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ファミリー壊滅

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 アップルファミリーのアジトの前に立つ。そこはオフィスビルで、ガラス張りの壁が近代的な雰囲気を醸し出す。とてもマフィアのアジトには見えない。
「どうやって侵入するんだ?」
 サテラが俺の背に隠れながら聞く。
「どうもこうも、玄関から入るのさ」
「ええ!」
 オフィスビルの回転ドアをけ破る。
「敵襲だ!」
 マフィアたちが一斉に撃ち始める。マシンガンを発射してすべての銃弾を叩き落とす。
「な、なに!」
「怯える前に撃つ。手慣れているな。ボスの教育が行き届いている証拠だ」
「撃て撃て!」
 マフィアが再度銃を構える。今度は発射される前にマシンガンで銃を撃ちぬく。
「ば、ばけものか!」
「ボスはどこだ? 次はお前たちを殺すぞ!」
「応援を呼べ」
 聞く耳持たずだ。
「舞、静流、このビルのクソどもを全員殺せ」
「待て! 血の海にするな!」
 サテラが血相変える。
「喧嘩売っちゃった以上、もう無理だよ」
「それに、手下が皆殺しにされたと分かれば、ボスも大人しく従うでしょう」
 静流と舞が武器を構える。
「俺は手を出さないから、戦いの練習をしろ」
「オッケー!」
 静流がぞろぞろと現れるマフィアたちに手を向ける。
「毒素生成!」
 マフィアたちが悲鳴を上げてのたうち回る。
「いい能力だ。これならヘクタールにも通用するだろう」
「そのためには場数踏まないとね!」
 静流が走り出す。
「私も頑張らないと!」
 舞が物陰に隠れていたマフィアを跳弾で撃ち殺す。
「私は裏口から攻めるね!」
 舞も走り出す。
「狂は、どうするつもりだ?」
 サテラは諦め顔で聞く。
「エレベーターでゆっくり行く」
 エレベーターに乗ると最上階のボタンを押す。
「さて、どんな奴かな?」

 何事もなくエレベーターは最上階に着く。ピンポンと到着の合図が鳴ると、殺気が強くなる。気配から銃を持っていないことが分かった。
「サテラ、そこで待っていろ」
「分かった」
 サテラは潔くうなずく。殺伐とした雰囲気を感じ取ったのだろう。
「さて! どんな奴が来るかな?」
 気配は四人。一人はボスだろう。
「まずは一人、片づけるか」
 エレベーターの前の壁をぶん殴り、拳をめり込ませる。壁が血反吐を吐く。
「な、なぜ……わかった……」
 壁と同化していた奴がうめき声を出す。
「石鹸と歯磨き粉の香りだ。体臭を消そうと頑張ったようだが、ここでは逆効果だ」
「けるべろすみたいなやつだ……おまけに……かべをぶちこわすとは……」
 壁は人型のシミを残して、喋らなくなった。
「残りは二人」
 殺気がある場所へ向かう。

「ほう?」
 廊下の突き当りを曲がると、二人の男が立っていた。
「わざわざ来るのを待っているとは、律義な奴らだ」
「ほざけ」
 突然顔面に衝撃が走る。さらに腹、背中、再び顔面に衝撃が走る。
「俺が反応できないとは……速いな」
 素直に褒めると攻撃していた男が飛びのく。
「頑丈な奴だ。俺の連撃をまともに食らって倒れないとは」
 男はもう一人の男に目配せする。男はうなずく。
「一人は高速移動、もう一人はどんな能力だ?」
「どんな能力? 動きを封じる能力だ」
 男が印を結ぶと体が鉛のように重くなる。体を見てみると模様が刻まれている。
「なるほど! 高速移動で体を殴るついでに、動きを封じる模様を刻む! 見事なコンビネーションだ!」
「減らず口もそれまでだ!」
 男が高速移動で殴りかかる。
「動けないのは厄介だ。防御できない」
 一方的に殴られる。術中にはまるとはこのことだ。
「くそったれ! 本当に頑丈な奴だ!」
 だが残念。凄まじく攻撃が軽い。
「どうする? 銃を持ってくるか?」
 男たちは焦る。
「しかし、俺の高速移動は手ぶらじゃないとできないし、お前が離れればこいつを自由にさせちまう」
 打つ手なしだ。
「時よ止まれ」
 二人の動きが止まる。
「能力も封じられれば、完璧だったな」
 時を止めたまま念じる。
「サイコキネシス」
 二人の体が粉々に砕け散る。
「時よ動け」
 これで残りはボス一人だ。
「さてさて、舞と静流の調子はどうかな」
 気配を読み取る。順調に殺していることが分かった。
「三十分もすればここに来るだろう」

