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「そこのお前? 名前なんだ?」
小さいフロアマスターの一人に詰め寄る。
「ま、マイコです! その、すいません!」
突然ブルブル震えて頭を下げる。
「謝る必要はねえよ。それより、さっきなんて言った?」
「そ、その、サタンの分身はどうやって外に出たんだろって」
マイコの言う通りだ。俺の先祖はサタンの分身だ。どうやって外に出た?
「力を迷宮に置いてきたんだろ」
フロアマスターの一人が退屈そうに欠伸をする。
「お前の名前はなんて言う?」
「マリクだ」
「なぜ力を迷宮に置いてきたと?」
「身代わりと同じ理屈だ。外に出るのに邪魔なら置いて来ればいい。本体に呪いを渡せば済む話だ」
「それはあり得ない」
マリクの言葉にルシーは首を振る。
「呪いを置くとは力の大部分を迷宮に捨てることに他ならない。サタンがなぜ回りくどくレイを呼び込んだか? 力を持って地上へ出るためだ。そうしないと神に勝てないからだ。そして先ほどのサタンを見るように、レイを身代わりにしても弱体化した。あれで精いっぱいの譲歩だ」
「だからこそ、サタンの分身、サータは人間として暮らせた」
チュリップが呟く。
「サータは神と戦うことを諦めた。だから外へ出れた。呪いとともに力を置き去りにすることで」
「あり得ないことではないな。狂った俺がそう言うんだから間違いない」
タケルはチュリップの言葉に苦笑する。
「分かった。その可能性を認めよう。しかしだからどうした? 言っておくが、僕やローズたち、フロアマスターたちがサタンに立ち向かうのは無しだ」
「何で?」
ローズがルシーを見る。
「レベルが違う。確かにフロアマスターたち含めて、僕たちはサタンのおかげで強く成れた。しかし地上へ出るとなると話は違う。神の呪いを置くとはサタンの力を放棄することに他ならない。それがどういう意味か分かるだろ?」
「人間がサタンに立ち向かうか。無理な話だ。それにたとえ俺たち全員で立ち向かってもサタンには勝てない。レイでなくてはならない。腹が立つが、俺たちはレイとサタンから見ればシロアリに過ぎない」
タケルの言葉に場が意気消沈する。
しかし俺の直感は訴える。
これが外へ出る方法だ!
「俺がサタンの力を放棄する。そして地上へ出て、人間となったサタンと戦う」
ルシーが顔を曇らす。タケルは煙草を吸う。
「それが現実的だ。だがそうなると、どうやって放棄するかだ。俺たちは誰一人として、レイの足元にも及ばない」
「皆ならどうだ?」
タケルたちの表情が変わる。
「サタンは個人主義だ。選ばれた一人しか己に並び立つものは居ないと考えている。だけど複数人、それこそ迷宮の化け物をひっくるめて全員ならどうだ! サタンに届くかもしれない!」
「ふざけるな! そんな博打に付き合っていられるか!」
フロアマスターの一人が叫ぶ。
「お前の名は?」
「ジュンだ! それにしても、何勝手に話を進めている! あいつは化け物だ! 悪魔だからな! そして俺たちが地下9995階で何をされたか分かるか! 弄ばれた! 紙くずみたいだ! それどころかここに来てすべてがサタンの茶番だった! 俺たちは屑のままだった! そんな奴に勝てる訳無いだろ!」
「そうね……サタンには勝てないわ」
フロアマスターたちが次々と諦めの言葉を口ずさむ。
「その、もう戦いは良いんじゃないかな? それに、サタンとは違って良い人が全王になった! なら、もう良いよ」
マイコが力なく笑いながら座り込む。
「ここで新たな人生を歩むべきだ。お前ならできる」
タケルすら力なく笑う。
「俺は外へ出たい。ここに居ても幸せになれないから」
「それはお前の勝手だ。俺は乗らない」
フロアマスターたちは頑なに協力を拒否する。
サタンから受けた恐怖を考えれば無理はない。
「なるほど。ならば私たちだけでも足掻こう」
リリーがローズとチュリップを見ると、二人は肩を竦める。
「ここまで来て諦めようなんて、それこそ私たちの意見を無視してるからね」
「元々この旅は私たちだけの物語。他人が入ってこなくて清々します」
ローズ、チュリップ、リリーが俺の前に立つ。
