クラス転移したら追い出されたので神の声でモンスターと仲良くします

ねこねこ大好き

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ブラッド領北部と仲よくしよう!

扇動者ジャック

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 追手からの追跡を逃れたところで安心していると、扉の先の中年男性に睨まれる。
「お前は誰だ?」
 非常に鋭く高圧的な瞳だ。
 正直嫌いなタイプだ。

「ムカイ・ゼロと申します」
「名前など聞いていない。お前はどんな存在だ?」
 この非常時なのに腹が立つ!
 だけど外へ逃げる訳にもいかない。

「どんな存在とは? よく分かりません」
「私の敵かどうか聞いている」
 ボロボロなのに凄く偉そうだ。

「あなたは僕の敵ですか?」
「私を見ろ。鎖に繋がれている。すぐに外せるようにしているが、お前に襲い掛からない。これだけの情報がありながら、なお分からないのか?」
 何この人?

「えっと、あなたの敵ではありません。僕はあなたのことを知りませんから」
「敵は皆そう言う。証拠を見せてみろ」
 どうやって? というか何この人?

「あの、何をすれば信じて貰えますか?」
「私の鎖を外せ」
 ん? さっき外せるとか言ってたような?

「あの、もう外せるんですよね?」
「だから何だ? お前は鎖に繋がれた人間を警戒するのか? 実に臆病だ」
 はいはい! 外せばいいんでしょう!

「ゼロ?」
「あいつ、何?」
 赤子さんとスラ子が困惑する。

「とりあえず、変なことしたら殴ってください」
 こんなにも変なお願いをするとは、自分に驚く。

 ガチャガチャと大きな手枷と足枷に触る。鍵は開いているので簡単に外せる。

「外しました」
 ゴトリと手枷足枷を床に置く。

「無警戒だ。もしも私が敵なら一瞬で殺されていたぞ」
 文句を言いながら立ち上がる。
 そしてギュッギュと両手足を柔軟する。

「だが約束通り、君が敵でないと認めよう」
 中年男性は僕の体に付いた血をじっと見る。

「誰かを殺したのか?」
 顎に指を当てる。

「違うな。血痕は上から降り注いだように付いている。お前はポケットと影に隠れる何者かに守ってもらった」
「……よく分かりますね」

「血の跡ですべて分かる。奇襲するならもう少し工夫したほうが良い」
 中年男性は壁に耳を当てて、外の様子を探る。

「まだまだ騒がしい。しばらくはここでじっとするしかない」
 のそりと床に座る。

「お前も座れ」
 言われたので中年男性の前に座る。



「色々と聞こう。なぜここに入ってきた?」
 中年男性は落ち着いた様子で話す。

「その前に、あなたは誰ですか?」
「私のことを知らないのか」

「さっき言いましたよ?」
「なるほど。そうなると、いよいよお前は敵ではない。むしろ味方となるかもしれない」
 ブツブツと独り言を呟く。

「私の名はジャック。離反した冒険者や村の住人を纏め、イーストに抗議を起こしたリーダーだ」
「反乱分子のリーダー!」

「反乱分子ではない。善良な市民の声を、耳の悪い領主に届ける活動家だ」
 悪びれず、怯まない堂々とした姿は扇動者と言うにピッタリだ。

「その、ジャックさんはなぜ閉じ込められていたのですか?」
「エリカたち勇者とその後ろ盾となる貴族に捕まった」

「捕まった?」
「順を追って話す。私は冒険者だ。ある日、ミサカズたち勇者が暴れたことに腹を立て、仲間とともに冒険者ギルドを離反した」

「そこまでは知っています」
「私が喋っている時に口を出すな」
 不機嫌になる。

「離反したは良いが、すぐに内輪揉めが始まってしまった。誰がリーダーに相応しいか。結果、しっかりとした連携が取れなくなった。ある者はテロ行為に走り、騎士たちを襲った。このままではただの犯罪者となる。私はそう感じ、皆の前で演説し、話し合った。時間はかかったが、皆を纏め上げることに成功した」
 話し合いで皆を纏める! 凄い人だ!

