【完結】成りすましの花嫁に、祝福の鐘は鳴る?

白雨 音

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「聖女様、何があったか、覚えていらっしゃいますか?」

わたしは誤魔化す様に、視線を落とし、頭を振ったが、
体の震えは止めようが無かった。

「いえ…突然襲われたので…何も…すみません」

「いえ、仕方ありませんよ、あんな目に遭われたのですから…」

彼の話によると、護衛の騎士団員たちが腹痛で身動き出来ない所を襲われ、
騎士団員、修道女、皆が命を落とした。
ほとんどの物資が奪われていた事もあり、賊の仕業とされた。
わたしは辛うじて息があり、王宮へ運ばれ、手当てを受けた___という事だった。


「救援信号が上がったので、ヴィムソード王国の騎士団を連れて急いで戻りましたが、
既に賊の姿は無く…聖女様だけでも、お救い出来て幸いでした…」

安堵する騎士団員には悪いが、わたしはロザリーンではない。
だが、「わたしは…」と口を開くも、その先は続かなかった。

わたしがロザリーンでないなら、ロザリーンは何処へ?
当然、疑問に思う筈だ。
そして、花嫁が行方不明と知れば、一大事になるだろう…

ロザリーンは無事だと分かっているけど…

ロザリーンの言葉から察する所、事を企んだのは、ロザリーンとリチャードだ。
だが、そんな事が知れたら、ロザリーンはどうなるか…
物資を奪われ、騎士団員たち、修道女たちを無残に殺されたのだ、
幾らロザリーンが聖女といえども、ラッドセラーム王国は彼女を許さないだろう。
それに、結婚が嫌で逃げ出したと知れば、ヴィムソード国王も憤慨する筈だ。

二人は、罪の無い大勢の人の命を奪った。
ロザリーンはわたしを騙し、殺すつもりだった。
酷い、彼女が憎い!当然、罪は償うべきだ___
そう思いながらも、その罪の大きさに、わたしは恐ろしさの方が勝っていた。

ああ、きっと、大変な事になるわ___!

わたしが話さなければ…
わたしがロザリーンに成りすませば、二人は助かる?

だけど、そんな大それた事が、このわたしに出来るの?

考えただけでも恐ろしく、震えが止まらない。
嘘を吐き通すなんて、とても出来そうにない。

ここは、正直に打ち明けた方がいい…

でも…

ロザリーンが罪人として追われたら…
両親はさぞ悲しむだろう、それに、きっと、わたしを責めるだろう…

賊に連れ攫われた事にするのはどうかしら?
だけど、それでは、お父様、お母様、ヴィムソード国王も…皆が心配するわ!
更に多くの人を巻き込んでしまう___

ああ!どうしたらいいの!
お願い、ロザリーン、戻って来て!!

わたしが、自分の素性を打ち明けるべきか、どうするべきか悩み、迷っている内に、
騎士団員はこの事を国に知らせるべく、早々に王宮を立ってしまった。


わたしは打ち明ける機会を逃してしまった。
だが、機会があったとしても、それは出来なかっただろう…

「妹を売るなんて、わたしには出来ないわ…」

そんな事をすれば、ロザリーンから一生恨まれてしまう。
それに両親も、わたしを一生許さないだろう…
ロザリーンを心配する気持ちは本当だが、
それ以上に、家族から向けられる、憎しみの感情が怖かった。
国を離れても、その鎖は解けず、わたしを苦しめた。

ロザリーンに成りすまし、事なきを得よう___

殺されたのはラッドセラーム王国の者たちだが、この国で起こった事だ、
国から調べには来ないだろう。
この国の者たちは、誰も本物のロザリーンを見た事が無いのだから、
正体が知られる事も無い様に思えた。

もし、正体が露見したとしても、責められるのは、わたし独りだけだ…

その方が、ずっと気が楽だった。

「わたしは、ロザリーン…」

わたしはロザリーンに成りすます事を決めた。

だが、その考えが、どれ程愚かで浅はかなものか…
わたしは直ぐに知る事となった___





ガチャリ

何の前触れも無く、突然、扉が開かれたかと思うと、
立派な身形をした大柄な男が、大股でズカズカと入って来た。
只ならぬものを感じ、わたしは驚きと恐怖に、息を飲んだ。

男はベッド脇まで来ると足を止め、尊大にわたしを見下ろした。
太い眉に、ギロリと鋭い眼、顎鬚に囲まれた顔は、厳つく恐ろしく見えた。

「おまえが、俺の花嫁か!」

わたしは息を飲んだ。
この、見るからに粗野で恐そうな男が、ヴィムソード王、ビクター…
ロザリーンの結婚相手!?

