22 / 27
22
しおりを挟む◆◆ ロザリーン ◆◆
ロザリーンは少ない荷物を持ち、別邸を抜け出し、馬車に乗った。
馬車が向かうのは、王都…王城だ。
ロザリーンは次なるシナリオを描いていた。
それは、自分を執拗に愛していたリチャードが、賊に一行を襲わせ、
自分を攫って逃げた___というものだ。
ロザリーンとリチャードが深い仲であった事は、誰も知らない。
縁談が決まった後、リチャードと会った事は無いし、
手紙を運んでいた修道女は、賊の襲撃の際に命を落としている。
自分たちが共謀していたとは、誰も思わないだろう。
そして、自分は、リチャードの監禁から、命からがら逃げ出して来た___
皆、自分に同情する筈だ。
勇敢なヒロイン、奇跡の聖女と称えられるかもしれない。
ロザリーンは興奮に胸を熱くした。
「後は、王に保護して貰えばいいわ、この際、結婚してあげてもいいわね?
何たって、この国で一番偉い人だもの!」
今や、ロザリーンが信用出来るのは、男ではなく、金や地位、権力だった。
翌日の昼過ぎ、ロザリーンの乗った馬車は、王城に続く門へと辿り着いた。
だが、門の脇には、鎧で身を固めた衛兵が数人立ち、検問を行っていた。
直ぐに馬車は停められ、衛兵が厳しい口調で催促してきた。
「許可証を見せよ!」
ロザリーンは馬車の窓から顔を見せ、ツンとして答えた。
「許可証なんて私には必要無いの、私は王の花嫁になる筈だった、
聖女、ロザリーンよ!」
ロザリーンは、当然、衛兵たちは恐れをなし平伏すと思っていた。
だが、衛兵は顔を顰めると、「戯言を言うな!」と一喝した。
「王の花嫁は、半年前に賊に襲われ、亡くなられておる!」
ロザリーンは思わず、「何ですって!?」と声を上げたが、
すっかり忘れていた、半年前の事を思い出した。
自分が姿を消し、自由になる為に用意した、《聖女の死体》の事を___
どうやら、上手く誤魔化せていた様ね…
尤も、今となっては、不都合でしかなかったが。
「それは、私じゃないの、別人よ。
本物の聖女はこうして生きて帰って来たの、私こそ、聖女ロザリーンよ」
だが、衛兵は彼女の言葉を聞くよりも、別の衛兵と話をしていた。
「確か、そんな話だったよな?」
「いや、亡くなったのは間違いだ、確か、聖女の力を失い、放り出されたとか…」
「いや、それも違うぞ、第一騎士団長の妻になったと聞いた」
「王が無理矢理、二人を結婚させたらしい…」
「それも違うだろう、なんたって、騎士団長は新妻にぞっこんらしいからな!」
「ああ、信じられんな、あの堅物の騎士団長が、実は愛妻家だったとは…」
「力は失っても、聖女だからなー」
「若い妻なんて、羨ましいねー」
「王から略奪したのではないかと、密かに言われているが…」
「あの王が、そんな事を許すか?」
「きっと、騎士団長の熱意に負けたんだよ…」
「ロバート隊長は、騎士団長から接近禁止を言い渡されたらしい…」
「あの騎士団長がね…」
衛兵たちの会話を、ロザリーンが理解するのは、難しかった。
だが、誰かが自分に成りすまし、王ではなく、別の者と結婚している事は分かった。
一体、誰が、そんな事を?
その時、ロザリーンの頭に、クレアの姿が浮かんだ。
まさか!クレアは死んだ筈よ!
あんなに血が出ていたし、生きてるなんて、思えないわ!
だが、生死を確かめてはいなかった。
「クレアなの?」
ロザリーンは激しい怒りに襲われた。
私に成りすますなんて、許せない!
それに、結婚までするなんて…!!
「その女は私の成りすましよ!王様に直接申し上げるわ!
即刻、王様に会わせなさい!」
「おまえみたいな頭のおかしな娘が、王に会える筈が無いだろう!」
「私は聖女よ!!」
「まぁ、待て、良い事を教えてやる。おまえが何者でも、王には会えない。
王は今、慰安旅行中だからな、帰って来るのは三日後だろう、
分かったら、諦めて帰れ!」
王が居ないのであれば、ロザリーンは諦めるしかなかった。
「王様が、呑気に慰安旅行なんてするんじゃないわよ!」
後三日も帰って来ないなんて…
大誤算だ。
「その、結婚したっていう、騎士団長の名前は?」
「オーウェン・カーライト伯爵だ、迷惑をかけるんじゃないぞ!
