【完結】成りすましの花嫁に、祝福の鐘は鳴る?

白雨 音

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その日の朝、ロザリーンは、わたしに自分のドレスを着る様に言い、
宝石の沢山付いた豪華な首飾りと髪留めを貸してくれた。

「今日、王様に会うでしょう?お姉様を、姉として紹介したいの、
それには、綺麗な恰好をしなくちゃ!」

侍女ではなく、姉と紹介して貰える___
それはわたしにはこの上なくうれしい事だった。

「ありがとう、ロザリーン…うれしいわ」

わたしは涙ぐみ、感謝を口にしていた。
ロザリーンはニコリと笑い、「当然よ!」と言った。

わたしはこれまで、自分の人生を嘆いてきた。
ロザリーンがこんなにも、自分を思ってくれていると知っていたら…
わたしはこれまでの自分を後悔した。

ロザリーンの世話は、両親の気を引きたくてしていた事だった。
我儘を言われる度、傲慢な態度を見せられる度、嫌な妹だと、何度思ったか知れない…
それが申し訳なく思えた。

これからは、ロザリーンに心から尽くすわ…
わたしの、たった一人の、可愛い妹だもの___

わたしは豪華な首飾りを付け、そう心に誓ったのだった。





昼近くになり、峠に差し掛かった所で、騎士団員たちの多くが酷い腹痛を訴え出した。
動くのも辛そうなので、一旦馬車を停め、
無事だった者が王都に助けを呼びに行く事になった。

そうして、待っていた時だ、何やら外が騒がしくなり、悲鳴が聞こえ始めた。
只事では無さそうだ___
わたしは恐る恐る、カーテンの隙間から、外を覗き見た。

「!?」

剣を振り回す、荒くれ者たちの姿を見つけ、わたしは息を飲んだ。

賊だわ!!

わたしはロザリーンに身を寄せ、その手を掴んだ。

「ロザリーン!賊よ!ここに居てはいけないわ、早く逃げましょう!」

逃げ切れるかは分からないが、ここに居れば、確実に殺されるだろう。
だが、ロザリーンに動く気配は無い。
彼女は無表情で、「でも、怖くて動けないわ」と零した。
わたしも勿論、恐ろしかったが、
それよりも、『妹を護らなくては!』という思いに駆り立てられていた。

「わたしも怖いわ、でも、ここに居たらどうなるか…
ロザリーン、一緒ならきっと大丈夫よ、行きましょう!」

ロザリーンの手を引いたが、彼女は未だ立ち上がろうとしなかった。
わたしを冷めた目で見つめている。

「ロザリーン?」

「一緒に行くわ、だけど、あなたとじゃない___」

ロザリーンの声が冷たく響いた時、馬車の扉が勢いよく開かれた。
黒いローブの男が出口を塞ぐ様に立っていて、
わたしは驚きと恐怖で、反射的に悲鳴を上げていたが、それは直ぐに掻き消された。
男の持っていた長剣が、わたしの胸を斬り裂いたのだ___

「___!!」

赤い血が噴く。
鋭い痛みとショックで、わたしは成す術も無く、座席に倒れた。

ロザリーン…
ロザリーンを逃がさないと…

わたしは必死にロザリーンを探した。
だが、ロザリーンはわたしを見下ろし、笑っていた。

「ごめんなさい、私が結婚を回避するには、これしか方法が無かったの!
でも、妹の幸せを願うのが姉の務めだから、許してくれるでしょう?
それに、このまま死ねば、あなたは《聖女》として葬られるんだから、きっと幸せよね?
《聖女の光》が羨ましかったんでしょう?いつも、物欲しそうに見てたもの!
願いを叶えてあげたのよ、だから恨まないでね、それじゃ、さようなら、クレア」