「待て! 止めろ! もしも三人に力を渡したらどうなるか! 三人が死ぬだけならまだいい! 余波で僕たちやレイも死ぬかもしれない!」
「あんたってサタンの手下?」
マリアがルシーを押しのけて、皆の前に立つ。
「さっきから聞いてれば、皆自分勝手じゃない? レイたちの気持ちを無視して、無理だ無理だって!」
「勝てる訳無いから言ってんだよ!」
ジュンが叫ぶ。
「そりゃ私たちは勝てないわ! でもレイなら勝てるでしょ! 今まで勝ってきたんだもの!」
「そうかい! なら勝手にやれ! 俺たちを巻き込むな!」
ジュンはイライラとそっぽを向く。他の者もマリアの言葉に従わない。
サタンの恐ろしさに心が折れている。君子危うきに近寄らずか。
「なるほど、皆の気持ちは分かった。ならば言う。サタンは戻ってくるぞ。俺たちを殺しに」
皆の表情が固まる。
「サタンの目的は神殺しだ。もしも神を殺したら次の目的は? 世界を破滅させること、弱い者を踏みにじることだ。それはお前たちも身に染みているはずだ」
「そ、そうかもしれないけど、レイさんが居るから大丈夫じゃ?」
「俺は神に封じられている。つまり神に勝てない。そんな奴が神を殺したサタンに勝てるはずが無いだろ?」
皆は押し黙る。サタンの恐ろしさを実感しているからこその反応だ。
「今なら勝てる。勝って見せる。だから協力してくれ」
ざっくりと作戦を説明する。
「上手く行くのか?」
フロアマスターたちはソワソワと体を揺すりながら眉を寄せる。
「やるしかない。頼む」
頭を下げる。この作戦はフロアマスターたちの協力が必要だ。
「もしも勝てたら、お前の世界の女を紹介しろ」
マリクが覚悟を決めた表情になる。
「分かった! 大丈夫! 俺は戻ったら英雄だ! 王様にお願いする!」
「金は貰えるよな?」
「待遇は良いよな?」
続々とフロアマスターたちの表情が変わる。
「大丈夫だ! 王様にお願いする!」
「と、友達はできますか? レイさんの世界で?」
マイコが恐る恐る聞いてきたので、膝を折って同じ目線に立つ。
「できるさ! だって、もう俺たちは友達だろ!」
マイコの目を見て言うと、マイコは照れたように視線を逸らす。
「やるしかないか」
タケルが煙草の火を消す。
「ありがとう」
「礼を言うな。よく考えれば、俺らしくなかった」
タケルに笑いかけると、タケルも笑い返す。
「ルシー、ベル、アス、協力してくれ」
「それはこの迷宮の主としての命令かい?」
ルシーたちは無表情で答える。
「友達としてだ」
「友達ね。ずるい言葉だ」
ルシーは笑うと、膝を付く。
「我が主レイよ。最初で最後の命令をください。私たちは命をかけて尽くします」
ルシーたちが首を垂れるとタケルも首を垂れる。
「よく考えると、俺たちはレイに命を握られている。逆らうだけ無駄だったな」
フロアマスターたちも首を垂れる。
「最初で最後の命令だ。俺はサタンを倒すために地上へ行く。そのために呪いを受けろ」
「承知しました。我が主よ」
ルシーたちが頷くと一気に場が動く!
「俺は迷宮の出口へ向かう。ローズたちも着いてきてくれ」
「分かった!」
ローズたちとともに迷宮の出口へ瞬間移動する。
「日の光ですね」
「ああ。そしてムカつくことに、サタンの背中も見える」
時間操作しているため、未だにサタンの姿が見える。しかし手を伸ばすことは敵わない。
「あいつを倒すんだね」
「必ずな」
ローズたちを抱きしめる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ローズたちの言葉で震える体が止まった。
「じゃ! 準備してくるね!」
「帰ったらエッチしましょうね!」
「必ずお前の期待に応える!」
ローズたちの姿が消えた。
「さてと。いよいよだ」
深呼吸してサタンの背中を見る。
「上手く行くか失敗するか。自信はある。だけど、怖くもある」
心臓がドキドキする。
「お前はどうして人を殺して笑える? 不幸な人間を笑える? そんなことしたって、神様に勝てるはずないのに?」
サタンの背中を睨みながら拳を握りしめて時を待つ。
そしてズズッと迷宮が振動し、壁や天井、床に魔方陣が刻まれる!
「準備が済んだ!」
床に手を当てる。
「時間操作解除!」
外に居るサタンが動き出す! 急がないと!
「行くぜ!」
グッと力を込めて迷宮全体に神の呪いを流し込む!
「何て量だ!」
サタンの背中が遠ざかっているのに未だに流しきれない! とてつもない力だ!
「早く! 早く!」
遠ざかるサタンの姿に歯ぎしりしながら、呪いが出て行くのを待つ!
レイが神の呪いに悪戦苦闘している頃、サタンはアルカトラズ国の城下に足を踏み入れる。
「これが人間の世界か。荒れているな」
城下は地震によって数々の家が倒壊し、けが人で溢れていた。
「ちょっとあんた! 突っ立ってないで助けなさいよ!」
瓦礫に埋まる人々を助ける女の一人がサタンに怒鳴る。
「そうだな。哀れなるお前らを助けてやらねばな」
サタンは怒鳴りかけてきた女の頭を掴む。
女は跡形もなく消滅した。
「光栄に思うがいい。お前たちは神を殺すための糧となるのだ」
サタンは次々と人々を消滅させる。
悲鳴が新たに上がった。
「止まれ!」
異変に気付いた騎士たちがサタンを取り囲む。
「やはりシロアリだ。まるで食い足りない」
騎士たちは抵抗もできずに消滅する。
「おい! 俺の国で何をやっている!」
アルカトラズ十五世とその側近がサタンを取り囲む。
「お前たちを食ってやっているのだ。誇りに思うだろ?」
アルカトラズ十五世はサタンの目を見た瞬間飛びのく。
「ふむ。シロアリにしては知能がある。力の差を理解するとは」
サタンは獲物をいたぶるように笑いながらゆっくりと近づく。
「くく! お前は特別に、我が偉大なる力を味合わせてやろう!」
サタンはアルカトラズ十五世の首をゆっくりと締め上げる。
「どうだ? 単純な握力だけでも偉大だと分かるだろ?」
「何言ってんだお前は!」
サタンの背中に男性の蹴りが叩き込まれる! サタンが指を解いた!
「何だと?」
サタンはゆっくりと男性の顔を見る。レイの父親だった。
「なるほど、レイの父親か。生意気にも私と同じ力を感じる!」
張り手を振り下ろして、レイの父親を叩き伏せる!
「屑が。万死に値する!」
サタンは屈辱を与えるように父親の顔を踏みつける。
「サタン!」
レイの声が響くと、サタンの表情が変わる!
ようやく迷宮から出られた! 嬉しいが喜んでいる暇はない! 急いでサタンを探す!
すぐに城下から悲鳴が聞こえた!
それを辿ると、ついにサタンの姿が見えた!
サタンは親父の顔を踏みつけていやがった!
「レイ? どうやって神の呪いを?」
サタンは足を退けない! 動くと踏みつぶされるかも!
「まあ、どうでもいい。それよりも丁度いいと喜ぼう」
サタンは親父から足を退ける! しかし近くに居るから動けない!
その間にもサタンは天に手を向ける!
「まずはこいつらを食いつくし、次にお前を食うとしよう!」
「サタン! 止めろ!」
光がサタンに集まり闇が訪れる!
「レイ……」
親父と目が合った。
「頑張れ! お前は俺の息子だ!」
そう言ってくれた気がした。
暗黒の中、サタンとレイだけが、暗黒の大地に立つ。
森も、星も、建物も、人も、すべてサタンが吸収した!
