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しおりを挟むロザリーンに縁談が持ち上がったと聞いた時、
わたしの胸に、嫉妬に似た気持ちが沸き上がった。
いつも神に愛されるのは、わたしではなく、ロザリーンだ。
だが、それは瞬く間に絶望と諦めに変わった。
「わたしは修道女だもの…縁談なんて来ない、分かっていた事じゃない…」
女としての喜びも望めないなんて…
それだけでも惨めだが、ふと、嫌な考えが浮かんだ。
このまま、わたしはロザリーン付きの侍女として、結婚先に付いて行く事になるのだろうか?
ロザリーンの側にいて、彼女と夫が愛し合う姿を見せ付けられる___
「そんなの嫌よ…!」
これまでも、家族や周囲から愛されるロザリーンの姿を、嫌という程見せつけられてきた。
それが、どれ程羨ましく、辛かったか…
「ああ、神様!どうか、わたしを、ロザリーンから解放して下さい…」
わたしは強く願った。
だが、わたしが思う程、この縁談は喜ばしいものではないと、直ぐに知る事となった。
◇
ロザリーンの縁談の相手は、隣国ヴィムソード王国の王、ビクター・ヴィムソード。
ビクターは前妃を亡くし、後妻に《聖女》を望んだ。
ヴィムソード王国は大国で、強大な武力を誇っていて、《聖女》よりも《武力》、
「力こそ全て!」という風潮があった。
それが、何故、突然考えを変えたのか…?
不穏に思う者も少なくなかったが、我がラッドセラーム王国の王フィリップは、
これ幸いと、ビクターと取引をした。
《聖女》を差し出す代わりに、国を守って貰う。
そして、両国間での交易の優遇___
勝手に決められた事だが、《聖女》であるロザリーンに拒否権は無かった。
《聖女》は神の娘と崇められる存在だが、それは、神と国に尽くす者という事になる。
つまり、「国の安泰の為に結婚をしろ」と命じられれば、従わなくてはならないのだ。
わたしはこの時、初めて、ロザリーンに同情心を持った。
ロザリーンは十八歳で、若く、まだ幼さもある、これから美しさを増していく処だ。
それに、ロザリーンには、若い男友達が何人か居た。
一方、ビクターは五十歳だ。
それに、荒々しい気質で、野蛮で、皆から恐れられているという噂もある。
ロザリーンは話を聞くや否や、激しく怒りを撒き散らした。
「ヴィムソード王国へ嫁ぐなんて御免だわ!」
「それに、相手は王でも、五十歳ですって!?」
「お爺さんじゃない!」
「私は十八歳なのよ!」
「私は《聖女》よ!《聖女》が嫌だと言っているのよ!さっさと断ってきて!!」
当然の言い分だった。
だが、ロザリーンは、我が国が誇る、指折りの《聖女》だ。
それは、大国を相手に有利に交渉が出来る程の《価値》があったのだ。
普通であれば、彼女の意見は尊重されたが、今回は事が大きく、
彼女の意志は故意に無視された___
《聖女》も《人間》だというのに!
わたしはそれを知り、ぞっとした。
そして、初めて、自分が《聖女の光》を持たなかった事に、安堵していた。
「王命ですので、従って頂きます、聖女様」
司教は渋い顔で冷酷に告げた。
これまでロザリーンは、全てを意のままにしてきた。
ロザリーンが《聖女》の務めを果たしている限り、《聖女の光》を保つ為にも、
その我儘は全て受け入れられた。
だが、ここで、思い通りにならない事態にぶつかってしまった。
恐らく、初めてだろう、ロザリーンは酷い癇癪を起し、暴れ、断食をし、周囲を困らせた。
だが、それに司教や修道女長が屈服する事は無く、
逆に、ロザリーンは外出を禁じられた上に、男友達と会う事も禁止され、
部屋に閉じ込められた。
ロザリーンに会えるのは、侍女であるわたしと、数人の修道女だけだ。
わたしたちは、ロザリーンを説得する様、命じられていた。
「ロザリーン様、結婚には、本人の意思は考慮されないものです」
「家柄の高い者程、親が決めるそうです」
「ヴィムソード王国は大国ですし、きっと良い所ですよ」
「ロザリーン様は王妃様になるのですよ、王宮に住む事になるでしょう___」
わたしたちは、何とかロザリーンを慰め様としたが、それは彼女の怒りを大きくしただけだった。
「そんなに良い話なら、あなたたちの誰かが結婚すればいいじゃない!