ロザリーンはわたしを置いて馬車を出て行く。

行っては駄目よ!殺されるわ___

わたしは止めようと手を伸ばしたが、そこに見えたのは、
黒いローブの男に抱え降ろされるロザリーンの姿だった。

「会いたかったわ、リチャード!」
「僕もさ、ロザリーン!」
「退屈な旅で疲れちゃった!」
「これからは退屈しなくて済むよ、僕と一緒だ」

嘘…
どうして…

二人の軽やかな笑い声を耳にしながら、わたしの意識は遠ざかっていった。


「もう死んでいるんじゃないですか?」
「バッサリ斬られてますし…」
「血だってこんなに出ているんですから…」
「いや、微かに息はある…」
「しっかりしろ!」
「目を開けるんだ!」
「死ぬんじゃない!」

混沌とした中、わたしの意識は浮上した。
誰かが、わたしの顎を掴み、頬を叩いている。

痛いわ…

胸が痛い…

顔を顰めると、誰かが「ほう」と、安堵の息を吐いたのが分かった。

誰?
お父様?
わたしを心配してくれているの?

わたしは喜びに震えた。
わたし以外に見せる、優しい父の顔を思い浮かべ、何とか目を開いたが、
予想に反し、そこにあったのは、見知らぬ男の顔だった。
黒髪に、緑灰色の瞳、端正な顔立ちだが、怖い程真剣な表情をしている。

誰?
知らないわ…
きっと、人違いね…

ああ、やっぱり、わたしを待つ人なんて、いないのね…

わたしはそっと、意識を手放した。


◇◇


次に目を覚ました時は、意識がはっきりとしていた。
わたしは豪華な部屋の豪華なベッドの中にいた。
身体を起こそうとすると、鋭く胸が痛み、わたしは再びベッドに倒れ込んだ。
薄い夜着を着せられ、胸には包帯が巻かれている。

「斬られたんだわ…」

わたしはそれを思い出し、ゾクリとした。

「お気づきでしたか、聖女様、
ラッドセラーム王国の方がお話したいそうですが、よろしいですか?」

部屋に入って来た侍女がわたしに気付き、声を掛けてきた。
わたしは聖女ではないが、それに構っている場合ではなかった。

「何か、着るものはありますか?」
「こちらをどうぞ」

わたしは侍女に手伝って貰い、ゆっくりと体を起こし、ガウンを羽織った。
扉が開き、入って来たのは、あの時王都に助けを呼びに行った騎士団員だった。

「聖女様、この度は、この様な事になってしまい、申し訳ございません」

騎士団員の顔に生気は無かった。
それに、彼はわたしとロザリーンを間違えている様だ。

ロザリーン…

ロザリーンは男と行ってしまった。
ロザリーンは相手の男を、『リチャード』と呼んでいた。
わたしの頭に、ロザリーンの男友達が浮かぶ。

リチャード・バーナード…?

バーナード侯爵の三男で、年は二十歳を過ぎた頃、
若く、見目が良く、社交的で、女性からの評判も高かった。

あの時の二人の会話を聞いた限りでは、二人は親密な仲に思えた。

ロザリーンは、彼を愛していたの?
でも、だからって、賊に襲わせるなんて!
それに、わたしを殺す気だった…
わたしを騙していたのね?
『お姉様』と慕ってくれた、あれは、演技だったの?

「!!」

激しい悲しみに襲われた。
信じて裏切られる事は、ただ、裏切られる事よりも、ずっと辛い。

どうして、どうして、こんな酷い事をするの___!

ロザリーンは笑っていた。
そんなに、わたしが嫌いなのだろうか?

胸の痛みが酷くなり、わたしは考えるのを止めた。
心を落ち着けようとする中、それを思い出し、騎士団員を見た。

「皆さんは…無事ですか?」

思ったよりも口が動いてくれず、小さくたどたどしい口調になり、わたしは喉を押さえた。
だが、騎士団員には、それに構う余裕など無く、沈痛な面持ちで頭を振った。

「いいえ、聖女様の他は…皆、殺されました」

「っ!!」

わたしは息を飲んだ。

ああ!大変な事になってしまった___!

わたしは恐ろしくなり、自分で自分の体を抱いた。

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