵を返す。
「待ちやがれ!」
「残念だが、俺は忙しい。寂しいのは分かるが、立ち止まる暇はないのだよ」
サタンは一歩ずつ足を進めて、レイから離れる。
「畜生畜生! 時間魔法! 時よ止まれ!」
レイは時を止めてサタンの足止めをする。しかしサタンは何事も無く歩む。
「こ、こんな! 外が! 俺の故郷が目の前なのに!」
レイは迷宮の出口で崩れ落ちる。
待ち望んだ本当の太陽、待ち望んだ懐かしき森の臭い、見慣れた文字が書かれた看板が見える。
あと一歩で夢見た地上だ!
その一歩が永遠に遠い!
「時間魔法! 時よ加速せよ!」
レイは時間の流れを早くする。迷宮の外に居るサタンの動きが止まる。
相対性理論、迷宮内部の時間の流れを早くすれば、迷宮外部の時間の流れは遅くなる。
「まずはルシーたちに確認だ! 何があったのか! どうすればいいか! そして必ず戻ってくる! 待っていろ! サタン!」
レイはサタンの背中に宣言すると、再度地下9999階へ走った。
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