「冒険者を纏めた後、今度は北部の住民が勇者たちに腹を据えかねて暴動を起こした。私は彼らを犯罪者にしたくなかった。だから同じように纏めた」
「思い出しました。反乱分子は途中で規律だったデモ活動を行うようになったと聞きました。あなたが先導したんですね?」

「そうだ。皆、目が曇っていた。私たちはイーストに恨みがあるのではない。彼の間違いを正したいだけなのだ。それなのに破壊工作をするなど、無意味としか言えない。だから、そういった過激派が増えないように纏め上げた」
 本当に凄い人だ。

「しかし、ようやく活動が軌道に乗ったところで、西部戦線の貴族たちがエリカとともに攻め込んできた。イーストが留守の間に領地を奪った。私たちは抵抗したが、ついに捕まってしまった。罪状は国家反逆罪。笑える罪だ」
 ジャックさんはイライラと壁を叩いた。



 概ね素性が分かったので僕のことを話す。
「僕は勇者です」
「勇者? その割には弱虫に見える」

「言わないでください」
「事実だ。受け止めろ。それで? なぜ勇者がここに?」
 それから僕は順を追って、ここになぜ来たのか話した。

「森の秘薬と超人薬? 全く、そんな重要なことを見ず知らずの私に言うとは。警戒心が足りんな」
 何で怒られたのかよく分からない。

「だが、それは私を味方と思っての行動と捉えてやる。感謝しろ」
 壁を背もたれにすると偉そうにふんぞり返る。

「しかし、エリカたちが死んだのは少々不味い」
「そうですねよ……」

「奴らは断頭台で始末するべきだった。ひっそりと殺しては民が納得しない。下手すると同情心を抱くかも」
「……え?」

「エリカたちの後ろ盾となる貴族を殺していない点は褒める。奴らを断頭台で始末してこそ、民は納得する」
「何を言っているんですか?」

「話は最後まで聞け。兵隊を殺さなかった点も良い。どうあがいても戦争は不可避。ならば戦場を彼らの血に染める。そうすることで、王族や貴族を諫めることができる」
 淡々と、顔色一つ変えずに僕を見る。

「その……話し合えば分かると思います」
「何を言っている? お前だってそんなこと無理だと分かっているだろう?」
 心を見透かすような瞳に圧倒される。

「しかし、お前の言い分も聞かずに否定するのはダメだ。だから、なぜ話し合いたいのか聞こう」
「なぜ話し合いたいのか?」

「そうだ。正直に話せ」
 ジャックさんは真っすぐに僕を見つめた。



「戦いは嫌です。仲よくしたいです。殺し合いなんて見たくありません」
「当然の感性だ。とても人間らしい」

「分かってくれましたか?」
「理解はした。だから諦めろと言うしかない。戦争は不可避だ」

「でも、相手だって戦いは嫌なはずです」
「森の秘薬と超人薬を手に入れるなら戦う。人はそういう生き物だ」

「そんな下らない物が欲しいなら上げればいい! 僕は独り占めするつもりなんてない!」
「相手が独り占めしたいと思っている」

「そんな……」
「相手が一方的に敵意を持つ。心当たりがあるだろう」
 チラリとミサカズたちを思い出す。

「ただし、言っておくがお前が悪い訳ではない。一方的に悪意を持つ奴が悪い」
 ジャックさんは立ち上がると手を差し出す。



「話し込んでしまったが、そろそろ逃げ出す時だ。一緒に来なさい」
 何も考えずに手を取る。

「こらこら。警戒心を捨てるな。私と君は出会ったばかりだ。それを忘れてはいけない」
「……はぁ」
 生返事するとジャックさんはなぜかため息を吐く。

「脱出した後だが、私を万年都へ連れて行ってくれ。必ず役に立つ」
「役に立つ?」

「万年都には致命的な弱点がある。そこを突かれれば戦争に負ける」
「戦争なんてしたくないです! 負けるならやりたくないです!」

「相手は襲ってくる。ならば身を守るしかない。分かるな?」
 正直、どうすればいいか分からない状況だ。
 溺れる者は藁をもつかむだ。

「分かりました。助けてください」
 涙が零れる。

「君はとことん、戦いに向かない性格だ」
 ジャックさんは苦笑した。
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