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最後の戦い
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地下9999階は巨大な魔方陣が描かれていた。そしてその中でローズたちは輪になってサタンの力を受け入れる。
「ぐ! ぐ!」
全員が歯を食いしばる。皆、サタンの力を受け入れたため、真っ白な肌に深淵の瞳と髪色だ。
「が!」
フロアマスターの一人が口から暗黒の塊を吐き出す。それが放つ瘴気は容赦なくフロアマスターやローズたちの体を焼く。
「耐えて!」
暗黒の塊は無差別にローズたちの体を攻撃する。ローズたちは必死に耐える。防いでいる余裕がない。
暗黒の塊はサタンに次ぐ力を持つルシーや、レイとともに力を付けたローズ、チュリップ、リリーさえも容赦なく傷つける。
事態は刻一刻と悪化する。
迷宮全体はサタンの力を収める結界となった。それを支えるのはローズたちだけでなく、迷宮に描かれた魔方陣や化け物だ。それが今軋みを上げている。
ベルとチュリップの命を受けた化け物たちは一つの意志となって手を繋ぎ合う。
その体から暗黒の塊が噴き出している。
迷宮は着実に崩壊を開始している。壁や床、天井に描かれた魔方陣から亀裂が走り、そこから暗黒の塊が湧き出る。
無差別的な暴力が、一つの意志を持って、着実に破滅を呼び寄せる。
「レイ! 早く! 長くは持たない!」
「ぐは!」
サタンの拳を腹に受けると激痛で腹を押さえる!
「おっと! 隙ありだ」
首目掛けて振り下ろされる手刀を避ける!
「ほうほう! まだ動けるか」
「クソ野郎が!」
サタンに拳を振るうが簡単にカウンターを貰う!
スピードの次元が違う! 単純に強い!
「ふむふむ。さすがに宇宙の星々も食らえば、お前でも余裕だな」
サタンはニヤニヤと隙だらけで笑う。
蹴りを放つが目にも止まらぬ速度で反撃を食らう。
触れることさえできないか!
「馬鹿な男だ。迷宮に隠れていれば、つかの間の快楽を味わえたのに」
「悪いが、箱庭の趣味はない。何より、お前の力など吐き気がする!」
「趣味は幅広く持つ物だ。それに、身の程を知れという人間の言葉を知らないのか?」
蹴りが横っ面に叩き込まれる! 意識が飛びそうになったが即座に立て直し、距離を取る!
「感情的になるなと教わらなかったか? 冷静に物事を判断しろと教わらなかったか?」
「教わってねえな!」
「だろうな。実に愚かだ。教わっていれば、俺の前に立つなど考えない」
拳がこめかみに叩き込まれる! 攻撃は見えているが反応できない!
「しかし、どうやってか我が力を神の呪いごと迷宮に置いてきたようだな。そうでなくてはここまで楽勝ではない」
ペロリとサタンは己の力を確信するように甲を舐める!
「どうやったか知りたいか? 一発殴らせてくれたら教えてやるよ」
「どうでもいいことだ。どの道使い道など無いのだから」
顔面に迫る拳を避ける!
「何だと!」
初めてサタンが距離を取る。
「避けられたのがそんなに怖いか?」
サタンは目を血走らせる。
避けられたのはタケルのおかげだ。タケルと戦ったことで、相手の視線や動作、そして性格からどんな攻撃が来るか予測できるようになった! フロアマスターたちの声を聞いたおかげだ! 何度も攻撃を食らうことで覚えた!
「全く。これほどの実力差がありながら、油断ならない奴だ」
再び顔面に拳が迫る! 早い! 避けられない!
ガツンと食らったがすぐに受け身を取って立て直す!
「何だと! なぜ死なない!」
「拳が当たる直前、顔面を捻って威力を殺した。ボクシングって競技の技術らしい。暇つぶしにリリーに教えてもらったが、こんな形で役立つとは思わなかったぜ」
「屑が! 悪あがきを! 炎魔法! ファイヤーレーザー!」
「重力魔法! ブラックホール!」
サタンの熱線を空間の落とし穴で防ぐ!
「馬鹿な!」
「これはルシーとローズに教えてもらった技だ。付け焼き刃だったが、今のお前には十分の様だな!」
「おのれおのれ!」
背筋の凍る連撃を避ける! 避ける!
拳を構える!
「ち!」
サタンは攻撃を止めて飛び下がる。
「お前の弱点は、人間ではないのに、人間になったことだ」
「何?」
「お前は今、怖いと思っている。人間になったことで死を意識し始めたから。だから先ほどの魔法攻撃も無意識に手加減した。万が一に力を使い果たした時のことを考えてしまった」
サタンはギリギリと拳を握りしめる。
「付け加えると、傲慢なことだ。お前は己が唯一の存在だと信じている。だからこそ俺が強くなっても脅威に思えなかった。だけど、俺はお前のおかげで強くなった。お前の身代わりになれるほど。それがどんなに恐ろしいことか気づけなかった!」
「減らず口を! 俺は神が作りし唯一にして完璧な存在! お前などと格が違う!」
サタンが拳を固めて突っ込んで来る!
「今のお前は人間だ!」
それにカウンターをぶち込む!
「この俺が攻撃を食らうだと!」
サタンは目をしろくろさせて、頬を触りながら下がる。肉体的には傷一つない! しかし臆した!
「俺を! 俺たちを舐めるな!」
サタンの目を強く睨む!
「俺たちは地下9999階までたどり着いた! その道のりは辛かった! だけど乗り越えた! だからこそ! お前みたいな臆病者に負けるか!」
「良かろう! ならば圧倒的な力の差を見せてやる!」
気づいた刹那、サタンの歯が首筋に食い込んでいた!
「は! このままお前を食らってやる!」
ごくごくと血を飲み干す。力は強く、引き離せない。
技量で誤魔化せても、本質的な力の差は変わらない。
「サタン。分身は神を恐れたからこそ人間となることができた。だからこそ、俺を生めた」
「……何をほざく? 黙って食われろ」
「お前の己惚れだ! 何が神が作り出した唯一の存在だ! 人間だって神が作り出した唯一の存在! 天使も山も森も空気も何もかも! 神が作り出した存在! 俺もローズもチュリップもリリーもルシーもベルもアスもタケルもマリアも! 誰もが特別! お前だけが特別だと思うな!」
胸に刻んだ魔方陣を発動する!
首筋の傷からサタンの力となる暗黒の力が湧き出る!
「な、何だと!」
「神魔法! 神の鎖!」
神の鎖でサタンと俺を縛る!
サタンの口が離れないように抑え込む!
「遠慮せず食え! お前が望む最強の力だ! 代わりに俺は! ちっぽけで愚かな人間の力を貰う!」
サタンの首に渾身の力で指をねじ込み、吸収された人間の! 親父の力を引きずり出す!
「うおおおおおおおお!」
サタンの雄たけびが響く。
迷宮は大異変が起こっていた!
迷宮に溢れた暗黒の塊が地下9999階の魔方陣に飛び込んでいく!
「やった!」
体中血まみれ、肉や血管が裂けているのにも関わらず、ローズは笑う。
「空間魔法は神に反逆する力じゃない。だから、外と迷宮を繋げられる。その道を通してサタンに力を戻す。理屈は通っていたが、本当に上手く行くとは」
ルシーは薄く笑う。
「サタンは圧倒的な力を持っていた。それこそ罠があっても無視できるほどの。それが今回裏目に出た。人間になって弱ったのに、罠を考えなかった」
タケルは笑いながら煙草に火をつける。
「地上はサタンさえも恐れた神の領域。神の領域を犯せば、必ず神の裁きが下る」
リリーは油断のない瞳で暗黒の塊を見守る。
「ちょっと待ってください! あの塊、止まってません!」
チュリップの言う通り、暗黒の塊は遮られたかのように魔方陣の前で止まっていた! その間にも続々と暗黒の塊が魔方陣に殺到する!
「全員掴まれ! 下がるぞ!」
ベルが真の姿となって殺到する暗黒の塊から遠ざかる。
「何が起きたの! 魔方陣はまだ起動しているのに何で止まっちゃうの!」
ローズが悲鳴を上げる。
「サタンだ! あいつが力を拒んでいる!」
ルシーは己の腕をギリギリと握りしめる。
「拒んでいる? ならどうなる!」
タケルが煙草を噛みちぎる。
「見ろ! 力の流れは淀んでいるが止まっていない。レイの体に流れ込んでいる!」
「この野郎!」
「人間となったとはいえ! 俺が貴様らのような下等生物に負ける訳がない!」
サタンの口から力が漏れる! それは少しずつ俺に流れ込む! 指先がじりじりと白くなる!
「奇策! 傑作! お前が神に罰せられろ! 生き残るのは俺だ!」
「畜生!」
力が勝手に流れ込む! 押し戻せない!