「しかし、どんな手を使ったか分からないが、ご苦労であった! お前を食えば別の異世界へ飛び立てる!」
「お、お前! この世界だけじゃなく、他の世界も!」
「当然だ! 俺は神を侮っていない。この世界を食らった程度では届かない。だからこそ、無限に存在する異世界へ飛び立つ! すべての異世界を食らいつくす! そうすることで俺は神に届く!」
「クソ野郎が! てめえの好きにはさせねえ!」
「クックック! 来るか! 良いだろう! お前の物語を締めくくる最後の戦いだ!」
レイが暗黒の大地を蹴ると、最後の戦いが始まった。
小さいフロアマスターの一人に詰め寄る。
「ま、マイコです! その、すいません!」
突然ブルブル震えて頭を下げる。
「謝る必要はねえよ。それより、さっきなんて言った?」
「そ、その、サタンの分身はどうやって外に出たんだろって」
マイコの言う通りだ。俺の先祖はサタンの分身だ。どうやって外に出た?
「力を迷宮に置いてきたんだろ」
フロアマスターの一人が退屈そうに欠伸をする。
「お前の名前はなんて言う?」
「マリクだ」
「なぜ力を迷宮に置いてきたと?」
「身代わりと同じ理屈だ。外に出るのに邪魔なら置いて来ればいい。本体に呪いを渡せば済む話だ」
「それはあり得ない」
マリクの言葉にルシーは首を振る。
「呪いを置くとは力の大部分を迷宮に捨てることに他ならない。サタンがなぜ回りくどくレイを呼び込んだか? 力を持って地上へ出るためだ。そうしないと神に勝てないからだ。そして先ほどのサタンを見るように、レイを身代わりにしても弱体化した。あれで精いっぱいの譲歩だ」
「だからこそ、サタンの分身、サータは人間として暮らせた」
チュリップが呟く。
「サータは神と戦うことを諦めた。だから外へ出れた。呪いとともに力を置き去りにすることで」
「あり得ないことではないな。狂った俺がそう言うんだから間違いない」
タケルはチュリップの言葉に苦笑する。
「分かった。その可能性を認めよう。しかしだからどうした? 言っておくが、僕やローズたち、フロアマスターたちがサタンに立ち向かうのは無しだ」
「何で?」
ローズがルシーを見る。
「レベルが違う。確かにフロアマスターたち含めて、僕たちはサタンのおかげで強く成れた。しかし地上へ出るとなると話は違う。神の呪いを置くとはサタンの力を放棄することに他ならない。それがどういう意味か分かるだろ?」
「人間がサタンに立ち向かうか。無理な話だ。それにたとえ俺たち全員で立ち向かってもサタンには勝てない。レイでなくてはならない。腹が立つが、俺たちはレイとサタンから見ればシロアリに過ぎない」
タケルの言葉に場が意気消沈する。
しかし俺の直感は訴える。
これが外へ出る方法だ!
「俺がサタンの力を放棄する。そして地上へ出て、人間となったサタンと戦う」
ルシーが顔を曇らす。タケルは煙草を吸う。
「それが現実的だ。だがそうなると、どうやって放棄するかだ。俺たちは誰一人として、レイの足元にも及ばない」
「皆ならどうだ?」
タケルたちの表情が変わる。
「サタンは個人主義だ。選ばれた一人しか己に並び立つものは居ないと考えている。だけど複数人、それこそ迷宮の化け物をひっくるめて全員ならどうだ! サタンに届くかもしれない!」
「ふざけるな! そんな博打に付き合っていられるか!」
フロアマスターの一人が叫ぶ。
「お前の名は?」
「ジュンだ! それにしても、何勝手に話を進めている! あいつは化け物だ! 悪魔だからな! そして俺たちが地下9995階で何をされたか分かるか! 弄ばれた! 紙くずみたいだ! それどころかここに来てすべてがサタンの茶番だった! 俺たちは屑のままだった! そんな奴に勝てる訳無いだろ!」
「そうね……サタンには勝てないわ」
フロアマスターたちが次々と諦めの言葉を口ずさむ。
「その、もう戦いは良いんじゃないかな? それに、サタンとは違って良い人が全王になった! なら、もう良いよ」
マイコが力なく笑いながら座り込む。
「ここで新たな人生を歩むべきだ。お前ならできる」
タケルすら力なく笑う。
「俺は外へ出たい。ここに居ても幸せになれないから」
「それはお前の勝手だ。俺は乗らない」
フロアマスターたちは頑なに協力を拒否する。
サタンから受けた恐怖を考えれば無理はない。
「なるほど。ならば私たちだけでも足掻こう」
リリーがローズとチュリップを見ると、二人は肩を竦める。