私はお断りよ!!私は誇り高き、この国の聖女なのよ!
ヴィムソード王国とかいう、野蛮な国の聖女にはならないわ!
聖女なら他にも居るでしょう!」
ラッドセラーム王国では、母の代の聖女たちが引退し、
現在は筆頭聖女が姉のアンジェラとなる。
だが、アンジェラは既に、我が国の第二王子、ニコラス司教と結婚している。
そして、次席がロザリーンだ。
他にも従姉妹たち三人が聖女として認められているが、力は劣る。
「ロザリーン様でなければ務まりません」
「揃いも揃って、何て役立たずなの!」
ロザリーンは恐ろしい目でわたしを睨み付けた。
わたしが《聖女の光》を持って生まれなかったから___
そう責められている様で、わたしは何も言えなくなった。
◇◇
一週間が経った頃、ロザリーンは諦めたのか、怒りを収め、縁談にも前向きになった。
それから一週間後、ロザリーンはヴィムソード国王に、輿入れする事が正式に決まった。
その日、わたしはロザリーンと二人だけで会った。
ロザリーンがそれを望んだのだ___
「お姉様、ヴィムソード王国まで、一緒に来てくれるでしょう?
私一人では不安だもの…」
初めて「お姉様」と呼んでくれた!
それに、初めて見るロザリーンの弱い姿に、わたしは胸を打たれ、
「勿論よ!あなたを独りにはしないわ!」と強く返していた。
「あなたは神様に愛されているもの、王様はきっと良い方だわ」
「ええ、そうね、ありがとう、お姉様」
それから、ロザリーンは驚く程、わたしに優しくなった。
二人きりの時には、わたしを「お姉様」と呼び、用事を言い付ける事もなくなった。
「お姉様はその辺の侍女とは違うわ、《聖女》の姉だもの!
用事なら他の者にさせればいいのよ!」
そんな事を言われたが、わたしには当然、分不相応なので、曖昧に流した。
だが、幼い頃に生じた溝は、成長する程に大きくなり、深くなっていったが、
それが綺麗に閉じられた___
そんな気がし、わたしは喜びを噛みしめていた。
◇◇
出発の日、ロザリーンは聖女の衣を脱ぎ、美しく豪華なドレスを身に纏った。
国の権威を見せ付ける為にも、ロザリーンには豪華な衣装が山の様に用意されていた。
他にも、花嫁道具として、数々の高級家具が贈られる事になっていて、
それらは先に出発していた。
ロザリーン、両親、親族たち、国の重鎮たちが王宮に招かれ、
王や司教から祝福を受けた。
わたしは両親から「ロザリーンを頼んだぞ!」と言われた。
ヴィムソード王国に行けば、滅多な事では、帰っては来られないだろう。
それなのに、両親はわたしとの別れなど、全く気にしていない…
「これまでも、そうだったでしょう…」
わたしは自分に言い聞かせた。
それに、今は自分よりも、ロザリーンの事を考えてあげなければ…
『お姉様』と慕ってくれるロザリーンに、姉として応えたかった。
わたしは、ロザリーンがヴィムソード王国に早く馴染める様、支えようと心に決めていた。
わたしは花嫁の馬車に、ロザリーンと一緒に乗り込んだ。
後ろには、ロザリーン付きの修道女三名の乗った馬車、
その後ろには物資を積んだ荷馬車が続く。
騎士団員が三十名程、馬で前後を護ってくれているので、かなりの行列となった。
王都中の民から盛大に見送られ、馬車は王都を後にした。
ラッドセラーム王国の王都から、ヴィムソード王国の国境までは、馬車で一週間掛かる。
国境付近は山脈も多く、王都までは、更に十日必要だった。
旅は順調に進んでいた。
だが、後数時間で王都に着くという時、それは起こった___
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