『レイ! 馬鹿お前は!』
親父の声が聞こえた。
背中に親父が居る。
『レイ! 頭使え頭! 最初に教えただろ』
親父の拳骨がガツンと頭を殴る。
「そうだったな。頭を使わなくちゃな」
顔を起こして、サタンの顔面を見据える。
「一発食らえや!」
喧嘩の基本! 頭突きをサタンの額にぶつける!
「……が」
サタンの力が抜けると、再び力がサタンへ流れ込む。
「ぐあああああ! 止めろ! 要らない! なぜ俺に流れ込む! この力はもう捨てたのに!」
サタンから体を離す。もう近づく必要も無い。
力が勝手にサタンへ帰っていく。
「なぜかって? お前はさんざん言っていたじゃないか」
ため息を吐く。
「お前は神に作られた唯一の存在なんだろ?」
サタンの肌が見る見ると白くなる。
「何より、お前は人間じゃない。お前はサタン。神の敵対者。そんな力を望むのは、お前だけだ」
「止めろ! 止めろぉおおおおおおお!」
サタンは初めて泣き叫ぶ。それでも流れは止まらない。
サタン。神に作られし唯一の存在。その力を受け止められるのは、サタンだけだ。
「あ……あ」
ついに力がサタンに帰る。肌は白く、眼も髪も深淵のように黒い。
「く、くそ! 下等生物が! 消滅させてくれる!」
サタンは悪あがきにと襲い掛かる。
その体は氷の鎖で動かなくなる。
「こ、これは!」
サタンは怯える目で空を見上げる。空を見れば、輝かしい氷の腕が下りて来る。
「止めろ! 神よ! 俺はお前の後継者だ!」
腕は問答無用でサタンを鷲掴みにする。
そしてそのまま締め上げる。
「ち、畜生! なぜだ! なぜ俺が! 唯一にして絶対の存在である俺が!」
「黙って天罰を受けな、サタン!」
サタンの体は氷となって砕け散った。
サタンは砕け散った。すべてが終わった。
だけどこの世界は暗黒のままだ。
親父たち、星々の力は手の中にある。
だがそれだけ。
神が居るこの世界で現実改変は使えない。あれはサタンの領域だからこそ使えた魔法だ。
「神様。助けてください」
心の底から膝を付き、神に祈る。
「俺はサタンを倒した。だからお願いします。皆を……助けてください……」
頭を撫でられた気がした。振り返ると親父が居た。
『よくやったな。レイ』
星々が、空が、大地が、国が、あらゆるものが再生する。
「ありがとう。神様」
「ぐ! ぐ!」
全員が歯を食いしばる。皆、サタンの力を受け入れたため、真っ白な肌に深淵の瞳と髪色だ。
「が!」
フロアマスターの一人が口から暗黒の塊を吐き出す。それが放つ瘴気は容赦なくフロアマスターやローズたちの体を焼く。
「耐えて!」
暗黒の塊は無差別にローズたちの体を攻撃する。ローズたちは必死に耐える。防いでいる余裕がない。
暗黒の塊はサタンに次ぐ力を持つルシーや、レイとともに力を付けたローズ、チュリップ、リリーさえも容赦なく傷つける。
事態は刻一刻と悪化する。
迷宮全体はサタンの力を収める結界となった。それを支えるのはローズたちだけでなく、迷宮に描かれた魔方陣や化け物だ。それが今軋みを上げている。
ベルとチュリップの命を受けた化け物たちは一つの意志となって手を繋ぎ合う。
その体から暗黒の塊が噴き出している。
迷宮は着実に崩壊を開始している。壁や床、天井に描かれた魔方陣から亀裂が走り、そこから暗黒の塊が湧き出る。
無差別的な暴力が、一つの意志を持って、着実に破滅を呼び寄せる。
「レイ! 早く! 長くは持たない!」
「ぐは!」
サタンの拳を腹に受けると激痛で腹を押さえる!
「おっと! 隙ありだ」
首目掛けて振り下ろされる手刀を避ける!
「ほうほう! まだ動けるか」
「クソ野郎が!」
サタンに拳を振るうが簡単にカウンターを貰う!
スピードの次元が違う! 単純に強い!
「ふむふむ。さすがに宇宙の星々も食らえば、お前でも余裕だな」
サタンはニヤニヤと隙だらけで笑う。
蹴りを放つが目にも止まらぬ速度で反撃を食らう。
触れることさえできないか!
「馬鹿な男だ。迷宮に隠れていれば、つかの間の快楽を味わえたのに」
「悪いが、箱庭の趣味はない。何より、お前の力など吐き気がする!」
「趣味は幅広く持つ物だ。それに、身の程を知れという人間の言葉を知らないのか?」
蹴りが横っ面に叩き込まれる! 意識が飛びそうになったが即座に立て直し、距離を取る!
「感情的になるなと教わらなかったか? 冷静に物事を判断しろと教わらなかったか?」
「教わってねえな!」
「だろうな。実に愚かだ。教わっていれば、俺の前に立つなど考えない」
拳がこめかみに叩き込まれる! 攻撃は見えているが反応できない!
「しかし、どうやってか我が力を神の呪いごと迷宮に置いてきたようだな。そうでなくてはここまで楽勝ではない」
ペロリとサタンは己の力を確信するように甲を舐める!
「どうやったか知りたいか? 一発殴らせてくれたら教えてやるよ」
「どうでもいいことだ。どの道使い道など無いのだから」
顔面に迫る拳を避ける!
「何だと!」
初めてサタンが距離を取る。
「避けられたのがそんなに怖いか?」
サタンは目を血走らせる。
避けられたのはタケルのおかげだ。タケルと戦ったことで、相手の視線や動作、そして性格からどんな攻撃が来るか予測できるようになった! フロアマスターたちの声を聞いたおかげだ! 何度も攻撃を食らうことで覚えた!
「全く。これほどの実力差がありながら、油断ならない奴だ」
再び顔面に拳が迫る! 早い! 避けられない!
ガツンと食らったがすぐに受け身を取って立て直す!
「何だと! なぜ死なない!」
「拳が当たる直前、顔面を捻って威力を殺した。ボクシングって競技の技術らしい。暇つぶしにリリーに教えてもらったが、こんな形で役立つとは思わなかったぜ」
「屑が! 悪あがきを! 炎魔法! ファイヤーレーザー!」
「重力魔法! ブラックホール!」
サタンの熱線を空間の落とし穴で防ぐ!
「馬鹿な!」
「これはルシーとローズに教えてもらった技だ。付け焼き刃だったが、今のお前には十分の様だな!」
「おのれおのれ!」
背筋の凍る連撃を避ける! 避ける!
拳を構える!
「ち!」
サタンは攻撃を止めて飛び下がる。
「お前の弱点は、人間ではないのに、人間になったことだ」
「何?」
「お前は今、怖いと思っている。人間になったことで死を意識し始めたから。だから先ほどの魔法攻撃も無意識に手加減した。万が一に力を使い果たした時のことを考えてしまった」
サタンはギリギリと拳を握りしめる。
「付け加えると、傲慢なことだ。お前は己が唯一の存在だと信じている。だからこそ俺が強くなっても脅威に思えなかった。だけど、俺はお前のおかげで強くなった。お前の身代わりになれるほど。それがどんなに恐ろしいことか気づけなかった!」
「減らず口を! 俺は神が作りし唯一にして完璧な存在! お前などと格が違う!」
サタンが拳を固めて突っ込んで来る!
「今のお前は人間だ!」
それにカウンターをぶち込む!
「この俺が攻撃を食らうだと!」
サタンは目をしろくろさせて、頬を触りながら下がる。肉体的には傷一つない! しかし臆した!
「俺を! 俺たちを舐めるな!」
サタンの目を強く睨む!
「俺たちは地下9999階までたどり着いた! その道のりは辛かった! だけど乗り越えた! だからこそ! お前みたいな臆病者に負けるか!」
「良かろう! ならば圧倒的な力の差を見せてやる!」
気づいた刹那、サタンの歯が首筋に食い込んでいた!
「は! このままお前を食らってやる!」
ごくごくと血を飲み干す。力は強く、引き離せない。
技量で誤魔化せても、本質的な力の差は変わらない。
「サタン。分身は神を恐れたからこそ人間となることができた。だからこそ、俺を生めた」
「……何をほざく? 黙って食われろ」
「お前の己惚れだ! 何が神が作り出した唯一の存在だ! 人間だって神が作り出した唯一の存在! 天使も山も森も空気も何もかも! 神が作り出した存在! 俺もローズもチュリップもリリーもルシーもベルもアスもタケルもマリアも! 誰もが特別! お前だけが特別だと思うな!」
胸に刻んだ魔方陣を発動する!
首筋の傷からサタンの力となる暗黒の力が湧き出る!
「な、何だと!」
「神魔法! 神の鎖!」
神の鎖でサタンと俺を縛る!
サタンの口が離れないように抑え込む!
「遠慮せず食え! お前が望む最強の力だ! 代わりに俺は! ちっぽけで愚かな人間の力を貰う!」
サタンの首に渾身の力で指をねじ込み、吸収された人間の! 親父の力を引きずり出す!
「うおおおおおおおお!」
サタンの雄たけびが響く。
迷宮は大異変が起こっていた!
迷宮に溢れた暗黒の塊が地下9999階の魔方陣に飛び込んでいく!
「やった!」
体中血まみれ、肉や血管が裂けているのにも関わらず、ローズは笑う。
「空間魔法は神に反逆する力じゃない。だから、外と迷宮を繋げられる。その道を通してサタンに力を戻す。理屈は通っていたが、本当に上手く行くとは」
ルシーは薄く笑う。
「サタンは圧倒的な力を持っていた。それこそ罠があっても無視できるほどの。それが今回裏目に出た。人間になって弱ったのに、罠を考えなかった」
タケルは笑いながら煙草に火をつける。
「地上はサタンさえも恐れた神の領域。神の領域を犯せば、必ず神の裁きが下る」
リリーは油断のない瞳で暗黒の塊を見守る。
「ちょっと待ってください! あの塊、止まってません!」
チュリップの言う通り、暗黒の塊は遮られたかのように魔方陣の前で止まっていた! その間にも続々と暗黒の塊が魔方陣に殺到する!
「全員掴まれ! 下がるぞ!」
ベルが真の姿となって殺到する暗黒の塊から遠ざかる。
「何が起きたの! 魔方陣はまだ起動しているのに何で止まっちゃうの!」
ローズが悲鳴を上げる。
「サタンだ! あいつが力を拒んでいる!」
ルシーは己の腕をギリギリと握りしめる。
「拒んでいる? ならどうなる!」
タケルが煙草を噛みちぎる。
「見ろ! 力の流れは淀んでいるが止まっていない。レイの体に流れ込んでいる!」
「この野郎!」
「人間となったとはいえ! 俺が貴様らのような下等生物に負ける訳がない!」
サタンの口から力が漏れる! それは少しずつ俺に流れ込む! 指先がじりじりと白くなる!
「奇策! 傑作! お前が神に罰せられろ! 生き残るのは俺だ!」
「畜生!」
力が勝手に流れ込む! 押し戻せない!
『レイ! 馬鹿お前は!』
親父の声が聞こえた。
背中に親父が居る。
『レイ! 頭使え頭! 最初に教えただろ』
親父の拳骨がガツンと頭を殴る。
「そうだったな。頭を使わなくちゃな」
顔を起こして、サタンの顔面を見据える。
「一発食らえや!」
喧嘩の基本! 頭突きをサタンの額にぶつける!
「……が」
サタンの力が抜けると、再び力がサタンへ流れ込む。
「ぐあああああ! 止めろ! 要らない! なぜ俺に流れ込む! この力はもう捨てたのに!」
サタンから体を離す。もう近づく必要も無い。
力が勝手にサタンへ帰っていく。
「なぜかって? お前はさんざん言っていたじゃないか」
ため息を吐く。
「お前は神に作られた唯一の存在なんだろ?」
サタンの肌が見る見ると白くなる。
「何より、お前は人間じゃない。お前はサタン。神の敵対者。そんな力を望むのは、お前だけだ」
「止めろ! 止めろぉおおおおおおお!」
サタンは初めて泣き叫ぶ。それでも流れは止まらない。
サタン。神に作られし唯一の存在。その力を受け止められるのは、サタンだけだ。
「あ……あ」
ついに力がサタンに帰る。肌は白く、眼も髪も深淵のように黒い。
「く、くそ! 下等生物が! 消滅させてくれる!」
サタンは悪あがきにと襲い掛かる。
その体は氷の鎖で動かなくなる。
「こ、これは!」
サタンは怯える目で空を見上げる。空を見れば、輝かしい氷の腕が下りて来る。
「止めろ! 神よ! 俺はお前の後継者だ!」
腕は問答無用でサタンを鷲掴みにする。
そしてそのまま締め上げる。
「ち、畜生! なぜだ! なぜ俺が! 唯一にして絶対の存在である俺が!」
「黙って天罰を受けな、サタン!」
サタンの体は氷となって砕け散った。
サタンは砕け散った。すべてが終わった。
だけどこの世界は暗黒のままだ。
親父たち、星々の力は手の中にある。
だがそれだけ。
神が居るこの世界で現実改変は使えない。あれはサタンの領域だからこそ使えた魔法だ。
「神様。助けてください」
心の底から膝を付き、神に祈る。
「俺はサタンを倒した。だからお願いします。皆を……助けてください……」
頭を撫でられた気がした。振り返ると親父が居た。
『よくやったな。レイ』
星々が、空が、大地が、国が、あらゆるものが再生する。
「ありがとう。神様」
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