「ここまで来て諦めようなんて、それこそ私たちの意見を無視してるからね」
「元々この旅は私たちだけの物語。他人が入ってこなくて清々します」
ローズ、チュリップ、リリーが俺の前に立つ。
「待て! 止めろ! もしも三人に力を渡したらどうなるか! 三人が死ぬだけならまだいい! 余波で僕たちやレイも死ぬかもしれない!」
「あんたってサタンの手下?」
マリアがルシーを押しのけて、皆の前に立つ。
「さっきから聞いてれば、皆自分勝手じゃない? レイたちの気持ちを無視して、無理だ無理だって!」
「勝てる訳無いから言ってんだよ!」
ジュンが叫ぶ。
「そりゃ私たちは勝てないわ! でもレイなら勝てるでしょ! 今まで勝ってきたんだもの!」
「そうかい! なら勝手にやれ! 俺たちを巻き込むな!」
ジュンはイライラとそっぽを向く。他の者もマリアの言葉に従わない。
サタンの恐ろしさに心が折れている。君子危うきに近寄らずか。
「なるほど、皆の気持ちは分かった。ならば言う。サタンは戻ってくるぞ。俺たちを殺しに」
皆の表情が固まる。
「サタンの目的は神殺しだ。もしも神を殺したら次の目的は? 世界を破滅させること、弱い者を踏みにじることだ。それはお前たちも身に染みているはずだ」
「そ、そうかもしれないけど、レイさんが居るから大丈夫じゃ?」
「俺は神に封じられている。つまり神に勝てない。そんな奴が神を殺したサタンに勝てるはずが無いだろ?」
皆は押し黙る。サタンの恐ろしさを実感しているからこその反応だ。
「今なら勝てる。勝って見せる。だから協力してくれ」
ざっくりと作戦を説明する。
「上手く行くのか?」
フロアマスターたちはソワソワと体を揺すりながら眉を寄せる。
「やるしかない。頼む」
頭を下げる。この作戦はフロアマスターたちの協力が必要だ。
「もしも勝てたら、お前の世界の女を紹介しろ」
マリクが覚悟を決めた表情になる。
「分かった! 大丈夫! 俺は戻ったら英雄だ! 王様にお願いする!」
「金は貰えるよな?」
「待遇は良いよな?」
続々とフロアマスターたちの表情が変わる。
「大丈夫だ! 王様にお願いする!」
「と、友達はできますか? レイさんの世界で?」
マイコが恐る恐る聞いてきたので、膝を折って同じ目線に立つ。
「できるさ! だって、もう俺たちは友達だろ!」
マイコの目を見て言うと、マイコは照れたように視線を逸らす。
「やるしかないか」
タケルが煙草の火を消す。
「ありがとう」
「礼を言うな。よく考えれば、俺らしくなかった」
タケルに笑いかけると、タケルも笑い返す。
「ルシー、ベル、アス、協力してくれ」
「それはこの迷宮の主としての命令かい?」
ルシーたちは無表情で答える。
「友達としてだ」
「友達ね。ずるい言葉だ」
ルシーは笑うと、膝を付く。
「我が主レイよ。最初で最後の命令をください。私たちは命をかけて尽くします」
ルシーたちが首を垂れるとタケルも首を垂れる。
「よく考えると、俺たちはレイに命を握られている。逆らうだけ無駄だったな」
フロアマスターたちも首を垂れる。
「最初で最後の命令だ。俺はサタンを倒すために地上へ行く。そのために呪いを受けろ」
「承知しました。我が主よ」
ルシーたちが頷くと一気に場が動く!
「俺は迷宮の出口へ向かう。ローズたちも着いてきてくれ」
「分かった!」
ローズたちとともに迷宮の出口へ瞬間移動する。
「日の光ですね」
「ああ。そしてムカつくことに、サタンの背中も見える」
時間操作しているため、未だにサタンの姿が見える。しかし手を伸ばすことは敵わない。
「あいつを倒すんだね」
「必ずな」
ローズたちを抱きしめる。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ローズたちの言葉で震える体が止まった。
「じゃ! 準備してくるね!」
「帰ったらエッチしましょうね!」
「必ずお前の期待に応える!」
ローズたちの姿が消えた。
「さてと。いよいよだ」
深呼吸してサタンの背中を見る。
「上手く行くか失敗するか。自信はある。だけど、怖くもある」
心臓がドキドキする。
「お前はどうして人を殺して笑える? 不幸な人間を笑える? そんなことしたって、神様に勝てるはずないのに?」
サタンの背中を睨みながら拳を握りしめて時を待つ。
そしてズズッと迷宮が振動し、壁や天井、床に魔方陣が刻まれる!
「準備が済んだ!」
床に手を当てる。
「時間操作解除!」
外に居るサタンが動き出す! 急がないと!
「行くぜ!」
グッと力を込めて迷宮全体に神の呪いを流し込む!
「何て量だ!」
サタンの背中が遠ざかっているのに未だに流しきれない! とてつもない力だ!
「早く! 早く!」
遠ざかるサタンの姿に歯ぎしりしながら、呪いが出て行くのを待つ!
レイが神の呪いに悪戦苦闘している頃、サタンはアルカトラズ国の城下に足を踏み入れる。
「これが人間の世界か。荒れているな」
城下は地震によって数々の家が倒壊し、けが人で溢れていた。
「ちょっとあんた! 突っ立ってないで助けなさいよ!」
瓦礫に埋まる人々を助ける女の一人がサタンに怒鳴る。
「そうだな。哀れなるお前らを助けてやらねばな」
サタンは怒鳴りかけてきた女の頭を掴む。
女は跡形もなく消滅した。
「光栄に思うがいい。お前たちは神を殺すための糧となるのだ」
サタンは次々と人々を消滅させる。
悲鳴が新たに上がった。
「止まれ!」
異変に気付いた騎士たちがサタンを取り囲む。
「やはりシロアリだ。まるで食い足りない」
騎士たちは抵抗もできずに消滅する。
「おい! 俺の国で何をやっている!」
アルカトラズ十五世とその側近がサタンを取り囲む。
「お前たちを食ってやっているのだ。誇りに思うだろ?」
アルカトラズ十五世はサタンの目を見た瞬間飛びのく。
「ふむ。シロアリにしては知能がある。力の差を理解するとは」
サタンは獲物をいたぶるように笑いながらゆっくりと近づく。
「くく! お前は特別に、我が偉大なる力を味合わせてやろう!」
サタンはアルカトラズ十五世の首をゆっくりと締め上げる。
「どうだ? 単純な握力だけでも偉大だと分かるだろ?」
「何言ってんだお前は!」
サタンの背中に男性の蹴りが叩き込まれる! サタンが指を解いた!
「何だと?」
サタンはゆっくりと男性の顔を見る。レイの父親だった。
「なるほど、レイの父親か。生意気にも私と同じ力を感じる!」
張り手を振り下ろして、レイの父親を叩き伏せる!
「屑が。万死に値する!」
サタンは屈辱を与えるように父親の顔を踏みつける。
「サタン!」
レイの声が響くと、サタンの表情が変わる!
ようやく迷宮から出られた! 嬉しいが喜んでいる暇はない! 急いでサタンを探す!
すぐに城下から悲鳴が聞こえた!
それを辿ると、ついにサタンの姿が見えた!
サタンは親父の顔を踏みつけていやがった!
「レイ? どうやって神の呪いを?」
サタンは足を退けない! 動くと踏みつぶされるかも!
「まあ、どうでもいい。それよりも丁度いいと喜ぼう」
サタンは親父から足を退ける! しかし近くに居るから動けない!
その間にもサタンは天に手を向ける!
「まずはこいつらを食いつくし、次にお前を食うとしよう!」
「サタン! 止めろ!」
光がサタンに集まり闇が訪れる!
「レイ……」
親父と目が合った。
「頑張れ! お前は俺の息子だ!」
そう言ってくれた気がした。
暗黒の中、サタンとレイだけが、暗黒の大地に立つ。
森も、星も、建物も、人も、すべてサタンが吸収した!
「しかし、どんな手を使ったか分からないが、ご苦労であった! お前を食えば別の異世界へ飛び立てる!」
「お、お前! この世界だけじゃなく、他の世界も!」
「当然だ! 俺は神を侮っていない。この世界を食らった程度では届かない。だからこそ、無限に存在する異世界へ飛び立つ! すべての異世界を食らいつくす! そうすることで俺は神に届く!」
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