 三十分後、静流と舞が最上階へ着く。
「及第点だ」
 それだけ言って、ボスが隠れる部屋に行った。
「待て! 撃つな!」
 ボスは若い男だった。かなり華奢で、女に見える。とてもじゃないが、マフィアのボスには見えない。
 とにかく、ボスは俺たちが入るなり命乞いをしてきた。
「金ならやる! 好きなだけ持ってけ!」
 跪いて額を地面にこすり付ける姿を見ると、殺す気が失せた。
「顔を上げろ」
 顎をくいっと持ち上げて、面を観察する。
「お前、女装癖があるな」
「え!」
 ボスは顔を真っ青にする。
「狂、そんなこと聞く必要があるのか?」
 サテラが苦い顔をする。
「俺たちを殺そうとしたんだ。命乞いを聞くなら犯すしかない」
「どういう理屈だ? だいたい襲ったのは私たちだぞ」
「考えるな。感じろ。それで、お前の名前は?」
「つ、剛だ」
 剛は呆然と言う。
「よし、お前らは外に出てろ」
「待て狂! 男を犯す気か!」
「仕方が無いだろ?」
「意味が分からない」
「こうなったきょうちゃんは聞かないから、言う通りにしよ」
「狂兄、終わったら声かけてね」
 三人が出ていく。残るのは剛と俺だけだ。
「女装しろ。その姿が美しかったら生かしてやる」
 剛の腹を蹴飛ばす。
「わ、分かった」
 剛は青い顔で頷いた。

 剛の女装は合格点だったので犯してやった。

「それで、お前がボスじゃないのか?」
 顔を真っ赤にした剛が頷く。もちろん女装したままだ。
「俺、いや、私は電話で本当のボスから指令を受けるだけの代役だ。ボスの名前はアップル。それ以外は知らない」
「管理者と同じだね」
 舞が俺を見て呟く。
「他のファミリーにも話も聞く必要があるな」
 ソファーから立ち上がる。
「プリズムのファミリーは他に何がある?」
「他はデルファミリーとマックファミリーだ」
「分かった。いったんホテルに戻るぞ」
 剛を抱きかかえる。
「な、何を?」
「お前はもう俺の物だ。きっちり教育してやるから覚悟しろ」
 剛はイチゴのように赤い顔で頷く。
「まさかハーレムに男が加わるとは」
 サテラががっくりと項垂れる。
「きょうちゃん、前世でも気に入った奴は犯してたから、不思議じゃないよ」
 静流がサテラの頭を撫でて慰める。
「慰めになってないぞ」
 サテラはさめざめと泣いた。

 剛はファミリーの代役が務まる器ではない。なのにチンピラは何の疑問も抱かずに剛に従った。
「答えが見えてきた」
 答え合わせはデルファミリーとマックファミリーの代表と会う必要がある。
 推理が正しければ、両ファミリーの代表も、剛と同じくボスの名前を知らないはずだ。

 デルファミリー、そしてマックファミリーの代役を捉える。全員、剛と同じく、ボスの名前を知らなかった。
 これは予想通りだった。だが再び気になることが発生した。
「お前ら、親子だろ」
「え!」
 デルファミリーの代役、美鈴と、マックファミリー代役、七瀬、そして剛が互いの顔を見合わせる。
「知らなかったのか?」
「ええ。何で親子だと思ったんですか?」
 剛が質問する。
「体臭と汗で分かる」
 偶然にしてはできすぎている。
「しかし、管理者の居場所には届かない」
 分かったことは、ファミリーのボスは同一人物であり、その正体は管理者であることだ。
「そうだ。剛、連絡を受け取るパソコンを見せろ」
「わ、分かりました」
 剛が管理者から連絡を受け取るパソコンを確認する。
「そういうことか」
 メールボックスやアクセスログなどを調べてはっきりと分かった。剛たちは管理者と連絡を取っていない。取ったと思い込んでいるだけだ。
「管理者の能力は洗脳だ」
「洗脳? じゃあ、この街の人たちって」
 サテラの言葉にうなずく。
「全員、管理者の操り人形だ」
 秩序があるのは管理者に秩序を持つように洗脳されているから。答えが分かれば簡単だ。
 だが肝心の管理者が居る場所の特定ができない。
「待てよ? 洗脳なら解けばいいか」
 洗脳を解けば何か分かるかもしれない。そして都合よく、気になる連中が三人居る。
「親子三人が仲良くゴロツキの親玉をやっている。管理者のこだわりか何かか? いずれにしろ。お前たちの洗脳を解けば、何か分かるかもしれない」
 三人の頬を撫でる。
「お前ら三人、死ぬほど犯してやる!」
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