王様程ではないが、怖い人だ、清廉潔白な方だから、賄賂など通じんぞ」
ロザリーンは忠告に答える事はせず、御者に「馬車を戻して!」と命じた。
「オーウェン・カーライト伯爵邸よ!急いで!!」
誰が私に成りすましているか、この目で確かめてやるわ!
◇◇ クレア ◇◇
その日の午後、ジャスティンの部屋で一緒にお茶をしていた所、
メイドがわたしを呼びに来た。
「奥様、お客様がいらしております、クレア・モードと名乗っております」
クレア・モード!?
わたしは驚きのあまり、手に持っていたカップを皿に落としてしまった。
ガシャン!派手な音がし、わたしは反射的にビクリとした。
「ロザリーン?大丈夫?」
ジャスティンが心配そうに、わたしを覗き込む。
わたしは茫然としつつも、「大丈夫よ」と答え、席を立った。
「クレア・モードって誰なの?怖い人?ぼくが一緒に行ってあげるよ!」
「それは…わたしの姉なの…ありがとう、ジャスティン、でも、二人で話さないと…」
わたしは笑みを返すと、冷静さを装い、部屋を出た。
ロザリーンなの?
どうして急に訪ねて来たの?
恋人と行ってしまったのに…
ロザリーンであって欲しくない___
だが、パーラーのソファに座っていたのは、間違いなく、わたしの妹…
ロザリーン、その人だった。
わたしはその姿を見て、息を飲んだ。
彼女は派手な化粧をし、
髪飾り、イヤリング、首飾り…彼女好みの、豪華な宝飾品を身に着け、
リボンとフリルの多い高価そうなドレスを身に纏っている。
ロザリーンは別れた時から、全く変わっていなかった。
ロザリーンは紅茶のカップを置き、ツンとした顔を上げると、足を組み直した。
「私に成りすましている女がいるって聞いて来たんだけど、
やっぱり、あんただったのね、クレア」
「あなた…どうして?戻って来るなんて…見つかれば、どうなるか分からないのよ?」
わたしはロザリーンの身を案じたが、彼女は鼻で笑った。
「私が?どうして?私は何もしていないわよ?
一行を賊に襲わせたのはリチャードだし、私は彼に連れ攫われた被害者だもの!」
ロザリーンは平然と言って退けた。
わたしは頭を振った。
そんな話を信じろと言う方が無理だ。
わたしは、あの時、ロザリーンの口から話を聞いたのだから___
「リチャードはどうしたの?」
「私は彼の元から逃げて来たのよ?
あの極悪人がどうなろうと、知った事じゃない」
ロザリーンはリチャードを平然と切り捨てた。
リチャードと一緒になりたくて、大勢の者を巻き込み、命を奪ったというのに…
わたしは言葉も無く、唖然としていた。
「それより、あんたの方よ!私に成りすまして、結婚までしていたなんてね!
何て、厚かましいの!この、恥知らず!!あなた、そんなに私が羨ましかったの?
そうよね、あなたじゃ、結婚なんて出来なかったものね?
騎士団長も、《ロザリーン》だから結婚してくれたのよ!
冴えない修道女の《クレア》じゃ無理!」
わたしは何も言い返せず、ただ、頭を振り、震えていた。
「私の邪魔ばかりして!あの時、大人しく死んでいれば良かったのよ!
あなたに美味しい思いはさせないわ、だって、あなたは《ロザリーン》じゃない!」
真実を公にすると言うのだ___!
わたしは自分を抱きしめた。
「ごめんなさい、ロザリーン…
わたしは助けられて、王宮で保護されたの、その時に皆がわたしをロザリーンだと誤解したの。
花嫁が行方不明だと知れば、大事になるし、国中に追手が出される…
わたしがロザリーンにならなければ、あなたが追われると思ったの…
悪気は無かったのよ…」
「フン!恩着せがましいったらないわ!余計な事をしただけじゃない!
《聖女の力》を失ったですって?あなたは元から持っていないだけ!
聖女じゃないの!聖女を騙るなんて、神がお怒りになっているわ!
あなたきっと、恐ろしい死に方をするわよ?
それに、のうのうと私に成りすまして、結婚までしておいて、悪気は無かったですって?
笑わせないでよ!」
ピシャリと言われ、わたしは身を竦めた。
「だけど、まぁ、いいわ、私の言う事を聞くなら、このままロザリーンでいさせてあげる」
ロザリーンの言い成りになる?
良い予感はしなかった。
だけど、私は、このままでいたい。
オーウェンの妻であり、オーウェンとジャスティンの家族でありたい!
それを失うなんて、身を引き裂かれそうだ___
「どうしたらいいの?」
「簡単よ、私に逆らわないでいればいいの、ロザリーン」
ロザリーンが悪い笑みを浮かべたのを見て、
わたしは承諾してしまった事を、後悔し始めていた。
21
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。
処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。
口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る…
※表紙はaiartで生成したものを使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる