最低のピカレスク-死刑囚は神を殺す

ねこねこ大好き

文字の大きさ
17 / 44

管理者

しおりを挟む
 アルカトラズの城で定例会議が開催される。
「それでは第百回の定例会議を開始します」
 進行役が言うといつも通りの報告会が始まる。
 一通りの報告が終わると、アルカトラズの王であるヘクタールが口を開く。
「順調だな」
 ヘクタールが言うと老齢の議員が頷く。
「人口はもちろん、治安もかなり良くなっています。教育も進んでいます。いずれ皆真人間となり、神に許されるでしょう」
 老齢の議員は慇懃に祈る。隣の若い女性議員も祈る。
「あの方は罪を犯した私たちにやり直しのチャンスを下さった。ただただ、感謝しかありません」
 議員たちはいつの間にか全員黙とうする。ヘクタールはそれを退屈気に見守る。
「他に何か無いか? 無ければ解散するぞ」
 議員たちは涙を拭いてヘクタールに向き直る。一人の議員が苦々しく手を上げる。
「実は、ここ数日、狂太郎と呼ばれる男が、町の風紀を乱しています」
「風紀を乱すとは?」
「街中で堂々と女とセックスするのです」
 ヘクタールはそれを聞いて笑う。
「とんでもない変態だ。それで、相手は嫌がっているのか?」
「口では嫌がっていますが、被害届等は出されていません」
「合意の上か。ならば放っておけ」
「しかし、これでは町の風紀が!」
「たまには余興も必要だろう。あまりにも度を過ぎるなら注意しろ」
「追い出したほうが良いと思いますが? 人前でセックスをするなど破廉恥です!」
 女性議員が怒鳴るが、ヘクタールは首を横に振る。
「被害届が出ていないなら追い出すこともできない。分かるな」
 議員たちは苦々しく押し黙る。
「そろそろ管理者会議が始まる。他に何もなければ解散するぞ」
 議員たちは何も言わなかったのでヘクタールは会議の場を出た。
 そして自室に戻り、葉巻を一本吸う。
「公開セックスか。退屈しのぎに見てみるか?」
 くすくす笑っていると、突然自室の中央に白い扉が現れる。
「全く、退屈だ」
 ヘクタールは白い扉を開ける。そこは椅子がぽつんと置いてあるだけの真っ白な空間だった。
 ヘクタールは椅子に座り、しばらく待つと、続々と扉が出現し、そこから一人、また一人と着席する。
 百近い椅子すべてが埋まると、光が出現し、それは中年の男性、神の代行者の姿となる。
「こんにちは、この世界の管理者たち」
 皆神の代行者に頭を下げる。ヘクタールも下げる。
「いつも通り、君たちの国の状況を教えてくれないか」
 すると一人一人が書類を読み上げる。
 ヘクタールも事務的に読み上げる。
 報告が終わると神の代行者は満足げに笑う。
「本来君たちは輪廻転生も許されない罪びとだ。だが、心から神を敬えば、私の計らいで次の世界へ旅立つことができる。君たちの能力もそのままに。だから日々、精進したまえ」
 神の代行者が言うと、皆頭を下げる。
「茶番だ」
 ヘクタールは呟く。
「結局お前のご機嫌取りを永遠に続けろってことだろ」
 ヘクタールは拳を震わせる。
「ヘクタール!」
 突然神の代行者に名前を呼ばれたので、ヘクタールは体をびくつかせる。
「何でしょうか」
 できる限り平静を保ちながら聞き返す。
「お前の都市国家に狂太郎と呼ばれる男が居る。そいつを殺せ」
 神の代行者はぎりぎりと歯を食いしばる。
 ヘクタールは眉をしかめる。
「お言葉ですが、執行者を動かせばよろしいのでは?」
「私に意見するのか?」
 神の代行者が睨むと、ヘクタールは心で舌打ちする。
「分かりました。この世界の管理者として、そいつを始末します」
「分かればよろしい」
 神の代行者は姿を消す。すると白い扉が人数分現れる。
「あんなに不機嫌な代行者、初めて見た」
 女がヘクタールの傍でつぶやく。
「おそらく、狂太郎とかいう奴は執行者を返り討ちにした」
 ヘクタールは顎を撫でながら言う。
「あいつらを! 私たちですら手こずる奴らよ!」
「俺をけしかける理由を考えると、そうとしか思えん」
 ヘクタールはニヤリと笑う。
「まあ、ストレスが溜まっていたところだ。うっぷん晴らしに殺してやろう」
 ヘクタールは意気揚々と白い扉を潜り、自室へ戻る。
「待てよ? 狂太郎? 公開セックスする変態のことか?」
 ヘクタールは自室から街を見渡す。
 そしてクスリとまた笑う。
「どんな奴か、試してみるか」

「トーナメント? 優勝賞金1億!」
 ホテルの一室でサテラが叫ぶ。
「そうそう! 明日突然やるらしいの! きょうちゃんに出てもらおう!」
 静流がウキウキしながら言う。
 サテラはうなる。
「あいつが出ると会場が血の海になりそう」
「出てみないと分からないじゃん! それに、暴れられなくてきょうちゃんイライラしてるでしょ。トーナメントならいっぱい暴れられるよ!」
 サテラはうなずく。
「言うだけ言ってみよう」

「気が乗らねえな」
 夕食の時間にサテラからトーナメントのことを聞くと、狂太郎は苦々しく言う。
「どうして? 狂兄最近人を殺してないから不機嫌じゃん」
 舞が首をかしげる。
「俺は殺人狂でもあるが、殺す相手くらい選びたい」
 狂太郎はチラシを見るとため息を吐く。
「対戦相手を殺しても問題なし。それはいい。だが弱い相手だとストレスが溜まる」
「良いじゃない。出てみなさいよ」
 ハーレムで一番お金が好きなアリスが進める。
「まあ、金がもらえるなら出てやるか」
 狂太郎はアリスにいやらしい目を向ける。
「ただし、今日は思いっきり犯すからな!」
 アリスは肩をすくめる。
「お金がもらえるなら良いわよ」
「決まりだ!」
 狂太郎はガツガツと肉を食べる。
「明日はでっかく、皆殺し! 全員殺してやるぜ!」
「何で私こんな奴好きになったんだろう」
 喜ぶ狂太郎の横で、サテラは頭を抱えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...