「聖女というから、期待したが、フン!平凡な女ではないか」

わたしを気に入らなかったのか、王は鼻で笑った。

「それに、傷を負ったそうだな?」

王は言うなり、太い手でわたしの上掛けを掴むと、一気に剥ぎ取った。

「きゃっ!!」

わたしは抵抗したかったが、斬られた胸が酷く痛み、力など出る筈が無い。
ただ、呻くだけだ___
王は構わず、わたしの夜着の襟元を引き下げ、包帯を毟り取った。

「!!」

こんな無体な事をされた事は初めてで、わたしはショックのあまり固まっていた。
無防備に晒された胸を見て、王は顔を顰めた。

「こんな醜い体で、俺の妃になれると思っているのか!
おまえは聖女だろう、さっさとその醜い傷を消したらどうだ!」

聖女!

そうだった!わたしはロザリーンが聖女だという事を忘れていた。
幾ら姿形が似ていても、これだけは、どうしようもない…
わたしがロザリーンに成りすますなんて、到底無理な事だったのだ!

わたしは震えながら、手で乳房を隠した。

「どうした、聖女ならば傷を治せるだろう?
それとも、おまえは聖女ではないのか?俺を謀ったのであれば、容赦はせんぞ!
おまえが聖女でないなら、ラッドセラーム王国を潰してやる!」

恐ろしい眼光に、わたしは息を飲んだ。

「お待ち、下さい!わたしは…うう!」

胸が酷く痛み、わたしは体を丸めて呻いた。

「フン!それしきの傷で大袈裟な奴め、言いたいことがあるなら、さっさと言え!」

髪を掴まれ、引き摺られそうになった時、割って入った者がいた。

「お止め下さい!王様!その様な事をなさってはいけません!
彼女を殺す気ですか!誰か!直ぐに医者を呼べ!!」

誰かがわたしを支えてくれた。
知らない筈なのに、何処か耳に馴染む声…

「大丈夫だ、直ぐに医者が来る、気をしっかり持つんだ!」

「フン!そいつは聖女だぞ、医者など勿体ない!
それに、こんな醜女は、聖女でなければ、死んでくれた方がいい」

『聖女でなければ、死んでくれた方がいい』

幼い頃に、父と母が言っていた事だ。
繰り返される悲しい記憶に、わたしは涙を零していた。

「そうはいきません、我が国の賊に襲われたのですから、責任は全て我が国にあります!」
「フン、賊如きに殲滅させられた、ラッドセラームの兵が惰弱なのだ!」
「だからこそ、我が国の武力を頼ったのでしょう、やはり我が国から迎えを出すべきでした…」
「フン、相手は聖女だぞ、見ろ、自分一人生き残っているではないか!この、死に損ないが!」
「彼女は、あなたの妃になられる方ですよ!」
「聖女ならば、妃に迎えてやってもいいが、力の無い醜女はいらん!国から放り出せ」
「そんな事をすれば、ラッドセラーム王国も黙っていませんよ!」
「フン、あんな小国に何が出来るという?文句があるなら、まともな聖女を送ってくればいい!」
「襲われたショックで力が使えないのでしょう、まずは傷を治し、後の事は落ち着いてからにしては…」
「フン!どいつもこいつも、役に立たん!!」

誰かが部屋を出て行く気配がしたが、わたしを支えている男は、そのままだった。
わたしの目元を、そっと指で拭ってくれた。

「直ぐに医者が来る、大丈夫だ、今は少し混乱しているだけだ…
力は必ず戻る…」

いいえ!
力は戻らない、力など、わたしは最初から持っていないのだから…

でも、この人になら、相談出来るかもしれない…

わたしがどうすべきなのか…

「お願い…助けて…」

「安心していい、私は君の味方だ」

わたしはその言葉に安堵し、意識を手放した。

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