クラス転移したら追い出されたので神の声でモンスターと仲良くします

ねこねこ大好き

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ブラッド領北部と仲よくしよう!

エリカ領潜入

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 イーストとコメットは旧ブラッド領北部、現エリカ領の国境に立って居た。
「あんなところに砦が出来ている……」
 コメットは物陰から国境のすぐ近くに建てられた砦に驚愕する。

「確実にこっちに攻め込むつもりだ」
 コメットの隣に潜むイーストは舌打ちする。

「しかし、まだ兵士は居ません」
「まだ準備ができていないだけだろう。しばらくすれば必ず攻め込む。そしてここに砦を作ったのなら、ある意味朗報だ」

「なぜです?」
「もしもクラウンやレビィと共同で攻めて来るなら、こんなところに建てても意味が無い。あいつらが居る西部戦線と離れすぎている」

「挟み撃ちするつもりでは? または奇襲作戦をするつもりでは?」
「挟み撃ちといった奇策は不利な時にやって初めて意味が生まれる。有利な奴がやったら逆に危険だ」
 なるほどとコメットは生返事で頷く。

「意味が分からないか?」
 イーストは不機嫌にコメットを睨む。

「いえ! 大丈夫です!」
 コメットは慌てて肯定する。

「まあ、良い。姿隠しの術インジビブル
 イーストはため息を吐くと姿を見えなくさせる。コメットも姿を消す。

「行くぞ」
 イーストは号令を出すと、静かにエリカ領へ潜入した。



「人が居ない?」
 砦近くの村に入るとすぐに住民が居ないことに気づく。
 農具は埃をかぶり始めている。畑は荒れ始めている。

「戦果を予期して避難したのでしょうか?」
「可能性はあるが……早すぎる。こちらもあちらも兵隊が国境に来ていない。ならば今すぐ逃がす必要など無い」
 イーストたちは静かに村を見回る。

「これは、馬車の跡?」
 道路に刻まれた無数の車輪の跡を見つける。

「大荷物を搭載したようです。もしかして村の人?」
 車輪の跡の深さから、数十人を乗せて走ったことが分かる。

「抵抗した跡がある」
 近くの木に古びた血痕を見つける。

「強制的に連れていかれた?」
「この車輪の跡を追うぞ」
 イーストたちは背筋を凍らせながら走る。



「城?」
 数日かけて走ると、見たことも無いほど豪華な城、そしてその周りを囲む城下と城壁があった。

「ここは、ミサカズたちが暴れた村があったはず?」
 キョロキョロと見渡すが、手入れされた花畑が広がるだけだ。

「入るぞ」
 足に力を込めて、跳躍で城壁を飛び越える。
 そして中に入ると、兵隊や騎士が往来する大通りに着地する。

「戦争準備態勢だ」
 路地裏に隠れて舌打ちする。
 往来する人々の胸には、黄金に輝く紋章が付いていた。

「全員、上級騎士と上級冒険者!」
「レビィの野郎! こんなに兵力があるならさっさと戦争を終わらせろ!」
 一国を滅ぼすに十分な戦力に毒づく。

「すぐに帰って対策を打ちましょう!」
「ダメだ。我が領土はモンスターが主力だ。モンスターは縄張り意識が強いが、縄張り外の存在には無関心だ。防御はできても、攻撃ができない」

「ゼロ様にお願いすれば!」
「ゼロができるかという不安がある。モンスターを指揮できるのはゼロだけ。そしてあいつには戦争経験が全くない。また指揮官不足など、とにかく、こちらが不利だ」

「ならば、外交で決着を付けるしかありませんね」
「そうだ。そのためには何としても弱みを見つけないと」

 イーストが危機感を覚えた瞬間、見えない網がイーストとコメットに被さる!

「何だと!」
「う、動けない!」
 網を取ろうともがくが絡まるばかり。

「ばーか! 油断してるからこうなるのよ!」
 イーストたちの背後で高笑いが響く。

「エリカ!」
 空気が歪むと、憎しみの瞳を宿したエリカが現れる。
 さらに憎悪に燃えるクラスメイトも現れる。

「ほんっと! クラウン様って素敵だわ! お前らみたいなドブネズミを探す機械を発明するなんて! それにその網、抜けられないでしょ? それもクラウン様が作ったの! 私の恋人!」
 常軌を逸した瞳が空を見上げる。

「屑が。あの時殺しておけば良かった」
「は! 減らず口! 油断したマヌケが何を言っているの!」
 何度も何度も顔を蹴り上げる。

「ああ! スッキリした! ねえ皆! 私は満足したから、遠慮なく蹴っ飛ばして!」
「ああ! 死ね!」
 二十人以上の生徒がイーストの体を踏みつける。

「皆そこまで! 殺しちゃったら交渉に使えないでしょう?」
 エリカはニコニコとひん死のイーストの前で仁王立ちする。

「あなたたちにはゼロと交渉する際の人質になってもらうわ! 森の秘薬と超人薬の!」
「く……そ……」
 イーストはボロボロの体で、抱きしめたコメットの様子を見る。彼女は気絶しただけで、ケガはない。

「ああ! それにしても楽しみ! あの弱虫! 私たちが友達に成るって嘘ついたら何を言うかしら! 裏切り者のくせに何を言うかしら!」
 笑いながらクラスメイトに振り返る。

「ゼロに手紙を出して! イーストを捕まえたこと! 解放の条件は森の秘薬と超人薬! そしてあいつが一人でここに来ること!」
「分かった!」
 エリカたちは舌なめずりをして、イーストたちを引きずる。

「ぜ……ろ……おれたちは……みすてろ……こいつらは……やくそくを……やぶる」
 イーストは朦朧とする意識の中、呟いた。



「……何を言っているの?」
 数日後、ブラッド領の城で、ゼロはクラスメイトの一人、イワサキと対面する。

「だから、てめえのお仲間のイーストを捉えたって言ってんだよ!」
 イワサキは眼鏡のふちを持ち上げる

「だったら、解放してあげて。あの人は悪い人じゃないよ?」
「裏切り者のお前はそう思うだろう! お前の中じゃな!」
 イワサキは手紙をゼロの顔面に投げつける。

「それに書いてある通りにしろ! 裏切り者!」
 イワサキは捨て台詞とともにゼロと別れる。

「……何で? 何で!」
 ゼロは力なく崩れ落ちる。

「ゼロ!」
「ゼロ! ゼロ!」
 隠れていた赤子とスラ子が姿を現す。

「僕は喧嘩なんかしたくないのに! 殺し合いなんてしたくないのに! 許したいだけなのに! どうしてこんな!」
 ゼロは何度も床を殴る。

「ゼロ! あいつらを殺すぞ!」
「敵! あいつら敵!」
 赤子とスラ子はギリギリと顔を鬼のように歪める。

「……ダメだよ。イーストさんたちが人質になっている」
 ゼロはぼんやりと、涙とともに笑いながら立ち上がる。

「僕は一人で行くよ。赤子さんとスラ子は付いて来ちゃダメだよ?」
「ゼロ!」
「ダメ!」
 赤子とスラ子は必死に止める。しかしゼロは涙を流しながら微笑み続ける。

「大丈夫! だってクラスメイトだよ! ちょっと、勘違いがあっただけだよ! 話せば分かるよ!」
 ポロポロと涙を流し続ける。

「そうだよ……本当に悪い人なんて……居ないんだから……どんな人も……良いところがあるんだから……」
 ゼロは己に言い聞かせるように、何度も何度も呟いた。
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